第93話 リナ諸島 ニヴラニア島 古代迷宮
ニヴラニア行きの船に乗り、少し仮眠した後、船上でユリア、リタと話していた。
最初、ユリアが常に俺と一定の距離を保っており、不思議に思った俺が確認すると、どうやら昨日、モロンハーナの賊達が言っていた噂、『パーティの女はみんな剣聖の女で、ドラフジャクドの女もみんな剣聖の手が付いているらしい』ってのを信じていたようだった。
「……そんな訳、ねぇだろが」
「ほんとかい? あんた、イイ男だけど、そんな女の敵のような奴は私の趣味じゃないよ?」
「あのな……」
「他の噂も誇張されてたり、嘘が入ってたり、何やら悪意が感じられるわね。まあ、女癖が悪いってのは確かだけど」
また、リタさん、そんな事言う!
「やっぱりかい。近寄るんじゃないよ!」
「いや、だから、違うってば」
「言っとくけど……マルガレータに手を出すんじゃないよ!」
「え? 何故、今、マルガレータ。いや、出さないってば!」
しまった、という顔をするユリアだが、しばらくして口を開く。
「マルガレータは、私の……妹なんだ。誰にも言うんじゃないよ? 賊の頭が仕事に私情を挟むなんて、あっちゃならないからね」
ほーん……?
なるほど?
カイのヤツめ。だから、ユリアを連れて行け、と?
なかなか、男気があるじゃないか!
そういう事であれば、俺の中の1つの疑問も辻褄が合う。
「そうなんだな……マルガレータ救出の仕事が破格のミッションって言ってたのも嘘なんだろ? 闇ギルドに依頼したベンノって奴が、殆ど金をむしり取られちまったんだからな」
「……ああ」
「お前、ひょっとして、1人で忍び込むつもりだったのか?」
それに直接は答えないが、俯いて少し笑うユリア。
「お前達が来てくれて助かったよ。私1人じゃ、やっぱり無理だったろうからね」
「まあ、ちょっと、さすがに相手が悪過ぎるなあ……」
「ねえ、エイブル島の商業ギルドの奴らに捕まった2人はどうしたの?」
突然、リタがそんな事を言い出す。
俺達が商隊を助けた時に捕らえた奴らの事だな。
「今頃、救出してるはずさ。あそこにいる奴らはたいした事はないからね」
「そうか。なら、良かったよ」
「仲間は見捨てないよ? 鉄の掟さ」
気ままに生きていると思っていた賊達も、ルールや色んな苦労があるんだな。
ちゃんとルール守って仕事するなら真っ当な仕事すりゃいいのに、と思うんだが。
―
次の日の早朝、ニヴラニア島に到着する。
さぁて行くか!……と思ったが、どうにも古代迷宮なんぞがあるような雰囲気ではない。
土産屋などの色んな店やレストラン、宿、溢れる人々など、賑わっている事、この上ない。
「ふふ。沿岸地帯は全部、観光地さ。迷宮は島の中心部にあると言われている。その付近は立ち入り禁止になっているはずさ。ラッドヴィグの手によってね」
「なるほどね。で、マルガレータは今、どこら辺だ?」
「そんなに遅れは取っていないはずだが……丁度、今頃、迷宮に連れて行かれた位かもしれないね」
「わかった。急ごう」
そうして、俺達は観光地に背を向け、ひたすら中心部に向かう。
平坦な町だったのが、いつの間にやら木々が出現し、進むほどに深い森となっていった。
そして遂に、『立ち入り禁止』のロープが延々と張ってある場所にたどり着く。
「ここだな……」
一見、ロープが張っているだけだが……。
「リディア、クラウス。何か、感じるか?」
「ええ。魔力を感じるわね。これがボルイェかしら」
「このロープをくぐるとセンサーのように探知されるようになっているようです」
なるほどね。
まあ、別にバレたって構やしないんだが、マルガレータを他の場所に移されるのは面倒だ。
「もうしばらくは、お忍びで行きたいね」
「よしよし。なら、俺の出番だな」
カイがリュックから妙な形が描かれた紙と粉を取り出す。
「ああ、なるほど」
「そうやって忍び込むのね」
クラウスとリディアには、カイが何をしようとしているかが、瞬時にわかったらしい。
「ふふ。そうだ。……で、どうかな、波長は合ってるか?」
カイが何やら珍妙な模様が描かれた紙をリディアとクラウスの方に向け、「波長」とやらを確認している。
「そこの線が多いわ」
「ですね」
リディアとクラウスにはあの模様の意味がわかっているのか。凄いな!
「ふむふむ。となると……これか」
「それそれ」
全くわからん。
ここは、任した!
俺は腕を組んで、空を見上げる。
「プッ……」
横にいて作業を覗き込んでいたユリアが俺を見て噴き出す。
「……何だよ!」
「いや、何でもない。潔いな、と思っただけさ」
わからんもんは、わからん。
今、素人がアレコレ聞いたら邪魔になるからな。
「フフフ。お前も見習えよ?」
「ああ、今度からそうするよ」
おや、意外に素直だな……
「よし、ダミーの結界を張り直した。早く通れ。すぐに消える」
言うより早く、ロープの内側に滑り込むカイ。
俺達も一言も出さずに着いて行く。
「単純に結界を破ると感知されますからね。同じ波長の結界を半円状に張り、術者に気付かせずにその中を通り抜ける、という盗賊らしい技です」
俺が理解していない事を見越して、クラウスが簡単に説明をしてくれる。
「なるほど。ビルマークでも、そうやって忍び込み、バルバラを誘拐したんだな?」
「ビルマークの事は……言いっこなしで」
ヘヘッと笑うカイ。
ううむ。
世の中には色んなスキルがあるもんだな。
しばらく無言で進む。
かなり来たはずだ。
不意にリタが俺の肩を掴み、耳元で囁く。
「マッツ……前方、かなり奥、あれは……森の番人だわ」
「みんな、止まれ」
低い声で皆を制止する。
見ると、かなり分かりにくいが、確かに木が巻きついている何かが動いている。
「あれ……きっと、倒すと面倒な奴だよな?」
誰にという訳でもなく聞いてみる。
「多分、センサーですね。交戦するだけで感知されると思った方が」
クラウスが答えてくれる。
「だな。迂回するぞ」
……全く用意の良いことだ。
どんだけ用心深いんだ、ラッドヴィグてのは。
何体かのゴーレムを迂回し、ようやくそれっぽい所に辿り着く。
小高い丘のようになっており、壁の部分に、何とちゃんとした『入口』がある。
古代迷宮と言うからには、もっと隠された扉とか、洞窟とか、と思っていたから拍子抜けだ。
「ラッドヴィグが改装したって言ってたから、入口も自分が入り易いよう、作り直したんでしょうね」
リタがそんな事を言うが……
成る程?
しかし、妙だな。
「ユリア、ラッドヴィグを見た事は?」
「あるよ。小太りギルドの頂点だからね。大太りさ」
「だろうな……」
その会話でリタも違和感を感じ取ったらしい。
「これじゃ、一般客用って感じね」
そう。ラッドヴィグが俺の想像通りの体型なら、こんな幅の狭い入口からは入れないだろう。
「そうだなぁ……」
少し考える。
「よし。ここで二手に分かれよう。別のラッドヴィグ専用入口がどこかにあるんじゃないか。ユリア、カイ、クラウス、アデリナはそこを探して、直接、マルガレータを救い出せ。残りは俺と一緒にここから行く」
「ヤバくないかい?」
ユリアが心配そうに聞き返してくる。
「ん? この入口か? ヤバイだろうな。ここまで隠密行動で来たが、どこかで陽動は必要さ。手助けすると決めた時から一戦は覚悟の上だ。だが、お前達も注意しろよ? 敵がそっちに集まってたら無理せずに逃げろ」
「わかりました」
「わかった!」
クラウスとアデリナが素早く返事をして、ユリアとカイを連れて行く。
ユリアは最後まで俺達が気になっていたようだが、何、こんな荒事はもう慣れっこだ。
「さて、リタ、ヘンリック、リディア。行くぞ」
ビルマーク王城の決着をつけてやる。
そして……ラッドヴィグめ。
お前は許してやらん。




