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第44話 《神妖精》超人ヒムニヤ(3)

この話は、全ての登場人物を追う視点となります。



 オイフェミアは、不意に現れた人間達の一行に、何があったかの状況説明をしていた。


「さすがは私達の隊長ですね。あれだけ怖がっていたのに、初めて会った親子を守る為に(ドラゴン)と戦うなんて!」


 横たわるマッツを気にしながらも、オロフにヒールをかけるクラウスが感心したように言う。


 そのオロフは傷が癒えると程なく目覚めたのだが、マッツはその気配を一向に見せない。


「どうして……目覚めないんでしょうか?」


 リディアが焦れてエルナに答えを求める。


 エルナはあの後、30分ほどかかってロープを渡りきり、岸にいた全員から拍手喝采を浴びた。顔を真っ赤にし、頬を膨らませてしばらくは不機嫌だったエルナだが、思いもよらず森の妖精(エルフ)と出会い、興奮する。そしてマッツが倒れたままのこの状況を見てようやく普段の彼女に戻ってきたようだ。


「さて……外傷はもう、ほとんど無いようですが……。考えられるのは、(ドラゴン)が『賢人ヤコブ』の元まで運べ、と言った事に意味があるのかも、という事位でしょうか」

「そのヤコブってのは、どこにいるんだ?」


 ヘンリックがオイフェミアに口早に問い掛ける。


「ヤコブ様は、我々森の妖精(エルフ)の一族ですが、高位森妖精(ハイエルフ)であり、賢人と称されるお方でして……我々の村ではなく、少し離れた山の中で隠居生活をされております」

「少し……って、どの位離れているの?」


 後を引き取ってリタが口を出す。


「歩いて10日ほどですね」

「10日……『少し離れた』の表現に人間との違いを感じるわね」


 呆れたように言う。人間の数倍の寿命を持つ彼らとは時間の流れ方が違うのかも知れない。


「何日だろうが構わない。こいつにずっと寝てられるのはかなわん。行くぞ」


 ヘンリックがマッツを担ごうとしたその時、森の妖精(エルフ)の集団が現れる。


 先程、マッツと(ドラゴン)との戦闘時、真っ先に逃げ出した森の妖精(エルフ)達が引き返してきたのだ。


「森が凄い事になっているな……」

「オイフェミアはもうダメだろうな」

「息子もだ」

「取り敢えず亡骸を探そう」

「森も修復が必要だな」


 そこで、二つの集団がバッタリと出会う。


「オイフェミア!」

「無事だったか!」

「オロフも!」

「はい。お陰様で」

「そうか……よかった。……で、この者達は?」


 森の妖精(エルフ)の男達はみな、例外無く美しい顔立ちをしていた。銀髪であり、特徴的な細長い耳を持ち、細身で緑色を主体とした狩人の格好をしている。

 その内の1人が、ヘンリック達を見ながら、オイフェミアにそう尋ねた。


 オイフェミアは、彼らの後ろで倒れているマッツを掌で差しながら、紹介する。


「今、横になっているあのパンツのお方は、先程(ドラゴン)を倒し、オロフを助け出してくれたマッツという剣士様です。そして、こちらの方々はそのお仲間様達です」

「何!? (ドラゴン)を倒しただと!?」

「いや、しかし、先程、飛び立っていった所を見たぞ?」

「はい。実は……」


 先程、ヘンリック達に説明した内容を再度説明するオイフェミア。

 皆、一様に信じられないといった顔付きをする。


「信じられん。(ドラゴン)を倒せる者がこの世に居ようとは」

「ヤコブ様の所まで運べ、と(ドラゴン)に命じられております」

「ふむ……何かお考えがあるのだろう。よし、では我等の仲間を助けていただいたお礼に、我等でヤコブ様の下まで運ぶとしよう」


 少し考えて、リーダーらしき森の妖精(エルフ)がヘンリック達にそう提案する。


 が、ヘンリックは首を振り、


「こいつは俺が背負う。賢人の下まで案内してくれるだけでいい」


 そう言って倒れているマッツを背中に担いだ。


「ヤコブ様の所まで結構あるぞ? 大丈夫か?」

「問題ない。あるとすれば……こいつのこの格好だな」


 ヘンリック達はオイフェミアにマッツと出会った場所へ案内してもらい、そこでマッツが衣服を乾かしていた為にパンツ姿だった事を知った。


「にーさんが変質者でなくて良かったよ」

「その線も捨てきれなかったわね」

「……そ、そうなのですね」


 アデリナとリタの会話に、エルナが少し()()()ようだった。


 クラウスがマッツの濡れている衣服をまとめ、ヘンリックが持っていた自分の替えの服を着させてやる。


「これで良し。じゃあ、早速連れて行ってくれ」

「よろしいですか? では御案内致しましょう」



 そうして彼らは火竜が言い残した言葉に一縷の望みを託し、『賢人ヤコブ』と呼ばれる高位森妖精(ハイエルフ)の下へ向かった。



 ―


 10日が経った。


 道中、モンスターは殆ど出なかったが、起伏が激しい上に道無き道を行く為、体力の無いエルナはすぐに消耗してしまう。

 とはいえずっとマッツを背負っているヘンリックを前に、休ませて、とも言えず必死に頑張っていた。それに気づいたリディアやクラウスの助けもあり、何とか食らいついていたエルナだった。



「はい皆様、長らくお疲れ様でした。あれに見える、レイザンバゥムの神木と一体化した素晴らしいお家がヤコブ様のお住まいになります」


 山を越え、谷を越え、森を進む彼らの前に、大きな大きな樹木と家が融合したこの世のものと思えない、幻想的な建造物が姿を現した。


 巨木のあちらこちらに窓がある。所々に煙突や一見して分かる部屋のような人為的な構造物、それらが大木の形と絶妙なバランスで絡み合い、神秘的な印象を見る者に与える。


 今までに彼らが見たこともない建物であり、神聖さと相まって一同、息を呑む。


「こ……これが、高位森妖精(ハイエルフ)の棲家!」


 先程まで疲れで朦朧としていたエルナが感極まり、震え出す。


「では、取り次いで参りますので、入り口の方で少々お待ち下さい」


 そう言ってオイフェミアが住居の中に消えて行く。


 ――― 数分して出て来た彼女が、彼らに中へ入るよう、手で誘導する。


「お待たせしました。ヤコブ様がお待ちです」

「エルナ……じゃあ、お邪魔させていただきましょう?」


 リタが微笑み、立ち尽くすエルナに前進を促す。


「え、ええ……。森の妖精(エルフ)だけでなく、高位森妖精(ハイエルフ)に会えるなんて……」


 高揚を必死で抑えようとしているのか、胸を手で押さえ、心をときめかせるエルナ。その横をマッツを背負ったままのヘンリックが無表情に通り過ぎる。


「行こう。早く案内してくれ」

「どうぞ、こちらへ」


 そうして一行はようやく、ヤコブの住居へ足を踏み入れる。


「え~~~!? ここ、木の中だよねぇ??」


 外見から想像できないほど、中は広かった。そして、吹き抜けになっており、上の方は見えない程高い所まで、部屋があるようだった。

 アデリナが驚きの声をあげる。


「そうです。別に異次元に繋がっているわけではないですよ?」


 オイフェミアがそう説明するが、一同、納得がいかないようだった。


「そんな事はどうでもいい。早くヤコブの下へ連れて行ってくれ」


 ヘンリックも構造に驚いてはいたものの、埒があかないとばかりに苛立つ。


「はい。では、この階段から……」

「その必要はない」


 凛とした澄んだ、しかし老いているとわかる声が響き渡る。吹き抜けになっている、上の方から聞こえたようだ。


「そこに寝かせなさい。私の方から行く」

「あれ? ヤコブって名前からしてお爺さんを想像してたんだけど」

「私もです。が、どうやら女性のようですね」


 アデリナとクラウスがこそこそと話すのを尻目に、ヘンリックが背負っていたマッツを床に下ろす。


 しばらくして、ス―――っと上から人が降下して来るのが見える。完全に宙を飛んでいる。


高位森妖精(ハイエルフ)ってのは、何でもありなんだな……」


 ヘンリックが独りごちる。


 あっという間に彼らの目の前に音も無く降り立つ一人の高位森妖精(ハイエルフ)


 歳はかなり高齢のようだ。森の妖精(エルフ)が老いる、という話は聞いたことがなかったが、この容姿となると、数千年、下手すると万年を生きているかも知れない、とエルナは思った。そして、よく見るとやはり女性のようだ。


「この子がマッツ・オーウェンか。ふむ。少しまずい状況のようだ」

「!! 何だ! 何がまずいんだ!?」


 ヘンリックが身を乗り出す。


()()()()()がこの子に干渉している。追い払うから、少し静かにしていてくれ。オイフェミア。ご苦労だった。お前はもう、お帰り」


 リディアが何か言いかけるが、思い直し、口をつぐむ。

 その間に、(ドラゴン)からの伝言です、とメモをヤコブに渡し、静かに一礼してオイフェミアは出て行く。


 横たわるマッツを見下ろしていたヤコブは、不意に目を閉じ、片膝をついて静かに左手をマッツの胸に置いた。


「さて……おい、いるんだろう? 久しぶりだな、《滅導師》。この子に何の用なのかは知らないが、さっさと出て行け。さもないと……無理矢理叩き出す!!」

「《滅導師》……!!」


 一言発し、エルナが絶句する。

 彼女はその通り名で相手が誰なのかわかったようだ。彼女の知る限り、その相手と五分に渡り合えるものなどこの世に数人しかいないはずだ。


 だが、目の前の賢人ヤコブは一切の恐れも怯みも見せない。

 この御方も普通ではない、とエルナが思ったその時、一瞬、マッツの体が波打つように見えた。


「マッツ!」

「マッツにーさん!!」


 一行はマッツとヤコブの周りに集まる。皆、心配そうに、二人の顔を代わる代わる見ている。

 リディアも心配なのだろう。目に涙を溜めている。


 すると……。


 ヤコブが何か驚いた表情をし、少し……笑った。


「どうしたのかしら?」

「わからないけど……笑ったって事は、何かいい事があったんでしょうね」


 リタとエルナが小声で話す。それを聞いたリディアが少し安心した表情を浮かべる。


 ……と、急にマッツの表情が、()()()()()()()()()()()()、に変わる。



 リディアとエルナ以外は、皆、一瞬でこの顔を思い出す。そう、これはエッカルト護送の際にハンスによって暴かれた『あの時の顔』だ。


 これでもかと目尻を下げ、鼻の穴を膨らまし、だらし無く半開きの口。


「チ……何だよ、楽しそうじゃねぇか。心配して損した」


 ヘンリックが興味を失い、輪から抜ける。

 突然、マッツがムクリと上半身を起こす。


「マッツ!」


 リディアが叫ぶ。嫌な予感が頭をよぎりながら。


 目は半眼で、完全に目は覚めていないらしい。相変わらず、締まりのない顔をしている。



 ……と、おもむろにヤコブを抱くマッツ。そして、何故か受け入れる体勢のヤコブ。


「え? ……え?」


 グッとロッドを構え直すリディア。


 そしてあと数センチで唇が重なる―――



「……バカマッツゥゥゥゥゥゥゥ!!! 何してんのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



 ガッツーーーーーーーーーーーン!!!



「あ……いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



 リディアの渾身の一撃で、マッツ・オーウェンは目覚めた。



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