第40話 剣聖 対 火竜(3)
やれやれだ。
もうちょっとで死ぬとこだったぜ……。
でも、何とか助かったみたいだな。仲間も無事なようだし、とりあえずは少し休むか。
まずは、服を乾かそう。
木は豊富にあるので火を起こし、焚き火をする。一旦、服を脱ぎ、木を組み立てて物干し竿を作り、そこに吊るす。風がいい感じにそよいでいる為、すぐに乾くだろう。
服を乾かしている間、ほぼ全裸になってしまうが、今の間に改めて付近をよく観察してみる。
この辺りの川は幅が広く、いつの間にやら流れがかなり緩やかになっていた。木々は相変わらず濃い。濃いが、川の上には木がないために、他の場所よりもかなり明るい。
しかし、森の神性はより強くなっているように感じる。こんな神聖な場所でパンツ一丁ですみません……。
チチチチチチ……
キュウキュウ……
ホロホロホロ……
鳥か獣かわからないが、色んな生き物の鳴き声が聞こえてくる。
のどかだ……。
チチチチチチ……
キュウキュウ……
チチチチチチ……
バシュッバシュッ!!
ホロホロホロ……
キュウキュウ……
ドォォォォォォォーーーン!!
バサバサバサ……
…………。
いやー。
派手な音を出す生き物がいるもんだな。
「レィブリィ! ブレスが来るぞ!! 逃げろ!!」
グァアアアアアアアアアアアアア!!!
おお。
人の声によく似ているな。
ゴォォォォォォォォォォォォォ!!
うおお。
まるで、何者かがブレスを吐いているような音がする。
…… うあっっっっっつ!!!!
アチチチチチ!
熱気がここまでくる。
「勘弁してくれ。ヤな予感しかしねぇ」
1人でブツブツ言いながら、渋々シュタークスを手に持つ。
うぅ。嫌だぁぁ。
「矢を放て!! ビャーテ! 右からだ!!」
戦ってるよな……やっぱり……。
んで、相手って……。
ギュォォォォーーーー
ガァァァァァァァァァァァーーーー
木々の隙間から、巨大な体が見える。
いや、見えない見えない。木が邪魔で全く見えない。俺の目には真っ赤な体に黄色の眼球、塔ほどの太さがある足に青年らしき誰かが捕まっている所や、口から炎がヨダレのように漏れている所などは全く見えない。
ヒィィィィィーーーー!!!
やっぱし!!
竜!!
「オイフェミア! 狙われている! 川へ逃げろ!!」
シュゥゥゥゥゥゥゥゥーー……
うぉぉぉ。吸ってる吸ってる!
ゴォォォォォォォォォォォォォォーー!!!
吐いたぁ~~~!
火炎ブレス!!
俺の目の前一面が炎で一杯になる。そしてその炎の手前で、まさに今、オイフェミアと呼ばれたであろう女性が俺の方に猛突進してくる。
ええい! くそっ!!!
「地竜剣技!!」
行きがかりだ。助けてやるか!
「『岩砕』!!!」
迫り来る炎の息と、駆け込んで来た女性との間に『岩砕』を発現させる。
熱風に煽られて女性が吹き飛ばされ、俺の胸の中に飛び込んで来た。竜と敵対する事は避けたいが、女性を放り出すわけにはいかない。しっかりと胸で受け、抱き止めてやる。
「大丈夫かい?」
「ひっ? 誰?」
「そんなのは後だ。やれやれ……」
『岩砕』が砕け散り、ブレスを吸収する。
まだ幼さの残る女性を地に立たせ、ふと見上げると、上空でホバリングしている竜が目に映る。
……あれ……待て待て。
目が合っている……………………。
竜と目がバッチリ、合っている。
勘弁してくれーーーー。
グルルルル……。
うう……。唸るんじゃない。怖いじゃないか……。
「今だ、射てーーーーー!!!」
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!
森の中から巨体に向けて、多くの矢が放たれる。だが竜は全く意に介さず、じっと俺の顔を見続けている。
あ~。あの矢じゃなぁ。
アデリナ位の威力がないと無理だろうなぁ……。
不意に、頭に声が鳴り響く。
(マッツ・オーウェンだな……)
うぉっと……。
頭に直接話し掛ける、この恐ろしい声は……。
(グェグェグェ。そうだ。貴様の目の前にいるこの私だ)
目の前……。
「まさか! オイフェミアが!!」
「え?」
(違うわ! そんなナリで『グェグェ』とか笑ってたら怖いだろうが!)
グルルルル……。
意外に軽快に突っ込んで来るな。
しかしマズったぞ。竜に話し掛けられてしまった。
オイフェミアは、顔にハテナマークをたくさん浮かばせて、俺を見つめて固まっている。
「どうした!? 竜の動きが止まったぞ!」
「今の内だ、退却するぞ!」
いや、俺も退却したい……。
てか、あんたら、仲間が竜に捕まってるんじゃないのか。
(待っていたぞ、マッツ・オーウェン。さあ、貴様の力、見極めさせて貰おうか)
ヒィィィィィーーーー
何という最悪の展開。
(私達を助ける者なのか、破滅に導く者なのか、確かめさせてもらう)
お断りします。
「俺はここに来て、たまたま珍しいモノを見ただけなんだ!」
(何を言っとるんだ、お前は……)
竜の口から炎が一際漏れる。
……と思った瞬間、先ほど、騒いでいた奴らがいた辺りを炎の息が焼き尽くす。
「なにしやがる!」
(お前がやらないというならそれで良い。見込み違いだったという事だ。ならば視界にいる者を焼き尽くす! 私にとっては地上に生きる者共の命など塵に等しい)
くそう! やっぱりこうなってしまうのか。
―――
「そんな事言って…… 結局、戦うんでしょ?」
「やめたまえ、リタ。嫌な予感がする」
「うふふ」
―――
リタの言霊、ハンパないな。
仕方ない。腹をくくれ!
「ようし! わかった。相手になってやるぜ。その代わり、今、足で掴んでいる人を離せ」
「……」
いきなり独り言を言い出した俺にびっくりしてか、オイフェミアがギョッとした感じで更に俺を見つめる。心無しか、モジモジしているようだがあまり気にしない。
(グェグェ。そうか、やる気になったか。ならばこうしよう。私からこの人質を救い出せばお前の勝ち、それ以外は私の勝ち)
「ふん、いいだろう」
その言い方だと、命までは取られなさそうだ。こっちは思いっきりやってやる。
竜との交渉を終え、胸の中の可愛らしい女の子に顔を向ける。
「オイフェミアさんとやら。ここからは俺とこの火竜とのタイマンだ。急いでここから離れなさい」
「え? あ、はい。でも、あれ……竜に捕まっているのは私の子なんです! 私だけ逃げる訳にはいきません!」
「え? あんな大きな子供がいるの?」
見た目、15、6歳に見えるのだが……。エルナといい、コンスタンティンといい、アンチエイジングが凄すぎないか。
「いいよ。助けておいてやる」
どっちみち、そうしないと俺の負けなんだからな。
あれ? 負けたらどうなるんだろうか。
(グェグェ。死ぬんだよ。お前の仲間共々な)
ブチッ
「俺の仲間に手ェ出すんじゃあねえよ! お前は今から俺がぶっ飛ばしてやる!!」
何やら、竜の口の端が少し上がった気がする。
笑ってやがるのか?
「さあ、俺が必ず助けてやる。早く逃げろ」
「う……ありがとうございます! あの、お名前は……」
「マッツ・オーウェン!」
言い捨てて、魔剣を片手に俺は竜に向かって突進する。
この幼いお母さんは、きっと俺のカッコいい背中を見て、しびれているだろう。
この時、パンツ一丁だったことを思い出したのは、それからかなり経ってからだった。




