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第15話 ツヴァリアの戦い(4)


 少しだけ休むつもりが、がっつり寝てしまったようだ。気が付けばもう辺りは夜だ。


 俺の横にはリディアとテオが寝ており、アデリナはその反対側で寝て……おらず、俺のすぐ近くで頬杖をついていた。どうやら、ずっと見つめられていたようだ。


「おはよう、おにーさん!」


 アデリナの無垢な笑顔がとても眩しい。


「う……おはよう」

「起きたか……?」


 火を焚いているハンスが俺に気付く。


「ああ、すまない。寝るつもりはなかったんだが……」

「気にするな。それだけ疲れていたんだろう」


 俺が寝てしまっていた間、ハンス、ヘンリック、クラウスの3人は、エッカルトの見張りをアデリナとリディアに任せ(とは言え、途中でリディアも寝てしまったそうだ)、エッカルトが召喚していたモンスターを全て始末していたそうだ。

 もっとも、ハンスだけは少し仮眠をとったそうだが。


「こんな所に根城を作っていたとはな……」


 付近で拾ってきたであろう小枝を、火にくべながらハンスがポツリと言う。


「……全くだ。もっと早く気付いていれば、被害ももっと少なかったんだが」

「どうしようもない事だ。そもそもラシカ村やツヴァリアの存在すら、我々は知らなかったんだからな。……あまり気にするな」

「ああ、そうだな」


 話しながら、ハンスの対面に座る。


 アデリナもくっついてきて、何故か俺の左手を抱いている。


 丁度、ヘンリックがこっちに歩いてきて、ハンスと俺の間に座った。テオが怖がるだろうと少し離れた場所でエッカルトを見張っているのだろうか。だとすると、今、見張りはクラウスか。


 そこで、あらためてハンスに聞く。


「ハンス、どうしてここにいるんだ? オーガはどうした? エッカルトが自信満々に1週間は釘付けだ、と言ってたぞ?」

「お前の疑問はさておき……」


 そこで、真っ直ぐ俺の目を見、問い詰めてくる。


「俺の事より、まずお前の話が先だ、マッツ。アジトがどうとかヘンリックから聞いたが、何故こんな所にいる? 何故エッカルトもここにいる? ヤツは何をしようとしていたんだ? 全て話せ」


 いや、俺の疑問を勝手にさて置くなよ……


 まあ、ハンスからしたら尤もだ。わからん事だらけだろう。


「あー……まあ、簡単に言うと……」


 そもそも前からモンスターの発生に違和感があった事辺りから話し出す。


 無論、『エロ隊長』のくだりは割愛させてもらった。


「ふむ。魔神ミラーか……そんなものまでヒトが召喚できるというのか……?」

「さっ。次はお前だ。ハンス。何でここにいるんだ?」

「何でもクソもない。その『釘付け』の意図が見え見えだったからだ」


 ハンスがニール村に着いた時、モンスター達は大して活発な活動をしていなかったそうだ。


 ところが、その後、次から次へとオーガが現れた。一団をやっつけても、また一団、次、次、とキリがなく、とは言え、一気に蹂躙する、という感じでもない。


 3箇所で同時にモンスターが発生した違和感はハンスも感じていたらしく、更に俺が今回の編成から外れたのも気になっていた。


 救援2日目も、同じように攻めてくるオーガを見て引き返す事にしたらしい。


「クリストフが一緒にいたし、何より『タカ』が危ないと思ったからな。結局、今朝早くに『タカ』に着いたのだが、今度は、お前達がいない」


 ハンス……お前って奴は……。

 今朝、『タカ』に着いただと?


 お前の方こそ、全然寝てないんじゃないのか?


 ハンスは仮眠で済ませたというのに、俺ってば、がっつり寝ちゃってゴメンね……。


「……ヘンリックに事情を聞くと、お前達を探しに来いと伝言があると言う。そしてお前達の代わりにいたのが……」

「私!」


 不意に横からアデリナが会話に加わる。


「……そうだ。3日前、お前とリディアがリェンカリの森で、彼女が危なかった所を助けてやったそうだな。その後、翌朝になってもお前達が森から出てこない事を知り、心配になって『タカ』まで来てくれたそうだ」


 眉を寄せ、心配そうな表情をしたアデリナがハンスの後に続いて説明してくれた。


「ラシカ村の自警団の見張り役の子達に聞いても、そんな人達は森から出てきてないって言うもんだから…… 念の為、砦まで行ったんだ。そしたら、砦にもいないからさ……すごく心配したんだ! ヘンリッ君に事情を話してハンスさんが帰ってくるまで私も『タカ』にいることにしたの」

「……その、『ヘンリッ君』ての、やめろと言っただろ」


 珍しくヘンリックが苦い顔で言う。


「……とにかく、お前達が危なそうだという事がわかり、クラウスとヘンリックを連れ、アデリナにガイドをしてもらいながら、一直線にここまで来た、という訳だ」

「おお……友よ! 心配かけてごめんね!」


 俺はおよよ、と泣き崩れる、マネをする。


「今回、たまたま助かったから良かったものの……これからも上手くいくとは限らないぞ、マッツ」


 厳しい、しかし優しさに溢れる有り難いお言葉だ。


「肝に命じておきますです……」

「やれやれ」


 ため息をついて、火に向き直るハンス。


 そして……キラッキラした瞳で、俺を見つめる隣の美少女。


「……あの……アデリナも、ほんとにありがとう。君がいなかったら、本当にダメだったかもしれない」

「良いんだ! おにーさん。おねーさんもテオも、皆、無事で良かったよ!!」


 更にギュッと腕に抱き付いてくる。


「う、うん。あの……少し、離れてくれると……嬉しいんだけど……」

「ん。イヤ」

「あ……そう……」


 ハンスが目の前で、珍しく、フフッと笑った。


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