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第35話 エルナ・グナイスト(1)


 翌朝、これからの行程についてビルマークの面々と打ち合わせをしている。


 ビルマーク王都より北は俺達にとって、完全に未知の世界だ。そこで、土地に詳しい国王テオドール、最高位魔術師であり、宮廷魔術師のシモン・ヴォルフガング、その弟子の魔術師エルナ・グナイスト、爆睡泥酔王子マルクス、俺、リタで話し合っている。


「王都から3日も北上すれば、古竜の大森林に入る。この森にはビルマークのあちこちから移住して村を作り、生活している者達がいる。そういった者達はたまに王都に来て買い物をしたりしているな」


 シモンが説明を始めた。


「また、古くから居つく土着の部族、民族もいる。お主らがよっぽど下手をうたん限りは皆、友好的だから心配せんでよい。森の妖精(エルフ)の目撃情報もあるが、定かではない」


 そこでひと口、茶をすすり、口元を丁寧にふく。


「気をつけないといけないのは、深く広大な森ゆえ迷いやすい、という事と、モンスターだ。我等もさほど出会うた事はないが、森独自の奴らが居着いている。とはいえ、村から村へ移動している限りは出会わんだろう。彼らは安全な所にすんでいるからな。しかし、最も危険なのはそんなものではない」

(ドラゴン)―――」


 俺が口を挟む。


「そうだ。聞いているようだな」

「バルバラ王女に教えてもらった」

「そうかそうか。で、その(ドラゴン)だが、目撃されるようになったのは実は最近ではない。確かにこの辺りまで来るのは珍しいのだが、数十年前にも数度、目撃されている」


 ほう。


 だが、もちろん、(ドラゴン)と戦う選択肢など、俺にはない。


「ま、大丈夫だとは思うが、見つけても珍しいものを見た、と思う位にしておく事だ。間違っても手を出すんじゃないぞ」

「全く同感だ! 絶対に手は出さないとも!」

「ふふ」


 何故か、リタが含み笑いをする。


「そんな事言って…… 結局、戦うんでしょ?」

「やめたまえ、リタ。嫌な予感がする」

「うふふ」

「はっはっは。また武勇伝を作る気か? (ドラゴン)を倒したら教えてくれよ?」


 テオドール王が乗っかってくる。ダメだ。それ以上、言うな。


「ほっほ。まあ、やめておく事だ。命が幾つあっても足らんわ。で、(ドラゴン)がこの辺りや、大森林に現れる理由なのだが……噂では暗黒大陸のドラフ山脈に住み着いている(ドラゴン)達が何者かに追い出され、南に逃げてきた(ドラゴン)が大森林で目撃されている、と聞いた」


 サンクス爺さん。話を進めてくれた。


「何だよそれ。すげえ奴だな、そいつ」

「……てか、それやってるの、例の超人様じゃないの? 名前忘れたけど。ヴォヴァルベル?」


 リタが鋭い事を言う。有りそうな話だ。名前が適当だが。


「ヴォルドヴァルドだな。彼については有名な噂がある」


 物知りな爺さんだ。ダテに長生きはしていないようだ。


「彼にはあらゆる攻撃が通じない。物理無効、魔力無効の最強のシールドを持っている」

「…………はい?」


 そんな反則野郎が存在していいのか……。


「ほっほっほ。戦うとなれば、(ドラゴン)以上にやばい奴だ。心せよマッツ。で、だ。この世でヴォルドヴァルドを唯一、傷付ける事が出来るモンスターがいると言う」

「おお! なら、そのモンスターを手懐ければいいって事か!」

「それが、(ドラゴン)だ、と言われている」

「……………………無理っす」



 まあ実は話の流れからそんな気は少ししてたんだがな。そんなのムリムリ。


 この前見た飛竜(ワイバーン)程度なら何とかなるだろうが。


「つまり、だ。(ドラゴン)を追っ払っているのが事実だとして、それをやっているのはヴォルドヴァルドではないと思われる、という事だ。まあ推測だがな。教えてやれるのは此れ位だ」


 誰だよ、そのすげえ奴。


「いや~。ははは……。かなり、しょげましたわ」

「はっはっは! しっかりしなされマッツ殿! 私の命の恩人だろ! 」


 昨日の事はほぼ何も覚えていないらしいマルクスが快活に笑う。

 くそッ! 気軽に言うんじゃねえよ。何も考えてねーくせに!


「いや~~~。気が重いっす……」


 しかし、どうすんだこれ。言ってる事が事実なら、既に詰んでるだろ。これからの旅がハード過ぎて笑えてくる。


「そんなお主に少しばかりの朗報だ。エルナ」

「はい」


 今まで黙っていたエルナ・グナイストさんが初めて口を開く。胸元が開いた膝下までの薄い青のドレスを着た美しい女性だ。

 歳は……判断しにくいが、20台前半、俺と同じ位かな?


「エルナ、お主、暗黒大陸までマッツの旅に同行せよ」

「承知しました」


 な、な、ええ?

 軽く頭を下げて、澄まし顔で快諾しているが……


「…………え、ええ~~~??」

「む。なんだ、マッツ。不服か?」

「いや、不服だなんて……。ただ、どう楽観的に考えても厳しい旅だぜ? こんな若いお嬢さんを預かるわけには……」


 そう言うと、リタがプッと吹き出す。


「ん? どうしたの? リタ」

「……いえ、何でもないわ」


 リタが笑いながらそう言うと、シモンが真っ白な長い眉毛をハの字にする。


「そうか、お主に紹介していなかったな。エルナは私の大切な弟子で、近い内、私の後を継ぐもの。既にテン系魔法を極めた最高位魔術師だぞ」

「は? 最高……なんだって?」


 エルナも口に手を当ててフフッと笑う。

 仕草が妙に大人びていて、リディアには無い色っぽさがある。


「やれやれ。困ったもんだのう。お主も多少は魔術が使えるんだろう。テン系を極めし者がどれほど役立つか、わからんのか」


 そういうシモンを手で制するテオドール王。


「まあまあ、シモン。それはこれから、旅の中でおいおい理解して貰えばよい」


 そこまで言って顔を俺に向ける。


「とりあえず連れて行け、マッツ。ビルマークを救ってくれた礼だ。絶対に戦力になる。儂が太鼓判を押す」


 王にそこまで言われては断る理由は無い。


「では、お預かりします」

「そうだ、1つだけ訂正しておこうか。旅の間にお前に手を出されても困るからな……。エルナはお前よりはるかに歳上、もう50のおばさんだぞ」


 は?


「おば……」


 エルナの額に癇筋が綺麗に浮かぶ。


「えええええええぇぇぇ~~~!!!」


 リタとマルクスが笑う。


「知ってたのか、リタ」

「昨日、教えてもらったわ。貴方達がバルコニーで何かしてた時に」


 いや、それ、今、関係ないだろ。


「何でさっき、言ってくれなかったんだよ」

「私の口から女性の歳なんて、言える訳ないでしょう」

「ぐぬぬ……」

「わかってると思うけど……貴方はリディアとアデリナ以外に手を出しちゃダメよ?」

「どういう意味だ、おい!」


 そしてエルナの殺意が篭った視線を避けるように、テオドール王が身を乗り出す。


「こいつは女好きだからな。それも相当だ。見ればわかる。歳が離れてるからと安心するんじゃないぞ、エルナ。だが恐らく、こいつは何かを成し遂げる奴だ。神の種(レイズアレイク)も必ずや集めるだろう。お前から手をつけるんだったら、応援するぜ」

「……おふざけは、その辺で」


 ピシャリと言い放つエルナ。

 国王相手でも容赦ない。


 やれやれ……とかぶりを振るシモン。


「差し当たりは古竜の大森林を安全に抜ける事だ。エルナがいれば、まず問題無いだろうが……十分に気をつけるが良い」

「ああ、わかった。シモンさん、ありがとう」

「マッツ一行は我が国を救った上で、古竜の大森林に向かった、とディミトリアス王には連絡しておく。これからの旅も気をつけて行け。マッツ」

「ありがとうございます。テオドール王」


 不意にマルクスが立ち上がって叫ぶ。


「父上の言う通りだ! 用心せよ、マッツ」


 1つでいいから、何か違うこと言えよ。

 この王子は素面で一人の時は良いこと言うんだが、王といるとほんとにダメだな。


「はい。用心します」


 それから俺達はビルマークの人々に派手に見送られ、城を後にした。


 ここで、ランディアから共に旅をしてきた馬とは別れる。馬ではあの大森林を進む事ができない、らしいからだ。

 世話になった馬達は、ランディアへ返しておいてもらうよう、マルクスに頼んでおいた。従ってここからは、みんな徒歩だ。


 最後までバルバラがついてくると言って聞かなかったが、ヘンリックに『ここから先は、自分の身を自分で守れない奴がいると周りが迷惑する』とはっきり言われ、涙ながらに引き下がっていた。


 大丈夫だ。また会えるさ。



 目指すは暗黒大陸。


 だが、その前に、目前に迫る古竜の大森林、こいつを無事、通り抜けなければならない。


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