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第64話 状況整理


 俺達はヴォルドヴァルドに一歩、近付いた。最早、射程内だ。



 ドラフ山脈からの帰り道、興奮したラーヒズヤが、ついにその名前を口に出した。


 ―――


剣聖(シェルド・ハイ)、お前の働きは万人に値する。皇帝に会え。我が父、ヴィハーン・クマールに』



 ―――



 ドラフジャクド皇帝、ヴィハーン・クマール。68歳。

 元々は旧パヴィトゥーレ王国領の武官。30年前、先代皇帝プラカーシュ・カーンからその軍事力と政治力を認められ、第9代皇帝となる。



 入国前、ヒムニヤに教えてもらった情報を復習する。


 そして、ラーヒズヤと共に、ヴォルドヴァルドに操られている1人でもある。


 心の中でガッツ・ポーズをし、真面目くさった顔をして、ラーヒズヤ様の後から参ります、と、一旦、彼と別れ、俺は『竜討亭』に戻ってきた。



「ただいま〜」


 男部屋のドアを開け、無事、帰ってきた事を告げる。


「マッツ! お帰り〜〜〜!!!」


「うわっ!」


 突然、部屋からアデリナが飛び出してきた。


 両腕を俺の首に巻き付け、抱きついてくる。

 顔が近い近い。


「ビックリしたぁ……アデリナ! ただいま!」


 笑顔でアデリナを抱いて、振り回してやる。

 かっる! 綿みたいだ。


「ひゃあ〜〜〜」


 と言いつつ、満面の笑みのアデリナ。またこの笑顔を見れて良かった。


「1番に抱きつくんだ、とわざわざこっちの部屋に来てたんですよ」


 クラウスが、お帰りなさい、と微笑みながら教えてくれる。ふふ、アデリナらしいな。


「どう?『風の(ダウィン)ブーツ』は、役に立った?」


「ああ、旅の間も全然疲れない。ってか、これ、みんな履いた方がいいぜ。メチャメチャ楽だ」


「へ〜そうなんですね。僕も買おうかなぁ」


 アデリナと俺のやり取りを聞いて、羨ましそうにクラウスが呟く。


「これはオススメだぜ! 良いものを貰ったよ」


「なら、良かった!」


 ギュ〜〜〜


 アデリナが抱きついて……いや、絞め付けてくる。



 う……苦し……。


「マッツ! お帰り! ……って、何やってんのアンタ達」


 リ……ディア……ただいま……。


 根負けして、タップする。


「やった! 勝った!」


「ゲホッ! ゴホゴホッ!!」


 抱きしめ……ではなく、単なる絞め技になってたんだが……。

 帰って来て早々に落とされそうになる。



「帰るなり、賑やかねぇ」


「ホントですね。リディアも行って来たら?」


 リタとエルナがリディアの後ろから現れる。


「フン。カンケーないですッ! ……で、どうだったの? マッツ。(ドラゴン)討伐は」


「見た感じ、傷の1つも負っていないな」


 ヘンリックがなかなかに目ざとい。


「まあ、ここじゃ何だから部屋に入ろう。女子部屋に行こうか」


 そうして俺達は広い大部屋に移動する。


 そこでやっと皆に、今回の竜討伐の一件は、ヒムニヤ、アルトゥール、俺で予め仕込んでおいた事を説明、同時に、この事は冗談でも絶対に言うな、と念を押す。まだバレていい段階ではないからだ。


 そして、遂にヴィハーン皇帝に会える事になった、と告げる。


「うおおおお! やった! マッツ!」


 アデリナが俺の右手をギュッと抱きしめる。

 リディアの眉がピクッと釣り上がる。


 ……だが、アデリナの言う通りだ。これは喜ぶべき事だ。ようやく、辿り着く。


 だが、問題は……。


「皆に言っておく。ここまでは順調だ。目論見通り、と言っていい。問題は……ここからだ」


 皆、真剣に聞いてくれているので、そのまま続ける。


「これから俺達はパヴィトゥーレにあるこの国の首都、ペザを目指す事になる。ここからはいつ、何が起こっても不思議じゃない。気を付けてくれ。誰が敵か判らない。何か1つ、歯車が狂ったら取り返しのつかない事になる、と肝に銘じてくれ」


 声を更に低くする。

 ここからはおふざけ無しだ。雰囲気を変え、俺も頭で断片的になっていた情報、状況を順番に引っ張り出す。

 部屋の中がシ―――ン……となった所で、話を続ける。


「では、状況を整理し、おさらいをしよう」


 アデリナがコクコクと真面目な顔で頷く。


「まず1つ目だ。バルジャミンの酒場でヒムニヤが大男を吹っ飛ばした後、シャムという男がヴォルドヴァルドの使いだ、と訪ねてくる。ヒムニヤに対して挑発とも取れる内容だったが、ヒムニヤがヴォルドヴァルドからでは無い、と看破した」


「じゃあ、誰なんだ」


 腕組みしながら、ヘンリックが口を挟む。


「……そう。シャムは何者だ? こいつにその伝言を依頼したアルという男。こいつは何者だ? そして、その背後にいるのは誰だ? 何もわかってはいない」


 そこで一度、皆を見回し、話を続ける。


「2つ目は、『ケルベロス』と呼ばれる、東のアスガルド帝国の凄腕暗殺者が入国している、という情報だ。噂が立ち出したのは、聞いた時に2、3ヵ月前、と言っていたから、今は3、4ヵ月前ってとこだ」


「マジュムルとエイゼルが教えてくれた件ね」


 リタの確認に、頷いて肯定する。


「こいつに関しては、居場所や目的、一切、何もわかっていない。俺達とは何の関係も無いのかもしれない。が、気を抜くな。どこで出会うかもわからない。リタが聞いた噂通りだとすれば……相当な腕前の奴だ」


「ヴォルドヴァルドとやる前に、手合わせしたいもんだな」


 ヘンリックが珍しく、口元に笑いを浮かべる。こいつなら相手できるかも知れない。しかし油断は禁物だ。


 俺は真剣な表情を崩さず、更に続ける。


「3つ目だ。俺達はバルジャミン領主ゴビンとドラフキープヴィ領主アクシェイ、2人とも面識がある、が、この2人が少し妙だ」


「妙、とは?」


 エルナが神妙な面持ちで聞き返す。


「わからないんだ。僅かに気配の違和感がある、というのかな……勘なんだが。ヒムニヤはもう少し何かを感じ取っているようだが、それでもはっきりとはわからんらしい」


「ヒムニヤ様はそれを確かめる為に残られた」


「そうだ、クラウス。最初に順調だと言ったが……そういう意味では、少しずれ始めて来た、と言っていい。ヴォルドヴァルド戦にヒムニヤは必須だと考えているからな。その前に合流はしたい」


 もう一度、部屋を見回し、部屋の外にも監視の気配がないか探る。


 大丈夫だ。人の気配はあるが、ただの傭兵共だろう。誰も聞いている奴はいない。


「最後だ。ここドラフントに来てから、俺達は監視されている」


「え!?」


 クラウスが目を見開く。


「誰か、気付いた奴はいるか?」


「今、言われて、それと気付きました」


 エルナが挙手する。


「いつ?」


「貴方が討伐に行っている間です。私とリディアで町にアイテムを見に行った時に明らかに()()()()視線を感じました。知らん振りしておきましたが」


 うんと1つ頷く。

 さすがエルナだ。落ち着いている。


「実は俺とヘンリックが空き地で練習していた日、同様の気配を感じている。そして(ドラゴン)討伐時、討伐隊に参加している連中の中にも俺を監視している奴がいた。その時、エルナ達も視られていたとすれば、最低、2人はいる事になるな」


 リディアが眉をひそめ、自分の腕を抱く。


 不安だろう。今までこんな目に遭った事が無いんだから。


「今の所、敵とは断言出来ないが……明らかに俺達を監視している誰かがいる。誰と誰が手を組んでいるのかわからない。ここから先、いつ、どこでどんな邪魔が入るかもわからない。みんな、ここからは一層、気を引き締めてくれ。行動は必ず2人以上で。絶対に1人になるな」


「わかりました」


「わかったわ」


「わかった! ずっとマッツと一緒にいるよ!」


 更にギュッと引っ付いてくるアデリナの髪をゆっくり撫でてやる。


「バルジャミンとドラフキープヴィの兵士達は明日、ここを出発する。ざっとパヴィトゥーレまで15日の距離、そこから首都ペザまで更に5日間だそうだ。俺達は明日から3日間程で準備をし、ここを旅立つ。その前提で頼む」


 みな、頷く。

 その時、不意に大切な事を思い出した。


「あ、そうだ。話は変わるんだが……さっきアデリナには言ったけど、みんなから貰ったこのブーツ、最高だったぜ! 有難うな! 疲れないし、履くと軽いし、みんなもこれにした方がいいぜ!」


 急にトーンを変えたので、みんなキョトンとしている。が、横のアデリナが真っ先に反応する。


「あれ、見つけたの、リディアだよ! みんなであの店に行く?」


 リディアが!?

 それは意外だ。何となく。


「まだ残ってるかな……投げ売りのカゴの中から見つけたのよ」


「明日、行ってみようぜ!」



 そんな訳で次の日、目的の店に連れ立って行ったのだが、『風の(ダウィン)ブーツ』は有るには有ったものの、なんとリディア達が買った時の数百倍の値段になっていた。


 店主に聞いたところ、ラーヒズヤ皇太子が認めた有名な竜殺し(ドラゴンスレイヤー)剣聖(シェルド・ハイ)が同じブーツを履いていた、と言う噂がこの数日で広まり、プレミアが付いた、との事だった。



 グヌヌ……。


 仲間の冷たい視線が刺さるのがわかる。


 その日は予定を変更し、これに相当する、いい感じのブーツを人数分探し、ドラフント中を歩き回ったのだった。



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