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第31話 暗殺者(1)


 城までの道中、俺達はビルマーク城についてマルクスから説明を受けていた。

 聞いている限り、造りはランディアのそれと似たようなものだと推測していたのだが、実際に見てみるとビルマーク城の方がかなり大きく見える。


 聞いてみると、どうやら居館のサイズが違うらしい。ランディア城の居館が3階までしかないのに対して、こちらはなんと倍の6階建て、且つ、幅も広く、収容人数は4倍以上になるんじゃないか。よく建てたものだ。


 主に大型建造物に用いられる、レイザンバゥムといわれる巨木を使った、しっかりとした木造を基調として、随所に石造を組み合わせ、装飾はわずかにしか施されていない。


 見張りや遠距離攻撃に使われる高い塔は前方に2棟あり、城壁の高さは15メートルほど、少し大きめの鋸壁(城壁や塔の上部にある凸凹の部分)がある。この辺りはほぼ同じだ。



 王の間に行く前に6階まで通された。旅の荷物を置く為と、小休憩してはどうかという配慮で、先に部屋を提供していただいたのだ。早速、荷物を置き、王の間へ、と思った時に、


「マッツ!」

「隊長!」


 先行してこの城に来ていたリタ、クラウスとようやく合流。お互いの無事を喜んだ。



「うお―――!! 凄い良い眺め!!」


 アデリナが窓から見える景色にはしゃぎまくる。山、川、森、そして人々の居住区が美しく建ち並んでいる。


「ほんと……素敵ね!」


 リディアもうっとりの、この最も見晴らしの良い6階は、おそらく要人が来た時の宿泊階なのだろう。廊下には、歴代の王の銅像が飾られ、煌びやかな武器、防具が飾られている。

 案内してくれた執事さんによると、王子や王女達もこの階で寝泊まりしているとのことだった。



 さて、そんな由緒あるビルマークの『王の間』に俺達は通された。広いが、質素でシンプルな作りで、俺なんかは居心地がいい。政治的には居心地がよくてはダメなのだろうが。


 リタとクラウスを加え、6人パーティに戻った俺達は王の間で横一列に並ぶ。4人の賊は首を垂れたまま、床に膝をついて俺達の右に並ばせた。


 部屋には政務官、武官が居並び、上座に王族達がいる。バルバラは薄い紫のドレス、いわゆる王族の衣装に着替えており、可愛さに威厳が伴った印象を受ける。


 先程まで一緒にいたマルクス第1王子に加え、俺達は初顔合わせとなる、残り4人の王子もズラッと並んでいる。


 そして、中央の玉座に口をへの字に曲げているおっさん……いや、ご老人がテオドール・ビルマーク、その人だ。



 実はこの王の間に通される前に、既に王とは対面済みだった。その時は相好を崩したテオドール王に激しく抱きしめられ、マルクス王子と出会った時とまったく同じやりとりが繰り返された。


 つまりこの場は、主に4人の賊に対しての処罰と、俺達の任務に対する公的な労いの意味で開かれている。


「さて、ランディア守備隊のリタとマッツから、おおよその話は聞いている。処罰について、話を進めよう」


 テオドール王が口を開く。


「我が最愛の娘を誘拐した罪は万死に値する。……が、まあ、これは親としての感情だな。マッツからお前達はただの雇われだ、とも聞いているが……シモン!」


 王に呼ばれて、明らかに魔術師の風体をしたじいさんが歩を進める。

 濃い紫のローブ、水晶をいただいた豪華なロッド、そして綺麗に髪の毛の無い頭部。そう言えばハンスが言っていたな。あれがビルマークの最高位魔術師であり、宮廷魔術師のシモン・ヴォルフガングだ。


 噂通り、かなりの御歳のようだ。90歳か、下手をすると100歳近いだろう。真横にいるのは、弟子なのか、薄い青のドレスの上にシアンのローブを羽織った、若く美しい魔術師風の女性がいる。


「『読心』により、マッツ殿からいただいた情報以上のものはあまり得られなかったことをご報告いたします」

「そうか。お前の魔法バリアを破った方法はわかったか? このような事が二度と起こらぬよう、対策を立てておけよ?」

「はっ。ただ、これについては『読心』だけではわからぬ所もあり、後ほどカイ、クヌートの二人から直接、教えを乞いたく」

「わかった」


 どうやら命乞いなどは不要のようだ。ディミトリアス王と似ていると言われるだけはあるな。


「さて、そこの賊共よ。王子達や裁判官と審議した結果と、先ほどのシモンの読心結果より、貴様らの刑は決定した。王族に関わる問題は王家で裁くルールであるからして、本件は私が裁く」


 4人はびくっとしながら、顔を下げたまま、沙汰を待っている。


「貴様らを5年間の懲役とする。以上!!」



 ……


 かっっっる!


 刑、かっっっる!!


 一般人ではない。王族だ。しかも唯一であり、最愛の王女だ。その誘拐犯に対する処罰なら、正直、命がいくつあっても足りないはずだ。確かに司法としては、対象が誰だから、とか貴賤によって刑罰に違いがあってはならんのだが……。


 びっくりして顔を見合わせる4人の賊達。


 そりゃ、そうだろう。命だけは、、、位に考えていたに違いない。もう一度言い渡された刑を復唱し、頭を床にこすり付ける。


「よかったな、お前達。もう悪いことすんなよ?」


 満足気にシメのひと言を言い渡す俺。そんな俺に、テオドール王が声をかけてきた。


「うむ。これで賊の件は終わりじゃ。さて、マッツ。次はお前達の話だが」

「はい」

「お前達の旅の目的はディミトリアス王からの手紙で知っている。誠にご苦労なことであるな。もちろん、領内は自由に通行するがよい」

「有難き、お言葉」

「うむ。だがマッツよ。それほど急ぐ旅でもあるまい。しばらく、ここでゆっくりしていかんか」

「はっ……」


 確かに1分1秒を争うような旅ではない。

 だが、ゆっくり時間を潰していていい訳でもない。


 どう答えたものか……。


「マッツ殿。王の言う通りだ。しばらくここでゆっくりしていかれよ。ビルマークの王都もそれなりに活気がある。我らがご案内いたしましょう」


 考えていると、マルクスがそんな事を言い出した。


「そぉぉぉだ。マッツ殿。マルクス兄上の言う通りだ。私は父上、兄上に賛成だ!」

「まったくだ。マッツ殿。ライナー兄上の言う通りだ。私も父上、兄上達に賛成だ!」

「その通りだ。マッツ殿。ローマン兄上の言う通りだ。私も父上、兄上達に賛成だ!」

「うむうむ。全く同感だ。マッツ殿。アベル兄上の言う通りだ。私も父上、兄上達に賛成だ!」


 ……


 何やってんの?


 やばい、笑ってしまう。だが、笑ってはいけない。


 ふと横を見ると、リディアが俯いて笑いを必死で堪えている。

 耐えろ、リディア。頑張れ。


「このバルバラは最初からそう考えていましたわ! マッツ殿、もう少しここに滞在しなさい!」


 このやりとりに参加しないのかと思いきや、やはりそうくるのか。


「おお! さすがは我が娘じゃ! マッツ、バルバラの言う通りにせい!」

「「「「「うむ! さすがは我が妹だ!」」」」」



 ブブーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ



 だめだ。耐えきれなかった。

 いや、こんなもの見せられて、耐えきれるか。


「……それだけのお誘いを断ることなど、できません。承知しました。しばらくご厄介になります」


 笑顔でそう言い、誘ってくれたのが嬉しくて笑ったんだよ、という体にする。


 リディアもアデリナも、兄弟達の最後のダメ押しでケタケタ笑いだしてしまった。


 リタとクラウスは俺達より先にこの城に来ていたため、おそらく既にこの洗礼を浴びたのだろう、苦笑するにとどまっている。

 ヘンリックは、笑いもせず無表情のままだ。やるな、お前。


 少し心配したが、テオドール王も王子達も、がっはっは、と同じように笑っている。


 バルバラは満面のドヤ顔で腕を組んで仁王立ちだ。


 ほっ。


 まあ、何というか、仲の良さそうな家族だな。


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