純愛
2年ほど付き合っていた彼氏と別れた。
原因は、彼氏の方に、別に好きな人ができたからで、しかももう付き合っているらしい。
そのことを友達に言うと、
「あんた、そんな話を聞かせるためにあたしを呼んだの?」
めんどくさそうに友達は言った。
「あはは……。別にそういう訳じゃないけどさ。1人でやるの、ちょっと難しくて」
そう言って私は、一丁の銃を彼女に差し出す。
彼女はそれを見ると、ため息をついた。
「好きだったんだね、そいつのこと」
「過去形じゃないよ、現在進行形」
未練たらたらじゃん、と彼女は言う。
未練たらたら。
確かにそうかもしれない。私は可能なら、彼と一生を過ごしたかった。子どもは2人くらい欲しかった。大きな犬を飼って、毎日一緒に散歩して、見晴らしのいいところに家を建てて。
だけどできない。
「でもあんたも、その男も、間違ったことはしちゃいない。あんたがいたからその男は、これから先一生幸せだ。その男が別の女を好きになったから、あんたはこれからまた、誰かを好きになれる」
恋をできると、彼女は言った。
それに、と彼女は続ける。
「そんなに好きなら、どうしてもっと頑張らなかった。その男にとっての唯一無二であり続けなかった。あと1年頑張れば、きっとあんたの思い描いた生活ができてたろ」
彼女の言葉が胸に刺さる。
全部彼女の言うとおりだ。
私は、3年付き合った異性とは必ず幸せになれる。逆に、そうしないと幸せになれない。
しかしその彼氏の方は、私と付き合い、別の女を作ったことによって、その女と一生幸せに暮らせる。
それが私だ、私たちだ。
「……おいおい泣くなよ。自業自得だ」
いつの間にか流れていたそれをぬぐい、そうだね、と言う。
「もういいか?」
彼女は銃を手に取る。
「いいよ」
「これ玉が入ってないぞ」
「あ、ごめん」
私はポケットから透明色の銃弾を渡して、彼女はそれを込める。
「まあ、またいい男でも見つけろ。振られたらまた話聞いてやるからさ」
「あんなにめんどくさそうにしてたのに?」
「うっせえよ。ほら、やるぞ」
彼女は私の額に銃口を突きつけ、引き金を引いた。
私たち天使は、人を幸せにするために存在する。3年うんぬんで幸せになれるなれないは、天使の加護によるものだ。
私たちがその相手を幸せにするか、別の女性がその相手を幸せにするかはわからない。
人間が幸せになるのならそれでいい。人の幸せは蜜の味だ。それが目的だ。
ちなみに、もしも天使が3年という期間を乗り越えたなら、天使は人間となってその相手と一生を過ごす。
「すっきりしたか?」
「そりゃあね、何も覚えてないんだもの」
空を飛びながら私は言った。
目の前に彼女がいて、記憶の拳銃を握っていること、本来は透明色の銃弾がピンク色になっているのをみて悟った。
私は誰かに恋をして、振られて、それに関する記憶を消されたのだと。
「あなたが振られた時は私がやってあげるね」
「おう、さんきゅーな」
さて、次は誰に恋をするのだろう。
一応断っておきますが、今までに書いた「私」と「僕」はみんな別人のつもりで書いてます。
あと、感想やレビューくれたら泣いて喜びます。