第42話 《神妖精》超人ヒムニヤ(1)
……
…………
………………
どこだ。ここは。
真っ暗だ。
あれ? 俺、何してたっけ。
確か……。
はっ! 竜は!?
どうなった?
……。
……この真っ暗な場所……。
ん? あいつにやられた傷がない。
ひょっとして、俺は死んだのだろうか。
おかしいな。竜は倒したと思ったが……?
最後の最後で殺すのが可哀想になり、とりあえず、俺がやられたのと同じ、右の脇腹に穴を開ける位にしてやったんだが。
まさか、それが仇になってやり返されたんだろうか。
だとしたら……悔やみきれんなあ。
俺はともかく、みんなが心配だ。
俺抜きでこれから先、大丈夫なのかな……。
ヘンリック……
リタ……
クラウス……
アデリナ……
エルナ……
そして、リディア……。
ビルマークでの夜の宴……
あ~~~くそっ!!
あん時、マルクスが来なければ!!
もうちょっとで、こう!
あとちょっと、いや、あと数秒あれば……。
(余裕あるな、お前)
ゾッ……とする声だった。
誰だ!?
俺のプライベートな世界に入ってくるんじゃねぇよ!
(お前の世界……?)
(フフ。違うな。ここは、私の世界)
(全てを閉じ込める、闇の世界)
……
お前……
分かりやすいな。物凄く分かりやすい。
これ程、出会ってすぐに『悪』とわかる奴も珍しいな。
『悪』の波動が漏れ出してるぜ?
(今までに何度か……お前の事を見ていた)
ん?
覗き見か?
(忌々しいが、お前……創世神に守られているな)
(おかげでお前を視るだけでも一苦労だ)
(驚いた……ぞ)
(今の世に……これ程……強い人間が……いるとはな)
ふん。褒めても何も出んぞ。
(私の……計画を。いくつか……)
(潰してくれた……ようだな)
は? お前の計画?
…………身に覚えがないが。
(まあ……良い)
(しかし……、竜を……相手出来る程の奴が)
(この世にいようとは)
あの竜も、お前の計画とやらの1つなのか?
(フ……竜は……人智の外にいる生物……)
(私でさえ……どうこうできる存在では、ない)
ふーん。
えらく、正直だな。
で、お前、誰なんだよ。
その時、俺の顔のほんの30センチほど先に、忽然と浮かび上がる、不気味な顔。
瞼が無い―――
その為か、まんまるな目をしている。
歪んだ鼻筋と口元。
頭髪は無い。
違和感のある、馬蹄の形をした白い口髭。
だが、何より特徴的なのは左眼だ。
眼球が無く、ぽっかりと空いている暗い穴の中では、何やら白い砂のようなモノが楕円の渦を巻いている。宇宙が見える感じ……とでも言えばいいだろうか。
(おや。あまり……驚かないな……)
いや、声から想像してたよりは、まともな顔立ちだぜ!?
(フ……フ……フフ……)
(マッツ・オーウェン……気に入った……)
(この……顔を、覚えておけ……)
(む………………)
ん? どこ見てんだ?
(邪魔が…………あいつか……)
(ちち……)
(マッツ・オーウェン……)
(私の元に……来い……)
そして、そいつは消えた……。
結局、名乗らずに。
不気味なセリフと、闇の波動を残して―――
直後、不意に辺りが明るくなる。
ふと、目の前にさっきとは違う新たな人の、いや何か聖なるものの気配を感じ、目を凝らす。
(無事か?)
美しく澄みきった、そして凛とした強さを感じる声が頭に響く。
そして顔を上げると幼少の頃に夢で会った女神、ツィさまに匹敵する美しい女性が目の前にいた。
見たことも無い綺麗な銀髪と、全てが完璧な対称で形作られた顔のパーツ配置。切れ長だが優しく慈愛に満ちた目、鼻筋が通り、赤く形の良い唇。
身長はリディアより少し高い。白く透き通ったドレスを身に纏い、スレンダーではあるが、いやでも目に付く体の線が女性である事を強調している。
思わず、見るだけでビクッと体が波打ってしまう。
誰だ?
俺を助けてくれたのか!?
(さっきの奴と関わっていても、ろくな事にならないからな)
喋り方は若干乱暴だが、なんと澄み切った声なんだ……。
お嬢さん、助けてくれてありがとう。
お礼にキスをしてあげよう。いや、させて下さい。
かつて無謀にもツィ様にした願いを言ってみる。
どうせこれも夢、もしくは死後の世界だ。
そう、俺は自由だ!
キョトンとした可愛い表情とともに、切れ長の目を丸くする美しいお嬢さん。
(キス……!?)
(アッハハ! まさかそんな事を言われようとは)
言いながら、この女神も満更ではなさそうだ。
そして……頰を赤らめた―――気がするぜ。
(面白い奴。この私にそんな事を言ったのは、覚えている限り一人しかおらんぞ)
ドキドキ……
なんか、イケそうな気がする。
一人いたのが気になるが。
(人と触れ合うなど何百年振りか)
(そうだな……お前なら……いいぞ?)
なんと!
快諾!! まさかの!!
死後の世界、バンザイ!!
思わずにやけてしまう。ヤバい。
この顔を見られたらまた『エロ隊長』とか言われちゃうな。
ま、でも誰も見てないし。
ここには準備OKの女神と俺しかいない。
音も無く、目の前までス―――ッと降りてくる。
体の線がとても細い。華奢だ。
(マッツ!)
リディアの声が聞こえる気がする。
ごめんよリディア。愛してるよリディア。
先立つ不孝を……。
ではお別れもすみました。
失礼して……
お嬢さんの肩と腰に手を回し、くちづけの体勢に……
俺の眼前で目を瞑る絶世の美女。
女神様もキスする時は目を瞑るんだな。
では……いただきます!
「……バカマッツゥゥゥゥゥゥゥ!!! 何してんのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ガッツーーーーーーーーーーーン!!!
俺の大好きな声と共に頭に強烈な衝撃を受け、俺は目覚めた―――




