第29話 王女誘拐(4)
宿を出て3日がたつ。
道中、ヘンリックがずっと無口、もちろん4人の賊達も喋らない。
つまり、旅の間、ずっと女子3人のトークが耳に入ってくる。
いや、勿論、耳障りな訳では無い。むしろ、超人と対決しないといけないかも、という気の重い問題をひととき忘れさせてくれ、癒してくれる。
たまに俺とヘンリックも会話に入れてもらう。もっぱら俺に話しかけてくれるのはリディアとアデリナ、ヘンリックへはバルバラだ。
しかし、よくそれだけ喋ることがあるもんだ……と感心してしまう。
聞いていると、話の内容は多岐に渡る。
この辺りの景色から始まって、お互いの国の風土、気候などの地理的な話、ファッション、アクセサリー、食べ物、流行りの店、など、文化的な話、リディア、アデリナによる魔神アスラ、エッカルト退治の話、バルバラによるテオドール王の英雄譚、5人の兄の話などなど、まったく話題は尽きないようだった。
「ねえねえ、今の聞いてた? マッツ。ビルマーク王国って、最近、空を飛んでいる竜が目撃されてるんだって!」
リディアが興奮気味に言う。
「本当かい? そりゃすごい……けど、これから北に向かう俺達には、悲報だな」
「気をつけるが良いぞマッツ。城より北に行くほど遭遇率は上がっていると聞く。そなたが如何に強いかは既に聞いたが、いくら何でも竜には敵うまい」
「戦かったことないからわかんねーが……とてもじゃないが無理だろうな。そもそも人と比べるような生き物じゃないだろう」
この頃には、俺もバルバラから丁寧な物言いは不要、とのお許しを得ていた。
バルバラの第一印象は最悪だったが、一緒に旅をしてみると噂のような酷い、粗暴な振る舞いは見受けられない。子供が背伸びして自分を大きく見せようとすることなんて、よくあることだ。百聞は一見にしかず。噂なんか当てにならないものだと痛感。
その夜、適当な平原にテントを設営、食事を終えた後。
キ――――――ン!
敵意感知。
狙っているのはバルバラだろうが、俺達が護衛しているため、敵意が向き、センサーに引っかかったのだ。
「皆、構えろ」
すぐさま、敵襲に備えるリディア、アデリナ、そしてヘンリック。
バルバラは俺の敵意感知能力についても聞いていたらしく、小さく『おお、これが噂の―――』と呑気に呟いていた。
それから1分も経たない内、目の前に20人程の見るからに暗殺者のナリをした奴らが現れる。俺達の捕虜になってる奴らと同じ格好、黒装束の集団だ。
「これ以上、捕虜が増えても困るんだがな」
少し、挑発してみる。
「……」
「……」
表情を変えずに、冷静に俺達を囲む。
乗ってこないか。まあいい。
「行くぞ!」
「ああ」
「ディー・ラン・ザンツ・マイ・ヌ・ファインズ!!」
リディアがいきなり詠唱に入る。
「『鈍い足』!!」
指定範囲に効果がある鈍足の魔法だ。鈍足は相手が空でも飛んでいない限り、基本的にどんなシーンでも役に立つ汎用性の高い魔法だ。
「さすが! リディアねーさん!」
言いつつ、瞬時に弓矢を構え、数人の肩を射抜く。アデリナもさすがの腕前だ。射抜かれた奴らは悶絶してのたうち回っている。
どうやら魔法耐性がある奴らが混じっている。明らかに鈍足の動きではない奴らが襲いかかってきた。
ここからは俺とヘンリックの出番だ。
「ヘンリック!」
「おう!」
阿吽の呼吸でそれぞれが戦う相手を決め――― 倒す。
一瞬で大勢は決した。
鈍足にかかった奴らは次々に弓の餌食になり、かかっていない数人は逃げていく。
「青竜剣技!『飛』!!」
わざと体には当てず、足下をかすめるように、脅しの『飛』を放つ。人間相手では下手に当てると死んでしまうからな。
驚き、恐れの表情を見せながらも後退し、逃げ出す襲撃者達。
「ヘンリック、バルバラを頼む」
言い捨て、すぐに追いかける。
旅の間、何度も襲われるのはゴメンだ。
―
しばらく、攻撃しながら追いかけたのだが、うまく森に逃げ込まれ、見失ってしまう。
逃げ足の速い奴らだ。
結局、収穫無しで引き返したのだが、道すがら、何か違和感を持つ。そして、アデリナが弓矢で射抜いた奴らが、そこにいないことに気付く。
嫌な予感がして、急ぎ、テントに返ってみると……。
太い槍を携えた見知らぬ男とヘンリックが戦っているではないか!
一瞬でわかる。
『只者では無い』と。
槍でヘンリックと渡り合う事自体、凄い事なのだが、それどころか、見る限りはヘンリックが押されている。こんな光景は初めて見た。
「ヘンリック!!」
走りながら、剣を構える!
俺の声に男が驚き、俺の方へ振り向く。
金髪と青い目をしているところから、諸島より東の人間なのだろうということはわかる。2メートルを超える上背があり、筋骨隆々な体躯がタンクトップの皮鎧上から見て取れる。
そして男は……ニヤッと笑った。
「こりゃいかん。恐ろしいお邪魔虫が来たぞ? フフッ」
何だ、コイツ! 何がおかしい!?
だが、誰だろうと何だろうと構うものか。ヘンリックと互角以上に戦う奴に手加減などできない。とはいえ、フルパワーで修羅剣技を放つと確実に死んでしまうだろう。
一瞬、躊躇した後、魔力は半減させ、その代わりに火属性で継続ダメージを与えてやる事にした。しかもヘンリックと挟み撃ち! これなら捕らえられるだろう。
「火竜剣技!」
男は俺の方に向き直り、槍を構える、と見せかけて槍の石突き(槍の尾の部分)でヘンリックの槍を見事にかち上げ、
ガキィィィンッッ!
「な!」
ヘンリックの槍が宙を舞い、呆然とした表情が目に映る。バカな! えぇい!!
「『突』!!』
最強剣技の突きをお見舞いしてやる。爆炎を伴いながら、スクリュー状になり、相手の喉元を破壊!!
――― するはずだった。
戦士はその豪槍で、巻き付けるように炎を絡め取ると、何と、それをヒョイっと右上後方に、投げ捨てた。
ドゴォーーーーーーン!!!
馬車の遥か後方で、投げられた『突』が爆発する。
なんだって―――!?
「クックック。修羅剣技の使い手、しかもその頂点に君臨する剣聖などと戦う趣味はないのでな。一旦、退かせて貰うぞ」
「な、何を―――」
戦士はそう言うと踵を返し、硬直している俺達を尻目に、恐らくは乗ってきたのであろう、栗毛の馬で逃げようとする。
「おっと、そうだ」
が、馬の前で立ち止まり、何やら急に語り出す。
「戦士として名乗っておこうか。私はルーペルト。地元では魔戦士と呼ばれている。もちろん私の名なぞ、ランディアやビルマークまで届いておらんだろうが……。会えて嬉しいよ、高名なマッツ・オーウェン。縁があればまた会おう」
そう言うと、馬に跨り、今度こそ逃げて行ってしまった。
あまりの事に、俺達は後ろ姿を目で追いかけることしか出来なかった……。




