第6話 長い戦いの始まり
ようこそ。
武器屋では先程クエスト報酬でもらった鉄鉱石と金をふんだんに使って耐久値を上げまくった。
俺とツカサとリナは武器よりも防具を買い揃え、一式買ってまた耐久値を上げた。
翼も武器の耐久値を上げるだけ上げた後に防具を買った。
そのため、鉄鉱石と金が底をつき、防具の耐久値を上げることができなかった。
なにしてんだか。
ミズキは、ガチャでしか【聖】シリーズを得ることはできないため、仕方なく防御力の高そうな脚防具を選んでいた。
皆んな武器、防具を買い揃え、一気に強そうに見えた。
防御力も防具ゼロの時よりも格段に上がっているだろう。
「よっし!強くなったことだし、俺様のこの愛剣も使ってみたいし、このままクエストに行こうぜ!」
翼が元気よく提案する。
しかし俺がその提案を拒否する。
「待て、翼。もう10時を回ってる。また明日にしよう。」
「えー、ちぇっ、仕方ないか。明日は土曜日だよな。明日またやろうぜ!」
翼からの提案。
異論はないようだ。
「ああ。じゃあまた明日の午前9時からで大丈夫か?」
リナは元気に答える。
「うんっ!いいよー!」
翼も頷く。
ミズキも答える。
[大丈夫よ。]
ツカサは…
「スー…」
「ツカサ?おーい!」
俺が呼びかけるとツカサは声を上げる。
「うぅん…はっ、ご、ごめんなさい…寝ちゃってました…」
ドサッ。
隣でショタコンお姉さんが倒れる音である。
放っておこう。
「明日の午前9時だ。来れるか?」
「はい!もちろんです!」
ツカサは笑顔で答えた。
その後、俺らは解散した。
俺はそのままシャットダウンし、電源を切る…と思いきや、俺はあることをする為に「カイト」で再ログインした。
3時間ほどプレイしてしまった俺は時計の針が1時を指していたことに謎の危機感を感じ、スマホの電源を切って寝た。
翌日。
俺は8時半に起きた。
「やっべ!!寝すぎた!!」
俺は布団から飛び出して物凄いスピードで朝ごはんを終わらせ、なんとか間に合わせた。
危ねぇ…。
流石に寝て遅刻するのはありえないって…。
はぁはぁ上がる息を整え、俺はクロミナに入る。
時刻は8時58分。
ギリギリセーフだ。
ログインするとそこには待っていたかのようにリナが構えていた。
なんだなんだ?
するとリナが凄く近寄ってきて掲示板のコピーを見せてきた。
随分と興奮しているな。
俺はそのコピーを見た。
[差出人 目撃者 私は昨日の夜11時ごろにガチャ施設で何百回とガチャを引く男を見つけたの。その男は防具はつけていなかったんだけどステータスを見たらクロミナ界最高レベルで!もしかしたら彼があの密かに噂されている聖騎士なのかしら!]
……まずいことになった。
実は俺は昨日の夜、解散した後1人でに「カイト」でログインし、溜まりに溜まった104もの輝石でガチャを引きまくっていた。
しかし、夜といってもまだ人はいたため、俺は防具を外し、バレないようにガチャ施設へと向かったのだ。
やはり見られていたか…。
かなりの時間ガチャ施設にいたからな…。
流石に年に2回きりのガチャチャンスの欲に負けたのだ。
バレることは想定していなかった訳ではないが、掲示板に書き込みされるとは…。
これでまた俺は迂闊に聖騎士になれなくなってしまったな。
「やっぱりこれって聖騎士様かな?」
リナの興奮した声が聞こえる。
「さぁな。その情報は確かじゃないんだろ?だったら俺は迂闊に信じない方がいいと思うよ?」
俺は掲示板を否定することでことの本質から目を背けさせようとした。
しかし、彼女の目は依然として聖騎士に向いていた。
あー。
なんてこったい。
得られたものも多かったが、それ同等の物を失ったな。
それは"聖騎士を隠し通す"という行為である。
その行為はもう既に使えなくなった。
これからは"なるべくバレないように行動する"になった。
あーあ。
俺らはクエストを受けるためまた共通ギルドに足を運んだ。
今回は翼の希望するクエストを受けてもいいかな。
翼以外の4人はそんなことを考えていた。
翼はクエストが表示されている掲示板を見て悩んでいた。
「なぁ、お前ら。これどっちがいい?」
翼が指差したのは「凶暴モンスターの巣窟の探索・討伐依頼LV.☆☆☆☆☆☆」と、「デスモルガネス討伐依頼LV.☆☆☆☆☆☆☆」の2つだった。
いや、高難易度すぎる。
しかもデスモルガネスって割と最近まで倒せなかったモンスターだよな?
翼、俺らの力過信し過ぎてないか?
そこんところ心配だな。
しかし、前回翼の案を却下したため、また否定する勇気などない俺はレベルの低い方にしようと提案した。
「まずはレベル6の方から行こう。そこで俺らの力を試すんだ。そしたらその後もう1つの方に行けばいい。お前がいるから心配無いだろ?」
俺は翼の方を見る。
翼はあったりめーだ!と自身満々に答えた。
仕方ない、そのクエストに行くか。
リナとミズキとツカサからもOKサインを貰った。
ツカサはともかくリナとミズキに関しては俺に翼の対応を丸投げだな。
まぁ、いいか。
翼がクエストを受諾することをクエスト受付係のサクラさんに伝えに行こうとした。
が、その時だった。
ドンッ!!
という音が地を震わせた。
なんだ?
どうやら共通ギルドの外らしい。
俺とリナ、ミズキとツカサは外に出た。
翼もサクラさんと一緒に後から出てきた。
どうやらNPCAIのサクラさんも何が起こったかわからないそうだ。
共通ギルドから外に出るとそこは大通りの「クロス」である。
俺らはそこで大きな人だかりができていることに気がついた。
人だかりができている場所はもう閉店しているガチャ施設の前だ。
なんだ?
人を掻き分け、騒ぎの根源を見ると俺らは言葉を失った。
「なんで……?」
リナが声を上げた。
俺ら全員リナと同じ気持ちだ。
なんで?
そこにはガチャ管理人の"ポン太"が石化され、倒れていた。
なんで……なんでだ?!
ここは安全地帯「ラミナ」。
プレイヤーを石化させる悪魔は来ないはず…
いや、そうとは決めつけることはできないな。
昨日だって魔王軍の領地から離れたところに位置する「ガイア」に悪魔が来た。
そこが単純にバトルフィールドだからかもしれないが、だからといって自分の領地を離れるNPCがいるはずない。
運営は何をしているんだ。
早く止めなければ一大事だぞ?
そしてさらに最悪の事態が起こる。
「おい、あれを見ろ!」
1人のプレイヤーが叫んだ。
俺らはその声の方に向く。
プレイヤーの目線の先には黒い羽を生やした角が生えた…悪魔がいた。
な、ん、で、?!
俺はひどく混乱していた。
待てよ、
俺は咄嗟に気がついた。
そういえばさっき、なんで叫んだ奴の声が聞こえた?
VC.を繋がないと中心都市「ラミナ」では会話はできないはず!
でも聞こえた。
ということはこの「ラミナ」がバトルフィールド化してる?!
あり得ない、だが、それしか考えられない。
なぜなら普段はバトルフィールドにしか現れない悪魔が俺らの前で優雅に飛んでいるからだ。
どうする…?
アカウント共有するか?
いや、でも人の目が多すぎる。
それに確かクエストや、デュエルという1対1のプレイヤー同士の戦い以外で武器を使用することはできなかったはず。 街中で切られたら大変だからだ。
だから俺が聖騎士になったところでできることはない。
だが、バトルフィールド化してるとしたら抜刀もできる……。
くっそ、わからねぇ!
すると悪魔が攻撃を仕掛けてきた。
[闇魔法=ダークボール]
またもや悪魔の手の中に真っ黒な球体が生成され…いや、今回のは昨日に比べて大きい。
まさか…!
あの闇魔法は放った瞬間に分裂する。
昨日のは小さめな球体だったのでその場にいたチンピラ3人を石化させるのがちょうどよかったと考えると……。
あの巨大な球体は…。
「伏せろぉぉ!」
ドォン!
ドォン!
ドォン!
黒い球体が空から降ってくる。
そして当たったプレイヤーが全て石化していく。
プレイヤーは混乱状態に陥り、逃げ回っていた。
まずい…まずすぎる!!
するとツカサが俺に話しかけてきた。
「カイトさん、僕の道具、【天使の怒り】、つ、使いましょうか……?」
ツカサも昨日悪魔遭遇してから自分も戦いたいと思ったらしい。
だが、俺は
「なんで俺に聞く?ツカサの道具だろ?自分が使いたい時に使えよ。」
ミズキの言葉を思い出して言った。
こういう時は自分自身の判断に任せるのがいい。
ツカサもまだ幼い。
だったら人任せではなく、自分自身で判断することも大切だと思うからだ。
その時、
「カイトっ!」
リナ?!
ドッ……
リナに背中を押される。
どうした……。
バタッ!
俺は大きく転んでしまった。
「何すんだよリナ!」
「カイトさん…」
「?!!」
そこには石化したリナがいた。
まさか…お前…
俺を助けるために…?
「リナさん!!」
ツカサが石化したリナの方へ寄っていく。
「僕のせいだ…僕が…道具を早く使っていれば…!」
くっそ!
なんでだ!
俺は…俺は…。
お前は聖騎士のことしか考えていない奴だと思ってた。
でもそれは俺の大きな勘違いだった。
俺が勝手にリナというキャラクターを作っていたのだ。
何が…最強だ。
何が…クロミナ界最高レベルだ!
仲間1人守れない俺は…
誰よりも弱いじゃねぇか。
くそ…。
しかし、俺にさらなる追い討ちが来る。
リナが光っている。
「?!」
翼とミズキも合流した。
2人は無事だ。
リナのこの光は…。
転送魔法…!?
「リナ!!」
俺は石化したリナを抱え、地面に映し出された魔法陣から移動させようとした。
しかし、動かない。
くっそ!
そして悪魔が両手を空に向けた。
その瞬間、石化したリナ含め多くのプレイヤーが空へと舞い上がり、転送された。
悪魔の不敵な笑いと共に。
「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
俺は露骨に叫んでいた。
こんな屈辱を味わったのは久しぶりだ。
それも俺を助けて石化された。
俺は…なんで…。
最後まで読んで下さりありがとうございます!
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