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第69話 クリントートへ(前編)


「何の収穫もなかったわね……」


 1階、別塔への扉の前まで戻ってきた。ずっと案内してくれた近侍にお礼を言い、ここで別れた後、リディアが俺を気遣って声を掛けてくれる。


 だが、そんな事は無いさ!


「いや、そうでも無い。4つ、わかった事がある」


「4つ?」


 リディアが首を傾げて聞き返してくる。


「ああ。1つ、ヒムニヤの言う通り、奴は皇族への洗脳以外、何事にも関わっていない。2つ、奴は間違いなく、神の種(レイズアレイク)を持っている。3つ、戦って勝てば、それは手に入る。そして4つ、奴はかなりのおバカさんだ」


「4つ目は、私もわかったよ!」


 アデリナが可愛い声を上げる。


 ずっとあの重低音且つ、最大ボリュームを聞かされていた為、癒される事、このうえない。


「そうね。そう考えると安心して、ヒムニヤ様の所へ行けるわね」


「そうだ、リタ。ここからは時間の勝負だ。イシャンのもとへ急ぐぞ」


 そうして俺達は急ぎ、イシャンの部屋に向かった。



 ―――


「アイラ、彼らが僕が話していた、マッツ達だ」


 イシャンの部屋で、初めて皇女アイラと対面する。


 彼らは4兄妹。長男ラーヒズヤ、次男ドゥルーブ、三男イシャン、長女アイラ。


 明らかにドゥルーブとイシャンの間に線が見える。人種が違う、というのか……。


 かたや巨人族、かたや美形族。


 イシャン程ではないが、アイラも相当美しい。母譲りなのか、カールのかかった背中の中程まであるブロンドヘアと美術品のような碧眼。


 赤いドレスを羽織って、不安そうな顔をしている。


 俺達は簡単に自己紹介を済まし、すぐに本題に入る。




「馬……か……」


「手配できないかな? 急で申し訳ないが、あまり時間が無いんだ」


「いや、できるとも。してみせる。だが、ついでに僕の頼みを聞いて欲しいんだ……」


 ……


 やはりか。まあ、イシャンの立場と元々の思いから、そう来るとは思っていた。


「クーデターを何とか止める事に協力して欲しい」


 そうだろうな。

 これは予め仲間と話し、この際、協力しようと決めていた。


 ヒムニヤの安否確認には変えられない。

 二つ返事で了承する。


「オーケー。協力しよう。でも、あくまで主役は君達だ、イシャン、アイラ。君達が止めるんだ」


「勿論だとも! 有難う、マッツ!」


「有難うございます、マッツさん」


 だが、状況は非常に芳しくない。まずはこの2人と認識を合わせる。


「おおよそ、知っているだろうが、簡単に認識合わせをするぞ。まず、クーデターは既に起こってしまった。発生はおよそ10日前。従って、かなり、このパヴィトゥーレに近い所まで来ているはずだ」


「10日前……そんな前に! では、僕達が会って話していた時には……」


「そう。既に武力蜂起していたって事だ。場所はクリントート。バルジャミンからは(ドラゴン)討伐に紛れ、予め部隊をクリントートへひっそりと移動させていたと思われる。クリントートからドラフント近郊へ、そこで(ドラゴン)討伐の後、帰還するフリして、帰らなかった部隊と合流。数はバルジャミン、クリントート両軍合わせて万を超えるらしい」


「万!! そんな大軍……」


 イシャンとアイラが絶望的な表情で、蹌踉(よろ)めく。だが、ショックを受けている暇など無い。


「それに対してこちらは、ヴィハーン皇帝がまだこの城にいる。だが、ラーヒズヤ殿下は既に出陣済みだ」


 イシャンが目線を落とし、正気を失っている。アイラがイシャンの肩に手を掛け、慰めようとしている。


 ここはビシッと行く。


「イシャン、しっかりしろ! 落ち込んでても状況は変わらない。いや、悪くなる一方だと思え」


「にいさま!」


「あ、ああ。すまない……」


 頭を抱えて、ヘタリ込むイシャン皇子。

 やれやれ……打たれ弱い奴だ。


 まあ、俺達はいろんな経験をし過ぎているからな。元々、兵士だし。皇族とは違うが……。


 これだと、話すだけ、時間の無駄か?


 ……と、その時。


 パッシィ―――ン!!


「しっかりしなさい、イシャン!! 止めたいんでしょ! 同じ国の人間同士で戦いたく無いんでしょ! 貴方がしっかりしないで、どうするの!!」


 ハッと我にかえるイシャン。


 リタのビンタだ。


 仮にも皇族にビンタとは……リタ、恐るべし。

 だが、効果はあった。


「まだ……間に合うのかい……?」


「間に合わせるんだ。君次第だよ」


 両手で、バシィッと自らの両頬を叩くイシャン。


「……ごめんよ、あまりの事に……言ってくれ、マッツ。僕はどうしたらいい?」


 リタにパチッとウィンクしてやると、すぐに微笑と『後は任せた』のウィンクが返ってくる。


「よし。落ち着いたか? イシャン。では、俺たちのすべき事を言うぞ? みんなもよく聞け」


 みんなを見回す。

 大丈夫だ。俺達なら、まだ挽回できる。


「まず、ヴィハーン皇帝。皇帝に関してはこの城から出る前に説得して、出陣させない事」


「え!? それなら急がないと!」


 アイラがビックリして叫ぶ。


「ああ、急いでるんだ。だが、まずは落ち着け。次だ。ラーヒズヤは既に出陣している。彼らは3日前に騎馬隊だけで出て行った。既にドラフキープヴィに入っているかもしれない。……俺達は今からこれに追いつかなければならない。そして、この城に帰るよう、説得するんだ」


「騎馬隊に追いつくだって?」


「もちろん、クーデターの兵達と出会う前にって事よね……」


「それは……幾ら何でも」


 ヘンリック、エルナとクラウスが声を揃える。

 そう。彼らが言う通り、これは不可能に近い。


「ああ。だが、やるんだよ。それ位の根性がなくて、内紛など収められるものか」


 ニヤッと笑って、イシャンに向き直る。


「イシャン、とにかく今から3日前に出陣した騎馬隊に追いつける馬だ。用意してくれ。速さよりタフさだ。向こうは精々、1日に10時間も進んでいればいい方だろう。一日中走れば必ず追いつく。それまでもてばいい。後は乗り換えるなり、その時、考える」


 驚愕と尊敬の入り混じった表情で俺をマジマジと見つめるイシャン。


 ……可愛い。


 いや、違う違う。


「…………マッツ……すごいな、君は。本当に。わかった。必ず、用意するよ!」


「やり遂げて初めて、凄いんだぜ? じゃあ早速、頼む。俺達はヴィハーンを止めてくる。ラーヒズヤ達を先に行かせて時間を稼ぎ、今から本隊で出兵するつもりだ。アイラ、一緒に来てくれ」


 そうしてイシャンは、急ぎ、近侍や武官達に掛け合いに行った。




 俺達はアイラと『帝王の間』に行くが、既にヴィハーンはいない。


「ひょっとして、もう閲兵を済ませて、出陣しているのかも!」


 アイラが、悲痛な叫びを出す。


「本隊は出陣させてしまうと引き返させるのが骨だ。急ごう」


 そもそも、一度出陣した隊が引き返す、などという事は余程の理由がない限り、そうそうある事では無い。


 軍隊の規模が大きくなればなるほど、説得は難しい。何としても出陣前に捕まえたい。


「いた!」


 ここは3階。アデリナが廊下から外が見える場所で下を指差している。


 見ると、城内の広場に数百の騎馬と、数千の歩兵が出揃っている。そして、ヴィハーンが何やら全体に声をかけている。


 いわゆる、出陣前の士気高揚の演説だろう。よくぞ数日でここまで準備を整えたものだ。それだけにこれを止めるのは困難極まる。


 が、やらねばならない。


「よし、俺に任せろ。みんなは階段から来いよ!! アイラは特に急いで来い!!」


 言い捨てて、窓から飛び降りる。


「キャアァァァァッッ!! マッツ!!」


 リディアの悲鳴が遠のいていく。


 急げ!

 ちんたら、走ってなどいられるか!


 今の悲鳴で、ヴィハーンが俺に気付く。



風竜剣技ダウィンドラフシェアーツ!『クシア』!!」



 バッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!


 この広場に竜巻を起こす!


 そして、その竜巻に乗り、一気にヴィハーンの所まで飛翔する!


 途中、巻き込まれた兵士達、ごめんよ!


 ――― ドンッ!


 ヴィハーンの前に、片膝をついて着地。


 奇しくも、先程のヴォルドヴァルドの登場と全く同じとなってしまった。


「……剣聖(シェルド・ハイ)……か?」


 呆然と立ち尽くすヴィハーン皇帝。


「フゥ……はい。マッツ・オーウェンに御座います」




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