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第53話 竜殺し マッツ(2)


 その翌日、俺達は無事にドラフジャクド皇国に入国した。


 ビルマーク城を出てから、1ヵ月半たち、ようやく目指す暗黒大陸に脚を踏み入れた事になる。


 特に何かに大きく旅をストップされる事もなく(途中で10日間ほど気を失っていたが)、まあ、いいペース、と言って良いだろう。


 まずは、旧バルジャミン王国、今はバルジャミン領、と呼ぶらしいが、ここを縦断しなければならない。

 皇族達が住まうドラフジャクドの主城までは、バルジャミンからドラフキープヴィ、パヴィトゥーレと旅をして行かなくてはならない。


 ドラフジャクド皇国の広さは、古竜の大森林の比ではない位に広大な領土らしい。

 が、道が整備されているため、険しい森を歩くのとはスピードが段違いだ。2ヶ月位で踏破できれば、位のざっくりスケジュールを立てる。



 そこで、実は1つ気になっていたのが、ビルマークを出る時に『暗黒大陸まで同行せよ』とエルナに指示していたシモンの言葉だ。


 恐らくは、神の種(レイズアレイク)を見つけ出すまでは同行してくれるはず、とは思ってはいたものの、一応本人に確認しておいた。


『もちろん、神の種(レイズアレイク)をヴォルドヴァルドからいただくまで、ご同行させていただきます。この旅で私もいろんな経験をさせてもらっています。もう少し、お供させて下さい』


 ……とすごく嬉しい事を言ってくれる。リディアも大喜びだ。



 入国には審査が少しあったが、簡単な身元チェックと入国の動機を聞かれただけで、ほぼ素通りのようなものだった。



 ―――


 そして入国して3日目。


「暗黒大陸という名前からして、荒野みたいなイメージでいたんだが……ランディアやビルマークとさして変わらないな」

「そうですね。建物の外観がかなり違いますが、治安も悪くありませんし、あともう少し進めばちゃんと街や城もあります。むしろ我々の国より都会、でしょうね」


 エルナは暗黒大陸にも詳しい。本人はそれ程詳しくはない、と否定するが、何にも知らない俺達は非常に助かっている。


 ドラフジャクドに入国してから一番の驚きは、非常に()()()()だ、という事だ。


 硬く固められた赤い土で舗装された道は、とても歩き易く、そして疲れにくい。ほとんどゴミも落ちておらず、管理が行き届いている事がわかる。


 エルナが少しウンチクを語ってくれる。


「この赤い道は、初代皇帝ガネッシュがドラフジャクドを建国した後、3つの国を統一した証として作り上げたそうです。それと同時に、道路を汚す者や通行者・旅人等への犯罪は特に厳罰に処する旨の法律も制定し、それが未だに遵守されています」

「へぇ……それ、いい法律ですね……ランディアも見習うべきよね、マッツ!」


 エルナの説明に大きく相槌を打つリディア。


「うん、これは人の役に立つよな。商業も発達しそうだし」

「見ろ、酒場だ」


 目ざとくヘンリックが数ある建物の中から酒場を見つける。



 俺達は入国初日と2日目、共に夕方になると、付近の酒場に入り浸り、ずっと『竜殺し(ドラゴンスレイヤー)マッツの大冒険』の話をしていた。


 実はドラフジャクドに入ってからの道中、

  『竜討伐隊員募集! 来たれ! 若人よ!』

 という看板が彼方此方に立てられていたため、これはすぐに反応があるのでは? と少し期待していたのだ。


 ……が、今の所、反応は薄い。歓声や批判がある訳でもなく、ただただ、スルーされる感じだ。


「最初に比べるとかなり都会になってきました。そろそろ何か反応があるといいですね」


 エルナの発言に、何か急に途轍もなく恥ずかしくなってくる。


 ひょっとして今の俺って、自慢話をひたすらデカイ声でしているおバカさんに見えているのでは……。



 不意に、バシッと肩のあたりを平手で叩かれる。


「そんなに肩を落としてたら、ただのホラ吹きにしか見えないわよ! 決めたんでしょ! この方法でやるって」


 あっさりリディアに心を読まれた。


 まさか『読心』を!? ……あ、俺には効かないんだったか……。


 バシッ!


 反対側の肩も叩かれる。


「だーいじょうぶだって! 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)なのは本当なんだから!」


 ついに、アデリナも『読心』が使えるようになったか……。あ、俺には効かないか……。


「ふん、誰だってわかるぜ」


 ぬおお!


 鼻で笑って、先に酒場に入ろうとするヘンリック。許せん!


 グイッとヘンリックの肩を掴む。

 何だ?と振り返るヘンリックの顔の前で、親指を立てた握り拳を振り、下がれ、俺が先だ、と無言で合図する。


 低く笑って道を開けるヘンリック。



 そして、ここから俺は竜殺し(ドラゴンスレイヤー)マッツ様となるのだ!


 そこは今までで一番、人の多い酒場だった。



 ―


「いや~~~あの火竜も大した事なかったぜ! 最強の火竜があんなんだったら、俺だったら簡単に追放できちまうなぁ~~~」


 チラッチラッ


「ほ、ほんとよね~~~竜殺し(ドラゴンスレイヤー)マッツなら、火竜だろうが、青竜だろうが、やっつけちゃうわよね~~~」


 チラッチラッチラッ


 クック……


 む、誰か、笑ったな!


「この辺りに腹に大穴が空いた火竜は飛んで来なかったか? あれをやったのはコイツだぜ?」


 ヘンリックが酒場の客、全員に向かって言う。


 店内は比較的照明が多く、明るい。活気があり、客も百人位はいるだろか? そこそこ広い酒場だ。


 誰かがヤジを飛ばす。


「適当な事言ってんじゃねぇぞ!」

「んな事言う奴ぁ、もう2、30人は見たぞ!」

「まだガキじゃねぇか、放っといてやれよ」


 いい感じだ。ここなら噂になるかも、と思った時、不意に後ろのテーブルで飲んでいたガラの悪い連中がヒムニヤ、今は『マリ』だが……に絡み出した。


「姉ちゃん、可愛いなあ~~~。こんな口だけのガキ共放っといて、俺達んとこに来ねえか?」

「どれどれ……おお……本当だ。無茶苦茶可愛いじゃねえか! こっち来いよ、姉ちゃん!」

「よく見ると、可愛い姉ちゃんばっか連れてやがるなあ……ったく、口だけで、よくもまあ、これだけの上玉ばかり侍らせたもんだぜ」



 俺も、マリ、見たい……。



 ……いやいや、そうじゃない。


 3軒目の酒場で、ようやくまともな反応があった。



 そして……別の誰かの視線を感じる。


 俺達を()()()()()()()()、じっくり観察している奴がこの酒場にいる。


 敵か味方かはわからないが、少なくとも現時点で敵意は向いていない。


 そいつを引っ掛ける為にちょいと暴れてやるか?



 いや、でもガラが悪いといっても飲んで気がデカくなっているだけだろうし、弱い者イジメになっちまうからなあ……。


 言葉は悪いが、こいつらはうちの女子達を単に褒めているだけだからな。



 そんな事を考えていた時、最もヒムニヤに近かった巨漢が、彼女の髪に……触った!


「うっほ! 綺麗だし、いい匂いするなあ……」



 バシィィィッ!!


 ミリ秒で体が動き、反射的にパンチを飛ばしてしまう。


 ……が、俺の必殺パンチはこの大馬鹿者に届かず、敢えなく防がれてしまった。



 ヒムニヤによって。



「!?」

「ふ……竜殺し(ドラゴンスレイヤー)がこんな小物相手に暴れるものではない」


 そう言いながら、後ろを振り向き、皆が可愛い可愛いと褒め称える顔を巨体の男に近付ける。


「おい人間。そっちのパーティに行ってやってもよいぞ……但し」


 言いながら、彼女の小さな拳をそいつの額の位置に持って行き、中指を親指で歯止める。


「これを気絶せずに……耐えられたらな」

「……!? ハッ……何だ、デコピンか? 俺を気絶させるだって? そんなほっそい指で? ……こりゃ愉快だ。ワーハッハッハ!!!」


 大笑いする巨漢の目の前で、ヒムニヤの顔に極上の冷たい笑みが浮かぶ。



 バッッッッチン!!!!!



「ギャッッ」



 ヒュ~~~~~~……



 ドォォォン……



 小さな悲鳴、飛ぶ巨体、数秒間の静寂、そして……酒場の端から端まで吹っ飛ばされ、壁にめり込む哀れな男。



 よかったな、顔が吹っ飛ばされなくて。


 本気を出せば、吸血鬼(ヴァンパイア)の頭部を一瞬で粉々にするデコピンだぜ。まあ、あの時ですら、本気だったのかどうかわからないが。


 そのまま白目を剥いて気絶する大男。その周りをガヤガヤと野次馬が集まり、ヒムニヤと交互に見やる。


 最初に絡んできた連中は声も出ないようだ。

 その横を悠然と通り抜け、吹き飛んだ大男の側まで行き、気を失っているその顔を覗き込むヒムニヤ。


 そして、残念そうな顔でポツリと、強烈な捨て台詞を放つ。


「何だ、口だけか……。よく今まで生きてこられたな」



 あんなの、誰だって気ぃ失うわ。


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