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第54話 竜殺し マッツ(3)


『本物……か……?』

『何度もそう言っただろう?』

『でも有り得ねえだろ、一人で竜倒すとか……』

『いや、あの姉ちゃんのデコピン見ただろ、普通じゃねえよ、あいつら』

『俺達は単に旅をしているだけだ。このままバルジャミンからドラフキープヴィ、パヴィトゥーレまで移動するが、くれぐれも()退()()()()()()()()()()()()?』

『マスター、これ、飲み代と修理代ね』



 ざわざわ……ざわざわ……



 ―――


 あの後の酒場での顛末だ。あちこちでボソボソ言っている声が聞こえたが、ひとまず成功、と考えていいだろう。



 その後、今日の出来事について話し合い、笑い合いながら宿泊している宿に帰ってきた。


 宿屋は今まで泊まった中では最も大きく、綺麗で、爺さん婆さんが趣味で経営しているようなものではなく、ちゃんと従業員を雇ってあり、フロントがあり、清掃員がいるような高級な宿泊施設だった。


 既に酒場に行く前に部屋は押さえてある。


「マッツ・オーウェンだ。鍵を」

「少々、お待ち下さい」


 背の低いフロントの従業員さんが部屋の鍵を取りに行き、急ぎ、戻ってくる。


「こちら、鍵になります。……あと、こちら、マッツ・オーウェン様宛で預かっておりますので、一緒にお渡ししておきますね」

「うん?」


 手紙だ。便箋に入っている。


 何だろう? その場で開けてみる。



  奥の個室で待つ

  ――― ヴォルドヴァルド様の使い ―――

 」



 ……



「ええええ~~~!?」


 驚く俺の顔を、心配そうにリディアが覗き込んでくる。


「どうしたの? 何だったの?」


 リディアに渡す。そして、順次、『えええ!?』と回覧を繰り返し、最後にヒムニヤに渡る。が、彼女は少し眉をひそめただけだった。


「どうするの?」


 リディアが不安げな表情を浮かべる。


「え? いや、そりゃ、もちろん行くよ」

「全員で行くの?」


 うーむ。それも如何なものか。


「とりあえず、俺とヒム……マリだけで行く。みんな、部屋で休んでていいよ」


 リディアの問いにそう答え、さっきの従業員さんに、奥の個室とやらに案内してもらう。


 相手はヴォルドヴァルドの使い、と名乗っている以上、ヒムニヤは必須だ。用件は俺が聞いていれば事足りる。なのでこの2人だ。


 1階ロビーの奥に扉があり、そこに案内してもらう。


「中に何人かいるの?」


 一応、確認しておく。


「いえ、お一人様でした。若い男性で、旅人風の格好をしておりました」

「そうなんだ。ありがとう」

「いえ、では、失礼します」



 コンコン


 ノック後、扉を開けて部屋に入る。


 奥にテーブルと椅子が6脚有り、なるほど、長袖のシャツに、皮のジャケット……旅人風の男が1人、座っている。


 俺達が入ってきたのを確認し、立ち上がって浅めの礼をする。


「おかけください。内容は簡単ですし、話はすぐに終わります」

「あ、ああ、そう」


 言われた通り、彼の対面に座る。


「で、用件は何だい?」

「私、ヴォルドヴァルド様の使いでシャムと申します。失礼ですが……?」

「ああ、すまない。俺がマッツ・オーウェンだ」

「こちらの方は?」


 チラッと『マリ』を見て俺に聞く。


「仲間だ。問題ない」

「承知致しました」


 嫌に丁寧な奴だな。


「手紙にも書きましたが、ヴォルドヴァルド様から伝言と返答を持って帰って来るように、と仰せつかっております」

「わかった」

「では伝言を。『ヒムニヤへ。1対1で勝負をつけよう。パヴィトゥーレに来い。そこでまた使いの者を出す』以上です」

「……」


 まさかのヒムニヤ宛だった。


 しかも、これは……決闘状じゃないか。



「わかった。すぐに行く、首を洗って待っていろ、と伝えるが良い」


 ヒムニヤが即答する。


「お、おい……」


 あまりにも返事が早いので、少し心配になる。

 だが、ヒムニヤは澄ました顔をしている。


「大丈夫だ。心配するな」

「……貴女様は?」

「私がヒムニヤだ」

「!!」


 驚いて、ヒムニヤをジロジロ見出す。だが、使いとしては彼女が本物かどうかはあまり重要ではないのだろう。


「……左様でございますか。オーウェン様も同じ返答、との認識でよろしいですか?」

「ああ」


 何か、考えがあるのだろう。もしくはヴォルドヴァルドなど恐れる必要も無い、という事だろうか?

 だとすれば、頼もしい。


「承知致しました。では、その様にお伝えして参ります」


 そう言って、早速席を立ち、扉から出て行くシャムとやら。


 少し、そのまま時が経つのを待つ……。


 人気が近くに無い事を確認し、少し小さな声で話す。


「あの返事で良かったのかい?」

「ん? ああ。どっちでも良かったが、あの方が話が早かろうと思ってな」

「どっちでもいい?」


 フフ……と軽くヒムニヤが笑う。


「さっきの奴自身は嘘はついていなかった。奴に伝言を依頼したのはアルという男。この男がクサい」

「ほう?」


 イマイチ、よくわからん。

『読心』したのはわかるが、アルという奴のどこがクサいのか?


 その気配を感じたのか、話を続けてくれる。


「要するに、さっきの話はヴォルドヴァルドからの伝言ではないという事だ。そもそも奴は私がここにいる事等、把握しとらん」

「はあ……そうなの?」

「そうだ。性格的なものでな。そういった事に気が回る男ではない。そしてあの伝言の内容、それ自体がおかしい。奴が私に決闘など申し込む筈がない。要するに伝言の内容はデタラメ、という事だ」

「ほほう? つまり……」

「誰かが私とお前達を引き離したい、と思っている、もしくは、一刻も早くバルジャミンから去ってほしいと思っている、或いは…………」


 そこで、厳しい目で俺を見つめ、


「警告」


 ポツリと言い放つ。



「……警告!」


 仰天する俺に、しかし、そこでフンと鼻で笑う。


「お前達を見ているぞ、という意味のな」


 切れ長の目をギラつかせ、口元を歪める。これだけ美しいと、悪そうな笑みもサマになるな。


「ククク……仮にも《神妖精》とまで言われた超人を相手にいい度胸ではないか。旅の楽しみが増えたというものだ。ま、いずれにせよ、真剣に考える様な問いではなかったという事だ」

「なるほどねぇ……」


 妙に感心してしまった。ヒムニヤを連れてきて大正解だった。


 俺達はそこで話を置き、それぞれの部屋に戻り、仲間に顛末を説明したのだった。




 ―――


 同日、ほぼ同時刻


 バルジャミン領 メシュラン地区 領主居城


 メシュランは、元々、バルジャミン王国の首都であった地域の名前だ。ここに、かつての王城が領主の『居城』、と名を変えて存在する。


 最上階にある、小さな個室。


 部屋の随所にある歴史を感じさせる装飾品が、かつてはここが王城であった名残を見せる。


 灯りもつけず、窓から差し込む月の光だけがある。ここで2人の男がソファに座り、沈鬱な面持ちで話し合っていた。



「来月、また『討伐』が行われる事は知っているな?」


 少し小太りだが、品のある口髭と白髪の男が言う。


「……勿論だ。領民もまた、悲しむ事になろう」


 答えた方はガッチリ型の体型で、頭髪を整髪料でしっかり整えている。


 2人ともかなりの身分であろうと容易に想像できる高級なガウンを羽織っている。


「やれやれ……何故、代々の皇帝はこのような何の得にもならん事をされるのやら」

「うむ……『討伐』が行われると必ず兵士が犠牲になる。その度に領民に怨嗟の声が広がっていく」


 そこで、2人共、一旦、押し黙り、俯いて下唇を噛む。


 しばらくして……。


「やるぞ?」

「ああ。この悪しき風習は我等の代で終わらせよう」

「よし、決めたからには、必ずやり遂げよう」

「我等が力を合わせればできる。民衆も我らの味方だ」


 そこで、固く握手をする2人。


「……決行は、来月の『討伐』の後だ」

「そうだな。それが良いだろう」


 ドラフジャクド皇国の行く末を憂う2人、バルジャミン領主ゴビンとドラフキープヴィ領主アクシェイが結託した瞬間だった。


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