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第81話 ペザの決戦(後編)


 ――― リタ方面 ―――


 リタの左手に持つ剣が宙に舞い、天井に突き刺さる。


 幅広の剣ファルシオンをリタの鼻先にピタリと合わせ、


「色々、有難う。お前達には本当に感謝しているよ。……だが、それと仕事は別だ」


 一切の表情を変えず、クールにそう言うサンジャナ。


「私達は油断はしない。例えば、お前の剣……()()()()()()()()()のかもしれない……()()()()()()()()()()()()()()かもしれない」


 リタの額から一筋の汗が零れ落ち、鼻筋から顎まで伝う。


(こ……こいつッ……)


「フンッ!」


 キィン! キィン!! キィン!!!

 キィンキンキンキィンキンキンキィン!!


 キキキキンキンキキキキキキンキンキィン!!


 まさに猛撃!!

 リタはファルシオンが我が身を削らないように捌くだけで精一杯だ。攻撃に移れない。


 そして……


 ガキィ―――ン!!


 ドスッッッ!!


 ついに、もう一本の剣も宙を舞い、サンジャナの背後の床に刺さる!


「ここまでか……だが、油断はしない。わざわざ、()()()()()()()()()()のも怪しい」


 後ろを見もせずに状況を言い当てるサンジャナに、寒気を覚えるリタ。


「最後まで、全力で……行くぞッッ!」


 ダッッッッッッ!!




「そりゃ!」


 箒をぶん回し、マラティに決定的な一撃を決めさせないシータ。


 カンカンカンッ!

 カンカンカンカンカンカンッッッ!!


「やっぱり……貴女は邪魔だったわね……折角貴女にケルベロスの疑いをかけて動きを封じようとしたのに……」


 マラティが困ったような顔をしながら言うが、その間もカトラスの連続攻撃は止まらない。


 そしてその攻撃を左腕で受け、血飛沫を飛び散らすシータ。


 そしてその様子を見て、あの傷は治してはならない、と考えるクラウス。


「カトラスは丸みを帯びた剣。遠近感が無いと扱いづらい。それを削ぐ為に血飛沫を目にかけよう、と狙う奴は……今までにもいましたわよ?」


「ハァハァ……ングッ!!」


「ほらほら、息があがってますわよ!」


 全てはマラティに読まれている。カトラスがシータの肩口に当たる!

 ギリギリ、箒で受ける、が、体に僅かに食い込む刃。


 ガンッ!


 マラティの左後方で音が鳴る。

 何の音だ……? あそこにあるのは何だったか……


 記憶を辿るマラティ。だが、明確な記憶はクラウスに闇の干渉を解いてもらってからだ。

 今ひとつ、はっきり思い出せない。


 ええいッと全体重をシータに預け、カトラスを押す!


 フッと手応えが無くなる。


「何!?」


 シータが箒で防御したまま仰け反り、マラティはそのまま前へとつんのめる。しかし、倒れはしない。堪えるマラティ。顔を上げる。


 そこへ―――



 バッッシャァァァァ!!


 突然、頭から水を被るマラティ。


「……!」


 マラティの頭から顔にかけてずぶ濡れになる。


 身体に箒を密着させ、身を削ってカトラスを受け、相手の視野を固定、箒の柄で掃除中で放ったらかされていた水の入ったバケツを引っ掛け、身体を仰け反らせると同時にマラティの頭部めがけて跳ね上げたのだ。


 すぐさま、箒の柄でマラティの鳩尾(みぞおち)を突くシータ。しかし、それをカトラスで払うマラティ。返す刀で、横一閃! シータは動けない! いや、動かない!

 距離感を誤ったマラティの一撃が振り切られると、再度、鳩尾を狙うシータ! 慌てて肘で受けようとするマラティ。瞬時に引っ込め、コンマ数秒で喉を突くシータ!!


「ウグェッッッ!!!」


 喉への突きがまともに入れば、防具無しでは耐えられるものではない。ついにカトラスを手放し、後ろに吹っ飛ぶ大柄なマラティ。そして間髪入れず、飛ぶように踏み込み、追いかけ、今度こそ鳩尾に完全なる突きを入れるシータ!!!


「アガァァァァッッッ……!!!」


 目を向いてうつ伏せに倒れるマラティ。

 ……と、見せかけ、体勢を戻し、太股のあたりから短剣を取り出して、技後のシータに突き刺す!

 目を見開くシータ!

 タイミング的には完全にシータはやられていた。


 が、実際には、短剣はシータには届かず、マラティはその場から動けず、うつ伏せにつんのめって倒れていた。


「なに!? 足が……!!」


粘水輪ヴィスコ・ヴァサ・イシュ。マッツとの模擬戦が役立った……」


 クラウスが呟く。


「クソがぁぁぁぁ!!」


 だが、足にスライムのようなゼリー状のものが巻き付いており、身動きが取れない。


 重ねて粘水輪をかけるクラウス。

 両腕、そして口をスライムによって塞がれ、ついにマラティは観念した。




「最後まで、全力で……行かせて貰うよ!」


 ダッッッッッッ!!


 双剣を奪われたリタに全力疾走の踏み込みを見せるサンジャナ。


 斬る! 薙ぎ払う!

 連続の攻撃を体捌きで避けるリタ。


 足下にモップが絡まる!

 コケそうになる所を堪え、サンジャナの方に蹴り上げる!


 思っても見ない反撃を、モップを真っ二つにして対処、トドメとばかりに後ろに逃げられない距離まで詰めて、正確に心臓の位置を突き刺すサンジャナ!


 瞬間、右前半身になり、むしろ踏み込み正拳を出すリタ、だが、とても拳の届く距離ではない。

 しかし……!!


 ドスッッッ!!


「ンガッ……な……」


 サンジャナの突き出した顔面、その下の喉元を矢が刺さっていた。

 リタは拳で攻撃したのではない。

 弓使いでもある彼女が常に持ち歩く短い矢で刺したのだ。


「ンガッ! フグッッ!!」


「ハァハァ……取らない方がいいわ。()()()がついてるから」


 言い捨て、前のめりになっているサンジャナの腹を強烈に蹴り上げるリタ。


 ドォォォフッ!!


「オゲェッッ!!」


 悶絶して吹き飛ぶサンジャナ。


「……プッハァ……ハァハァ……」


 肩で激しく息をするリタ。


「まさか……ケネトとやるような奴と戦う事になるとは……ハァハァ……クラウス、こっちも縛っておいて……ね」


「ああ、わかった。ごめんよリタ、そっちまで手が回らなくて……」


 魔法でサンジャナを縛りながらクラウスが謝る。


「ホントよ……もう少しでやられる所だった……わ。まあ、貴方が助けてくれていたでしょうけど」


 次々とスライムで縛られるサンジャナ。喉を破られているため、失神しているのかもしれない。


「縛り終わったら……傷は……治してあげてね」


 その場にどっか、とへたり込むリタ。


 それらの光景をイシャンとアイラが手を取り合いながら呆然と見つめていた。



  《ケルベロス敗北》




 ――― マッツ方面 ―――


「いやぁぁぁぁ! マッツ!!!」


 口をパクパクさせ、膝から崩れ落ちるマッツ。

 スローモーションのようにその光景を見つめるリディア。


「フフフ……」


 ブスッ……


 躊躇いなく短剣を抜くアル。

 あ……という間も無く、刺さっていた傷口から噴水のように噴き出す血、血……。


「ククク……お嬢さん。これで1対1だ。……どうした? 魔法を撃たないのか? 超級の魔術師は詠唱は聞きとれないほど高速なんだろ?」


 ブルブルと震えだすリディア。


 実はリディアはこの部屋に入ってからずっと平行詠唱を使っていた。


 もうひとつの魔法、連弾(コントブライト)は既にここに来るまでに詠唱済み、後は掌を対象に向けて最後に唱えるだけ、の状態でスタンバイされていた。


 しかし、今は撃てない。ここまで近付かせてしまっては、掌を向けた瞬間に切り落とされてしまうだろう。


 どうする、どうする……?


 その時……



「ひっ……マッツ!!」


 アルの右後方を見て固まるリディア。


「あっはっは。古い古い。そんな手には乗らないよ?」


 笑いながら、短剣の刃先をリディアに向けるアル。


 だが ―――



 ゾクリ。


 アルの背筋に走る悪寒。

 そして、不意に後ろから響く声。


「いてぇなぁ……お前……」



 硬直して一瞬動けなくなる、アル。

 今までにこのような恐怖を感じた事がない。

 自分は確実に心臓を貫いた筈だ。

 普通の人間なら即死だ。


 こいつ、まさか、人間ではない ―――



「お前……誰の女に刃向けてんだ? 死にたいのか?」


 ガッと肩口を掴まれる。


「ひっ……!!」


 ダンッ!!


 左に跳ぶ、アル。しかし、そこにあったのは、ドゥルーブの巨体! その脚に躓いてしまう!

 そうなるように、敢えて右後方に立ったマッツ。


「グァッッッ!!」


 ゴン! ガン!!


 恐怖で転げまわり、しかし、何とか態勢を立て直そうと仰向けになる。

 そこで目に飛び込んで来たのは……リディアの掌だった。


「『連弾(コントブライト)』!!!」


 瞬時に生成される石飛礫! 対人用にリディアが魔力を調節し、死なないレベルの大きさとスピードで発射される!!


 ドドドドドドドドドドドドッッ!!


 一瞬でアルの左半身がズタボロになる。


「ガ……ゥガア……カハッ……なぜ……生きて……いるんだ……マッツ……」


「ああ……? フ……フフ」


 そう力無く笑うマッツの胸から流れ出る血の元を辿ると……おかしい。自分が背中から差した場所と違う。あれでは……。


 不意に気付く、アル。


「お前……刺される瞬間、体を僅かにずらし……()()()な……? しかし……何故……」


「ずっと俺達を……監視してたんだろ? 知らなかったのか……?」


 胸を押さえ、リディアに肩を借りながらマッツがアルを見下ろす。


「俺に奇襲は……出来ないんだぜ?」



  《アル、暗殺者(アサシン)軍団敗北》




 ――― ヴォルドヴァルド方面 ―――


(クックック! ハーハッハッハッッッ!!)



 ヘルドゥーソの高笑いを、ヴォルドヴァルドは薄れゆく意識の中、聞いていた。



(わかったか? ヴォルドヴァルド)



(超人最強だなんだとほざいているらしいが)



(前回、お前が勝ったのは、ロビン、オリオン)



(そしてヒムニヤがいたからだ、という事が)



「なん……だとッ?」


 意識は殆ど無かった筈のヴォルドヴァルド。

 だが、今の言は許せないらしい。


 槍を杖代わりに起き上がり、そしてその槍を手放し、スライムを体から引き剥がす。


 ベリッ! ドンッ!!

 ベリッ! ドンッ!!


 しかし、次から次へと湧いて出るスライム。



(よし、今だ。ゴビン、アクシェイ)



(奴の鎧を剥げ! それで奴の物理無効が消える)



(毒で弱ってもそれで死ぬ奴ではない)



 ヘルドゥーソの横でじっとしていたアクシェイ、そしてヴォルドヴァルドに感電させられ、床に転がっていたゴビンが、命じられたまま動き出す。


 シュン! シュン!!


 ヴォルドヴァルドの背後に瞬間移動し、周りについているスライムを気にもせず、鎧を剥ぎ始める。


「ぐぁ……や……めろッ!」


 腕を振り回すヴォルドヴァルド。しかし力無い。

 2人に片手で止められ、まずは腕当てが外される。


 中から筋骨隆々な腕が見える。が、紫色の斑点で覆われ、毒による攻撃を受け続けていたことがわかる。



(そんなになるまで、よく頑張ったものだ)



(感心するぞ、ヴォルドヴァルド)



(む……)



 ふと、ヘルドゥーソの笑いが止む。

 そして、チッと舌打ちをする。



(急げ、ゴビン、アクシェイ!)



(マッツとヒムニヤが来るッ!)



 脚、胴、と次々に剥ぎ取られる物理無効の最強の鎧。


「むぉぉぉ……やめろ……」


 そして、遂に最後の兜が剥ぎ取られる。



(ホッ! ヴォルドヴァルド! お前……)



(そんな面をしていたのか!)



(初めて見たぞ!!)



「むぅぅ……ヘルドゥーソ、お前の狙いは……何だ」



(最初に言ったろうが。神の種(レイズアレイク)だ)



神の種(レイズアレイク)を寄こせ)



神の種(レイズアレイク)か……わかった。俺の負けだ。持っていくが……いい」


 フッと何処からともなく、ヴォルドヴァルドの掌に極彩色の水筒が現れる。



(おお! おお!! それだ!!!)



(まさしくッッ! 今度こそ我が手にッッ!)



 手を伸ばすヴォルドヴァルド。


 ヘルドゥーソが恐ろしい形相で口を大きく開け、腕ごと水筒を丸呑みにしようかという勢いで、ヴォルドヴァルドに飛びかかる!!


「すまん、間違えた。俺の勝ちだ。持って行ってはいかん」



(…………なに?)



 掌にあった極彩色の水筒は、一瞬でその姿を変え、代わりに魔槍レベッカが顕現する!!



(貴様ッッッ!!!)



「消えろ、ヘルうどんっっ!! 六芒(アンゼクセック)!」


 魔槍レベッカが光を上げ、ヘルドゥーソから魔力を吸い始める!!


「『光撃(リヒト・ショック)』!!!」



 ドッッッッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!



 巨躯から繰り出される魔槍の光撃がヘルドゥーソの顔面を貫く!



(グゥアアアァァァァッッッ!!)



 バッシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!


 顔の真ん中から無残につぶれていき、叫びをあげ、後ろの空間に吸い取られるように消えていくヘルドゥーソ!!


「ふぅ……俺にしちゃ、小手先の技だが……鎧を剥がしたお前らが悪いんだぜ?」


「貴様!」


「ごぅらぁぁぁ!!」


 ゴビンとアクシェイがいきり立ち、ヴォルドヴァルドに向かって走る!!


 ……が、途中で失速し、そして三白眼になり、バタンッと倒れこんでしまう。


 程なく、彼らから闇のオーラがスーッと消えていく。



「ふう……やれやれだ」


 そう言って、バタリ、と仰向けに倒れ込み、吹き抜けの上空を見上げるヴォルドヴァルドだった。



  《ヘルドゥーソ、ゴビン、アクシェイ敗北》




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