第3話 復活
2026年4月5日
俺は立ち上がった。
一瞬めまいがしたが、自力で立ち上がることができた。
この病室ともお別れだ。
結局5年弱居ることになったこの病室ではいろいろなことがあった。
何度、死にかけたことか。
でも俺はもう高校生だ。
実は一年前にはもう病気は治っていたが長期のドクターストップがかかり、結局5年目で病院から出られるようになったのだ。
その1年間は暇だったので高校受験の勉強を中学三年分鬼のようにやっていた。
そのため、近くの高校にはなんとか受かることができた。
偏差値はそんなに高くはないが…。
というわけで、俺は高校生になったのだ。
しかし、気がかりな点が一つある。
俺には友達がいないことだ。
小学校の友達は入院当初は来てくれていたみたいだが、今となってはゼロになった。
その事実が俺に友達がいない事を裏付けている。
久しぶりに外の空気を吸うことがとできることに喜びを覚えた。
まるで牢獄から釈放されるような自由を感じた。
外にはお母さんが待っていた。
車の方へ歩いていく俺を見てお母さんは口を開いた。
「良かったわ、戒斗…この車のことは覚えていたのね。」
そう、俺は薬の副作用で記憶障害を起こしたらしい。
そのため、昔のことを全ては覚えてはいない。
覚えていることの方が多いと思うが、忘れてしまったことも少なからずある。
俺はお母さんの車で近くの携帯ショップに行った。
新しい携帯を買ってくれるそうだ。
なんせ前まで使っていた携帯は充電プラグに刺さったままであったらしく、なんかの拍子に壊れてしまったらしい。
全く、何をしていたんだ5年前の俺は。
そんなことを考えながらも携帯ショップに到着、早速選び始めた。
俺は携帯を見て心底驚いた。
5年前とは全く形状も機能も変わっていたからだ。
目を輝かせながら携帯を見ていると殆どの携帯の画面にわからない言葉が表記されているのに気づいた。
その言葉は、「この機種は"クロミナ"に対応しています。」だ。
"クロミナ"ってなんだ?
何かの略語らしいのだが、全く知らなかった。
5年の間に新たに生まれた言葉、もしくは機能なのか。
判らなかった。
その後、適当に買って帰った。
20分程で家に着いた。
家に入ると「懐かしい」の一言に尽きた。
玄関も、リビングも、そして自分の部屋も、全てが懐かしく思えた。
明日からの高校生活の準備をしているとお母さんが俺の部屋に上がってきて一言言った。
「戒斗…昔は大のゲーム好きだったのよ」
俺はへー、と興味なさそうな返答をした。
「ま、今は勉強に専念しているみたいでお母さんとしては嬉しいわ〜」
と、喜んでもくれた。
確かに親とすれば病気になった息子の将来を心配するのは当然のことであろう。
1年間鬼のように勉強してよかったと心から思った。
明日の準備を終え、買ってもらった制服を見て口元が緩んだ。
そして初期設定の終えた自分の携帯のソーシャルネットワーキングサービスの画面に表示されている友達の数を見て不安を口にした。
「SNSの友達…0か…」
わかっていた。
というか当然のことだった。
そもそも俺のことを死んだと思っている人もいるかもしれない。
脳の片隅に俺のことを置いている人なんぞいるはずもない。
とにかく、人脈0はキツかった。
明日の自己紹介で、俺はなんて言えばいいんだろうか。
「中学校に行ってない…なんて言えないな…」
俺は明日のことが楽しみから不安に変わった。
一人でも知り合いがいれば状況も変わっただろう。
でも、俺には友達がいない。