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第56話 二人の領主(2)


 その次の日、早速朝から移動を開始し、ピッタリ5日目にメシュランに着き、バルジャミンの旧王城に到着する。内容の割に地図が正確で、マジュムルとエイゼルのクソ真面目な顔を思い出し、また笑いがこみ上げてくる。


 彼らはこの建造物を『居館』と表現していたが、やはり『王城』と呼ぶ方がしっくり来るな。


 統一してドラフジャクド皇国となってからも、建て直しはしていないのだろう。高い城壁、絢爛な作り、沢山の塔、大きな城門があり、国力の大きさを物語る。


 周囲には『赤い道』を中心として街が栄えており、ランディア、ビルマークの王都に負けず劣らずの賑わいを見せている。


 思わず街に寄り道したくなるが、まずは領主への謁見が先だ。


 城門の衛兵に、ゴビンに呼ばれている旨を伝え、取り次いでもらう。


 しばらくすると、メイドらしき黒髪ショートボブ、まつ毛が長く、パッチリ二重の子供のような顔付きをした可愛らしい女性があたふたと掛けてくるのが見える。


「ハァハァ……マッツ・オーウェン……御一行様ですね? お待たせ致しました。メイドのシータと申します。フゥフゥ……ングェ……失礼。領主が待ちかねておりました。御案内致しますので、こちらへどうぞ……ンハァハァ」


 途中で嘔吐いていたが、大丈夫か? そんなに急がんでもいいだろうに。


 城門の横にある小さな連絡用の扉から中に入る。外から見るのと同じ、荘厳な造りの城が姿を見せる。


 ささ、こちらへ、とメイドに導かれるまま、城内に足を踏み入れる。


「おおお~……」


 内装は城というよりは宮殿に近いか。

 中は絨毯が敷き詰められており、廊下には絵画や彫刻品などが飾られている。


 3階まで天井が吹き抜けており、各階の脇に長い廊下がある。


 そして、正面奥に3階分の大きさ、つまりとてつもない大きさでバストアップの肖像画が飾られている。


 柔和な表情を浮かべた、しかし高貴そうなオジさんだ。その絵を指して聞いてみる。


「あれがゴビン・バルジャミン様なの?」

「いえ、あれはバルジャミンの建国者、初代国王のラフィーシャ様です。バルジャミンは3国の中では最も歴史が古く、ドラフジャクド皇国の建国よりも500年も前に、あのラフィーシャ様によって建国されたのです」


 ガイドさんばりに流暢に説明してくれる。


 その後も俺達を案内しながら、絵画や彫刻の説明をしてくれる。


 その度に俺達は、ほぉ~、へぇ~と感嘆しながら進む。


 そうこう言いながら、ようやくゴビンが待っている、という一室の前まで来る。扉の大きさと豪華さからして王の間か。


「ご主人様、マッツ・オーウェン様及び御同行の皆様をお連れ致しました」

「待っていた。丁重に御案内せよ」


 中から低めの、しかし凛と響く声が聞こえる。



 ギギ……ギィィィィ……



 おお。想像以上に広い。


 そして、バルジャミンの皆様、勢揃いか?

 どうやら待っていたってのは本当みたいだ。


 右と左にズラッと武官、文官、魔術師が居並ぶ。


 そして中央に白髪、小太りで豪華なガウンを着、玉座に座っている男性がいる。あれが領主ゴビン・バルジャミンで間違いないだろう。


剣聖(シェルド・ハイ)マッツ・オーウェン、待っていた。私が25代目バルジャミン領主、ゴビン・バルジャミンだ。入ってくれ」

「ランディア王国守備隊長、マッツ・オーウェンです。失礼致します」


 そして俺達は真ん中の赤絨毯の上を歩く。そもそもこういう、右、左にズラッと居並ぶのは、異国の使者や将軍などを威嚇する意味も含まれている。なので飲まれてはいけない。会話の中身にも影響してしまう。予め、仲間にもそう伝えてある。


 ~~~


(飲まれそうになったら、こっちから観察するんだ。面白い顔してるな~とか、トイレ我慢してそうだな、とかな)


 ~~~


 胸に手を置き、上半身を傾けて礼をする。


「マッツ・オーウェン、お呼びにより参上致しました」


 目を細めて鷹揚に頷くゴビン。


「旅の予定もあるだろうに、呼び出して悪かった」


 そして、少し俯いて溜息を1つ。


「マジュムル、エイゼルから話があったかと思うが……1つ、私の頼みを聞いてほしい。お前達の旅の目的と相反するかもしれず、悩んだのだが」


 そして、ふと顔を上げ、


「その前に1つ教えてくれ。お前達がこの国に来た本当の理由は何だ?」

「申し訳ありませんが、そこをご説明する事は現段階では出来ません」

「む……」


 ゴビンが左を向いて、何やら合図をする。と、そこにいた魔術師が一歩前に出る。


「この者達、少し怪しゅうございます。『読心』が効きません。共の者達も同様です」


 俺に『読心』が効かないのは生まれつきだからだが、リディア達にも効かないのは、ヒムニヤが術式でそうしてくれているからだ。これはまだ古竜の大森林にいる頃にお願いしておいた。


 だが、いきなり『読心』を仕掛けるなど、許せるものではない。


「ふむ……」

「ふむ、ではありませんよ、領主様」


 少し厳し目の口調ではっきりと言っておく。


「我々はランディアの兵士であり、国王の命によって世界中を旅して回っています。そういう意味では私的な旅ではなく、公的な扱いをして頂いて結構。……しかしながら我々はドラフジャクド皇国に害をなしに来た訳ではない。また、何かを頼みに来た訳でもない。放っておいて頂ければ、淡々と目的をこなして、また他国に旅立つ」


 何人かの小さな敵意が俺に向く。が、気にせず続ける。言うべき事はハッキリと言っておかなければならない。


「私に『読心』が効かないのは、さるお方から『精神干渉無効』の能力を授かったから。仲間に効かないのは、そのような術式を施しているからです。簡単に誰かに『読心』を許すような、そんな事で達せられるような生易しい旅ではありません」


 そこで一歩、前に進む。

 ざわっと、武官がざわめき、前に出ようとする。


「落ち着け! ……オーウェン、続けよ」


 ゴビンに一喝され、渋々、黙る武官達。

 そいつらを目で牽制し、話を続ける。


「では、お言葉に甘えて……貴国に悪意の無い旅人を呼び出し、いきなり『読心』を仕掛けた挙句、それが効かなかったから怪しい、とは一体、どういった了見か? お聞かせ頂きたい」


 部屋の中が一気に騒つく。

 武官の中から、一人、ごついのが出てくる。


「オーウェンとやら。それ以上の暴言はわしが許さん」

「ほう。暴言……? いきなり、『読心』を仕掛け、怪しい者呼ばわりしておいて……」


 ダンッ! と足を踏みならして威嚇してくる男。


「我が名はアメド。剣技はバルジャミン随一である。いざ、勝負せよ!!」

「俺と、やるだって?」


 少し、体をアメドと名乗る男の方に傾ける。


「ぐ……お前が口先だけでないか、わしが見極めてやる」


 そう言いながら、剣を抜いた。

 抜いた剣を見ながら、声をひとつ低くする。


「抜いちゃったか……口先だけで……(ドラゴン)は倒せないんだぜ?」


 ビクッ。


 今、こいつは明らかにビビった。

 まあ、構えを見ても大した事は無いのはわかる。


 俺は抜刀せず、気で牽制する。


 そして、チラッとゴビンを観察する。今の状況をどう思っているんだ?



 ……食い入るように見ている。



 成る程ね。他国を訪れた武芸者あるあるってやつだな。

 まあ、そんな感じはしたが。



 あまり、気分のいいものではないね。


「ダァァァァァ!!!」


 上段に振り被り、一気に振り下ろそうと、突進してくるアメド。


 アメドの目の前まで一瞬で踏み込み、左手でシュタークスの()を鼻先、数センチの距離に置いて、ピタッと止める。


「うおおお! 貴様!!」


 一歩下がり、今度は突き出している俺の左手をぶった斬ろうと、中段右から真横に払ってくる。


 左手をクルッと回し、シュタークスの()で受ける。


 ガッチィィィン!!


 そしてそのまま滑らすように、もう一度、柄を鼻先まで突き出し、止めてやる。


「これでわかったろう?」

「ウッ……クク……」

「そこまでぇ!!」


 ゴビンの声が響く。


「マッツ・オーウェン、すまなかった。気付いていたとは思うが、お前が本当に、あの剣聖(シェルド・ハイ)なのかどうか、確かめさせてもらった」


 そこで立ち上がり、深く頭を下げるゴビン。一礼をして、最初の立ち位置に戻るアメド。


「マジュムルとエイゼルの話から、ほぼ間違いなく本物だろう、と言うのはわかっていたのだが、実際に力を見せたのが、連れの『マリ』という女性だけだったからな。どうしてもお前の力を見たかった」

「……で、納得されましたか?」

「うむ。流石は剣聖(シェルド・ハイ)。鮮やかな身のこなしであった」

「今度から……竜殺し(ドラゴンスレイヤー)を名乗る相手の真偽を確かめる時は、飛竜(ワイバーン)位は用意しておいた方がよろしいかと」

「……うむ。そうしよう」


 そこで、シータがまたハァハァ言いながら入ってくる。


「ご主人様、……ハァハァ……別室の……ご用意が出来ました!……ンオェ……」


 また嘔吐いている。

 シータはきっとこういう子なんだろうな。


「全く……いつも言っておるだろう。呼吸位、整えてから入って来い、シータ。……オーウェン殿。今しがたの非礼に対する詫びの意味も込めて、別室に食事とデザートなどを用意してある。そこに場所を移して、話を続けさせてもらえんだろうか?」

「「デザート!?」」


 リディアとアデリナのお年頃女子が、甘い単語に食い付いてしまう。

 せっかく今まで、ビシッとキマっていたのにな。


 ま、俺達にはこれ位の方がお似合いか。


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