第94話 マッツ vs 焔剣士ケネト
狭い入口の扉を開けると、そろそろ夏だというのに、ひんやりとした空気が中から流れてくる。
やはり……洞窟みたいだ。
よかった。古代迷宮っぽくて!
なだらかに下っている細い土の道が、かなり先の方まで続いている。
「これは、かなり広そうだな……」
中は暗く、先が見えない。
「『光弾』を使うわ」
「え? リディア、『光弾』使えるの?」
「師匠と一緒にヒムニヤ様からツィ系統を少し習ったわ」
シュゥインンンン……
ボゥッとリディアの手元から光がともり、辺りを照らす。
「もう少し先の方にするわね」
光源の位置を前に上に調整し、先に進む。
予想していたようなモンスターの襲撃は一切無く、ただただ、道なりに進む。
キィィィィィィィィン ―――
「来た。勘付かれたぞ。注意しろ」
敵意が俺に向けられた。
侵入された事自体はもっと早くに、俺達が入口を開けた瞬間に気付いていたに違いないが、ようやく侵入者、つまり俺達を特定した、というところか。
今までに増して注意深く進む。
―――と、不意に大広間のような開けた広い場所に出る。
「中はこんな広くなってるのか……すげぇな」
広間を見渡しながら、ゆっくりと進み、中程に辿り着いた時!
「『飛』!!」
突然、高い洞窟の上の方から声がした!
しかもこれは……
「『偉大なる盾』! 『大いなる盾』!!」
瞬時に詠唱を終えるリディア。
コンマ数秒の詠唱!
魔法で生成された斬撃はリディアのシールドに呆気なく弾かれ、消え去る。
「……ほう。腕を上げたか? お嬢さん」
「ケネト……」
スタッと洞窟の上の壁から降りてくるケネト。
ビルマークでも身軽な奴だったが、壁にへばりつくほどとは。
「おっと。剣聖、覚えてくれていたか……心配したぞ。俺の事はもう忘れろ、とか言ってたからな」
「いや〜……会いたくなかったぜ」
「俺がやっていいか?」
ヘンリックが前に出ようとする所を抑える。
「いや、前の因縁もある。こいつは俺がやる。お前達、先に行け」
「……わかった」
別働隊のアデリナ達が心配だ。
俺の予想が合っていれば、ラッドヴィグ専用の扉があり、そこには奴の部屋への直通路があるはずだ。
俺達がここで時間を食うと彼らが孤立してしまう。
「おいおい……まさか、お前1人だけで俺とやるつもりか?」
肩口に剣を乗せ、イラつきを隠さないケネトが俺に吐き捨てる様に言う。
「え? ああ。そうだよ……十分だろ」
ガッキィィィィィィィィン!!
俺がそう答えるや否や、一瞬で踏み込み、上段からの打ち下ろしで俺の脳天をカチ割りにきたケネト。
それを魔剣シュタークスの鞘で横に受ける。
ケネトの青い目が血走る。
「舐めてくれるじゃねぇか、剣聖。これは修行や練習試合じゃねえんだぜ? 俺がどれだけ修羅場潜ってきたと思ってんだ?」
「そんなもん……知るかッ!! 火竜剣技!!」
力で押し返し、シュタークスを解き放つ!
「走れ! リタ! みんな、いけ!!」
「行かせるか! 青竜剣技!! 『流』!!」
突き出すアクションと共に、ケネトの剣先から魔法の水が濁流となり、リタ達を襲う!
が、そんな事は想定内だ。
「『爆』!!」
リタ達を攻撃した為にガラ空きとなったケネトの体に、火力抜群の『爆』を食らわせる。
爆撃を食らい、はるか後方に吹っ飛んでいくケネト。
勿論、これ位で参る奴ではないだろうが……。
「マッツ! 気をつけてね!」
手を上げてリディアに答える。
走り去る彼らの足音が聞こえる。
僅かに食らった『流』も、リディアのシールドが防いだ筈だ。
「ぐ……ぐぬ……おのれ……マッツ!」
洞窟の壁に背中を打ち、顔を歪めて吐き捨てるケネト。
ありゃ?
何だか、意外に効いてそうな感じだな。
ふむ……
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!
剣を右に左に回し、ピタッとケネトに剣先を向けて止め、決め台詞を言う。
「剣聖の本気は……こんなもんじゃあねぇぜ?」
き、決まった!!
くそっ! リディア達に見せたかった。
早く行かせ過ぎたな……
「ふっざけんじゃねぇぞ! マッツ・オーウェン!! 俺がお前如きに負けるか!!」
俺に向かって猛ダッシュをかけてくる。
こいつは動きが異常に素早い。
少し低めに腰を落とし、どうとでも動けるように構える。
「『分身』!!」
近づいてくるケネトの姿がブレる。
ペザの城でアルが使った分身の魔法、しかも4体出しやがった。
こいつは鬱陶しい。
「青竜剣技!」
「火竜剣技!」
「風竜剣技!」
「地竜剣技!」
げっっっっっっ!!!
嘘だろ……これはヤバい。
ここは防御、一択だ!!
「地竜剣技! 『岩砕』!!」
4体のケネトとの前に巨大な岩盤を発生させ、まずは全ての剣技を吸収させようと試みる。
「『爆』!!」
岩盤を強力な爆発ダメージが襲う!
……と、不意に岩盤の上にケネトが現れる。
岩盤を砕くと見せて、軽々と飛び越えてきた!
いや、人間のジャンプ力じゃ、ありえねぇんだが。
「『鎌鼬』!!」
図上、4、5メートルの高さから打ち下ろされるカマイタチ!
振り払え! シュタークス!!
膂力で鎌鼬を斬る!
横一閃! 魔力を乗せ、シュタークスを振り切ると、鎌鼬は霧状になって消え失せる!
しかし、息つく暇なく、俺の背後に1人、そして、岩盤の横、俺の右前に1人、同時に現れ、剣を振るう!
「『円』!!」
「『落石』!!」
俺の周囲に魔力で作られたヤツの剣のイメージが百本程発生し、円の中心である俺に向かって、それぞれが一直線に飛んでくる。
そして、『円』唯一の逃げ場である頭上からは、人間程の大きさもある岩が降ってくる。
分身による同時攻撃。ラグが無いため、完全同時に俺に降り注ぐ。
逃げ場は……無い!
「これで詰みだ! 剣聖!! その称号を俺に渡して、安心して死ねッッ!!」
背後のケネトが叫ぶ。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
……
「……ハ、ハァーハッハ! やった……! 剣聖、マッツ・オーウェンは! 焔剣士ケネトが……倒したぞ!!」
……
……
「……やめてくれよ、でかい声で……リディア達が……勘違い……するだろ?」
「ヒッ……!! 貴様! どうして!」
「火竜剣技! 『突』!!」
突然、ケネトの目の前に現れる俺。同時に『突』を食らわせてやる。
避けようも無く右の肩口に食らい、吹っ飛んでいくケネト。
「グゥアアアァァァァァァ!!!」
ドォォォォォン!
バラバラバラ……
洞窟の壁から小石が落ちる。
思いもがけない反撃を食らわないように、慎重にケネトに近付く。
「お前……何で……平気なんだ……」
壁を背にし、座しているケネトが声を絞り出す。
「ん? お前の魔力と剣力が、俺達より圧倒的に下だからじゃないか?」
「なん……だと……!?」
信じられないといった表情で俺を見る。
「お前……俺にリディアのバフがかかってたの、覚えてないのか? そりゃ、『円』と『落石』をまともに食らったらシールドも消えるだろうけどよ。お前が本体の位置を俺に教えてくれるからさ」
ゴクリ、と唾を飲むケネト。
「『円』の剣を避けながらこっちに来たんだよ。ま、2、3発は食らったがな。だがリディアのシールドはまだ消えていないぜ? 観念しな」
正直、ビルマークの時にがっぷり四つで戦っていたらもっと苦戦していた筈だ。
ドラフジャクドでの半年間に及ぶ超人達との修行は、それほどまでに俺達を強くした。
「なんて事だ……何て……。『円』のあの速さを避けるだと……お前が、ここまで強い……なんて……」
歯噛みして項垂れるケネト。
「さて……気絶してもらうぜ? 俺達の邪魔を出来ないようにな」
そういってシュタークスを振り上げる。
「そんな容易く……俺がやられるか!」
突然、起き上がって俺の方に飛び出し、無茶苦茶な突きを出すケネト。
だが、コイツに与えた右肩のダメージは嘘ではない。動きにキレが無い。こんなものはバックステップで……そう思ったと同時に、
キィィィィィィィィ―――ン!!
目の前のケネトとは別の敵意!!
何だ、どこからだ!?
わからん。
バックステップはやめだ!
ケネトに近付いた方が安全と見た。
突きを剣で払い、ケネトを蹴り上げると同時に、背後に回る。
ズガガガガガガッッ!!
もし俺がバックステップで下がっていたら、そこにいたであろう位置!
そこには、飛竜が口を開けて、飛び降りて来ていた!!
ビルマークでケネトが乗っていた奴か……?
グルルルル……
竜特有の、黄金の瞳に縦一筋の黒い瞳孔。
飛竜と目が合い、ゾッとする。
後ろ向き、不意打ち、恐ろしい程の鋭利な牙……
下がってたら、俺は死んでたな……




