第82話 ヴォルドヴァルドの秘密
アルの野郎め……致命傷ではないとは言え、正直、死にかけた。
しかし、他のみんなも上手くやったようだ。近くに闇の波動の気配は感じない。
だが、少し離れた場所に2人ほど、そしてこれは……ヘルドゥーソか? 奴がいるようだ。リディアに頼み、急ぎ、クラウスを呼んできてもらう。
まず、ドゥルーブと俺を治してもらい、アルと暗殺者の後始末をドゥルーブに頼む。
その足でリタと合流、シータ、マジュムル、エイゼルは残し、イシャン、アイラにケルベロスの後始末を頼む。
ラーヒズヤの所へは誰も来なかったらしく、ヘンリックがイライラしていたようだ。ラーヒズヤに事の次第を簡単に報告しておく。
全員で『帝王の間』に行き、ヴィハーン皇帝にも顛末を報告した。ヒムニヤが俺の所に駆け寄ってくる。
「マッツ、待っていた。よくぞ無事だったな。奴らはここより少しだけ東、別塔か? その辺りだ。気配を視るに、ヴォルドヴァルドもヘルドゥーソもいる。急いだ方が良い」
珍しく焦っている感じだ。
ヴォルドヴァルドを狙うという事は、超人同士の喧嘩……な訳はないだろうな。やはり目的は俺達と同じって訳か。
道理で何度も出会う訳だ。
ヒムニヤを加えて万全の態勢となったパーティメンバーで、急ぎ別塔に駆けてきた。
だが、来る途中で、闇の気配がスッ……と消えたのを感じ、ヒムニヤと目が合う。
気が焦る。
別塔の広間では、以前、ここで見た黒い鎧が床に散在しており、中央で仰向けに倒れているデカい男が見える。
瞬時に、鎧を剥ぎ取られたヴォルドヴァルドの本体だろうと推察。そしてすぐ傍には、ゴビンとアクシェイが気を失って倒れていた。
「ヴォルドヴァルドッッッ!!」
俺達は叫びながら駆け寄り、ヴォルドヴァルドの身体中に紫色の斑点が出ているのを視認する。
「ゴビン様とアクシェイ様の『闇の干渉』は消えたようだ。クラウス、治療を頼む」
「了解です!」
そう、クラウスに頼んでおき、ヴォルドヴァルドに声を掛ける。
「おい、大丈夫か、おいッ!!」
「う……むむ……」
気を失っていただけのようだ。薄目を開け、俺達を見る。
「……お前達は……この前、来た奴らだな」
何だ。凄い違和感……。
こいつ、こんな静かな話し方をする奴だったか?
ひょっとして、無茶苦茶弱っている……?
大丈夫か!?
しかし……
「お前、そんな顔だったんだな……フルフェイスの兜で隠すのは勿体無いぜ」
そう、ヴォルドヴァルドは体躯こそ並外れてデカイが、バランス的には均整の取れた体型をしており、何より非常に男前だった。
イシャンのように童顔イケメンな感じではなく、芸術的な彫刻のように雄々しく、鼻筋の通った短髪の美形だった。人間の見た目で言えば30ちょい位だろうか。もちろん、何百年と生きているのだろうが。
「なに……? おお、しまった。これは恥ずかしい。鎧を剥がされたまま、気を失ってしまったか」
いそいそと、鎧を身につけ出すヴォルドヴァルド。
斑点が何かはわからないが、弱ってはいるようだ。だが、様子を見る限り、どうやら大丈夫は大丈夫らしい。
何が恥ずかしいのか俺達にはさっぱりわからない。別に全裸という訳ではない。多少は薄着だが、ちゃんと上下とも服を着ている。
この寒い季節に上が半袖というのもどうなんだと思うが。
「マッツ、この紫の斑点は東の方に存在するいくつかの植物、昆虫を掛け合わせた混合毒のようです! とりあえず、毒を治します!」
クラウスが解毒しようとする。……が、それにヒムニヤが口を挟む。
「待て、クラウス。おい、久しいな、ヴォルドヴァルド」
え? 治療の前に挨拶?
物凄い違和感を覚えるのだが、
「む?」
ヒムニヤが声を掛けると、ヴォルドヴァルドの鎧を付けようとする動きがピタリと止まる。
そして、ゆっくりとヒムニヤの方を見て、明らかに目が泳ぎだす。
「おお……おお! ヒッ……ヒムニヤ!! お、おお? 何故、ここに……いや、俺は、何も、悪い事は、してないぞ??」
「フフ……嘘をつけ。まあ、それは後だ。ヘルドゥーソが来たろう? やられたのか?」
しどろもどろのヴォルドヴァルドに手厳しく、しかし言外に労わる優しさを込めてヒムニヤが問いかける。
「いや、やっつけたぞ。そこに転がっている2人とまとめてな」
「何だと?」
怪訝な表情を浮かべ、何か考えるヒムニヤ。だが、ふと笑顔になる。
「そうか、ともかく無事でよかった」
そう言われて、喜ぶよりもホッと安心した顔をするヴォルドヴァルド。
この2人の事情は知らない俺達だが、明らかな上下関係が目に見えるようだ。
「それで、お前達は何しに来たのだ?」
前のようなトボけた感じではなく、素直に聞いてくるヴォルドヴァルド。
本当に人が変わったみたいだ。
「いや、こっちに闇の波動を感じ、お前がやられてんじゃないかと思って急いで来たんだよ」
「ほう? まさかとは思うが……俺を助けに来たとでも?」
「まあ、早い話がそういう事だ」
そう言うと、紫色の斑点が痛々しい腕を顔の前で振り、片目を瞑って笑うヴォルドヴァルド。
「冗談だろ、人間め。誰が誰の心配だって?」
言いながら、鎧を装着し、兜を被ろうとする。
「おい、やめろ! かぶるな、面倒くさい」
ヒムニヤに叱責され、ビクッとなるヴォルドヴァルド。
「いや、俺は……無敵のヴォルドヴァルドだ。その為にはこの鎧が必要なのだ!」
「何が無敵のヴォルドヴァルドだ。おい! それをつけたら……どうなるか、わかっているだろうな……」
「!!」
最後のくだりは暗殺者の如き、冷たく睨みを効かして言い放つヒムニヤ。
タラ〜〜〜っと額から汗が流れ落ちる巨人。
……が、意を決したのか、ズボッと兜を被り、おもむろに立ち上がる巨人。
「ウゥゥゥム……俺はヘルうどんにやられたのか……?」
急に首を振り、よくわからない事を言い出す。
ヘルうどんって何だ??
「……誰だお前達。俺はお前らにやられたのか?」
チッ。
後ろで舌打ちが聞こえる。見ると、ヒムニヤだ。苦々しい顔をして、しきりに舌打ちをしている。そして何故か、ヴォルドヴァルドに見え見えの嘘をつく。
「ああ、そうだ。お前は私達に負けたんだ。おとなしく神の種をマッツに渡してやれ」
「ダメだッッ!! やられた記憶がない。もう一度、戦え!!」
チッ!!
さっきよりも大きな舌打ち!
恐る恐るもう一度振り返ると、くっっっきりとヒムニヤの額に癇筋が浮き出ている。
怒ってる……怒ってるぞ……。
「クックック。いいじゃないか。前回、戦えなかったんだ。やろう、マッツ」
悪そうな顔で槍をしごきながらヘンリックが出てくる。
おそらくこいつは闇の波動をまとった奴らとの戦いに参加できず、ストレスが溜まっているんだ……。
どうしたものか。
こういう時はヒムニヤ様に……。
あ、今、メチャメチャ機嫌悪いんだったか……。
「おい、ヴォルドヴァルド。お前が負けたら神の種を渡す、と約束しろ。今から戦ってやる」
ひぃ。宣戦布告!!
俺、さっきまで死にかけていたというのに……。
「よし、交渉成立だッッ!! 受けて立とう!!」
「何が交渉成立だ、馬鹿者め……」
「むっ、デジャヴ。最近、そのセリフ聞いた覚えが……」
ヴォルドヴァルドーヒムニヤ間で話がまとまってしまった。
ヒムニヤは、腕を組み、不機嫌さを隠そうともせず、俺の方を向く。
「マッツ、聞いての通りだ。ぶちのめしてやれ」
「いや、ぶちのめすと言っても……」
「簡単に説明するぞ。おおよそ今のやり取りでわかったと思う。奴の本体は素直で悪い奴ではないのだが……鎧をつけると別の人格、ハッキリ言うと只の戦闘バカになってしまう。記憶も曖昧だ。だから何度も同じ話をしてしまう」
な……なるほど。
全て、合点が行きました……。
「前にも言ったが、奴の本体は魔法無効、そして、あの黒い鎧は物理無効。奴を倒すには鎧を剥がして、本体に物理の攻撃をあてる必要がある。もしくは奴に参った、と言わせるか、だ。物は試しだ。一度、総攻撃をかけてみるといい」
「わ、わかった」
これはもう、やるしか……ないか。
ヴォルドヴァルドを助けには来たが、どっちにしろ、やるつもりだったんだ。
「行くぞぉぉああ!! ヴォルドヴァルドッッ!!!」
ヘンリックが飛び掛かる!!
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!
槍の乱れ突き!!
ああ、なし崩しにやりやがった!!
カンカンカンカンカンカンカンカンカン!!
しかし、さすがに何とか言う槍術の始祖なだけあり、全ての攻撃を見事に捌くヴォルドヴァルド。
そして合間に繰り出す槍の凄まじさ!!
ガガガガガガガガガガガガッッッ!!
だが、ヘンリックも槍一筋の男、こちらも見事に捌く!
「青竜剣技!」
ヘンリックに当たらぬよう調整し、ヴォルドヴァルドを中心とした扇状にシュタークスのコピーを発現させる!
「円!!!」
ズドドドドドドドドドッッッ!!
一気にヴォルドヴァルドに向けて放たれる!!
「セェヤッッ!!」
リタとアデリナの弓矢の連射、連射!!!
ビュンビュンビュンビュンビュンビュンッッッ!
「みなさん、一旦、退いて下さい!!」
エルナが叫ぶ!
横にいるリディアの全身を、何色とも表現できないオーラが包み込む。
「『爆発』!!!」
古竜の大森林でリザードマンを相手に見せた超強力な破壊魔法。
半透明のドームがヴォルドヴァルドを包む!!
ドドドドドドドドドドドド!!!
ドォォォォォーーーーーン!!!!
ドンドンドンッッドンドンッッ!
凄まじい爆発音が鳴り響き、何度も爆発を繰り返す。これはさすがにヴォルドヴァルドでも……。
だが、数秒後、爆発が終わり、煙の中から姿を現したのは……
「攻撃は以上か? なら、行くぞ?」
あれだけの攻撃を受けてかすり傷すら付いていない黒い鎧。
バケモノめ……




