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第50話 慈愛の女神 ツィ(3)

この話は、前半は主にヘンリック、リタ、リディア、クラウスを、後半はヒムニヤを追いかける視点となります。


 リディアの目の前には、数秒前まで吸血鬼王(ヴァンパイアロード )だった筈の強靭な肉体が、灰となって積もっていた。



(なんて事……何が起こったの? ……凄い……)



 驚愕するリディア。だがそれはヘンリック、リタも同様だった。



 吸血鬼王(ヴァンパイアロード )の素早さとタフさは、彼らの想像をはるかに超え、まさに常軌を逸したものだった。


『聖属性』、『物理攻撃向上』を付与されているヘンリックとリタが致命傷と思われる攻撃をいくらヒットさせても数秒後には肉体は再生する。


 そして、体の大きさからは想像も出来ないパワーで繰り出される、殴る・蹴るの単純攻撃、魔力を込めた攻撃まで、全てが今まで戦ったモンスターとは比べ物にならない、完全に格上の相手であった。


 クラウスは吸血鬼王(ヴァンパイアロード )の姿を見ると、戦闘開始直後から詠唱に入り、たまにヒールを行う以外は戦いに参加しない。


 彼らはジリジリ押され始め、瞬間移動すら使う吸血鬼王(ヴァンパイアロード )に、ついにリディアが捕まってしまう。


 リディアをヴァンパイア化させる為、首筋に噛み付く吸血鬼王(ヴァンパイアロード )


「ヒッ……い、いや!」

「リディア!!」


 通常、吸血鬼王(ヴァンパイアロード )に噛まれて助かるものなどいない。恐怖に硬直するリディア……だが、結論から言うと、リディアはヴァンパイア化しなかった。


 ……のみならず、吸血鬼王(ヴァンパイアロード )はその場から動かない。


「『聖縛鎖ハイヴェリガン・スケッチ』」


 正確に言うと、()()()()()()()()()()()のだ。


 クラウスによって。



「終わりです、吸血鬼(ヴァンパイア)の王!『蘇生ウィダ・ヴェル・ヴァン』」


 そして彼のスペルが発動し、リディアに抱きついて動かない、その恐ろしい敵は彼女の目の前で灰燼に帰した。



「蘇……生……?」


 恐怖の余韻が色濃く残るリディアが、その灰を見つめながら反芻する。


「蘇生です。ヒムニヤ様より、ツィ系ヒーリングスペルは、高位なものになる程、アンデッドに効く、と教えられました。なので、私が持つ最高のヒーリングを与えました。身体中の全細胞を活性化させて治癒力を高め、魂を肉体に縛り付けるスペルですが、アンデッドには真逆の効果となります」

「凄いな……悔しいが俺達では手も足も出なかった」

「本当だわ。助かったわクラウス」


 ヘンリック、リタに手放しで褒められ、少し照れ笑いをするクラウス。


「ヒムニヤ様と違って、私はまだまだ詠唱に時間がかかります。怖い思いをさせてごめんなさい、リディア」

「クラウス!! 本当に……ありがとう!!」


 ようやく恐怖から解放され、笑顔が戻るリディア。


「いえ、いつも助けられてばかりですので……さ、隊長とヒムニヤ様の下に急ぎましょう!」



 ―――


(さぁて……どうしたもんかのう)


 ヒムニヤは腕を組みながら、前方、百メートル程の距離を置き、瘴気を撒き散らす『死古竜エンシェントボーンドラゴン』を前に、考えていた。


『超人』とは、人を超越し、卓越した知識、知恵、無尽蔵の体力、魔力を持つ選ばれし者に与えられる称号である。


 現存する5人の超人の中でも、最も長くを生きるヒムニヤ。彼女の年齢は三千歳を超えている。その彼女の長い生の中には、かつて存在し、死んでいった超人達もいる。


 その中に、メリー・トトという超人がいた。


 ミラー系魔法を極め、オリジナルの破壊魔法を多く編み出した、当時、最強と噂された魔術師である。


 今よりおよそ1700年ほど前、パルゥス歴3811年。そのメリー・トトがこの古竜の大森林に足を踏み入れた時、立ちはだかったのが、この『死古竜エンシェントボーンドラゴン』だった。


 背の高さは15メートル程、体には皮膚や筋肉といったものはなく、剥き出しの骨格のみで構成されている。小骨まで綺麗に再現された骨の翼と、足が4本、生えている。

 一説によると、太古の呪詛により死ねなくなった(ドラゴン)の成れの果てであり、日を追うごとに増加する魔力が体を動かしている、と言われている。


 1人対1体の死闘は3日間に及び、結果、先に力尽きたメリー・トトが敗れ、殺される事になる。



「メリーでも勝てなかったバケモノか……フフン、面白い」


 不意に死古竜の喉の奥が光る。


 ガッッッッッッッ!!!!!


 顎を大きく開けたかと思うと、直径10メートルもあろうかというビーム砲がヒムニヤ目掛けて放射される。


 ドッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!


 ズドドドドドドドドドドドドドドドドド!!



 周囲の木々は焼かれ、消滅し、ヒムニヤの背後、数キロに渡り、綺麗に道が出来る。


 しかし、その絶大な破壊力のビーム砲の中、涼しげに浮遊し、死古竜に近づく超人ヒムニヤ。


「これは……旅人達が感謝するであろうな」


 1人でそんな冗談を言いながら、死古竜の眼前まで辿り着く。


「ふむ……こいつは厄介だな」


 実際に敵として対峙し、死古竜を目の前にして何を思ったのか、ヒムニヤが呟く。


「だが睨み合っていても埒が開かん。どれ……試してみるか」


 更に死古竜に近付き、手の届く範囲まで浮遊する。


「ヒムニヤ様!」

「ヒムニヤ!」


 そこへクラウス達が駆け寄ってくる。


「おや、お前達、予想より早かったな。クラウス……しっかり勉強していたと見えるな」


 真っ赤になり、照れて俯くクラウス。ヒムニヤはそれを見て、一瞬、柔和な笑顔を見せる。


 が、すぐに厳しい表情になり、死古竜に向き直る。


「……さて、お前達。加勢は無用。むしろ下がっていろ。こいつは危険だ」


 クラウス達は一瞬躊躇するが、俺達が邪魔になるのだろう、とヘンリックが言った為、皆、仕方なく後ずさる。


 その時、死古竜の前足が大きく跳ね上がり、目の前の小さなヒムニヤに一撃を加える!!


 ブゥゥゥゥゥゥゥゥンッッッ!!


 ドゴゥオォォォォ!!


 普通に考えると、ヒムニヤは五体バラバラになるか、吹き飛ばされていなくなるか、それ程の衝撃だ。


 だが、ヒムニヤは悠然とそこにいる。


 特に何かの呪文を唱える訳でもない。

 手でガードするような仕草を見せる訳でもない。


 ただ、死古竜の攻撃後も変わらず、何もなかったかのように、そこにいた。


(……ウグググ……グェェ……)


 死古竜がひと声唸り、翼を羽ばたかせ、空を舞う。無論、骨だけの翼で飛べる訳ではない。この所作は生前の名残か。死古竜はその魔力だけで飛ぶ。


 だが!


「飛ぶな!」


 ヒムニヤの鋭く、低い声が飛ぶ。


 途端に死古竜の体が背骨の辺りからグニャリと曲がり、まるで巨大な手で空から押されたように、地面に叩きつけられる。


 ドッシィィィィィィィィィィィィィンン!!


 更に近付き、顎の前に立つヒムニヤ。


 刹那、顎を大きくあける死古竜。



「ヒムニヤ様!! 危ない!!!」


 クラウスが叫ぶ。



 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!



 ヒムニヤに対し、口から『爆発』を吹きかける。到底、戦い方として予想できる範疇の攻撃ではない。


 だが、その攻撃ですら、ヒムニヤには一切、届かない。サラっと前髪が揺れた程度か。



「無茶苦茶な戦いだな……死古竜エンシェントボーンドラゴンにしろ、超人にしろ、こんなに次元の違うものなのかよ……」


 いつの間にやらクラウスの背後にマッツ達がいた。


「隊長! 無事でしたか! よかった……見て下さい、ヒムニヤ様が凄いです!!」

「いや、見てるけどよ……凄いとか凄くないとか……凄いな!!」



 ヒムニヤの手が死古竜の鼻先に触れる。


 1秒後。


 死古竜の鼻と顎から目の辺りまでに大爆発が起こり、顔の顎部分が砕け散る。


(グノォォォォ……)


 苦しそうな死古竜の嗚咽が聞こえる。


 マッツ達、見ているものがヒムニヤの強さに安堵しかけたその時。


 死古竜の顔付近に明らかに闇のオーラが集まり、瞬く間に元通りの骨格を形成し直す。



 そして……復旧したばかりの顎を大きく開け、喉の奥でピンクの光が煌めいた!


 チュィィィィィィィィィィィィィィィン!!


 今度は魔力が凝縮された細い光線だ。


 ヒムニヤの肩を撃つ!!


 が、ヒムニヤの表情は一切変わらない。笑うでもなく、怒るでもなく、凛とした真顔を保つ。


 見ると、肩の辺りに連続して放たれている光線はそこで止まっており、体の数ミリ手前で何かに弾かれているようだ。



 死古竜の、破損部に対する一連の復活のプロセスを観察していたヒムニヤが、チッと舌打ちをする。


(なるほど……如何な(ドラゴン)とはいえ、メリー・トトが単純な力押しで負けるなど考えにくいと思っていたのだ。やはりこういう事だったか)


(これは手こずりそうだ。これは、『神の呪い』ではないか)


(テン、ツィ、ミラーの現代神なら、まだ話が早かったが。今の力の()()は……古代の神の呪いだ)


 ヒムニヤは死古竜が蘇生する事は承知の上で、攻撃を仕掛けたのだ。


 そして復活する際に、いかなる力が働き、不死となっているのかを見定めた。



 彼女は5人の超人の中で唯一、創世神ツィと交信できるチャネルを持っている。これは彼女が超人だから、というより、彼女が高位森妖精(ハイエルフ)だからであろう。


 ヒムニヤが思いを巡らせている間にも、死古竜の強力な攻撃は続く。そのどれもが、通常の相手なら即死せしめる必殺の破壊力のものだ。


 しかしそのどれもが彼女に毛ほどの傷を付ける事も出来ない。


 側から見ると、死古竜の凄まじい攻撃を目を閉じて突っ立ったまま受け続けているようにしか見えないが、この時ヒムニヤは、実に千年ぶりにツィとの交信を試みていた。


(ツィ様……ツィ様……)


"あら!! ヒムニヤちゃん! 久しぶりね!"


 それはヒムニヤが久々に聞く、明るく快活な『慈愛の女神』の声だった。


(ツィ様! よかった! 繋がった……)


"ふふ。ちょっと個人的な興味でね……ある()()を少し見ていたのよ"


「え!?」


 少し眉を寄せ、小首を傾げて声に出してしまう。


(ひょっとして、それはマッツ・オーウェンでは?)


"御名答! やっぱり彼、面白いわ! 私に言った願いと同じ事を貴方にも言うんだもの"


(ええ? あのキスして……って、ツィ様にも!? あ、いやいや、その話はまたに……今、少々、急いでおりますので)


"あら。悠久の時を過ごす貴女が急ぐだなんて、珍しいわね"


死古竜エンシェントボーンドラゴンの解呪、ご助力いただけませんか?)


"あなた……今、戦っているのね?"


(はい。強力な呪詛で、私の手には負えません。古代の神の悪戯かと……)


"その竜は……ああ、確かに呪いがかかっているわねぇ。可哀想に……誰かしら。ヒムニヤちゃんの言う通り、きっと昔のジジイの神よね。ちょっと、あたってみるわ"


(ありがとうございます!)


 そこでようやく、目を開けるヒムニヤ。


「まずは、これで良し……」


 ポツリとそう呟くと、眼前の竜の窪んだ眼窩を睨みつける。


(グェェ……)


「さて、ツィ様が間に合っていただければ良いが。取り敢えず、ヴォルドヴァルドとやる前に……少し肩慣らしといこうか、哀れな死古竜エンシェントボーンドラゴンよ」



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