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第52話 竜殺し マッツ(1)

第3章、スタートです。

2章の最終話から5日後です。



 ドラフジャクド皇国―――


 暗黒大陸のほぼ全域を統治する。


 ノーズ大陸は、北からパヴィトゥーレ、ドラフキープヴィ、バルジャミンの3つの王国によって統治されていたが、カナン歴1149年、初代皇帝ガネッシュが3国を制圧、竜の住まう国、という意味を込めてドラフジャクド皇国と名付ける。


 皇帝ヴィハーン・クマール 。

 68歳。元々は旧パヴィトゥーレ王国領の武官であった。30年前、先代皇帝プラカーシュ・カーンからその軍事力と政治力を認められ、第9代皇帝となる。


 皇太子 ラーヒズヤ。

 45歳。ヴィハーンの正妻シヴァンシカの息子。普段は温厚な武人。父親譲りの体躯、身長2メートル以上、筋骨隆々のマッチョマン。


 第二皇子 ドゥルーブ。

 37歳。第二夫人ニシャとの息子。ラーヒズヤを超える体格の持ち主。噂では大人の熊を絞め殺した、とも。


 第三皇子 イシャン。

 28歳。第三夫人ラチャナとの息子。美人で細く、小さな母親に似て線の細い体型。噂では皇国随一のイケメン、と言われる。


 皇女 アイラ。

 23歳。第四夫人ノーラとの娘。ノーラはペレ諸島出身との事。アイラも金髪と青い瞳、美しい顔立ちを受け継ぎ、それはそれは可愛らしい、との噂。嫁に欲しいと申し出る人間は沢山いるが、悉く断っている。



 基本的な皇族の情報について、ヒムニヤから説明を受ける。


「ヴォルドヴァルドがノーズ大陸に居着き出したのが1185年頃、皇族を操り(ドラゴン)を狩り出したのが大体、1220、21年頃。暗黒大陸と呼ばれ出したのもこの頃からだな」



 あれから5日たち、無事、古竜の大森林を抜けた俺達は、ドラフジャクド皇国に入国する前に最後の宿を取って、これからの旅のために借りた一室で予習をしていた。


 講師は彼の国に最も詳しいヒムニヤ様だ。何しろ全ての歴史の時間を直接過ごしてきた高位森妖精(ハイエルフ)だ。書物の知識しか無い俺達とは言葉の重みと正確さが違う。


 今は1493年だから……もう300年近く、竜を狩っているってことか。この国の兵士達も大変だな。あんなの何十、何百と相手にしないといけないなんて。


「さて、今、ヴォルドヴァルドが操っているヤツだが、皇帝ヴィハーンと皇太子ラーヒズヤ。恐らく、この2人だけだ」

「……意外に少ないのね」


 テーブルに頬杖をついてリタが合いの手を入れる。


「奴が不器用、というのもあるが……そもそも洗脳というのは、実は我等からしても中々に難しくてな。多大な精神力と魔力を使う。ヒトというのは複雑なもので、上手く周囲にバレないように洗脳していこうと思うと、そう簡単に何人も同時に操れないものなのだ……もちろん後先考えずに人形のようにしてよい、というなら何百人でも何千人でもできるのだがな」


 昔、エッカルトがランディアのクーデターでやった洗脳は、確かに後先考えてなかったな~と、今更に懐かしい出来事を思い出す。


「ドラフジャクドでは、その2人を操っておれば事足りる、という事でもある。ドゥルーブはヴィハーンとラーヒズヤを盲目的に崇拝しているし、イシャンとアイラには何の力も無い」


 そこで宿屋で提供されるコーヒーを一口すするヒムニヤ。


「更に言うと、ヴォルドヴァルドが操作しているのは竜の討伐に関してのみ。それ以外の政治、軍事に対しては一切の不介入を決め込んでいる。ま、結局は奴が不器用なんだろうな。ハッハッハ」


 何がおかしいのか、1人でお笑いになる超人ヒムニヤ様。




 彼女に、死古竜エンシェントボーンドラゴンの事の顛末を聞いたのはあの翌日だった。皆、神対神の非現実的な戦いに興味津々で、話に聞き入ったものだ。


 そもそもあの場所で死古竜が出てきたのは、竜の意識が僅かながらも残っており、自分を倒してくれる相手を探していた為、と思われるらしい。


 リッチや吸血鬼王(ヴァンパイアロード )は、死古竜の強烈な瘴気にあてられて出てきたのではないか、とヒムニヤは言っていた。


 しかし、『神』というものがそれだけフレンドリーであるなら、ツィ様を呼んで、ヴォルドヴァルドの件をさっさと終わらせて欲しいものだ。


 そんな事を言ってみたのだが、そのような事に一々首を突っ込ませていたら、この世界に興味を無くし、消されて作り直されるぞ、と脅かされ、ガクブルしてしまう。


 まあ、彼らからしたら趣味で作ったこの世界の細々した話に一々、付き合ってられん、という事か。


 ……にも関わらず、ツィ様は何故か俺の事は見ていてくれたと聞いて、少し嬉しくなった。




 話を戻そう。


「そのヴォルドヴァルドさんに、どうやって接触するかなぁ。そもそも、どこにいるか、わかんねぇんだよなあ」


 そこで1つ、アイデアが浮かぶ。


「『遠視』とかで見れないものなの?」

「『遠視』は超人相手には効かん。『像』が見えんのだ。そもそも自分がイメージできる場所に対して行うので、どこにいるかわからん奴を見つける事は事実上、できん」


 ふーん。便利な魔法にも、色々制約があるもんなんだな。


「あ。でも、俺、前にある魔術師と戦ったんだが、戦う前にリディアと森を歩いている間、ずっと監視されてたぜ? あの時、あの魔術師は俺がどこにいるかなんてわからなかったはずだ」

「その魔術師とやら、お前を見知っていたのではないか?」

「……知ってたら出来るって訳? ヤだな、それ」

「人に対して『遠視』をかける場合は、直接、見知っていなくとも高名なものに対しては、比較的やりやすい。生命エネルギーが輝いているからな。国の王や豪商、英雄などだな。剣聖(シェルド・ハイ)であり、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)のお前もそうだ」


 ヒィィ!


 名が売れるってのも良し悪しだな……。


「ついでだからこの際、言っておこうか。これらの制限は、『遠視』だけでなく『精神干渉』もほぼ同じだ。つまり、遠隔からあのヘルドゥーソに干渉され得るのはこのパーティではマッツ1人という事だ。そしてそのマッツは『精神干渉無効』の能力、そして『神視』の特性を持っている……従って、この点で怯える事は無い」


 おお。そうか、よかった。


 いきなり誰かが干渉食らって、あの瞼のないジジイに傀儡にされたり……なんて事は無いって事だ。


 心配事が1つ減ったよ!


「話を戻すが、ヴォルドヴァルドの居そうな場所、何となく想像はつくが……私にもはっきりとはわからんな。まあ、聞き込むしかあるまい」


 はぁ……ヒムニヤが頼りだったのになぁ。


「操られているのが皇族だけなんだから、皇族ならわかるんじゃないかしら?」

「おお。そうですね! その線はアリな気がします」


 リタの案にクラウスが乗る。今は情報が少ないからな。可能性がある線はあたっていくべきだろう。


「よし。その線で行こう」

「どうやって皇族に近付くの?」


 リディアが俺を覗き込んで聞いてくる。


 う~~~ん。


 ランディア王国守備隊です!と名乗ってもいいが……。

 それだと、謁見してそれで終わり、な気がするな。せいぜい頑張りたまえ、とか言われて。


「何か、いいアイデアがないもんかね……」


 皆、黙り込む。ヒムニヤは涼しい顔でコーヒーを飲んでいる。この辺りは君達自身で頑張りなさい、ってとこだろうか。

 ヘンリックもこういった話にはあまり乗ってこない。俺の担当じゃないと言わんばかりだ。


 まあ、ヒムニヤには散々、色んな所で助けられてるからな。文句は言うまい。


 だが、ヘンリック、お前は当事者だろ! 考えろよ!



「閃いた!!」


 不意にアデリナが挙手する。


「よし、アデリナ君、発表したまえ」

「えっとねー。結局、ドラフジャクドって国は皇帝と皇太子が洗脳されてて、(ドラゴン)を退治しなきゃって思わされてるんだよね」

「うむ、その通りだ。続けたまえ」

「そんな国からしたらさ、マッツは喉から手が出るほど欲しい人材なんじゃないかな!?」


 ………………!!


 アデリナ、賢い!


「なるほど! 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)マッツです!って触れ込むわけですね!」


 エルナが目を輝かせる。アデリナの誕生日の悪巧みもそうだが、どうやらこういった作戦会議のようなものが好きらしい。


「向こうから声かけさせた方が、後々、話しやすいだろう。酒場で連日、自慢したらどうだ?」


 ヘンリックめ。大して考えもせず、いい所だけとりやがって!


 しかも、ガキの癖に酒場だと!?



 名案だ。いただきだ。


「それ、採用」


 結局、俺が言ったのはこれだけだった。



「ドラフジャクドの居城は、最も北にある旧パヴィトゥーレ王国領にある。バルジャミン、ドラフキープヴィ、と道なりに渡り歩き、噂をばら撒いて行けば良いだろう」


 ヒムニヤ様も賛成のようだ。そこでようやく抱えていた疑問をぶつけてみる。


「1つ、聞いてもいいかな」

「何だ?」

「ヒムニヤは……俺達以外からは、どう見えているんだ?」

「ヤコブの姿をしているよ」

「なるほど。ヒムニヤって呼ばない方がいいよね?」


 少し小首を傾げて考えるヒムニヤ。


 その姿も大変、お美しい。この容姿が見えないなんて、なんとも可哀想な……勿体無い話だ。いや、俺達には見えてるからいいんだが。


「そうだな。ヒムニヤはまずいだろうな。ヴォルドヴァルドが勘付くだろうしな。そういう意味ではヤコブでもまずい。うむ。そうだな、ではアデリナ、リディア位の歳の娘の姿に『変幻』しておこうか」

「え? 見せて見せて!!」


 アデリナがねだる。


 敢えて、何も言わないが、実は俺も見たい。


「そんなもの見ても、仕方なかろうに……」


 困った顔をしながら、一瞬で入れ替わった。

 ……らしい。


 俺には見えないからわからん!


「うわ~~~超可愛い~~~!!」

「うん、すごく可愛い! いいなぁ。そんなポンポン、姿変えられるなんて……」


 アデリナとリディアがはしゃぐ。


 ぐぐ……。


『神視』め……。


 ちょっと位見せてくれてもいいのに……。


「あれ、マッツ、ひょっとして見えないの~?『神視』も良し悪しだねぇ」


 流し目のアデリナが意地悪を言う。


「ぐぬぬ……」

「名前はお前達が適当に考えろ」


 興味無さげにヒムニヤが言い放つ。この人にはあまり外見などは意味を持たないのかもしれないな。


「今の顔立ち、髪の色は明らかにランディア、ビルマーク系よね! ……『アストリット』とかどうかしら!?」

「長いな。もう少し短い名前にしてくれ」


 リディアの提案を無碍に断るヒムニヤ。


「じゃあさ、『エルザ』はどう?」

「エルナに似ている。ややこしい」


 何だよ、めっちゃ、好き嫌いあるじゃないか。


「じゃあ、『マリ』で如何でしょう?」

「マリ……マリ……。うん。それで良い」


 結局、エルナが名付け親となった。



 両手で頬杖をついて口を尖らせているヒムニヤが妙に可愛かった。


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