第60話 仲間との1週間(前編)
竜討伐まで1週間ある。
この間、どう過ごすかは実はもう決めていた。
「みんな聞いてくれ」
ここは、ドラフントに沢山ある宿の1つ『竜討亭』。
ドラフジャクドに入って色んな宿をみてきたが、ここは可もなく不可もなく、といった感じだ。俺達の目が肥えてしまっただけかも知れないが……。
竜討伐で有名な町であり、基本的には兵士や傭兵を泊める事が多いのだろう。
地下には、剣や矢じり、槍先等を自分で研げるよう、砥石と台座が用意されていたり、その他、武具の保管など、あまり他の宿で見ないサービスがある。
部屋で晩飯を食べ終わり、俺はこの1週間の過ごし方について、心に決めていた事をみんなに打ち明けた。
「明日から竜討伐まで1週間ある。もちろん自由に過ごしてもらっていいんだが……その内の1日を俺にくれないか? それぞれ1日ずつ、俺と一緒に過ごして欲しい」
一度、話を区切って、皆を見る。……反対、という顔はなさそうだが、意図を測りかねているようでもある。もう少し話を続ける。
「目的はこれまでの旅で思った事、これからの旅で思っている事、不満、希望、何でもいいんだが―――を話し合い、今後の旅をより良いものにする事、だ」
ふと、ヘンリックが口を挟む。
「話じゃなくてもいいのか?」
「話じゃない?」
「俺は特に不満は無いし、特に言う事もない。だが、お前が1日付き合ってくれるというなら、俺の練習に付き合ってくれよ。一度、お前とちゃんとやり合いたかった」
なるほど。それがヘンリックの希望という事か。
「オーケーオーケー、全然問題ないさ。そんなのでも構わない。他の皆はどうだ?」
「いいわね。1度、ちゃんと話してみても。別に何か不満がある訳じゃ無いけれど」
リタとは最も付き合いが長いが、2人で話した事は数えるほどしかない。
「賛成! 『1日』って、次の朝まで?」
アデリナが目を輝かせて、とんでもない事を言う。リディアが顔を赤くして、ちょっと何言ってんのよ、アデリナ!と怒っている。
「いや、基本はせめて夜位までを目処にして頂けると……勿論、話があるってんなら朝までだって良いけど、アデリナのはきっと……違うよね?」
「え〜マッツのケチ」
「当たり前でしょ!」
「リディアも朝までいれば良いじゃん! 私、反対しないよ!?」
「…………!」
「いや、あのな……お前達……趣旨を理解してくれ。趣旨を」
「順番は決めているのですか?」
エルナも反対では無いようだ。よかった。エルナからしたら俺なんかガキもいい所だからな。親と子位、年の離れた奴が何言ってるんだ?と思われたら、と、不安だったんだ。
「いや、何も決めてないので、くじにする」
そして、紙で線を引いて番号を隠し、名前を書くタイプのくじ引きを即席で作り、思い思いの場所に名前を書いてもらう。
結果は次のようになった。
1日目、アデリナ
2日目、クラウス
3日目、リディア
4日目、エルナ
5日目、リタ
6日目、ヘンリック
「おお! 私からだね!」
「ああ。明日、朝飯を食い終わったら出掛けよう」
「わかった! マッツ……忘れられない1日にしようね!」
どこで覚えたんだ、その流し目と言葉は……。俺より田舎者のはずなのに……。
「あ、ああ……」
何やらリディアが頬を膨らまし、俺を睨んでいる気がするが、きっと気のせいだろう。視界には入れない。
「じゃあ、また明日な。勿論、他のみんなは自由行動だが、妙な奴らもいる。気をつけるように」
「わかりました」
「じゃあお休み!」
「お休みなさい」
「お休み!」
――― 1日目 アデリナ ―――
アデリナ・ズーハー(18) 女性。
燕脂のベレー帽、深緑のミニワンピース、白の手袋、黒のストッキングに黒のローブーツ、という可愛らしい格好で宿から出てきたアデリナ。
町に行きたい、と言うので、ブラブラと町を散策に出る。俺達が泊まっている辺りが町の中心地であり、ここからざっと町を一周してみた。途中、衣服の店や喫茶店、弓を取り扱っている武具屋など、彼女が興味を示した店を見て回る。見て回りながら、道々、話をする感じだ。
「アデリナと出会ってもう5ヵ月位になるな。何か不満は無いか?」
「へ〜〜〜もうそんなにたってるんだ! 何かあっという間だね!」
いつも元気なアデリナといると、俺も笑顔になる。
アデリナは、少し首を傾げ、
「う〜ん、もう少し2人きりの時間を作ってくれてもいいのになぁ、というのが不満かな」
と言いながら、俺の目を上目で見つめながら腕組みをしてくる。
「ほれほれ、お前はすぐにそういう事を言う。俺は真剣に聞いてるんだぜ?」
「真剣なんだけどな。旅については、それ以外に今まで不満は無いよ!」
そういって機嫌良さそうにゴロゴロと小さな頭をくっつけてくる。
うーん……可愛い……。
いや、違う違う。
まあ、でも不満がないのか……。
上手くやれてるのかな、俺。
「じゃあさ、自分はこうなりたい、とか、こういう役目をしたい、とか、『タカ』に戻ったらこんな事したい、とかは有るかい?」
「あ! あるある! マッツのおよめ……」
「シャアラァァァッッップ」
うーん。予想はしていたが、なかなか聞き出すのが難しいぜ……。
それとも、ホントに何もないのか?
「んもう……。ハイハイ、マッツの聞きたい事は分かってるよ? でもさー。まだ分かんないよ。だって兵士になって初めての任務がこの旅なんだからさ。むしろ、マッツがもっと色々、教えてくれないと!」
成る程成る程。つまりはこれがアデリナの希望って事だな。確かに普通は入隊後の研修や、新人ならではの仕事などがあるんだが、アデリナの場合は全部すっ飛ばしているからな。
色々、分からない事も多いだろう。
「オーケーオーケー。ようやく、要望らしき内容を聞けたぞ。よしよし。旅の道すがら、新人の心得を教えてやろう」
そう言うと、顔を腕にくっつけてくる。何だか猫みたいだ。
「うんうん。もう1つの希望と一緒にね!」
「…………あ、ああ」
弓を取り扱っている武具屋では、こんな事を言っていた。
「どうでもいいんだけどさ」
そう言いながら、売っている弓を手に取って色々観察している。
「私の弓さ、ラシカ村で自分で作ったんだけど、威力を追求していくうちにあんな大きくなっちゃったんだ」
「そういや、アデリナの手の長さと合わないんじゃないかとずっと思ってたんだ」
「うん。実はそうなんだよねー」
色んなタイプの弓を見て、時折、へー、ほー、と呟きながら言う。
「手の長さと合ってないから弦を無茶苦茶硬く張ってるんだよね。そうすると力が必要でさー。もっと簡単にシュッシュッと射てる弓があったらな〜と思ってるんだ」
ふんふん。これは聞き捨てならない話だ。
「いや、全然、どうでもいい話じゃないじゃないか。むしろ、切実な話だろ。武器が合ってないんだったら」
「う〜〜〜ん。やっぱりそうだよねぇ。でも武器屋なんて、ここに来て初めてあった感じだからね」
弦をそれだけ強く張っているのに、あれだけ連続で射てると言う事は、アデリナの弓の才能は相当なものなんだろう。これは、これからの旅で是非、彼女に合った弓を見つけてやりたい。
「ま、今んとこ、変えてもいいと思えるのは見つからないな。これからも一緒に探してよ、マッツ」
「ああ! 勿論だ!」
結局その後は、アデリナの可愛い誘惑にひたすら耐え、夜、外で晩飯を食べて終了、初日が終わった。
――― 2日目 クラウス ―――
クラウス・シャハト(23) 男性。
濃い青のローブを羽織り、フードは被らずに顔を出している。下は、ブカブカの白いワイドパンツと茶色の革製ハイカットブーツ、といういつものスタイルで登場したクラウス。
最初、クラウスの要望を聞いた時は面食らったが、こいつもヒムニヤと旅を続けて行く間に強くなったのだろう。
ビルマークで暗殺者と戦った時は、自身に持続回復をかけて相手の槍に刺さりに行くというぶっ飛んだ戦法を取った男だ。気骨もある。
「よし、じゃあここらでどうだ」
町の外れまで行き、人気の無い、広い空き地に辿り着き、クラウスに確認する。
クラウスが俺に希望したのは、ヘンリックと同じく、模擬戦だった。
ヘンリック、リタは前衛だからわかるが、クラウスは意外だった。
「ええ。ここで」
「よし、じゃ、行くぞ」
シュタークスを構え、グッと前足に体重を乗せる。
「いや、ちょ……待って待って!」
「ん?」
慌てて、両手を前に突き出し、掌をフルフルと振るクラウス。
何だ、違うのか?
「隊長……僕は後衛ですよ? この距離で隊長と戦うなんて……出来る訳ないじゃ無いですか……」
「お、おお。そうか、ごめんごめん」
言いながら、距離を取る。
「僕達、魔術師が前衛と対決する場合、距離を詰められたら負けです。つまり、私は剣の届く距離に詰められないよう、攻撃、防御します」
「俺は本気で行っていいのかい?」
「当然です。お願いします」
50メートル位、離れただろうか。
「まずはそれ位から始めたいです。段々と縮めていく感じで」
「わかった。コイン投げるぞ」
コインを右手の親指で弾く。
――― チャリーン!
ドンッ!
猛ダッシュをかける。
「ラムネイル……」
クラウスが詠唱を始める。クラウスは旅立つ前、攻撃呪文を1つも持っていなかった。ヒムニヤと過ごしたこの短期間で、どれだけ習得したのか、俺も把握しておきたい。
「アリヴァ・ミリ……」
む、平行詠唱? クラウスが、そこまで……。
ヒーラーとしてはランディアでは、ズバ抜けて優秀だったが……すごいぞ!
距離は残り、30メートルほど。詠唱が早い。平行、且つ、高速詠唱か!
「『雹弾』!!」
グッ!
ドドドドドドドドドドドドドドドド!!
拳大の雹が、弾丸のように前方から射出される。だが、この距離なら避けるのに造作は無い。
ヒョイと前方、斜めに避け、猛ダッシュを続ける……が、その地盤が緩む。
「『氷槍』!!」
ミラー系魔法『氷の槍』とは異なる、ツィ系の氷系魔法!
ドシュドシュドシュドシュドシュ!!!
雹弾を避け、移動した場所の地面から、氷の槍が勢いよく飛び出してくる。俺の進行方向に沿って出て来るため、避け切るのは難しい。
やるな、クラウス!
「風竜剣技!!」
地面に逃げる場所が無い。そこで、竜巻を起こす。
「『翔』!!」
数メートル上昇し、クラウス目掛けて飛ぶ。そして、飛んでいる間の攻撃に備え、先手を打つ。
「青竜剣技!」
これに耐えられるか……? いや、クラウスなら大丈夫だ……!
「『飛』!!」
瞬時に生成された数十の斬撃が水属性の魔法斬撃となり、クラウスに降り注ぐ。
が、クラウスは落ち着いて、両手を体の前に差し出して、何かを呟いた。
「『絶対障壁』!!」
何だって!?
クラウスの前に虹色のバリアが発生、『飛』の斬撃は、そのバリアの前に全て弾かれる!
だが、残り距離15メートル、ここからは俺の方が有利!
まずは、バリアの強度を見させてもらおうか。
「火竜剣技『爆』!!」
バリアにレーザーをポイント、すぐさま爆発を起動!
ドォォォォォン!!
バリアがなくなる。焦るクラウス。
残るは5メートル、もう手が届く!
「『粘水輪』!!」
ガッ!!
ドッッシーーーン!!
ぅあ、いったぁぁぁぁぁ!!
勢いよく顔面から地面にぶつけてしまった。両足が動かないのだ。
見ると、足にスライムのようなゼリー状のものが巻き付いている。
そして、俺の頭に、クラウスのロッドが置かれる。
「やった……! 私の勝ちですね!!」
汗だくで、微笑むクラウス。
「あ、ああ。ビックリしたよ。凄かったぜ! ……取り敢えず、このスライム、何とかしてくれ」
クラウスがロッドを振ると、スライムが蒸発する。
「凄いな……この短期間でよくそこまで習得したな!」
「いえ、やっぱり、『超人』というだけあります。ヒムニヤ様が凄いんです」
「いや、違うぞクラウス。ヒムニヤが凄いのは間違いない。が、お前も凄い。ヒムニヤをパーティに迎え入れて、まだ1ヵ月半だぜ。それでこれだけ魔法を習得できたのは、お前が凄いんだよ。誇っていい」
体の土や埃を払いながら素直にクラウスに感想を述べる。
クラウスは顔を真っ赤にして、俯いて照れている。
「さっきのバリア、凄かったな。でも、あれツィ系魔法じゃないよな」
「はい! あれはヒムニヤ様のオリジナルスペルです。ヒムニヤ様クラスになると一切の詠唱無しで、神の攻撃すら防ぎます。……が、私のは先程程度のバリアでしかありません」
「なるほどな。ま、これから、ドンドン強度を増していけばいいさ。初めから超人クラスで出来る訳無いんだからな。何事も努力だ」
「はいッ!」
そうして俺達は勝った負けたを繰り返して、日が沈むまでやり合ったのだった。




