第5話 運営の仕事
「我々は今まで大きな失敗をたくさん犯してきた。」
「放置対戦☆クロスラミナ」管理オペレーション室には20人もの管理人が集まっていた。
丸い大きな机を囲むように置かれた椅子。
その椅子が埋まった瞬間に「放置対戦☆クロスラミナ」社長である澤田和俊がそう話した。
「我々は今や"ゴミ運営"だの"カス運営"だの言われている。だが、それは仕方のないことだ。我々が助けることができるプレイヤーを見殺しにするような行為をしたからだ。批判を喰らわない方がおかしい。」
周りの管理人の顔が険しくなった。
管理人と社長の考えは同じらしい。
「だが、データを完全に奪われたわけではない。知ってると思うが、我々は奪われたデータの複製には成功している。これは最高オペレーション権限だが、助けるためにはこの方法しかなかった。今はデータを奪われたプレイヤーからの批判が来ているが、全ての事が終わり次第そのプレイヤーにデータを返す方針でいる。」
管理人もそれがいいと頷く。
「即ち、現段階の批判は気にしなくて構わない。いずれ解決することだ。だが、それよりもこのクロミナ自体が崩壊する可能性の問題だ。」
澤田社長がその話を始めると副社長が手を挙げて話し始めた。
「社長。昨日危険視されているチーターである"metalia"と接触したという話でしたが、社長のアカウントは問題なかったのですか?」
室内がざわつく。
「社長とチーターが接触だと?」
「危険だ!」
「やはり社長代理が向かうべきだったんじゃ…」
「静まりたまえ。」
社長の一言に室内は静まる。
「昨日調査したがチーターが侵入したとみられる足跡は存在しなかった。だから私の権限を奪われることはないだろう」
安堵の声を漏らす人もいたが、それでも危険視する人も多かった。
「一番危険視すべきことは奴が何をしてくるか、だ。最強プレイヤーであるカイトくんの元に届いたメールから判断するとこのクロミナを破滅に導きたいらしい。それがわかっても手段や日時がわからないため対処のしようがない。」
「それを検討するための長期メンテナンスなんですね。」
「ああ。それもある。一番は開発中の最新機器の実装試験だがな」
管理人から期待の声が上がる。
「この長期メンテナンスの後にアップデートで実装する予定だがまだ確定ではない。」
「それよりもですよ社長。今は……」
副社長の言葉に我に返った社長が話す。
「そうだったな。もしもの時のために対策は練っておこうと思う。何か案はあるか?」
社長は管理人に問いかけた。
すると管理人の佐藤という男が手を挙げた。
「もしそのチーターが言っていることが本当だと言うのなら近日クロミナ界が危険になるということになります。他のフィールドに無断で移動し、プレイヤーを石化させた以前の悪魔の行動のようにフィールドを自由に行動する権限を持っているとするのなら唯一の安全地帯であるラミナにも侵入する可能性も考えられます。」
するとその隣にいた井上という男管理人が話を始めた。
「それはないんじゃないか?ラミナにはNPCの立ち入りは禁止されているじゃないか。」
「井上はその時いなかったからわからないと思うが、以前に悪魔がラミナ内に出現したんだ。それは悪魔がラミナ内に侵入することができる権限を持っていたこと他ならない。」
続けるように加藤という男管理人が話し始めた。
「それだったらラミナ内がバトルフィールド化したのはどう説明するんですか?あれは社長権限ですよね?奪われたんですか?!」
「違う。あれは社長の作戦だ。あの場にいたカイトくんが正体を明かすと思って一時的に変更しただけだ。バトルフィールド化したことと悪魔が出現したことは関係していない。」
「だが、」
社長の言葉に一同社長の方を向く。
「ラミナ内にチーターが侵入することは想定しておいたほうがいい。そう仮定した上で案はあるか?」
またもや佐藤が手を挙げる。
「最悪、ラミナとバトルフィールドを隔離するしかないですね。バトルフィールドからラミナへの立ち入りを完全に制限するんです。」
「まぁ、そうなるよな」
社長も頷く。
「しかし、バトルフィールドにプレイヤーが取り残されたりしたら…」
「そうならない為に動くのが、君たちだろ?」
管理人は静まった。
「これから更に忙しくなるぞ…君たちには大変かもしれないが頼むぞ!」
社長の言葉に管理人一同頷く。
「では。また昨日同様"metalia"の弱点と対処法の調査と最新導入予定機器、"VRMMO"の調整に動け。」




