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第26話 王女誘拐(1)


 ■第1章 あらすじ


 ツヴァリアで悪事を企んでいたエッカルトを倒し、召喚された魔人アスラも、無事、魔界(?)に戻る。史上最高の魔術師と言われるコンスタンティンにより、エッカルトが『タカ』に発現した『神の種(レイズアレイク)』を収集し、それを使って魔人ミラーを召喚しようと企てていた事が明らかになる。

 ランディア国王ディミトリアスは、マッツに世界に散らばる『神の種(レイズアレイク)』を収集し、魔人ミラーの召喚を阻止するよう、命ずる。


 旅立つ直前、コンスタンティンから、次の『神の種(レイズアレイク)』は、5超人の1人、ヴォルドヴァルドが持つと聞き、早速、やる気をもがれるマッツ。


 かくして、マッツ、リディア、アデリナ、ヘンリック、リタ、クラウスの6人は、世界に旅立つ。



 ランディアの王都からこのまま北上し、国境を越え、ビルマーク王国、そして『古竜の大森林』を抜け、暗黒大陸へ。ドラフジャクド皇国に入国、超人ヴォルドヴァルドを探しあて、『神の種(レイズアレイク)』を譲り受ける、もしくはどうにかして奪う。


「……よし、じゃ、このシナリオで!」


「「「「「……」」」」」



 ここは、ランディア王都から北に2日程の位置にある小さな村の宿屋の2階だ。領土的にはまだランディアに属している。


 今日はあいにくの雨なのだが、たまたま、宿屋で泊まるタイミングだったのはラッキーというしかない。

 北への街道沿いの宿泊施設としては、知る限りここが最後だ。後は野宿、もしくは空き家を見つけて寝泊まりしなければならない。


 馬小屋に馬を預けさせてもらった俺達は、老夫婦が作ってくれた晩飯をいただきながら、これからの方針について話し合っていた。


「はあ……今からでも、ハンスを呼んだ方が良くないかしら?」

「ハンスが聞いたら頭を抱えるでしょうね」


 リタとクラウスが何やら俺のシナリオにケチを付けている。


「いやいや、まだまだだな、君達」


 俺は偉そうに腕組みして説明してやる。


「そもそも、俺達は誰1人、暗黒大陸はおろか、王都より北に行ったことなんてないんだぜ? つまり、だ。土地感ゼロ、前知識ゼロ、のオノボリさん集団だ。まずは身の程をわきまえ給え!」


 テーブルをバンッと叩く。


「はぁ……」


 クラウスが、首を傾げながら生返事をする。


「要するに、だ。今の時点であーだこーだ、細かい事を考えても無意味ってことだ。道すがら、直近目的地の情報収集をしながら進むしかない」


 そこまで黙って聞いていたヘンリックが、頷きながら口を挟む。


「大まかにルートを決めたって事だろう。それでいいんじゃないか」

「……確かに、最悪、何かあって離れ離れになっても、集合できるかもしれないわね」


 リタも納得したようだ。


「そぉぉぉいうことだ! 万が一、迷子になってしまったら、直近の目的地に集合だ。わかったね!」

「マッツにーさん、先生みたーい!」

「ふふふ。尊敬したかね」

「うん!」


 アデリナはニコニコしながら頷く。

 その隣のクラウスが、ふと口を開く。


「直近と言えば……ビルマーク王国ですよね」

「そうだ。この国については多少予習してきたぞ」


 そこで、大皿に盛られているサラダをバリバリっと口の中に放り込む。


「ビルマーク王国。カナン歴798年、ランディア第二王子ヴィルマーが建国。国土の大部分は古竜の大森林で埋め尽くされ、人々はその周囲に住んでいる」

「え!? じゃあランディアと親戚ってこと!」

「そうよ。だがら王都同士がとても近く、国同士も仲が良い、と聞いた事があるわ」


 アデリナの疑問にリタが答えてくれた。


「商業はリナ諸島、ペレ諸島とやりとりしている沿海都市ガルマニア辺りが最も栄えている。王都の住民は二十万程度……とまあこんなところだな。俺達に関係がある話をしようか」


 皆、黙って聞いているのでそのまま話を続ける。


「ディミトリアス王とテオドール王はかなり親しいと聞いている。王は俺に先に連絡はしておいた、と仰っていたから、ビルマークでは無下にはされないだろう。ただ、()()()()()と聞いているから、若干気が重いが……」

「確か、王子が5人いるのよね」


 姿勢良く正座をしているリディアが口を挟んでくる。


「そうだ。王子が5人、王女が1人。この王女が末っ子で、確かまだ13、4歳位かな? 何でもテオドール王が50近くで初めてできた女の子で、無茶苦茶可愛がられて育ち、案の定、超ワガママ娘で侍女達も困っているらしい」

「ぶるるっ。そんなのと関わり合いになりたくないわね」


 リタが両腕を抱える。


「全くだ。テオドール王にさっさと用件だけ伝えて通らせてもらおう」



 晩飯はシチューだけだったが、非常に満足のいくものだった。塩味が絶妙な配分で美味しかった。みな、ペロリと食べ終わってしまう。


「さぁて食器を返しに行くか。セルフサービスだからな……」


 クジ引きで俺とヘンリックが負け、2人で1階のキッチンに食器を下げに行く。


「ごちそーさま!!」

「うまかった」

「はいはい。お粗末様。ありがとね」


 爺さんが笑いながら、食器を取りに来る。


「時に爺さん。ここからビルマーク城まで行くんだが、少し、食料の補給はできるかね?」

「……お前、まだ口調が変なままだぞ?」

「あれ? そうか?」


 ガラガラガラガラ……


「ん!?」


 俺とヘンリックが同時に扉に視線を向ける。


「何か、音がしたか?」

「ああ。何か止まったな。……四輪車だな」

「お客さんかのう。困ったな。もう部屋空いとらんわ……」


 婆さんが、皿を洗う手を止める。


「まあ俺たち1部屋でも寝れるから、必要だったら言ってくれよ」

「すまんのう」


 そして、ヘンリックと2階に上がる。


 直後!


「手を上げろ!」

「死にたくなかったら、大人しくしろ!」


 ガシャ! ドシャ! ドカドカ!


 何者かが、この宿に乱入してきた!


 一瞬、ヘンリックと顔を見合わせ、すぐに階段と1階の天井の隙間から下を覗く。


 3人のずぶ濡れの男達が、老夫婦を取り囲んでいる。爺さんと婆さんは、真ん中で両手を首の後ろで組まされている。


 賊か。4輪車なんかで移動する賊がいるのか? いや、きっと何かを運んでいるに違いない、と、ピンと来た俺は、ヘンリックに2階から出て外にいる奴を始末するよう、手と指の動きで指示する。


 素早く頷き、音も無く残りの階段を駆け上り、窓から外に飛び出すヘンリック。頼りになる奴だ。


 さて、当然ながら今は帯剣していない。無剣のスペルもあるとはいえ、『翼翔』とかやってしまうと、宿屋を破壊してしまう。


 一瞬考えたが、そのまま出て行くことにした。とりあえず1階に降りる。


「こらこら、老人になんて扱いをしてるんだ、お前達」


 ハッとして俺を見る賊。


「誰だ!」

「何者だ!」

「いや、こっちのセリフだろ、それ」


 階段に近かった1人が、正確に俺の心臓目掛けてナイフを下から突き刺して来る。躊躇のない、なかなかのスピードと角度。こいつ、人を殺した事があるな?


 ……だが、遅い遅い。


 右手でナイフを持つ手を捕らえ、自分側に引くと同時に体を入れ替え、俺の左脇で相手の腕を締め、捻り上げてナイフを落とす。

 体勢が崩れ、前屈みになっている所を上から肘、同時に鳩尾に膝だ。人殺しに容赦はしない。


「うごぇ!!」


 時間にして1秒くらいだ。

 あっという間に賊Aを仕留める。


 すぐさま2人目が襲って来る。同時に来ればいいのに……。


 今度の奴は剣を使うらしい。部屋の中で思いっきり細身の剣を振り回してきやがった。老夫婦には悪いとは思ったが、避けさせてもらう。


 ザクッ!!


 壁に剣が食い込む。


 その時2階から、リタを先頭にドヤドヤと皆が降りて来る。


 一瞬、注意が逸れる賊B。


 バキッ!!!


 正拳突きで、こいつの剣を折ってやった。


「げっ」

「ひっ!」


 恐怖で顔が引き攣る賊Bと賊C。


「うおりゃあ!!」


 目の前で硬直しているBに、右の回し蹴りを食らわす。体を「く」の字にして吹き飛び、泡を吹いて気を失うB。残ったCが震えた手で、短剣を老夫婦の首にあてる。


「何だそれ。動くとこの爺さん婆さんの命はないぞ!! ってことか?」

「え? あ、う…… いや、そうだ」

「ほーん……。お前、何で俺がわざわざ剣を折ったのか、わからないのか?」

「え? え?」


 そこでワザとドンッと床を鳴らし、大声でまくし立てる。


「お前ら捻り殺す位、ワケないんだよ!! その2人に傷ひとつでも付けたら、つるっ禿げにして、素っ裸にして、暗黒大陸のド真ん中に放置してやるッッッ!!」

「ひ、ひぃぃぃ~~~!!」


 入ってきた入り口に向けて猛ダッシュする賊C。リタが慌てて追おうとするのを手で制する。


「……マッツ?」


 怪訝そうな顔で俺を見るリタ。だが大丈夫だ、安心しろ。外にはアイツがいる。


 バタンッ!!


 ドアを勢いよく開け、チラッとこちらを見て、追いかけてこないことを確認し、外に逃げ出す。


 ……が、数秒後、外で『ドフッ』という音がし、半眼になった賊Cが、首根っこを掴まれて帰ってきた。


「お帰り。賊C君。早かったね」


 ワザと目の前で、ニタァ~~~と笑ってやると、白目を剥いて気絶してしまった。


「賊C?」


 その賊を掴んでいる、雨に濡れた浅黒いイケメン少年、ヘンリックが不思議そうな顔をして聞いてくる。


「こっちの話だ、気にするな。逃して悪かったな。表は片付いたか?」

「ああ。だが馬車の中に1人、女がいたぞ」

「女?」


 その時、入り口から、いかにも高貴そうな女性が入ってきた。まだ子供のように見える。


「……誰?」


 俺は首を傾げて尋ねる。


「『誰』とは無礼な。 妾はテオドール・ビルマークが娘、王女バルバラ・ビルマークぞ!」



 し~~~ん……


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