第1話 入院
2021年 4月8日…僕はこの日をどれだけ待ち望んだことだろうか。
最新オンラインゲーム…「放置対戦☆クロスラミナ」略して「クロミナ」がスマホアプリで実装されるのだ。
なんでもそのゲームは俗に言う"放置ゲー"というやつで、ゲームを起動した状態で放置し続ければし続けるほどゲーム内のキャラクターが強くなるらしい。
その際に例え電源が切れていたとしても、アプリが起動しているとゲーム会社から判断されれば、「放置対戦☆クロスラミナ」の会社のデータサーバーに放置状態のまま保存される。
つまり、クロミナをタスクに開いた状態で日々日常生活を過ごしているだけでもクロミナのレベルは上がっていくというわけだ。
しかし、勿論放置するだけのゲームではなく、冒険をしたり、友達とチャットなんかして一緒に戦ったり…なんやかんやで放置ができないのが悩みになってきそうであるのだ。
つい面白そうなダンジョンが実装されたり、報酬欲しさにアプリを起動させてしまう事もありそうだ。
だからやはり1日中放置するのではなく、1日に20時間放置する、といった戦法がとられることだろう。
それだったらゲームもプレイできる。
あと1分で8日…インターネットの調べによると実装と同時に始めた人には特典として中で自分の分身となるキャラクターが排出されるガチャを2回引くことができるらしい。
無論、それ狙いである。
残り30秒、鼓動が高鳴ってきた。
10.9.8.7.6.5.4.3.2...1
すぐさま僕はアプリを起動させる。
「クロミナ!」
アプリ内で女の子がそう言った。
そしてその後にオープニングが流れた。
遂に待ちに待った「クロミナ」をプレイすることができるんだ!
ログインを済ませると突如画面が暗くなり、注意書きが出てきて自己認証コードのメモを強く勧められる。
なんでも、このコードを覚えておけば引退後、もう一度このゲームをプレイする時に以前のデータを引き継ぐことができるらしい。
00002581。
それが僕のコード。
まぁ念のため、メモ用紙に書き留めて机の引き出しに入れておいた。
「確認」ボタンを押した僕はオープニング映像をすっ飛ばしてガチャ画面へと飛んだ。
あった、これだ。
「早期入会者ガチャ」無料で2回引けるようになっている。
僕はそれを選択し、一回目を引いた。
言い忘れたが、このガチャはキャラクター以外のものが出る確率もある。
それは装備だったり、冒険で使用する道具、武器などが排出されることもあるのだ。
僕はキャラクターはなんとかしても出したかった。
それは皆思っているだろう。
一回目の結果はめでたくキャラクターだった。
やった!
僕は心の中で叫んだ。
強さ等は全くの未知数だが、これから僕の分身となってこの世界を旅していくキャラクターが手に入ったのだ!
それだけでも嬉しかった。
"聖騎士エグバート"
それがこのキャラクターの名前だった。
全身を黒光りした鎧で包み、片手には盾をその腰には剣を装備していた。
僕は心底カッコいいと思った。
レア度、ステータス関係なくただ単に気に入った。
僕は2回目のガチャを引いた。
すると次には剣が出た。
演出がものすごい豪勢な演出だったのでレアらしい。
僕はすかさずステータスを見た。
"魔滅剣 シャイリアル"
「この剣は騎士にのみ装備可能。この世界に一本の名剣であり、魔物を切り裂く力を持つ。剣自体も時と共に成長し、時間が経つにつれてステータスも上昇していく。攻撃力30/防御力15/耐久値30」
僕は完璧だと思った。
この剣を先ほど出た騎士に装備することができると思ったからだ。
しかもこの世に1つの剣ってレアだなと深く感心したが、このゲームの剣は全て一本ずつしか存在しないものなのか…僕はまだわからなかった。
充電が切れてきた。
僕はその警告を無視してプレイを続けた。
初めに大きな門の前に来た。
周りを見渡しているとアナウンスが流れた。
「クロミナへようこそ!」
またあの女の子の声だ。
どうやらその女の子が進行を助けてくれるそうだ。
「まず初めにあなたのクロミナでの名前を教えて?それとも今設定されている
"聖騎士エグバート"でOK?」
すると選択画面が表示された。
"OK"のボタンと"変更する"のボタンだ。
流石に変えた方が愛着も湧くし良いと思ったので、変更することにした。
僕の名前が"木下 戒斗"だから…カイトでいいな。
カイトとなった僕は門の中へ入って行った。
そこには公園のような大規模な施設があり、周りを見渡すと今日始めたばかりのプレイヤーがたくさんいた。
こんなにいるんだな…。
報酬の先取りを狙うプレイヤーや、友達を作るプレイヤーなどもいた。
すると次の瞬間、スマホの電源が切れた。
充電が底をついたらしい。
先程やはり充電プラグに差し込んでおくべきだったなと後悔したが「クロミナ」にはオートセーブ機能が付いていることを思い出し、まあまた明日やろと決心し、充電プラグにスマホを差し込んで眠りについたのである。
しかし、僕が「クロミナ」とともに朝を迎えることはなかった。
目が覚めると口には酸素供給機がはめられて真っ白な布団の上で腕には何本もの管が通っている状態だった。
僕は全く理解ができなかった。
なんだこれは?!
そこは病院だった。
隣には母親が座っていた。
誰かと話していた。
身動きが何故か取れない僕は横目で母親の方を見た。
耳をすませて会話を聞いた。
「戒斗に何があったっていうの?まだこの子は11歳になったばかりじゃない!」
誰かの声だ。
あの声は確かおばあちゃんだ。
「ええ、お母さん…この子は今日の夜中に心肺が停止したんです…。」
泣いている母親の声だ。
心肺停止?嘘だろ?
「なんでなの?!」
おばあちゃんが強く聞いているのがわかる。
「原因は現段階ではわからないそうです…。」
なんだって?!
冗談じゃない!
これから僕は中学校に行って楽しい青春を送ろうとしてたのに…全てが水の泡じゃないか!
声を発しようとしても無理のようだ。
「先生!」
二人が立ち上がったのがわかった。
先生が来たらしい。
「戒斗君は未知の病です。病名等がまだ判明していません。なので新薬開発の時間と入院時間を合わせて少なくとも5年は入院してもらう形になると思います。」
ご、五年??
「そんな…」
母親と祖母はなんとかならないのか話をしていたが、どうにもならないことを確認すると静かに座った。
五年なんて…冗談じゃない!
高校入学の時に治るのか?!
ふざけるな!
僕は感情的になっていたが表現の仕方がないため、頭の中で考えることしかできなかった。
僕は涙をいつしか流していた。
これから5年間、この植物状態に近い状態で生活するんだ…。
母親は僕の涙をそっと拭いてくれた。
その時戒斗の頭の中では「クロミナ」の事はすっかり忘れていたのである…。