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第47話 アデリナのターン


 ヒムニヤの言葉通り、俺達は彼女をパーティに加え、それからきっちり3日後に出発した。


 クラウスはその3日間ですら待てなかったようで、夜はずっとヒムニヤの講義を受けていたようだ。夜更けにあの超絶美女と二人きり……ブルブル! 俺なら何も耳に入ってこないな。


 クラウスと同じく、リディアもエルナのために用意された部屋に篭りきりだった。



 そうして出発してから10日たったある日、日も落ちかけた頃、事件が起こる。



「みんな、構えろ」


 いつものように敵意センサーによる備えから、先制攻撃をし、苦もなくモンスターを掃討する。


 全て倒して敵意が無いことを確認し、剣を収めた時、


 ガスッ!


 ドスッ!!


「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 悲鳴が上がる。

 あの高い声はアデリナか。


「どうした!?」

「マッツ! アデリナが、谷に落ちた!!」

「なんだって!?」


 あんな身軽な子が、そんなドジを踏むなんて……!? いや、そんな事を考えている場合ではない。


 しかしタイミング悪く、再び敵意を感知してしまう。


「みんな、また敵襲だ!」

「マッツ、アデリナを!」

「エルナ……」

「大丈夫だ。行ってやれ。ここは俺達で充分だ」


 俺の方を見ずにヘンリックも言う。リディアを見ると、何か複雑な表情をしながらも、うん、と頷く。


「……わかった。じゃあ、頼んだぞ」


 モンスターの掃討をみんなに任せ、谷へ向かおうとした。


「待て」


 不意にヒムニヤに呼び止められる。


「ん?」

「これを持って行け」


 渡されたのはポーションだ。


「あの娘がいくら身軽とはいえ、谷に落ちたんだ。無事とは限らん。持っていけ」

「わかった。ありがとう」


 ヒムニヤからポーションを受け取り、リュックにしまって大急ぎで谷へ向かう。


 見ると、数十メートルの深さの谷がある。すぐ側にこんな危険なものがあったのか! エルナもヒムニヤも、この谷の存在を知らなかったのか? 特にヒムニヤが知らない筈は……


 参ったな。どうしたものか。


 ええい。悩んでる場合じゃあない。この高さだ。のんびりしているとアデリナがヤバい。


「でやっ!」


 飛んでみたぜ!


 物凄い速さで落下する。当たり前だ。こんな勢いで落ちたアデリナが心配だ。早く助けないと!

 落ちながら空中を舞う剣技を詠唱する。


風竜剣技ダウィンドラフシェアーツ!『(クシア)』!」


 竜巻が発生し、俺の体を持ち上げ……ない!?


「な……ええ!?」


 発生する筈の竜巻が、出ない。


 げげ、ちょっと待て! これはヤバい!!

 崖から生えている枝を必死で掴む。


 バキィ!!


 敢え無く折れる。が、枝はいくらでもある。ひたすら掴む。折れる。掴む。折れる。枝に突っ込む。



 バキバキバキバキッッ!!

 ドッゴォォォォォォン………………





 いっててて……。



「こんなの……ただの飛び降り自殺……じゃないか」


 とは言え、途中、枝を掴んだおかげでかなり失速した。最終的に枝を突き破ってから地面に激突したのも幸いだった。


 やれやれ……しかし、何とか降りた。

 落ちた、とも言うが。



「アデリナ! アデリナ!!」


 俺と同じように落ちたのなら、この辺りにいる筈だ。叫びながら付近を探す。


 谷底は中央に浅い川が流れており、そこを避けて砂利が少し混じる硬めの土の上を歩く。

 それ程離れていない筈、とヤマを張り、付近を入念に探す。


 所々に大きな岩や木があり、その陰にいないか、引っかかっていないか、覗き込む。



 そして、見つけた。



 一際大きな木の根元で、横たわっている。


「アデリナ!!」


 どこを打っているかわからない。ゆり起こす訳にはいかない。


 俺より数倍、身軽な子だが、よくて全身打撲、悪けりゃ骨折、最悪は……。


 いや、大丈夫だ。胸が上下している。生きている。


「アデリナ……アデリナ…………」


 続けて声を掛けてみる。


 見ると顔が傷だらけだ。可哀想に、お人形さんのように愛らしい顔に切り傷が沢山出来ている。


 ざっと全身を見た所、枝が引っかかったのだろう、衣服があちこち破れているが、腕や脚は変形してはいない。

 ヒビくらいは入っているかもしれないが、上に戻ればツィ系魔法を極めた超人様がいる。取り敢えず、生きていれば大丈夫だろう。


 1、2分ほどそうして声を掛けていただろうか。


 ふと、


「……う……うぅん……」


 アデリナの吐息が漏れる。


「アデリナ!」

「う、マッツ……にーさん……あ、あたたた……」

「よかった! 気が付いたか! どこだ!? どこが痛む?」

「……身体中……」


 う~ん。そりゃそうか……。


「ごめんね……。ドジっちゃった……」

「気にすんな。誰でも失敗位するさ」

「あっつつ……」

 

 痛そうだな……あ、そうだ! 行きがけに貰ったポーションをリュックから出す。


「アデリナ、これを飲むと良い。ヒムニヤに貰ったポーションだ」

「ん……」


 ん? 手が上がらないのか?


「腕が……痛いんだ……」


 ありゃりゃ……アデリナがこんな事言うなんて、かなり珍しい。よっぽど痛いんだろうな。

 まあ、そりゃそうだよな。普通に転落事故だからな……。


「……飲ませて……」

「あ、ああ……」


 ポーションを口元に運び、少しずつ口を湿らせてやる。

 数分かけて、規定量を飲ませる。


「どうだ?」

「うん。結構……楽になったよ」

「そうか?」


 うーん。イマイチそんな感じには見えない。


「座れるか?」

「うん」


 起き上がるのを少し助けてやる。木にもたれかかり、チョコンと座るアデリナ。


「身体の痛みはなくなったよ。もう大丈夫」


 ニコリと笑うが、どこか痛々しい。自慢の金髪もボサボサだ。う~ん。どうしたものか……。


 時間がたてば元気になるだろうか。


「まあ、今はヒムニヤもいるしな。合流できればすぐ良くなるよ。今すぐ頑張ろうとしなくてもいいぞ?」

「うん」


 キ―――ン……


 こんなタイミングでか……ちっ……。


「アデリナ、敵だ。ここでじっとしていろ」

「わかった。ごめんね、マッツにーさん」

「気にするなってば」


 シュタークスを携え、敵意の元だったジャイアントバットの群れを追い払う。まあ、このレベルは剣技を使わなくとも朝飯前だ。


 だが―――


 敵意がやまない。

 いや、むしろ、増える。


 バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ……


 見上げると崖の途中にある横の小さな穴から、ジャイアントバットが次々と飛び出してきている。


「げ!」


 数は数百、数千にのぼりそうだ。夕方、且つ、只でさえ暗い谷底が更に暗くなる。


 これはまずい。


 俺がやられる事はないにしても、いつアデリナに牙を向けるかわからない。


青竜剣技ブリュドラフシェアーツ!『(フリィ)』!!」


 蝙蝠に向かって拡散攻撃を……と思ったが、出ない。単に叫びながら空中を斬る変な人になってしまった。



 やっぱりか。

 落下の時に剣技が発動しない時点でおかしいと思ったんだ。



 ここは……この谷は『魔力無効』の場所か―――




 この世には、不可思議な力によって、魔力が全く効かない場所、地域が存在する。

 タイミング悪く、ここがその1つなのだ。


 結局、俺はアデリナを背負い、近くに落ちていた彼女の大弓を肩に引っ掛け、身を潜める事の出来る場所を求めて、谷底を移動する事にした。


 俺達の仲間は皆、頼もしい。その内、見つけ出してくれるだろう。


 それよりも直近の身の安全だ。


 魔力無効とわかった以上、広いところにいるのは不利だ。四方八方から数を頼みに来られてはアデリナを守りきれなくなる。


 アデリナを背負い、どれ程、歩いただろうか。都合よく、小さな横穴が見える。


「見ろ、アデリナ。洞窟だ。あの洞窟に入ろう」

「うん」


 急ぎ、走り寄り、中に入る。


 中は狭い。直径1メートル半位だろうか。奥もそれ程、長くなく見渡せる所までしかない。危険が少なく、好都合だ。


 当然、中は真っ暗だが、ランタンをつければ問題ない。


 これでひとまず安心だ。

 入り口だけ見張っていれば良い。


 それよりもアデリナだ。

 背中から下ろし、洞窟の壁を背もたれにして座らせる。


「アデリナ、どうだ? どこか痛むか?」

「うん。ちょっと足首がヤバい感じ……」


 言われて、ふと足首を見てみる。


 さっき見た時には無かった筈だが、きっと背負って移動している最中に腫れてきたんだろう。右のくるぶしの辺りが少し腫れている。足から着地したんだろうか。

 ブーツの上から見て分かるくらいだから、中は相当、腫れているだろう、と簡単に想像できる。


「うわわわ……すまん、アデリナ! これ……痛かったろう……」

「うん」


 何故か、微笑みながら肯定する。


「ちょっと待ってろ」

「うん」


 洞窟から出て、谷底を流れる川まで行き、水筒に水を汲む。川の水が冷たくて助かる。最後にタオルを水で冷やして持ち帰った。


 見上げると、ジャイアントバットの大群は俺達に興味を無くしたようだ。好き勝手に飛び回っている。……助かった。今は蝙蝠どころではない。


 急いでアデリナの元に戻る。


「さて……どうしたものかな……」

「大丈夫だよ、応急処置して?」

「え? ああ……じゃあ、ブーツを脱がせるぞ」


「うん」


 ブーツの紐を解く。


「あぅっ! いったた……」


 痛いよな……。頑張れ、アデリナ! 心でそう応援しながら、アデリナの表情を見つつ、紐を最後まで解く。


 脱がせる時、また顔が苦痛に歪む。痛いだろうな。でもこなままだと冷やせないからな。切っちゃうと後で困るだろうし……。そうしてなんとかブーツを脱がす。



「うわっ」


 くるぶしが、ゲンコツほどに腫れていた。


 半端な痛みではなかったはずだ。ヒビどころではない気がする。


「これは……バッキバキに折れてるぞ……アデリナ」

「……ありゃりゃ……そりゃ大変だね……」


 いや、他人事みたいに言うなよ。額には冷や汗がビッシリ浮き出ている。


 急いで俺のリュックから衣類を全部出して即席のベッドにし、まず、その上に横にならせる。


 そして足首をさっきのタオルで冷やす。その上で極力、動かないようにしつつ、リュックの上に足を乗せてやる。


「あぅっっ! ……つつ……」


 痛みで勝手に涙が出る、というやつだ。これは痛いだろう。


 頑張れ、頑張れ!!


 微妙に足の位置をずらして、痛くない所を探す。


「……よし。このまま、安静にしているんだ。心臓より高い位置で固定した」

「わかったけど……みんなを探しに行く、とか言わないでね?」

「え?」

「そんな事言うんなら、這ってでも付いて行くから」


 は……何言ってんだ?


 さっさとヒムニヤやクラウスと合流した方が楽になるのに……。


 滅多にない怪我をして弱気になってるのか。



「マッツ……」

「わかったわかった。側にいるから安心してじっとしてろ」

「うん!」


 全く、こんなアデリナは珍しい。いや、初めてだ。いつも元気一杯、ケタケタ笑っている笑顔しか浮かばない。


 俺もアデリナの隣で横になり、手櫛でボサボサになった髪の毛を直してやる。少し恥ずかしそうに微笑むアデリナ。


 ふと、その反対の手が熱くなる。……見るとアデリナが俺の手を握っている。

 ギュッと握り返してやる。


「大丈夫だ、アデリナ」

「うん……」


 目を瞑り、少し苦しそうにしている表情を見ていると、普段が普段なだけに痛々しい。


 俺と2人になったタイミングでこんな事になるとは……アデリナもついていないな。クラウスやヒムニヤがいれば一瞬で治してもらえてたのに。



 そして―――


 それから数時間、冷やし、撫でて、話をし、を繰り返す。


 谷底は、かなり冷えてきた。寒い位だ。百竜の滝の夜に近い。火をくべたいとこだが、こんな狭い洞窟だと少し危ない。もう少し大きな洞窟を探せばよかったかな。



 それにしても……あいつら、遅いな。


 遅すぎだ。


 もう完全に夜、だ。

 いい加減、谷底に降りてきて探してくれていても良さそうなもんだが。


 ひょっとして、向こうは向こうで、マッツ遅いな、とか言って待ってたりして……。いやいやそんな事は無いはずだ。



「マッツにーさん…………」

「どうした?」

「あのね……実はね……」

「うん」


 続く言葉を待つが、不意にフルフルと首を小さくふり、


「マッツにーさん……ギュッてして……」

「へ!?」


 薄目を開け、二へへと笑うアデリナ。


「大丈夫か? アデリナ……」

「早く……」

「……わかった」


 そっとアデリナを抱いてやる。小さくて子供みたいだ。いや、年齢的にはまだ子供なんだが。


「ねぇ……もっと。もっとギュッてして?」

「え? あ、ああ……」


 足が動かないよう、配慮しながら、少し力を込めてやる。あまり力を入れると折れそうに思う程、腕の中のアデリナは頼りない。


「ねぇ、マッツにーさん。私ね」

「うん」

「実は今日、誕生日なんだ」


 腕枕に頭を乗せ、俺を真っ直ぐに見つめ、可愛く微笑みながら、アデリナが予想外の事を言った。



 俺の思考が止まる―――



 何だ、この突拍子も無いカミングアウトは。


 え?


 誕生日?



「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 谷底に俺の声がこだまする。


「うるさい、うるさいよ、おにーさん……」

「ご……ごめ……え? 誕生日?」

「そうだよ。ついてないね」

「えぇ……」


 なんて言ったらいいんだ?

 誕生日、おめでとう?

 いや、めでたいのか? 今。


 これは難問だ。なんて言ったらいいんだ。


「でもね……マッツにーさんと2人きりになれたから……ついてるのかな」

「…………」

「ねぇ、私、何歳になった、でしょう?」

「…………じゅう……はち」

「せいかーい!」

「9月8日が私の誕生日だよ。覚えておいてね?」

「……ああ……うん」


 アデリナが18……こんな幼い見た目なのに……なんと成人してしまった。


 まあ、そりゃいつかは成人するか。


 見た目は幼いコンスタンティンも200歳だからな。いやいや、誰と比べてるんだ俺は。不意を突かれすぎて思考が乱れる事、甚だしい。


 こういう時は、思った事を素直に言おう!


「アデリナ……」

「うん」

「誕生日おめでとう!」

「ふふ! ありがとう!」


 にっこり、会心の笑みを見せてくれる。


「誕生日なのに、こんな事になって可哀想なアデリナちゃんの願い事、聞いてくれないかな~?」

「何だ? いくらでも、きいてやるぜ?」

「今日からさ、『マッツ』って呼んでいい?」


 うんうん。『にーさん』を取るって事か。


「ああ、もちろんだとも。お前も立派な仲間だ。そう呼んでくれ」

「もうひとつ」

「うん」

「誕生日のお祝いに……キスしてよ」


 ……



 ド――――――――――――ンッッッ



 フリーズ……



 アデリナもそれ以上、何も言わない。

 驚くほど整った顔でじっと俺の目を見ている。



 いや、正直、自分で言うのも何だが、俺は貞操観念は低い。自慢できるこっちゃないが……。


 ついこの前も、邪魔(リ◯ィア)が入らなければ、間違いなくヒムニヤとキスしていた。

 まあ、あれは自分が死んでいる前提だったんだが。


 だが何となく、アデリナには手を出しちゃダメな気がするんだ……。



 何故だろうか。こう、うまく表現できないが、大切にしてあげないといけないというか、何というか……。


 見た目が幼過ぎて俺が恋愛対象に見ていないのだろうか……?


 それもある、かもしれない。


 でも、年齢的には、この目の前の可愛い女の子は立派な大人の女性なのだ……今日からだが。


「アデリナ……」

「マッツ、私の事、嫌い?」


 ブンブン!!


 嫌いな訳が無い。

 一体、アデリナのどこを取って嫌いになると言うんだ。


「あはは。ごめんごめん。マッツが私の事、嫌いな訳、ないよね? じゃあ、聞き方変えるね? 私の事、『好き』じゃない?」


 ググッと返事に詰まる。

 う~ん。きっとこれだな。俺がキスしちゃいけないと思う理由は。


 もう、エルナもヒムニヤも、俺同様、貞操観念の低いリタとでさえ、俺はしないだろう。


 きっと、恋愛の『好き』じゃないからだ。仲間として大事に思ってしまったら、もう手が出せないんだ。


 おそらく、今、俺が手を出すのはただ1人……。

 仲間であり、俺が『好き』の気持ちを持っている1人だけだ。


 ……まあ、未だに手を出せないでいるが。



「まだ、出来ないなぁ」

「まだ?」

「うん。アデリナの言った『好き』が、今、俺に無い以上、出来ないよ。でも、俺も適当だからなあ~~~。明日には変わってるかもな」

「……………………ふふ」

「リタにも、リディアとアデリナには手を出していいって言われてるからな。明日、襲ったらごめんよ?」


 何とか理性を保とうと必死に頑張る俺と、切なそうな表情を浮かべるアデリナの顔との距離は頭一つ分も離れていない。


「マッツ」

「うん」


 痛みからか何なのかわからないが、目に涙をウルウルためながら、しかし、アデリナが魔竜剣技並の一撃を放つ。



「………………大好き」



 ぐっっっっっっは!!


 今、なんか、すげぇ撃ち抜かれた気がする。



 何だ? 何を撃ち抜かれたんだ?



 えええ。


 気持ちって、こんな一瞬で変わるものなの?

 何だかとてもショックだ。


 待て待て。昨日まで子供だったんだぜ?

 いくら、成人したといっても、昨日、今日で、そんな何かが変わるなんてこたぁ…………。


 しかも今さっき、出来ないって言ったばっかりだからな。2、3発、撃ち抜かれた位で……ここは男の我慢のしどころよ。



 だが、そんな痩せ我慢など、アデリナの前では何の役にも立たないものだった。


「いいんだ。リディアの事、好きだってわかってた訳だし」


 そう言って、一瞬目を伏せる。


「え? え?」


 そして俺の胸から首、口……と視線を少しずつあげてくる。



「でもなあ……誕生日なのになぁ……成人の日なのになぁ……」


 そうして、どこで覚えたのか、顔を少し斜めにし、流し目で俺を見つめる。



 う……うぐ……



「こんなに…………」


 ふ……ふあ……



「近いのに……なぁ……」



 ドォォォォォォォォォン!!



 あ、ごめん。無理っす。耐えられないっす。


 アデリナをグイッと引き寄せる。

 小さく微笑みながら、目を閉じて俺を待つアデリナ。とても可愛い。


 ムリムリムリムリ!


 いただきます!


「アデリ……」



「そこまでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



 はぅわっっ!! この声はっっ!!


 リディア!!

 びっくりしてはね起きる。


 入り口を見ると……あわわわわ……


 先頭にリディア、その後ろにリタとヒムニヤ、一番奥にエルナ。


 女子達が……勢揃い……している……。

 サ―――ッと血の気が引いていくのがわかる。


「残念……。アデリナ、タイムリミットだわ」


 リタが俯いて首を振り、心底、残念そうに言う。

 リディアは肩でハァハァと大きく息をし、目を釣り上がらせている。

 ヒムニヤは何やらニヤニヤしており、エルナは手で顔を隠しつつも、指と指の隙間から覗いていた。



 え?



 また?



 リディア、ヒムニヤに続き、アデリナまで……。

 3回目のチャンスも空振り?



 そんなぁぁぁぁ……。



「とっくに日付変わってるわよ! アデリナ! お誕生日プレゼントは終わりっっ!」


 リディアがまくしたてる。


 え? 誕生日プレゼント?



 ふとアデリナを見ると、物凄く残念そうにしていた。


「あ~~~あ……終わっちゃったか~。もうちょっとだったのになぁ……」

「相変わらずマッツがグズグズしてるからね。可哀想なアデリナ」


 リタが容赦なく罵声を浴びせてくる。


「ほんとだよ! すぐにしてくれたらよかったのに! 折角、事前に傾向と対策をたてて、私からグイグイ行ったのにぃ!!」


 腕の中のアデリナが、口を尖らせる。

 ちょっと何が起こっているのかわからないんだが。


「てゆーか、いつまで抱き合ってるのよ! 起きなさい! 2人とも!」


 リディアの顔が怖い。


 一旦、アデリナと離れるが、


「……はっ! いや、ダメだ。アデリナの足は……」

「マッツ。痛み止めだ。これを患部に貼ってやれ。アデリナ、この薬を飲め」


 ポーションと湿布を取り出してヒムニヤが言う。

 なんだよ、超人とか言って結構、俗人的だな。


 言う通りにすると、アデリナはかなり楽になったようだ。


「……で、誕生日プレゼントって何なんだ?」

「お察しお察し! さ、上がるわよ!」


 言いながら先導するリタに続いて、俺達はロープを登り(俺はアデリナを背負って)、元いた場所まで戻ったのだった。



 何だかよくわからないが……


 俺は心に誓う。




 次のキスチャンスは……絶対、逃さない、と―――




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