第77話 再びペザへ
「そうか、みんな知り合いか! それは奇遇だな」
レイティスが頷きながら鴨肉を頬張る。
ここは、少し広めの応接間だ。
レイティスの好意で泊めてもらうばかりか、こんな豪華な食事までいただけるとは。
マジュムル達は、ゴビンと共にここまで来たらしく、レイティスが俺達に合わせるのは何となくまずかろう、と気を利かせて食堂で食べさせていたらしい。
しかし、シータがハァハァ言いながら廊下を走っている所を俺が見つけて声を掛けた事で、お互いに知り合いだとわかったのだ。
「いやぁ〜〜〜ペザにいると思っていたマッツ様がまさかクリントートにいらしたとは。これもまた聖女リン様のお導きかしら」
シータが俺のグラスに酒を注ぎながら、本当に嬉しそうにそう言ってくれる。
「いや、俺達もこんな所で会えるとは思わなかったよ。マジュムル様もエイゼル様も、お元気そうで何より」
「いや、全くです。もう皆さんご存知だと思うので言うのですが、メシュランからずっとクーデターを考え直すよう諌めていたのです。が、聞いてもらえず、最後の抵抗でここに居残った次第です」
マジュムルがそう言って、苦笑しながらグイッとワインを飲み干す。
「全くお恥ずかしい限り。我らの力が及ばなんだ」
エイゼルも自嘲気味に話す。
「いや、お二人のせいではありません。この一件、かの超人、ヘルドゥーソ様が裏で糸を引いているとの事」
エイゼルとマジュムルをそう慰めるレイティス。
「何ですと! 超人が……」
「アスガルドの暗殺者ケルベロス、とやらもそうなのですか?」
「それはわかりません……ただ、その可能性は高いと思います」
「道理でゴビン様の様子がおかしいと思っていました。……だとすると、やはり、力ずくでもお止めしなければ」
最後にマジュムルがそう言った所で、3人とも黙りこくってしまう。
その間も俺の右隣のヒムニヤと、その1つ先のクラウスは、ずっと真面目な話をしていた。俺はそれを黙って酒をチビチビやりながら聞いている。
「ヒムニヤ様、この旅を続ける間、ヘルドゥーソの脅威はついて回ります。闇の世界に行く方法、そして帰ってくる方法を教えていただけないでしょうか? 私ももっと役に立ちたいのです」
ヒムニヤは薄く笑いながら首を振り、あせるな、と窘める。
「まだ早い。まだ手を出してはならん」
「そうは言っても……いえ、わかりました。では、もう1つ。『闇の波動』を纏ったものと戦う時にはどうすればよいでしょうか?」
食い下がるクラウス。
今度は少し考えるヒムニヤ。
そして、おもむろに口を開く。
「……そうだな。今、この世でよく使われている魔法の属性、いわゆる火、風、水、土の四属性に加え、闇属性、聖属性がある事は知っておろう」
「はい」
姿勢を正し、身体をヒムニヤに向けて神妙な面持ちで聞く態度を見せる模範生、クラウス。
「闇に効くは聖……と思われがちだが、そうではない。多少は効くが、真に正反対であり、尚且つ同じ効果を持つのは今、この世で殆ど知られていない『光属性』だ」
おお。そうなのか。
確かに俺の聖竜剣技は殆どリッチに効かなかった。単に聖属性のバリアでも張っているものだと思っていたが……。
「光……ツィ系で光属性、というのは知りません」
「ああ。この世では知られていない、と言ったろう。今、お前達、いや、私達と言おうか、のパーティでこれが使えるのは私とマッツ、そして……」
え!? 俺?
そんな剣技、あったっけ……?
「お前だ、クラウス」
口の端を上げ、優しく笑う。
「え? 私ですか!? 私は使えません!」
両手を振って否定するクラウス。
「フフフ……私がバルジャミンで……」
「マッツ様!」
不意に左側からシータに名前を呼ばれる。
「シータ……何? ……うわっ」
クラウスとヒムニヤの話に神経が行っていた俺が何気なしに振り返ると、思いの外、顔が近くてお互いにびっくりする。
「うわぁッッ申し訳ございません。ハァハァ……実はお願いがございます」
「お……お願い……? 何かな?」
そこで、胸の前で手を合わせ、
「マッツ様! マジュムル様、エイゼル様と私をゴビン様の元まで連れて行って下さい!」
いつもどこか抜けている彼女だが、真面目な顔でそんな事を俺に頼み出した。
「先程、リタ様にここまで竜に乗って来たと聞きました。私達も是非乗せて下さい! ゴビン様をお止めしなければ!」
「マッツ殿、それは我々の願いだ。何とぞ聞き届けて下さい」
マジュムルがテーブルに擦り付けんばかりの勢いで頭を下げる。
その横でエイゼルも目を閉じて頭を下げている。
全く、断る理由は無い。味方も多いに越した事はない。
俺は立ち上がり、3人に向かって、
「わかりました。何の問題もありません。一緒に行きましょう」
そう言うと、パァーッと喜色満面になる3人。
いい配下を持って幸せだな、ゴビン。
その日は俺達が疲れていたため、早々に切り上げ、寝る事にした。
―
翌日、クリントートの城には2体の竜がいた。
1体は火竜アルトゥール、もう1体は黒竜、ヒムニヤ曰く、名をヴァネッサといい、まだ子供だが女性だそうだ。アルトゥールよりもひと回り小さい。
人数が増えるだろうと予想したアルトゥールが連れて来たらしい。
何故、そんな事がわかるんだ、と聞いたのだが、お前達とは出来が違う、と偉そうに言われてしまった。
やはり傲慢な生き物だな。
城に残っている衛兵達や付近の住民も、何事かと遠巻きに眺めている。
「よし、じゃあ行ってくるよ、レイティス!」
「ああ。気をつけてな。アクシェイ様、そしてこの国を頼む!!」
バァッッッサァァァァァァァァァァァァ!!
バァッッッサァ! バァッサァ!
バッサ! バッサ!
2体の竜が翼を広げ、垂直飛行を開始する。
前回の反省を活かし、今回は予めロープを竜の首に巻きつけてそれを掴み、自分達の体にも巻きつけて置く。更にエルナとヒムニヤに防寒対策をしてもらった。
アルトゥールに俺、ヒムニヤ、マジュムル、エイゼル、シータを乗せ、ヴァネッサにはパーティの皆を乗せた。
そして一気に水平飛行に移る。
すごい迫力だ!!
初めて竜に乗った3人が、初回の時の俺達と同じようにワーワー言っていたが、まあ、当たり前だな。
一旦途中で昼休憩を挟み、赤い道を大きく逸れた山中で昼食をとり、再び空へ。
夕方前には、もうクーデター軍を捉える。
「マッツ、どうだ、感じるか?」
軍を見下ろしながら、ヒムニヤにそんな事を話しかけられる。
「うーん。いや、何となくだが、ここにはいない気がする。どっちかというと……あっちから気配がする」
北の方を指差しながら答えると、ヒムニヤは小さく笑いながら、
「正解だ、マッツ。ゴビンやメイド達はここにはいない。もっと北、おそらく、いや、間違い無くペザにいる。……その感覚、誰にでもあるものでは無い。大切に養え」
と、褒めてくれた。へへ。
「ああ、わかった! よし、アルトゥール! ペザに向かってくれ!」
(私にはどうでも良い事だが……下の人間どもは進ませておいてよいのか?)
ホバリングしながらアルトゥールが不意にそんな事を言い出す。
「む。いや、でも、どうにもならんだろう?」
(既に仲間を呼んである)
「本当か! 凄いな、アルトゥール! じゃあ足止めを頼む! ……あ、だけど、殺すなよ!! 下の奴らには何の罪もないんだ」
突然、俺達の更に上空から巨大なものが舞い降りてくる。
何体も何体も。
「うお―――!!」
ヴァネッサの方からアデリナの声が聞こえる。
計10体。
色とりどりの竜が、俺達の前に勢揃いする。
壮観 ―――
その一語につきた。
地上では兵士達が右往左往しているのが見える。
他国の兵士よりも竜を見慣れているとは言え、これだけの数が揃っているのを見るのは初めてなのではないだろうか。
(彼らに足止めをするよう、頼んでおいた。我らは行くぞ)
「有り難う! アルトゥール! お前、用意が良すぎるな……」
(クックク……出来が違う、と言ったろう)
うぅむむ……。
なんか腹立つが……。
大丈夫か? 焼き尽くしたりしないだろうな?
「アッハハ……マッツ。わかりにくいだろうが、アルトゥールは私を助け出したお前に感謝し、尊敬もしている。安心して任せて良い」
ヒムニヤが笑いながら解説してくれる。
そうなの?
わかりにくいツンデレだな……。
「ううむ。じゃ、クーデター軍は任せた。行こう、アルトゥール!!」
(しっかり掴まっておけ!!)
それから2時間ほど大空の旅を続け、俺達は首都ペザの主城に辿り着いた。
いる……
闇の気配を持つ者が何人も……
よし、最終決戦だ。
ここで全てのケリをつけてやる!




