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第57話 二人の領主(3)


 先に俺達だけ、年代物の絵画、彫刻品が置かれた小さな部屋に案内される。恐らくはシータによって、食事の用意が既にされており、俺達はバルジャミンの王族が食する食事、というものにありついた。


 ひと口食べて歓喜の声が上がる。


「ぅおいしィィィーー!!」


 アデリナ、ひょっとして泣いてるのか?

 飯食って泣くとは……。


「やれやれ、ランディアでどんなもの食べてたんだ、と思われるぜ……?」


 どれ、まずはビーフシチューから頂こうか。


 パクッ。


 ……


「んっっっっ……まぁぁぁぁぁい!!」


 シチューは濃厚だが苦すぎず、口の中で抜群のとろみと滑らかさが広がる。

 肉は『舌』で嚙み切れるほど柔らかく、旨味と甘味があって、シチューと完璧に調和している。


「ビーフシチュー1口でこれかッ!!」


 アデリナがニヤニヤしている。


「ほれ、美味しかったでしょ?」



 そこに、ゴビン・バルジャミンと2人の戦士、マジュムルとエイゼルが入ってきた。


「いかがでしょう、バルジャミンの食事は。お口に合いますかな?」


 以前あった時に比べてかなり軽装のマジュムルが話し掛けてくる。


「ああ、とても美味しいです。いくらでも食えますよ!」

「それは良かった。一度、我らもランディアの食事を頂きたいものです。ワッハッハ」


 更に目を細くして、エイゼルが笑っている。


 さっき、俺が怒ってたからな。ゴビン1人だと俺と会い辛かったんだろう。この2人は、緩衝材のような役割か。


「前もって来ると連絡頂けたら、いつでも歓迎ですよ!」


 笑顔でそう返す。いつまでたってもゴビンが話しにくいだろうからな。


「そ、そうか。それはよかった……では、オーウェン、先程の件だが……改めて、非礼を詫びさせてくれ。すまなかった。どうか水に流して欲しい」


 そう言って頭を下げるゴビン。年の割に白髪が多い気がするな。肌艶からして、きっとまだ40そこそこだろ。


 領主や、元王家なんてのも、苦労が多いんだろうな。


「わかりました。先程の事は水に流します。お互い、無かった事にしましょう」


 そこで、パァーッと顔が明るくなるゴビン。


 人は悪くはないようだが……領主ってこんなに分かり易くて良いもんなのか。


 俺にはよくわからないが、政治とか人事とかで困らんのだろうか。


「では、仕切り直しで……。実はこれからするお願いについては、返答の否応に関わらず、お前の胸の中にしまっておいて欲しい」

「分かりました。他言はしません」

「ありがとう。では……」


 コンコン……


(ハァハァ……フゥフゥ……)



 ……絶対、あのメイドだな……シータだっけか。


「お待たせ致しました! 食後のお飲み物でございます。……ンッフゥ」


 おい、最後に息が漏れちゃってるぞ……。

 ゴビンに言われてドア前で整えてたんじゃなかったのか。


「おお。紅茶か。有り難い」


『マリ』が嬉しそうに手を合わせる。


 そういえば、彼女の家でも、ヒムニヤはよく紅茶を飲んでいたな。見た目が『マリ』でも、そこは変わんないか。


「ありがとうシータ。デザートは、次に呼ぶまではよい。下がっていなさい」

「はい! 承知致しました」


 バタンッ!


(ドアはもっと、静かに閉めてよ、みっともない)

(ひっ……先輩! ごめんなさい!)


 うーむ。

 丸聞こえ……。


 微笑ましい。


「はっはっは……申し訳ない。そそっかしい子で……悪い子ではないし、飲み込みも早いんだが」


 ゴビンが目を細めて言う。


「と、言いますと、お召しになられたのは最近ですか」

「実は、ずっと勤めてくれていた子が、親の調子が悪くなったから急ぎ帰りたいと言うので、少し暇をやったのだ。ちょうど、その時、入れ替わりにあの子が来たので、雇ってみたのだ。今でちょうど3ヶ月目位かな」


 そそっかしい、とは言いながらも、ゴビンはシータを気に入っているようだ。親のような表情でドアの方を見ている。


 ……だが、どこか引っかかる。


 所作の端々に、一般人とは思えない仕草が垣間見える。気の回しすぎか?


 姿勢良く立ち振る舞うべきメイドにしては、足の親指辺りに体重を預けているのが違和感として残る。



「話を戻しても?」


 いつの間にやら、ゴビンの目が俺を見ていた。ふと我に帰る。


「あ、ああ。すみません。少し、考え事をしていました。どうぞ」

「うむ。では……オーウェン……我が頼みというのは……」


 どうやら、相当言いにくそうだ。

 そこで沈黙する。


「ドラフジャクドを賑わしている(ドラゴン)に関する事でしょうか? お二人からは直接、ゴビン様から聞いてくれ、と伺っておりますが」


 話しやすいように少し助け舟を出してやる。

 竜退治の事か?と2人に聞いた時の反応では、違う、だった。


「オーウェンが何をしに、はるばるこの国まで来たのかは分からんが……今のような動きをしていれば、いずれ皇族の方々よりお声が掛かろう。恐らく、それを狙っているのだろうな?」

「まあ、そうですね」


 ここは肯定しておいてやろう。


「やはりそうか……それとは相反するかもしれないが……()()()()()()()()()()()()()、いや、むしろこのまま、ここにいて我々の手助けをして欲しい、というのが、私の頼みだ」

「やはり、そういった事でしたか。理由をお聞かせ頂けますか?」


 マジュムル達の反応から多少は予期していた。だが、理由がわからない。ドラフジャクドは、竜退治の国じゃないのか。


「オーウェン。普通の兵士が(ドラゴン)など、簡単に相手できるとお思いかね?」

「それは、できないでしょう。私も逃げられるものなら逃げたかったですし。……ただ、昔からそういう事をしている国だと聞いていたので」


 ウンウンと頷くゴビン。


「そうだ。この国はおかしいのだ、昔から。皇帝になった者は例外なく、竜討伐を行う。それまでどれだけ反対派であっても、だ」

「そもそも竜討伐など、この国にとって何のメリットもないですからな。放っておいて害をなす奴らではない。(ドラゴン)というのは」


 ゴビンの言葉にマジュムルが続く。


「それは、その通りだ」


『マリ』の皮を被ったヒムニヤが賛同する。彼女は、竜が元通り、安心して暮らせるようにしたいのだ。


「討伐が行われる度に兵士が死ぬ。死ぬとその兵士の家族、縁者、友人達の恨みが国に向く。もはや民衆は爆発寸前だ。竜討伐に恩恵を授かっているのは、食い扶持を求めに来た傭兵のみだ」


 なるほど。言いたい事はわかった。

 そして、俺は何故代々の皇帝がそんな事をしているかも知っている。


 が、どこに誰の目、耳があるかわからない。迂闊な事は言えないのだ。


 領主の身分の人間だ。出来れば味方に付けたい。……が、俺の中の何かがそれを止める。そんな感覚はテンさまにはお願いしていないから、これは完全に勘なのだろうが……。


 ゴビンの何かが引っかかり、吐露する事を避けている。


「残念ながら……」


 と、答え始めると、ガックリと肩を落とすゴビン。


「ご期待に添える事は出来ません」

「マッツ!」

「黙ってろ、クラウス!」


 何か口走ってしまいそうだったので、少しきつめに遮る。


 ヴォルドヴァルドからの偽の使者シャムや暗殺者ケルベロスなど、注意しなければならない事が多い。


「ゴビン・バルジャミン様。先程も申し上げましたが……今、我らの目的を明かす事は出来ません。が、我らの目的は竜退治ではない。そこははっきりと申し上げておきましょう……そして、あとふたつ、付け加えるとすれば」


 ゴビンが、ハッと顔を上げる。


「1つ、私が竜討伐に参加した時は、誰も死傷者を出さない事を約束しましょう。もう1つ、我らの旅の目的が達せられれば、必ずやドラフジャクドは良い国になり、暗黒大陸などと呼ばれる事もなくなるでしょう」

「そんな事が……?」


 納得いっていない顔だ。それはそうだろう。

 最も大事な事を言っていないからな。


「なら、むしろ、ゴビン様の名で推薦したら如何でしょう?」


 エイゼルが提案する。が、それではダメだ。ただのその他大勢になってしまう。

 皇族から見初められる位でなければならない。もちろん、ゴビン達がヴォルドヴァルドの居場所を的確に知っているのなら話は別だが。


「それはお断りします。余計な事はしないで頂きたい。それでは目的が達せられなくなる」


 エイゼルが首を傾げ、マジュムルと見合う。マジュムルもわからん、という顔をしている。


「わかった。マッツ・オーウェン、お前を信じよう」

「では、信じて頂いた所で……1つ私から質問が」


 少し、身を乗り出して、ゴビンの目を凝視する。


「む……何だ?」

「超人ヴォルドヴァルド、ご存知ですね?」


 む……と低く呻き、逆に少し体を後ろに倒すゴビン。


「久し振りに聞いたな、その名は。このドラフジャクドに住んでいるとか」

「私もそう聞いています。私は彼に用事がある。居場所を知りませんか?」


 仰天する目の前の3人。


 確かに、超人に用事のある人間など、そうはいないだろう。


「わしにはわからんが……アクシェイなら、何か分かるかも知れん。昔、どこぞで見た事がある、と言っておった」


 アクシェイ……。ドラフキープヴィの領主だ。


「本当ですか! それはすぐに伺いたい。居城にいけば、会えますか?」

「会えるだろう。紹介の手紙を書いておいてやるから、持って行くといい」


 こうして、ドラフジャクドの旅は一歩、前進したのだった。


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