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第6話 ツヴァリアの陰謀(2)


 魔皇(アーケイン)の一撃で、数百いたモンスターの半分以上は戦闘不能に追い込んだ。だがその範囲外にいて無傷の奴らもまだまだ残っている。


 そいつらを掃討しようと剣を構え直したが、どうやら、自分達では敵わないと判断したようだ。


「ふぅ。やっと逃げ始めたな」


 トロルやオーガをド派手な剣技で瞬殺したことは、他のモンスター達を震え上がらせるのに十分だった。

 無論、その効果を狙って、修行の時以来、使ったこともない魔竜剣技まで使ったのだ。


「よし。どいつを追跡するかな……」


 逃走し始めた奴らの中から、『追跡』の対象を物色する。


 ……決めた。


「リディア!! あいつだ!!!」


 俺は何かと因縁のあるゴブリンロードを指差し、砦の方へ合図した。


 リディアは頷いた……かどうかはわからないが、砦の2階で詠唱をし始めた……ように見える。


 ぶっちゃけ、ここから砦の方向は、炎の壁が邪魔をして、何も見えない。


 とりあえずリディアを信じて、一旦帰ることにする。


「逃げ遅れているモンスターは殲滅しろ!」

「炎の壁は消火して片付けておけ!」


 そんな事を周囲の兵士達に命じながら門まで帰ってくると、既にリディアが門の外まで出てきていた。


「さすがねマッツ。見直したわ」

「見直したって……そんな事より『追跡(トラサーラ)』はどうだったんだ?」

「バッチリよ!」

「そうか。よしよし。じゃあ後をつけよう。だけどその前に……」


 ハンスへの言伝を誰かに頼みたい。

 見回していると、近くにちょうどいい奴がいた。


「ヘンリック!」

「ん? おう!」


 ヘンリック・シュタール。


 こいつはまだ15歳位のはずだが、この砦が出来た頃から守備隊として働いている。


 この若さで、しかし槍に関しては無双といってよく、こいつとまともにやり合えるのは、ハンスと俺、リタくらいだ。


 そして、ハンスの愛する弟でもある。


「今から俺とリディアで敵の隠れ家を見つけてくる。明後日にはハンスが帰ってくるはずだが、万が一、その時までに俺達が帰ってこなければ、ハンスに事情を伝えて、探しに来てくれ」

「よし。なら、俺がついて行ってやろう」


 ヘンリックは腕を組んで、ナイスアイデアとでも言わんばかりに偉そうな態度で言う。

 やれやれ。呆れた奴だ。


「あのな、よく考えろ? 俺とリディアがいて、どうしようもない事態を想定して頼んでるんだ。お前がいても大差ないだろうが。それよりさっき言った通り、もしもの時はハンスと協力して助けに来てくれ」

「む。何か腹立つが……それもそうだな。わかった」


 口をへの字に曲げているが、俺の言うことは理解してくれたようだ。


「じゃあ、追跡を始めよう。リディア、案内を頼む」

「わかったわ!」

「気をつけて行ってこい!」


 全く、誰に言ってるんだあいつは。

 俺とリディアは、顔を見合わせて小さく笑ってしまった。



 テン系魔法『追跡』は、その対象に見えないタグを打ち込み、無意識下でも一定の間隔でその位置がわかるような便利な魔法だ。意識すれば、どこにいても術者にはその時点での位置がわかる。


 打ち込まれたタグは『印』と呼ばれ、対象が死んだり、術者の精神が大幅に乱れたりすると消えてしまう。

 有効範囲は術者の能力によって決まる。が、その点、リディアの能力は高く、国外などでなければ逃しはしないはずだ。



 ―


『タカ』を出てから、かなりたつ。夜も更けてきた。

 俺とリディアの2人は何度か休憩しながらも、数分~数十分前にあのゴブリンロードが通ったであろう場所を進んでいた。


 万が一、救援が必要になった場合を考えて、一定の間隔で、俺だとわかる印を小さな紙に書いて木に貼り付けておく。



『タカ』付近を離れると未開拓の土地がまだまだ残っており、今、俺達がいる場所もそれにあたる。


 ここは『リェンカリの森』と呼ばれ、450年ほど前までは、街や城塞があったと言われている。


 ランディアと修羅大陸のエヴントス(今は国は滅び、ノゥトラス王国となっているが)の間で戦争が起こった時にこの辺りまで攻め込まれ、守備隊だけでなく住民達も大勢亡くなり、付近は焼け野原となった、と歴史の授業で習っている。


 結局、エヴントスの王の死と内紛によって戦いは収束したらしいが、この辺りはその時以来、放置されたまま荒れ放題、ということらしい。


「こういった所もその内、開拓していかなきゃならないな」


 俺とリディア、2人しかいないんだから、当然リディアに言ったつもりだったんだが、返事がない。


 過去の歴史も手伝って、この森はライヒェナウの森以上にラシカ地区の住民達に忌み嫌われており、恐れられている。

 呪われた怪談話も1つや2つではない。


 不意にリディアが俺の上着の裾を掴む。

 振り返って表情を見ると、辺りを見回しながらも、やはり怯えているように見える。俺が見ている事に気付いたリディアと目が合う。


「な……何よ……」


 強がってはいるが、心なしかその声も不安そうだ。



 ピーン。



 上目遣いで小さく震えているリディアを見た悪魔(デビル)マッツが、ひらめいたぞ、と俺に囁く。



 この余計なヒラメキのせいで、数日後に死にそうな目に遭ったり、衆人環視の元、耐え難い羞恥責めに遭うことなど、この時は思いもよらなかった ―――



「ここは……そうか、ここがあの呪われた森か」


 ポツリとそんな事を呟くと、リディアが身体をビクッとさせるのがわかる。


「どうした? 怖いのか? 震えているみたいだけど」

「そそそそんなわけないじゃない! なな何を言っているのかしらぁ? さ、さむ……そう、ちょっと寒いのよ!」

「そうなの? ふーん。結構、あったかい季節なのになぁ」

「わわ私はちょっと、寒がりなの!」


 ミエミエ過ぎて、もはや可愛い以外の何物でもない。しばらくワザと間を置き、黙って歩く。そして突然、大きめの声で話しかける。


「そうだ。この森について、1つ、話を思い出したぞ!」

「ヒッ……ちょ、ちょっと! いきなり大きな声出さないでよ! バカッ!!」


 心底、ビクついた顔をしているリディアに、更に続ける。


「知ってるか? この話……今から100年前にこの森に起きた男女の話」

「え? ううん。知らないわ」

「そうか。当時からこの森は昼でも薄暗く、幽霊や化け物が出るとの噂で誰も近付かなかったんだ」

「……」

「ある日、この森に2人の男女が迷い込んでしまったらしい……というのは表向きで、実はその男は女が好きでわざとこの森に誘い込んだんだって」

「ちょぉぉぉぉっと! ストォォォップ! マッツ」


 両手で俺の左腕をガッチリ握りしめながら、リディアが歩みを止める。リディアに掴まれている所が汗でびっしょりだ。


「マッツ。あんたまさか……怪談でもするつもり?」

「え? やっぱり怖い?」

「う……」


 困ったような、怯えたような顔をしながらも、怖い、の一言が言えないリディア。俺はそのまま前に向き直り、再び歩き出す。


「女はとても綺麗だった。男は勇気を出して付き合って欲しいと告白したんだが、にべもなく断られてしまった」

「……」

「その時!」

「ヒッ! ちょっと! 急に大声出さないでってば!!」

「2人は森の奥の方で、何かがボゥーーッと小さく光っているのに気付いた」

「……ぇぇ」

「その光は漂うようにその場をクルクルと回っていたかと思うと、段々と2人の方に近付いて来た」

「ヒッ……」


 俺を掴む力が強くなったのを感じる。


「ね、ねぇマッツ?」

「近付くにつれ、少しずつ何かが見え始める。よくよく目を凝らすと体がある。だが何か妙だ。形が人間じゃないぞ、と思い始めた」

「ちょっとアンタ……口調がおかしいわよ……」


 おっと興奮して噺家のようになっていたか? だが、止まらないぜ。


「足がある。だが人間なら本来あるべき場所にあるはずの胴体がない。細長く気味の悪い手足の上がボウっと光っていてよく見えない」

「う、ぅぅ……」

「……」

「……?」

「フッ……と目を凝らすと」

「ビクッ」

「さっきまで目の前にいたそいつがいない」

「……」

「何かの見間違いかと無理やり自分を納得させた男は胸を撫で下ろし、女に、もう村に帰りましょう、と声をかけようとして、そこで固まった!」

「ヒィッ……もういやぁ……」

「綺麗な女のすぐ隣に、ギョロッとした大きな大きな1つ目、そしてその目に負けない程の大きさで真横に避けた口、顎がなく、首もなく、顔らしき輪郭から生えたような細長い手足がついた化け物がぁぁぁぁぁ!」

「ひぃぃぃ」


 リディアが腕に密着してくる。


「男はたまらず大声を上げ、女を放り出して逃げてしまったそうだ。女は何とか1人で村の麓まで帰って来たものの、そこで森で見た異形の化け物、しかも1匹じゃない。大量の化け物に取り囲まれ、クチャクチャと食われて死んでいく男を見つけ、その場で気を失ってしまった……って話だ」

「う、嘘でしょ? そんな話、聞いたことないよ……」


 そりゃそうだ。俺の創作だからな。だが俺は真面目な顔で続ける。


「いや、実際に『タカ』が出来る前、地元の村の人間も、何度か目撃したらしい。夜な夜な、トイレの壁から1つ目だけがニュッ! と出てきたり、夜中、寝ている時にふと目を覚ますと、逆さまになった()()が、天井に張り付いてこっちを見ていたり、とかな」

「ヒィィィィィィィ~~~~!!!!」


 夢中で目を瞑り、俺に抱き着いてきて顔を埋める。



 クックック。

 『リディアと自然に密着』作戦は成功だ。後は……


 ―――


『ううう……ううううう……』

『どうしたリディア? まさかこんな話がこわかったのかい?』

『……怖いよ……お願い、もっと近くに来て……』

『フフフ。しょうがないなあ、リディアは』

『ああ! 安心するわ!』


 ―――


 こんな感じになるって寸法だ。


 自分でもわかる。おそらく今、この時、俺は最低な顔をしているはずだ。

 口元は緩み、目尻は下がり、鼻の膨らんだ今の顔を誰かに見られたら、俺は間違いなく『守備隊長』ではなく、『エロ隊長』の2つ名をつけられるであろう。


 それ程、下卑た笑いを浮かべているはずだ。


「ううう……ううううう……」

「どうしたリディア? まさかこんな話がこわ「マッツのぶゎかぁ!! 意地悪! どうしてそんな話するのよっ!」

「うぇぇぇ!?」


 俺にしがみつく感じで、顔を埋めるリディア。だが、予想に反して威勢が良い。


「え? えっと、万が一、出てきても冷静に対処出来るように……かな」

「そんなの、出てきた瞬間にあんたが退治すればいいじゃない!!」


 あれれ?


「ばかばかばか!バカマッツ!!意地悪!!そんなの怖くないし!!」


 グヌヌヌ……少々、予想と違う反応……



「ごめんよ、リディア。出てきても絶対守るよ」

「ん。とーぜんよ!」


 不意に、あ……と小さく呟き、小首を傾げたリディアだが、俺の腕から離れるつもりはないらしい。


 とりあえずは満足だ。


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