第4話 長期メンテナンス
午後1時。
昼食を済ませた俺は約束の時間に再びクロミナに入る。
既に全員揃っていた。
いつも早いよ。
そこには当然リナの姿も。
俺は気になって話しかける。
「大丈夫か?リナ」
しかし目線は合わず、別の方向を見ながらそっけない返事をされてしまう。
俺はやはり嫌われたのか?!
今思えばリナは一番ショックだったのかもしれないな。
俺が聖騎士だったことで夢や、イメージが壊されたことに憤りを覚えているのかもしれない。
また後で話そう。
「悪いな、また集まってもらって。あと1時間後の14時からクロミナの長期メンテナンスが入るのは知ってるよな?だから今しかないと思ったんだ。」
「まぁそうなるよね」
ミズキが頷く。
「そういえばミズキはVC.で話すようになったんだな」
俺が聞くと少し恥ずかしそうにしながら答えた。
「うん…自分の声に自信がなかったし、恥ずかしかったから…でもみんなならいいかなって思ったの…」
「いいと思うよ、なぁ?ツカサ」
俺がツカサに話を振る。
「はい!とても、その…可愛い声だと思います…」
ミズキ硬直。
ツカサも可愛いというワードを年上の女性に言ったことがない年齢だからか普通に恥ずかしがっていた。
ミズキは恥ずかしいどころではない。
今までコンプレックスだと思っていたことを好きな男に褒められたのだ。
ミズキもリナと同じように両手で顔を隠すポーズをとった。
またか。
お前ら…似た者同士だな。
「まぁいい。少し脱線してしまったが、話を始める。」
みんな俺の言葉に静かになる。
先生になった気持ちだ。
俺はふとそう思った。
「俺は魔王を倒した。そして俺の存在はこのクロミナ界全体に知られた。」
「なんだよカイト。まるで知られたくなかったみたいな言い方だな」
「静かにしなさい、翼。正体知られちゃったら勇者呼ばわりされるのよ?まぁそうされたいというあんたみたいな厨二的考えの人も多いと思うけど。」
「でもカイトは違ったのね。」
ミズキの言葉を横取りするかのようにリナが付け足す。
やっと喋ったな。
まぁいいか。
「知っていると思うが、俺が得たのは名声だけではない。」
翼が声を上げる。
「それって…!」
「もう!あんたは黙って聞いていられないの?!これだから厨二は…」
呆れるミズキの言葉を翼は聞き流した。
「そう。クエスト報酬だ。」
俺は魔王を倒した後、澤田社長から直接報酬を貰った。
それは下記のものだ。
クエスト報酬
・経験値80000000
・輝石×12
・鉄鉱石×20
・金×30
・G×100000000
・【聖装具=パルティア・脚】
・【魔法杖=クリア・グラン】
・【龍装具=ドラグニティ・頭】
・【風弓具=ゴット・ウイング】
なんと社長からメンバーの分の武装具まで報酬として与えてくれた。
あとはどうするかは君の自由だと言われたが、社長は俺が武装具が必要ないことを知った上でそう言うもんだから悪趣味だ。
「これは?」
俺がみんなに武装具を送るとみんな口を揃えて言った。
「俺のクエスト報酬だ。知っている通りこの武装具は俺には必要ない。だから使ってくれ。」
みんな嬉しそうに受け取ってくれた。
でもリナはあまり嬉しそうにしてなかったな。
あまりいらなかったのかな?
「ありがとうございます!カイトさん!」
「これめっちゃレアな装備だろ?!まじありがとな!カイト!」
「本当にいいの?カイト」
「ああ。」
喜んでもらえたみたいだな。
「そうそう、それだけじゃない。」
俺は忘れていたことを速やかに実行する。
それは今回のクエスト報酬の譲渡だ。
ちゃんと四等分だ。
「ちょ、ちょっとカイト?!こんなに貰っちゃっていいの?」
「カイトさん!こんなに貰えませんよ」
ミズキとツカサから拒否する声が聞こえる。
1人あたり経験値2000万だ。
「気にしないでいい。俺が今までお前らを騙していた償いだ。そう思って受け取ってくれ。」
そこまで言われると弱くなったミズキとツカサはしぶしぶ受け取った。
するとリナから急に声が聞こえた。
「カイト!私たちにこんな強い武器とか経験値をくれたのは自分が使わないからっていう理由だけじゃないんでしょ?」
ギクッ
俺はリナにバレていた。
俺の考えまでは全て見通すことはできなかったとしても多少の違和感を与えてしまったらしい。
「……ああ、その通りだ。リナ。実はもう一つ理由がある。」
ミズキとツカサと翼も顔を上げた。
俺の顔に注目が集まる。
そして俺は社長と話していたことを全て偽りなく話した。
迷宮クエストに同行していた男がメタリアというチーターだったということ。
その男が近頃クロミナを危険に陥らせる可能性があること。
そのために俺が運営に呼び出される可能性もあること。
そして、そのためのメンテナンスであることも話した。
「もちろん、それだけの理由で長期メンテナンスをするわけではない。新しい開発も進められているらしいしな」
「なんでカイトはその社長と知り合いなんだ?」
翼が聞いてくる。
「ああ、リナは知らないと思うけど魔王迷宮クエストの時に俺についていた白いカエルがいただろ?あれが実は社長だったんだよ」
「まじかよ…」
「そんなことよりもさ…」
リナから弱い声が聞こえる。
依然として俺と目を合わせようとしない。
「カイトは…私たちともう一緒にクエスト行かないの?」
それはここにいた俺以外のみんなが考えていたことらしい。
リナの言葉にみんな下を向く。
俺の応答を待つ前にリナが続く。
「私たちなんてカイトに比べたらレベルも全然だし…その…一緒にいたって足手まといになるし、邪魔になると思うし…」
「リナ!」
俺はリナの両肩をつかんでいた。
リナは驚いた様子でこちらを見ていた。
「レベルなんかで判断するなよ!俺はステータスがみんなよりも少し高いだけ。それだけなんだよ!俺は…お前らは違うかもしれないけど、お前らと一緒にいたいと思ってるよ!」
リナの目からは涙が出ていた。
「ぼ、僕も!できるなら!カイトさんとずっと一緒にいたいです!」
半泣きのツカサが声を上げる。
ツカサ…そんなこと思っていてくれたのか…。
「私も…カイトといたい。」
俺は間違えてた。
「俺も…まぁ、カイトとなら戦うわ」
メンバーはみんな俺と同じことを願っていてくれていた。
「・・・・」
やっと目があった。
「もちろん、私もだよ!」
"この人とずっと一緒にいたい"
そう願っていた。
「リナ、ミズキ、翼、ツカサ。約束しよう。俺は運営からの要請以外はお前らと一緒にいる。」
リナは笑顔を取り戻した。
みんなも笑った。
これでいいのだ。
これが現段階の最高。
最高の仲間だ。




