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第62話 仲間との1週間(後編)


 ――― 5日目 リタ ―――


 リタ・ケルル(31) 女性。


 ビックリした。



 薄紫のタートルネックのニットに、ゆったり目の濃いグレーのカジュアルパンツ、限りなく白に近い薄いベージュのフード付きコートで出てきたリタ。


「……何よ」


 思わず、目が釘付けになっている所を、探るような顔つきで突っ込まれる。



「あ、いや……何か……可愛い……ね」


 すると急に悪そうな顔になる。ニタ〜〜〜と笑い、前屈みになって俺の顔を下から覗き込んでくる。


「あらあら。誰彼、見境なく口説いてどうするの?」


 リタは元々、かなりの美人さんだ。


 赤髪、浅黒い肌につり目、形の良い小鼻と唇、身長は170センチ位あり、筋トレばっかりやっているから凄くマッチョだが……モテる。30を越えてるといっても、まだ31歳だ。



「いや、いつも綺麗だとは思ってるんだぜ? でも、今日は格別、可愛いなぁと。思っただけだ」


 すると、ボフッと俺の頭を掌で叩く。


「だーかーら! それが口説いてるっつってんの! 話、するんでしょ!」



 そして、リタの希望で、ドラフントの衣服と防具の店をハシゴする。



「あの……昨日は有難う。凄く嬉しかったよ」


「そう、それはよかったわ」


「昨日も改めて思ったんだけどさ、リタはいつも優しい。大丈夫か? 気を回し過ぎて疲れたりしてないか?」


 驚いた顔でしばらく俺を見つめるリタ。不意に、笑顔になり、アッハハと笑い出す。


「疲れてなんかないわ。皆、いい子だもの。あ、『子』は失礼か。みんな立派な大人だもんね」


 この旅の間だけに限らず、『シシ』や『タカ』にいた時、ゴブリンロードに俺がのされてしまった時、いつも、リタは気にかけてくれていたんだ。


 それは俺だけに限らず、平等に、みんなに優しい。


「今日はちょっと趣旨を変えよう。日頃のお前の気遣いの感謝祭だ。俺に尽くさせてくれよ」


 またもや、何を言い出すの? と言わんばかりの表情を浮かべる。


「なあ、リタ。お前にはみんな、本当に感謝してるんだぜ。そして1番助かっているのは、きっと俺だ。俺の至らない所をしっかりとフォローしてくれるから、 俺が抜けていても上手くいってるんだ」


「…………フフ。それは過大評価だわ」


 目を逸らして、楽しそうに笑う。だが、俺は真剣だ。


「いや、そうじゃないさ。特に入って間もないアデリナをよく見てくれている」


「……アデリナは、あれでいてしっかりしているのよ? 抜けてるように見えるけど、凄く賢い。そんなに気遣いする必要はないわ」


 ふーん。そうなんだな。

 まあ、でもそうか。あの子がすっとぼけているのは俺に関しての事だけで、ドラフジャクドの旅の方針アイデアを出したのもアデリナだし、確かに何かと気が回る。


 そんな事を話しながら、ある店に入る。


『武器・防具 閉店セール!!』


 目に入ったのが、この文句だ。


 閉店がホントかどうかは別として……品揃えは豊富にあるようだ。


「お! 美男美女のご夫婦さん! 防具をお探しですかい!?」


 リタと顔を見合わせる。


 お互い、ブ――――――ッと吹いてしまう。しかし、店員はそんな事はお構い無しに続ける。こいつからすれば夫婦かどうかは問題では無いのだろう。


「奥さん、この『鉄の女性下着(エイザン・ウンター)』とか、如何です? ブレストプレートと併用すれば、ミノタウロスの斧の一撃を弾いた実績がありやすぜ!」


「趣味悪いわねぇ。そんなの着けてたら動けないし、冷たくて風邪ひいちゃうわ」


 しかめっ面をするリタ。


「ほうほう。なら……」


「自分達で見るから、放っておいてくれ」


 やかましい店員をピシャリと黙らせる。

 首をすくめて、他の客の所に移動する。


「あら、そこのイケメンのお兄さん、これなんかどうです?」


 ニヤけながら、他の客に売り込む店員。

 閉店とか言って、元気のいい事だ。年中、閉店セール的なアレだな。


「マッツ、これなんかヘンリックにいいんじゃない?」


 見ると、銀色の籠手だ。月のマークが彫られており、拳でコンコンと叩くと非常にいい音がする。


 手に持つと軽く、魔力が感じられる。

 これは……掘り出し物かもしれない。


「ホントだ……。なんでこんな適当な店に」


「価値がわからない店主が経営している店に、たまにあるのよ? 掘り出し物」


「へぇ〜〜〜……これは買っておいてやろう。あいつの籠手も入隊時からの支給品で、もうボロボロだからな」


 フフ……と笑うリタ。

 ホントに周りに目を配ってるんだな。


 しかし、1つ、見落としている事があるぜ?


 その店ではそれだけを購入し、外に出る。

 少し歩き、前から目を付けていたアクセサリー・小物類の店に入る。


「リタ。俺、お前にピッタリだ、と思ってるアクセサリーがあるんだ」


「アクセサリー?」


 目指す物は奥。他の物には目もくれずに進む。


「これだ」


 俺の指差すモノに怪訝な顔をするリタ。


「イヤリング?」


「ああ。だが、ただのイヤリングじゃないんだぜ? 手に取ってみろ」


 素晴らしく美しい、深紅の色合いを見せるイヤリングを素直に指で摘み、掌に乗せるリタ。


「……魔力が宿ってるわね! しかも相当な…ん? ひょっとしてこれは……」


「気付いたか? 現在、修羅大陸の最南端、ヤレの洞窟でしか取れないと言われている超希少鉱ヤローニャで出来ている。わかる奴が見ないと、安物のミストロ鉱と間違えられちまう」


 極限まで声を落としてリタに囁く。


 リタは修羅大陸の生まれだ。赤髪はあの大陸の生まれにしかいない。


「付けてみろよ」


 これまた素直に耳につけるリタ。


「リタの髪とピッタリだぞ!」


 鏡を見て笑うでもなく、怒るでもなく、複雑な表情をするリタ。


「何故、私に?」


「1つ、日頃の感謝。2つ、美人なのに洒落っ気が足らん。3つ、リタは接近戦が得意だからその時に邪魔になるようなものはダメ、4つ、そのイヤリングに込められている魔法は『魔剣強化』だ」


 早口でバババっと説明する俺を、ボーッと見つめてくる。


「俺達のパーティで剣を使うのは俺とお前だけ、俺はイヤリングなんかつけない、だからリタ用だ。俺がお前専用の魔剣をきっと見つけてやる。だから、付けとけ」


 ククク……。面食らっているな?


「ふっふっふ。実は初日、アデリナと町中回った時に既に見つけていたのだ。雑多にその他扱いで置いてあるし、お前が持つべき物なら絶対に売れんだろうと思っていたんだ」


「……」


 イヤリングを外し、ジィーッと見るリタ。

 うーん? 何か反応が思っていたのと違う……。


「有難う、マッツ。念の為に聞くけど……リディアやアデリナには何か買ってあげたの?」


「え? いや、何も」


 掌で額を押さえ、はぁ〜と大きなため息。


 あれ? 何で?


「あんたがそんなだから、私が気を回さないとダメになるんでしょ、全く……これは有り難く受け取るわ。その代わり、今からみんなへのプレゼントを買いに行きましょう。ヘンリックの分はさっき買ったから、残りのみんなの分」


「お、おお。そうか。わかった。リタがそういうならそうするよ」


 すると、ニコリとやっと笑ってくれる。


「そうしたまえ」



 ……そうして、皆へのプレゼント、リディアにはカチューシャとネックレス、アデリナにはペンダント、エルナにはスカーフ、クラウスにはトンガリ帽子を購入、全て魔力が込められた掘り出し物だ。


 町を回ってクタクタになったリタと俺は、2人で酒場に行き、エネルギー補給をして、宿に帰った。


 最後まで、リタには気を遣わせたかな?

 また機会があったら、今度こそ、オモテナシしよう。



 ――― 6日目 ヘンリック ―――


 ヘンリック・シュタール(15) 男性。


 焦げ茶の長袖シャツ、その上に肘当てと、昨日、リタが選んだ籠手を付け、革のチョッキ、燕脂(えんじ)の薄い生地のズボンの上に膝当て、革のブーツ。そして左手に赤い槍。


 完全に戦闘スタイルで出てきた。


 さて、6日間続いた二者面談も、今日で最後だ。


 そして……今日は気合を入れなければ……俺がやられる。

 万が一の時の為、クラウスに同行してもらう。



 2日目にクラウスと戦った空き地に行く。行きながら、少し話をする。クラウスは今日は黙って俺達の後ろを歩く。


「お前は何も不満は無いって言ってたが、学校に行きたいとか、ないのか?」


「学校?」


「ああ。お前、ろくに行ってないだろう」


 ちょっと考えるが、すぐに答えが返ってくる。


「今が、最高だ」


 そうか。なら良かった。

 そう言ってくれると少し気が軽くなる。


 俺はハンスからヘンリックを預かっている身でもある。保護者代わりだからな。


 だが、どこかで、敬語だけは教えておいてやらなければな!


「お。ちゃんと籠手、付けてるじゃないか」


「ああ」


「気に入ったか?」


「ああ」


 ふ。俺にはわかるぞ。


 お前、めっちゃ喜んでるな?


 多分だが。



 そして、目的地に到着。


 人通りが少ないが、完全にいないわけでも無い。まあ、隅っこの方でやれば、迷惑にならんだろ。


「さて……行くぞ?」


 ヘンリックが槍を下段に構える。


「おう。来いよ」


 両手で魔剣シュタークスを持ち、オーソドックスな中段で構える。


 シュッ


 チッ


 下段から跳ね上げられた槍先を、シュタークスの剣先で僅かに逸らせる。


 耳の横、数センチの場所に、ブンッという風切り音と共に槍先が現れ、一瞬でヘンリックの手元に戻る。


 やはり気が抜けない。集中だ。集中しろ。


 妙なタイミングで剣技を出したら隙を突いて反撃を食らう。


 2撃目!


 俺は中段に構えつつ、若干の半身にしているが、正確に正中線を狙った突きが飛んでくる。早過ぎて避ける事は難しい。


 キンッ!


 シュタークスの刀身で受ける。刀身の中央に走る溝に槍先がハマり、ピタッと止まる。


 そのまま、俺の右側に槍先を誘導、一気に踏み込み、槍のリーチを殺す!


 が、一瞬で、同じ距離をバックステップしたヘンリック。そしてその足が地に着くか着かないかの速さでまた槍を伸ばしてくる。


 ええい!


 大きく左から右に剣で払い、文字通り返す刀で右から左に振り切る。


 しかし、俺が払った勢いを利用して、グルンッと槍を半回転させ、末端部分、石突きの部分を前にし、剣を受け止める。


「クッ!」


 ビュンッ!


 間髪入れず、勢いをそのままに、縦に半回転、下から穂先が凄まじいスピードで襲ってくる。


 ガキッ!


 シュタークスを横にし、受け止め、反撃に、と思うが、そこからヘンリックの自在な突きの嵐を食らう。


 ピュンッ!


 ピュンピュンッ!!


 ピュンピュンピュンピュンッッッ!!!


 受け、払い、躱し、髪の毛が何十本か刈り取られる。


 更に、連撃!


 俺の頰に二箇所、痛みが走る。


 ググ……わかってはいたが、強くなっている!


 剣技が出せない。


 どうする?


 距離を取るか? いや、取れるのか?


 ダッシュ力には自信があるが、槍使いにとっても足捌きは大切。こいつの間合いの詰め方も半端ではない。


 バックステップで距離を取る自信が……無い!


 斬り払いと突きを織り交ぜ、以前より遥かに多彩な攻撃を見せるヘンリック。


 くそ!



 勝負だ! ヘンリック!!!



 バック……ステップッ!!



 待ってました、と距離を詰めてくるヘンリック。


 ダダダッ!!


 足の動きと上半身の反りで大きくバックステップする……と見せかけ、しかし俺は10センチも下がらなかった。


「!!!」


 逆に一気に踏み込み、刃を胴にコツン!と合わせる。


 ……


「一本だ」


 槍を構えたまま、立ち尽くすヘンリック。

 今回は多少、自信があったのかもしれない。



「…………さすがだな……ハァハァ」


 ほぼ、無表情だが、口元を悔しそうに歪めて吐き捨てる。


 いや、こっちこそだぜ……。


「お前もだ。参ったわ……ハァハァ……クッソ強くなってるな。ヤバいなんてもんじゃねぇよ……ハァハァ」


 側にいたクラウスは、呆然としたままだ、


「凄い……凄すぎる……」



 時間にして20秒も経っていないとは思うが、集中し過ぎて疲れる事、甚だしい。


 俺とヘンリックは一旦、地面に座り、呼吸を整える。この辺は、昔、『タカ』の時に手合わせした頃と変わらない。



「うお―――!! 何かスゲェ奴らがいるぞ!!」


「見たか! 今の!!」


「おい、みんな、こっちだ、来てみろ!!」



 何だと……。


 ったく、野次馬め……。


 見るとヘンリックが、チッ、と舌打ちしている。



「おい、ヘンリック!」


「ん?」


「野次馬は気にするな。むしろ、戦いなんて、色んなシチュエーションがあるんだ。あらゆる事を想定しろ」


「……成る程……そういう考え方もあるな」


 そして、俺達は同時に立ち上がる。


「第2ラウンド、行くぜ?」


「おう!」


「オゥラァァァァァ! 青竜剣技ブリュドラフシェアーツ!『シューヴ』!!」


 突きには突きを!

 修羅剣技の先制攻撃!!


 超高速でスクリュー状にうねる突きは、魔力によって、水属性の突きとなり、ヘンリックを襲う!


 が! 何と!!


 ヘンリックは、槍先に『突』を巻き付かせ、野次馬の方に放り投げた!


 シュバババババ!!

 ド――――――ン!!!



 ウワァァァァァァ……




 これは……覚えているぞ!


 以前、ビルマークのバルバラ王女を護衛していた時に遭遇した魔戦士ルーペルトが俺に見せた技!



 そして呆気に取られている俺の目前、1、2センチの位置に……ヘンリックの槍先。


「一本だ」


「ぐは……」


 さすがだ。ヘンリック。

 まさか、ルーペルトの技を自分のものにしていたとは。


「ひょっとすると、ケネトや他の修羅剣技使い、魔術師とやる事もあるかもしれんと思って、イメージしながら練習をしていた」


「はぁ……成る程ね。あ―――クッソ!!」



 またまた、呆然とするクラウス。


「凄い……凄すぎる……」


 さっきと全く同じ事を繰り返す。



 そうして、俺達はクラウスの時と同じく、何十ラウンドと闘いを繰り返した。



 あの時と違うのは、観客がいつの間にやら、黒山の人だかりとなっていたことだ。


 あちらこちらで賭けまでやっていやがった。



 そしてその人だかりにうまく紛れ、表向きは他の野次馬同様に騒ぎながらも、俺達を監視している奴が、いた。

 どいつかはわからない。


 一体、誰が? とは思うものの、現状ではどうしようもなく、取り敢えずは気付かないフリをしておく。



 この日の戦いは、黒竜戦団の兵士や屈強な傭兵どもが集うこの町で、しばらく噂となったのだった。




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