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第5話 ツヴァリアの陰謀(1)


 リディア達が到着してから1カ月がたった。


 そのリディアだが、前の酒宴での記憶が無いらしい。かなり飲んでいたようだったからな。あの時の出来事は、全てリディアには伏せられている。


 リタ曰く、『素面の時に自分のとった言動を知ったら……きっと自殺するわ』とのことらしい。



 そしてこの1ヶ月間、俺は明確に日毎に増す()()を感じていた。


 小さい頃、俺はテンさまに会ったことがある。敵意を感じる事が出来るように、と頼んだんだが、


 ―――


『ダメだね。どんな理由があるにせよ、そんな特殊な能力をこの世の創生神たる僕が、この世の住人に授ける事は出来ないな。不公平だからね。神なんかに頼らず、精進する事だよ』


 ―――


 にべもなく、断られた。


 ……にしては、俺のこの肌感覚は、今まで外れた事がない。この感覚によって、幼い頃から何度も危ない所を切り抜けている。


 もはや、俺にとっては絶対の感覚、いや、能力だ。



 しかし、敵意の出元がわからないんだ。


 そもそもモンスターなのか? 人間なのか?


 きっと相当離れた所にいるんだろう。近くにいたらそれなりに相手が絞れるんだがな……。



 そんな事を日々考えていたんだが、どうにも手の施しようがなく、悶々としていた。そんなある日の朝、いつものようにモンスターの発見報告が入ったんだが、内容がいつもとは違っていた。


「そうか。ちょうどいい。皆いる事だし、そのまま報告してくれ」


 その時、俺達は今後の話を打ち合わせるのに、朝のミーティングをしており、主立ったメンバーが集まっていた。


「モンスター……3日振りか」


 そう言ったのは、この砦の副長でもあるハンス・シュタール。

 俺の幼馴染で、歳も同じ24。俺より少し背が高く180センチは超えているイケメンだ。小さい時から頭が良く、文武両道を地で行くやつだが、ここではもっぱら政務を任せている。俺が苦手だからなんだが。

 この砦は彼が支えてくれていると言っていい。


「なかなかいなくならないわね」


 ハンスや他の皆と同じく『シシ』からの同僚、リタ・ケルル。

 酔っぱリディアを作ったA級犯罪者だ。赤髪、浅黒、筋トレ好きのスレンダーマッチョ。基本的に気が効く優しい美人なんだが、よく男をひっかけては酒場で盛り上がっている。弓使いであり、双剣使いでもある。本人は言わないが、歳はもう30前後のはずだ。


 そして、ヴィンセンツとクリストフに、『シシ』組としてヘルマン隊長とリディアもいた。


「報告します。3カ所でモンスターの発生を同時に確認致しました」

「3カ所……同時にだって? 一体、どこだ?」

「ロールシャッハ村付近、ニール村付近、メンザス村付近の3カ所です!」


 1つ目のロールシャッハ村は、1カ月前にゴブリンロードを倒し、リディア達を助けた場所だ。


「どこもここから1日はかかる位置だな。村同士の距離もかなりある」


 ハンスが俺に向けて言う。


 こんな時の為に最低限の守備隊を各地に駐屯させている。また、迅速に救援が出せるよう、狼煙により敵が現れたことを素早く伝達し、更に煙の色によって、ある程度の規模を伝える仕組みも整っている。


「駐屯部隊だけで撃退は難しいと思われます」

「全く違う場所……俺達は隊を分けなくちゃならんな」


 兵士の報告に頷き、少し笑いながら皆に顔を向ける。


「何がおかしいんだ?」


 ヴィンセンツが口を挟む。


「だってさ……同時に人里に出てきたんだぜ? モンスターが徒党でも組んでいるというのか? おかしな事だらけだ」

「といって、ゆっくりはしてられないわ!」


 リディアの真剣な眼差しに頷いて応える。


「その通りだ。……ハンス!救援を派遣する。至急、編成を頼む」

「承知した」

「但し」


 浅めにお辞儀をし、席を立って出て行こうとするハンスを呼び止める。


「今回、俺とリディアは編成から外してくれ」




 ―


 ハンスの編成により、以下のように分けられた。


 ロールシャッハ村方面にはヘルマン。

 ニール村方面にはハンスとクリストフ。

 メンザス村方面リタとヴィンセンツ。


 援軍は急を要するため、20名ほどの小隊とされた。



「おい、マッツ。何をするつもりか知らんが……無茶はするなよ?」


 いつも先頭に立っている俺が編成から外れたのが、ハンスには気になるらしい。


「いつもお前に頼りになりっ放しだし、たまには休んでおくといい」

「ああ。そうするよハンス。ありがとう」

「……」


 明らかに俺の言葉を信じていない。何やら物言いたげな顔をしているが、1つため息をついただけで踵を返す。


「行こう、クリス」

「はい! ハンスさん。それでは隊長、行ってまいります!」


 2人の背中の何と頼もしいことか。


「頑張ってこいよ~~!」


 俺の声援に手をあげて応え、行ってしまった。リタやヴィンセンツ、他の救援組も同じようにして部屋から出て行く。


 出がけに残っている俺とリディアが目に入り、ヘルマンはまた悪い癖で何か言おうとしたが、1カ月前の恐怖が蘇ったのだろう。結局、何も言わずに出て行った。


 そうそう。それでいいんだ、ヘルマン。

 1つ、賢くなったな。



「出撃しないなんて…… 珍しいわね?」


 ヘルマンの不審な所作には気付かなかった様子のリディアが不思議そうに俺に声をかける。


「リディア、『追跡(トラサーラ)』って使えたよな?」

「え? う、うん。学校で習ったわ。と言っても生徒同士で掛け合いをした程度だけど……」


 俺はうんうんと頷きながら、リディアに今日の真の目的を告げる。


「ひょっとしたら、今日、使うことがあるかもしれない。不安だったら、復習しておいてほしい」

「どういうこと?」

「使わずに済めば俺の思い過ごし、だが、リディアの出番が来た時は…… 『敵』の正体を暴きに行く」




 ―


 それから8時間位たったであろうか。


 もう日も沈みかけている。

 今までの襲撃パターンからして、今日はもう出てこないだろうと思われた。


「俺の考え過ぎだったか……?」


 杞憂であれば良いが、どうにもムズムズする。敵意が消えないからだ。



「マッツ~~~!」


 暇だったらしく、リディアはあちこちを掃除していた。

 見ると、手にバケツを持っている。


「ねぇ、この砦に、こんな変なバケツ、あったかしら」

「バケツ?」


 何を呑気な、と思ったものの、確かに見たことのない、なんとも言えない奇妙なバケツを手にしている。


 少なくともこの国で作られているような量産型の、重い銅製バケツではない。極彩色のバケツだ。材料はちょっと見当もつかない。見る限り、とても軽そうだ。


「どこにあったの? 見たことないな」

「厨房の前」

「厨房?」


 コックか誰かが作ったのだろうか。

 センスのかけらもないが。


「わかんないな。コックや兵士達の誰かが使っているのかもしれない。元あった場所に戻しておいで」

「うーん。何か妙な『気配』があるのよねぇ。これ」


 言いながら、素直に厨房へと戻って行く。

 確かに妙な『気配』は俺も感じる。だが、悪意や敵意ではない。むしろもっと神聖なものだ。


 どう考えてもこんなモノがここにあるのはおかしいが、一旦、今は放っておこう。



 だが、これの出番は後日、すぐに来る事になる ―――



 ―


 キ―――――――――ン!!


 リディアと2階の会議室で夕食を済ませ、もう風呂にしようか、という話になった時、俺の敵意センサーが大きめの警報を鳴らす。


「待てリディア!」


 食器を持ち、部屋から出ようとしているリディアを呼び止める。


「どうしたの?」

「来た。敵が近くにいる」

「えっ!?」


 俺達は急いで部屋の窓から外を見る。

 辺りはもう暗い。松明も篝火も見えないが……


 いる。


 強烈なモンスターの気配だ。リディアも感じ取ったらしい。表情が引き締まる。


 見張りはどうしたんだ。


「明かりをつけろ!!!」


 大声で叫ぶ。


「火矢を射ろ!!!」


 予め、砦の前方50メートル付近に藁を重ねた大きな束をいくつも作っておいた。

 ここに火矢を当てると、巨大な火の壁が出来上がる。


 周囲が慌ただしくなり、あちこちで守備兵が戦いの準備をする音が聞こえる。

 前もって指示を出しておいたので、弓隊は準備済みだ。俺の命令に従って落ち着いて行動し、火矢を放つ。


 ヒュンヒュヒュンヒュヒュヒュン!!!


 何十もの火矢が放たれ、一斉に火柱が立ち上る。


 燃え盛る火の隙間から見えたのは……


 今まで見たことも無い、数百にのぼるモンスターの大群だった。




「来たっ!! リディア! この位置から援護してくれ。俺が合図したら『追跡(トラサーラ)』をかけろ!」

「わかったわ!」


 読み通りだ!

 どうやってかは知らないが、奴らは3ヶ所に救援に出向いた各隊が、すぐにここに戻ってこれない位置まで移動するのを待っていたのだ。


 つまりは誰か、モンスター共を統率している奴がいるって事だ。絶対に今日、そいつの正体を暴いてやる。


 俺は大急ぎで1階に降り、馬には乗らずに飛び出す。俺の戦い方は、この方が戦い易い。


「続け!!」

「オオーーーーーー!」


 俺と支度済みの50名の部下達が一斉に炎の向こうで戸惑っているモンスター達に飛びかかる。


 ゴブリンメイジがいる所を見ると、見張りは眠らされたのかもしれない。


 モンスターの中には大型のものも多くいるようだ。前に苦労して倒したゴブリンロードに加え、トロルやオーガまでいる。

 俺はノゥトラスで戦ったこともあるが、ランディアではまずお目にかかれない大型モンスター。


 敵が不意を突かれて混乱している間に、大ダメージを与えておかなければ、苦戦は必至だ。



 炎の間を走り抜け、最前列で戸惑っていたホブゴブリンの群れの手前に辿り着く。ここからは修羅剣技の出番だ。俺が道を切り開く!


火竜剣技フラムドラフシェアーツ!」


 走りを止めずに詠唱を始める。

 その全ての技が凄まじい威力を誇り、更に火属性の継続ダメージを与える火竜剣技。


 手にした魔剣シュタークスに魔法の炎が宿る。


「『(ファルサーテ)』ェェ!!」


 横真一文字に切り裂く炎の斬撃をホブゴブリンの群れに放つ。


 何体もの胴が真っ二つに分かれ、崩れ、燃え落ちる。その真後ろにいた2体のホブゴブリンが、でかい棍棒を振り上げ、襲ってくる。


「ノロいノロい」


 言い様、棍棒そのものを切り裂く。手に持った棍棒が一気に短くなり、狼狽えるホブゴブリン共。


風竜剣技ダウィンドラフシェアーツ!」


 中段に構えるシュタークスの両脇に小さな、しかし激しいつむじ風が巻き起こる。


「『鎌鼬(シィシェル)』!!」


 剣を横に薙ぎ払うと、つむじ風の中からいくつもの巨大な鎌鼬がホブゴブリンに向かい、切り裂いていく。


「グォアアアァァァァ」


 時間との勝負、ホブゴブリン達が息絶えるのを待たずに深く、奥に、前に進む!



 次に待ち構えていたのは、スケルトンの一群。

 単体ではさほど手強い相手ではないが、骨だけに弓はすり抜けて効かない上、盾を持ち、集団相手に剣で斬るのも効率が悪い。


「2、30匹はいるな。一気に行くぜ? 聖竜剣技サインドラフシェアーツ!!」


 今度はシュタークスの剣身に虹色のオーラが発現する。闇を滅する聖なるオーラだ。


「『(ビラウスタ)』!!!」


 聖竜剣技は、剣速を聖属性の魔法ダメージに転換し、攻撃する剣技。属性上、相手がアンデッドであれば、最大の威力を発揮する。


『照』により、スケルトン軍団は抵抗する術なく、次々と魂が浄化され、地面に骨と武器が転がっていく。



 奇襲が失敗したことで、かなり混乱しているようだ。スケルトンの後ろには、オーク、ゴブリンが数多くいたが、ここまで俺達が来るとは思ってもいなかったらしく、そこかしこで何か喚きながら右往左往している。


「それだけいて、何も出来ないのかい? じゃあ、全部まとめて行くぜ! 青竜剣技ブリュドラフシェアーツ!」


 水属性の青いオーラを纏う愛剣シュタークス。


「『(フリィ)』!!」


 青竜剣技は群れに対して殺傷力のある技が多い。拡散する攻撃が多く、中でも『(フリィ)』は俺が好んでよく使う。拡散、飛翔する斬撃は水属性の魔法ダメージを相手に与え、物理耐性がある敵に特効だ。



 既に、俺の前後にはモンスターの死体が累々と転がっている。俺が斬り込んだ場所へ味方の兵士達の追撃が始まり、ほぼ一方的な展開だ。


 ここまでは順調。



 そして……大型のモンスターが姿を現わす!


 だが、今日はリディアの攻撃・防御のバフもかかっている。負ける気がしない。この前のゴブリンロードのような失態は犯さない。


 まずはトロル。


 こいつらを屠るには並大抵の技ではダメだ。

 でかい腹は多少の攻撃では通らず、皮膚も分厚い。


 そしてオーガ。


 トロルとは逆に引き締まった逆三角形の鍛え上げられた筋肉で包まれた鬼族だ。

 これも並の攻撃では、かすり傷すらつかない。


 普段なら大型モンスターのこれほどの群れを始末するのは、なかなか難しい。だが今は先制攻撃の利はこちらにあり、こいつらはまだ硬直状態だ。


 やりようはある。


 右往左往する奴らを前に、一旦、動きを止める。そして剣の柄を頭上に、剣先を地面に向けた独特の構えから詠唱を始めた。


「ジーン・ラ・ジーニア・ゾゥルゥオ・マ・ヴォイス……」


 修羅剣技では、物理だけではなく魔力を多く使っている。剣力を魔法で変換し、威力増加や分散、コピー等をすることで大打撃を与える。


 剣技のスペルはリディアのような魔術師達が扱うものとは異なり、特定の剣の動き、条件以上の速さ、強さ、などの動作を伴った上で最終詠唱として剣技名を唱えることで発動する。


 剣での闘いなのだから、スペルを唱えている余裕などない状況が普通だ。

 だが、そんな中、長々と詠唱を必要とする異質な剣技が存在する。


「……ファティマ・ラクティア・ラ・ラ・メイデン」


 ヴォン、ヴォン、ヴォン、ヴォン、ヴォン、、、


 剣を中心に8つの掌サイズの光弾が俺の前に浮かび上がる。


 シュゥゥゥゥゥ……


 何かを感じとった眼前のトロル、オーガの群れは我れ先にと、後方へ逃げようとするが、巨体同士のためうまく行かず、ぶつかり合っている。



魔竜剣技ダヴィドラフシェアーツ!!」


 最終詠唱と同時に、一瞬で剣を回し、上段から振り抜く。



「『魔皇(アーケイン)』!!!!」


 ドオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!



 最終詠唱と共に8つの光弾は、凄まじいエネルギー波を前方に噴射、極大のエネルギーと化したビーム砲となり、巨大なモンスター達の身体をいとも簡単に貫き、爆破し、破壊した。



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