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第39話 剣聖 対 火竜(2)


 アデリナが後ろを振り返りもせず、俺の言う事を信じて飛び降りてくる。


 ポフッ!!


「あんッ!」


 真下の俺がうまくキャッチ。

 メチャクチャ軽い。ポフッてなんだ。ポフッて。


 ……てな事を言っている場合では、全くない。


 見ると、悪魔の眼(イービル・アイ)が、木の上で10体ほど蠢いており、明らかに俺に敵意を向けている。


 1体であれほど手こずった奴だ。それが10匹以上、そして空中にいる、となれば勝ち目が見い出せない。


「皆、逃げるぞ!」


 瞬時にそう判断し、アデリナを地面に下ろしながら、退却を指示する。幸いこいつらの移動速度は遅い事が分かっている。俺が囮になれば逃げ出せるだろう。


殿(しんがり)は俺がやる。エルナ、皆を安全な所まで連れて行ってくれ!!!」

「ばかな、マッツ! 大森林で離れ離れになったら……」

「行け!!!」


 エルナの言いたい事はわかる。だが、そんな事を言っている場合ではない。全滅したら元も子もないんだ。


 エルナが1、2秒、何かを詠唱し、俺にかけてくれたようだ。何かのバフだろうか。いずれにしろ、頼もしい。

 皆、俺の方を見ながら、エルナを先頭に走っていく。そうだ。それでいい。後は彼らが逃げた先に、こいつらがいないことを祈るしかない。



 そして、無論、俺もこんな所でくたばるつもりはない。


火竜剣技フラムドラフシェアーツ!! 『(ファルサーテ)』!!!!」


 今度は一人で戦わねばならない。だが、どうすればダメージが通るかはわかっている。そこで、さっきとは少し戦い方を変えてみる。


 物理が効きにくいとは言え、まったく効かない訳ではない。従って、絶大な威力で横真一文字に切り裂く炎の斬撃を加え、その後、切断面を焼き尽くす、燃焼の追加継続ダメージを与える『一』を放ってみる。


 前方にいる数匹が横に引き裂かれ、そこから炎をブスブスと噴き出している。だがやがてその炎も消え、切断箇所もググググっと塞がる。


 ピシュンッ!

 ピシュンッッ!!


「うわっつつ!」


 四方八方から光線の反撃を食らう。

 もちろん、光ってから躱すことなど到底不可能だ。こいつらは動きが鈍い。常に移動しながら、奴らの視線を浴びないようにする。


火竜剣技フラムドラフシェアーツ!! 『(シューヴ)』!!!!」


 攻撃真っ最中の悪魔の眼(イービル・アイ)にカウンターを食らわす。スクリューの爆炎が中心の大きな眼を突き破り、後ろのもう1匹にまで届く。

 が、今のやつもトドメを刺さなければ、いずれ復活するだろう。目ん玉を貫かれた位で死ぬようなモンスターではない。


 しかし1匹のトドメを刺すことに、ものすごく大きなリスクが伴う。


 悪魔の眼(イービル・アイ)の群れからの攻撃を避け、同じ1匹に攻撃をし続けることは非常に難しい。


 従って、ここは時間稼ぎに徹する。


「『(シューヴ)』!!」

「『(シューヴ)』!!!!」

「『(シューヴ)』ゥゥゥッッ!!!!!!」



 そして、そろそろやばくなってきた……。

 さすがのタフネスを誇る俺も、こうも動き続けだと体力が枯れてくる。


 更に悪魔の眼(イービル・アイ)が俺を囲むような位置に動き始めている。

 包囲網を抜けるには、最低でも2、3体とは真正面から向き合わなくてはならない。その状況では、光線を避けることがかなり難しいだろう。


 どんどん、後ろに追いやられてしまう。


 ぐぬぬ……。腹立つ。


 攻略法がわかっている今なら、1対1なら負ける気はしないのだが。


 やばい、やばいぞ……。

 エルナ達と全く違う方向に来ている。


 ……と、不意に体が落ちる ―――!!



 ドッボ―――――ン!!


「ななな……ンンン……! ウガッッゴホゴホッ!!」


 なんだなんだ!


 水……川!!


 川か!


 川に落ちてしまった!


 あっという間に激流にのって、悪魔の眼(イービル・アイ)の群れから離れる。

 逃げる時間は十分稼いだはずだ。そっちはもう大丈夫だろう。


 しかし、この激流はまずい。


 とにかく、まずは『シュタークス』だ。こんな所で失う訳にはいかない。もがきながら必死で鞘に戻す。


 泳げない訳ではないが、泳ぎなど何の意味も無い。流れに身を任せ、なるべく体力を消耗しないように岸の方に流れ着こうと努力する。


 数分は流されただろうか。


 先の方で、嫌な音がする。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……



 ……。


 ノーノー!! お断りだ。嫌だ。

 何か知らんが、行きたくない。

 絶望的な何かが待っている気がする。


 が、どんどん、音が大きくなり……。


 また不意に体が ―――



「うっぶ!! お、ちるっっ??」



 滝!!!!!


 もちろん、落差は百竜の滝とは比べるべくもない。が、数秒落ちる感覚の後、激流と混じって一気に川底の辺りまで沈んでしまう。


 深い深い。

 なんだこれ、無茶苦茶深い。


 そして、流れがきつい。泳いで抜け出そうとするが、まったくどうにもならない。しばらく、川底を流されたと思ったら、今度は水面に向かって押し上げられる。


 もうすぐ水面、息継ぎを……と思った瞬間、また川底に引きずり込まれてしまう。

 これが何度も繰り返される。


 ぼ…ぼぅぇ、し……死ぬ……


 意識が飛び始め、もうダメか、と思った時、水中で何者かと目があう。


「……お前、マッツ・オーウェンだな?」


 子どもの声だ。なんでこんな所に? なんで、そんな普通に喋れるんだ?


(げぼげぼがぼぼぼ……)


「わかった。助けてやるよ!」


(がばごぼげべべ……)


「そんなのは後だ。お前、死ぬぞ? 黙ってろ」


(ごぼ……)


 俺は首根っこを捕まれ、すごい勢いで水流から抜け出る。


 何か知らんが、助かった。あっという間に水面に出て、息継ぎをする。とともに、大きく咽てしまう。


「ぶっっはぁぁ~~~~!! ぐぼっ……。ごほごほごほごほごほごっほ!!」

「うるっさいなぁ……」


 泳ぎながら、子どもがだるそうに言う。

 ごめんなさい。大人のくせに……。


 そのまま岸へと泳ぐ。俺ではない。その子供が、だ。

 俺の体重などものともせず、すいすいと泳いでいく。すごい力だ。


 あっという間に岸につき、陸地に上がる。


 助かった……。


 しばらく咽て、呼吸を整えた後、改めてその子供を見る。



 うーん。人間じゃなかった。



 見た目は10歳位の人間の男の子なのだが。

 服装も水色のヴェールを纏っていることを除けば、さほどおかしい恰好はしていない。普通のTシャツに短パンの子どもっぽい服装をしている。


 ……が、何しろ、体の色が全身、青いんだもの……。そして、瞳の色が黄金色をしている。(ドラゴン)のようだ。水の中では全然わからなかった。


「あ……ありがとう。死ぬとこだったよ」

「ん。いいさ。俺はあるお方の言う通りにやっただけだから。いや、むしろその方に会えて嬉しかったよ。溺れてくれて有難うな!! 夢で会ったあの方は本物だったってことだからな!」


 何を感謝されているんだ。


「あるお方?」

「それは言うな、と言われたからな。教えないぞ?」

「お前、一体何者なんだ?」

「俺か? 俺は人間が『百竜の滝』と呼んでいる滝に住み着いている『霊』だ。お前らが言うところの『精霊』ってやつになるのかな? お化けじゃねぇぞ?」


 精霊……。


 まあ、神様が実在するんだから、精霊がいても不思議ではないが……。

 精霊って、こんなフランクなの?


 いや、でもそういえば、ツィ様もテン様も結構フランクだったな。


「いや~。お前らが1匹目の悪魔の眼(イービル・アイ)を倒した時は、ちょっと疑っちまったよ。『悪魔の眼(イービル・アイ)にやられて、マッツ・オーウェンという若者が落ちてくる、放っておくと死んでしまう。それを助けてやってほしい』って言われてたのに、一向に落ちてこねぇからさぁ……」

「え? 見てたの?」

「見てたよ」

「どこで?」

「川の中から」

「まじか。ずっと傍にいたのかよ。もっと早く助けろよ」

「別に危なくなかったからさ、まだいいかと思って」


 …………。


「いや、死にかけの目に合う前に助けてくれよ。精霊にはわかんねーだろうが、めちゃくちゃ苦しかったんだぞ」

「そうかそうか。あの方の言う通りにできてよかったよ」


 ……………………。


 話、かみ合ってるか?


「……まあ、いいか。助けてもらったのには変わりないんだからな。ありがとう。お前、名前は?」

「俺はエーリッキってんだ。まあ、覚えなくてもいいぞ?」

「いや、命の恩人は忘れないさ。ありがとう、エーリッキ。ところで、俺の仲間は無事かどうかってわかる?」

「んーー」


 エーリッキは少し小首を傾げ、大きく頷く。


「うん。無事だな。こっちに向かってきているぞ? そのうち会えるんじゃないか?」


 !!


「そうか。無事か……」


 良かった。最大の不安が取り除かれ、ようやくひと安心だ。


「じゃ、約束は果たしたし、俺は帰るぞ?」

「百竜の滝に帰るんだな。気を付けて帰れよ! ありがとう!」


 ジャボン!!


 手を上げて、躊躇なく川に飛び込むエーリッキ。

 この流れの中、上手にスイスイと上っていく。


 そうなんだ。そんな風に、物理的に泳いで帰るんだな。


 精霊なのに……。


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