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第101話 放浪少女リンリン


 モロンハーナや商業ギルドの動向を見つつ、時々ユリアやコンスタンティン達と飲みながら1週間をニヴラニアで過ごす。


 モロンハーナのアジトから感じていた視線、まだ時折感じるのだが、どちらかと言うと見守っていてくれるような、そんな感じだった。


 なのであまり嫌な気もせず、大して気にせず過ごす。



 そして別れの時が来た ―――


「アンタにはどれだけ感謝しても、し足りない。マルガレータは一昨日、エイブルに帰ってしまったが、あいつの分もお礼を言わせてくれ。本当にありがとう」


 そう言って頭を下げるユリアとカイ。

 彼女達にはエイブルに戻ってからも大変な仕事が待っている。


「そんなに気にしなくてもいい。そっちの事件がなかったらラッドヴィグを見逃してしまっていた。むしろ奴は元々、俺達がケリをつけるべき相手だったんだ。そっちこそこれから大変なんだ。頑張れよ」


 顔を上げ、ニコリと笑うユリア。


「アンタは……とても優しいね。女の敵と知らなかったら惚れてしまう所だよ。これからも色々と大変だろうが、頑張っとくれよ」


「誰が女の敵だよ!!」


 本気で訂正したのだが、あっさりスルーされ、エイブル行きの船に乗り込む2人。


「じゃあね!!」


「元気でな!」


 船から手を振る2人。

 振り返す俺達。


 短い間だったが、出会いと別れを繰り返すのが俺達の旅だ。仕方無い。


 船が見えなくなるまで見送った後、次はコンスタンティンに向き直る。


「次はどこに行くんだ?」


「本当はリゲルを返しに、アスガルドの方向に戻ろうと思っていたんだけどね。それは君達に任せるとするよ。次はドラフジャクドの方へ行ってみようと思う。君達が救った、ね」


 コンスタンティンの話を聞いた後、俺達の旅の話もしたのだ。


 ビルマーク、古竜の大森林、ドラフジャクド、そしてサイエン、ヒムニヤ、ヴォルドヴァルド、ヘルドゥーソとの出会いと戦い、など、コンスタンティンには非常に興味深い話だったようだ。


「そうか、元気でな。リゲルは責任を持って任された。また会う時を楽しみにしてるよ」


 そう言って固く握手をする。


「そうだ、1つ言い忘れていた。カルモルは砂漠の国なんだけど、どうやらあそこにも地下迷宮があるようだ。だが、絶対に行ってはいけない」


「迷宮ね……ま、俺達にはあまり用の無い所だが……何かあるのか?」


 そう、俺達の旅の目的はアスガルドにある。まだ神の種(レイズアレイク)は現れていないかも知れないが……。


 とはいえ、危なそうな所なら情報を聞いておかないとな。


「わからない。僕も入ったことはないのでね。だが、行けば僕は死ぬだろうな。そんな気配をビンビンに感じる」


 待て待て。


 何それ。超危ないじゃないか。


「わかった。絶対に行かない」


 断言しておかないとな。(ドラゴン)の例もあるし。……あの時も断言してた気はするが。


 そして、エッカルトとも……。


「エッカルト。お前とは色々あったが……今の楽しそうなお前を見たら、なんか……もうどうでもよくなったよ。勿論、お前がやった事は許される事じゃない。コンスタンティンと旅をして、ある程度、自分に踏ん切りがついたらランディアの皆、ディミトリアス王に謝りに来い。それまで……元気でな」


 ビックリして俺が差し出した手を見るエッカルト。

 やや俯き……そして俺の手を握りしめる。


「わかった……必ず、行く」


 それだけ言うと、ポツリと1つ、涙を落とす。


 パーティの皆の笑顔を見ると、どうやらこれで許してくれたようだ。


「よし、じゃあ、体に気をつけてな!」


「ああ。またね! みんな!!」


「クックック。また会おう、俗物共!!」


「無理するんじゃないわよ! エッカルト!!」


 コンスタンティンが何やらブツブツと唱えるとあっという間に上空に舞い上がり、みるみる見えなくなった2人。


「あの移動手段、良いなあ……」


 アデリナが羨ましそうに呟く。


「フッフ。ほんとだな。だが、あいつらも交通手段がある場合は普通、使わずに歩くらしいぞ。ま、今回は飛んでいってたが」


 そして、俺達も出発だ。


「さ! 俺達も行こう!」



 ―――


 ニヴラニアの東海岸行きの船は2週間後という事で、まあ待っていてもよかったんだが、徒歩で東進する事にし、次の目的地、ペレ諸島マリー島への船着場に向かう。


 ここもエイブル島と同じく、島の中腹には殆ど何も無い。しかし、歩く程に木々が生い茂り、道が無くなり、ルートとしてはエイブル島よりもハードだ。


 しばらく、その深い森コースを歩きながら、東へと進む。


 とはいえ、古竜の大森林のようにモンスターが出てくるわけでもなく、森の妖精(エルフ)が出てくるわけでもなく、実に淡々と進む。


 4日ほど歩いただろうか。

 夜になり、今日は久々の野営かな、と思い始めた時、ふと、違和感を感じ、前を見る。


「あれ? ……人……か?」


 前方に俺達の行く手を阻むように、巨大な倒木があり、その上でくの字になってうつ伏せになっている人型の何かがいる。人だとすればこちらに向いているのは下半身か。


「そのようね……女性……いや、女の子かしら?」


 リタが目を細めて凝視する。


 行ってみよう、ということになり、急いで走る。



 ……どうやら人間の女の子のようだ。


「死んでは……いないようだな?」


 ヘンリックが覗き込み、確認する。

 アデリナも倒木を跨ぎ、神妙な顔で下から女の子の顔を見上げる。


「う〜〜ん。寝ているみたいだね」


「寝てる!? マジか、こんな小さな女の子が、こんなとこで??」


 襟のある胸元に大きなリボンを付け、膝丈位までの赤いワンピースを着ている。およそ、こんな所にいるような服装では無い。

 恐らく生まれは修羅大陸なんだろう、リタと同じ、綺麗な赤毛で、下ろせば肩甲骨位までありそうだ。今は頭が下になっている為、地面スレスレに垂れ下がっているが。


 何か事件に巻き込まれたのかもしれないという懸念から、野営できる所まで連れて行こう、という事になった。


 女の子を背負いながら、森を歩く。

 まだほんとに小さい。10歳位? いってても12、3歳位か。非常に軽い。寝顔も可愛いもんだ。


 しばらくして、ようやくテントが設営できそうな場所を見つけ、そこで野営する事に決める。

 一旦、マットを置き、その上に女の子を寝かせる。手早く野宿の用意をしながらも、時々、様子を伺う。


「ご飯の用意をするわ」


 リディア、ヘンリック、アデリナで飯の用意をする。


 実はヘンリック、不器用に見えて料理が非常に上手だ。

 魚も器用に捌き、味付けも素晴らしい。


 今日は道すがら確保した山菜、兎、キノコあたりを鍋にするらしい。


 出汁を作り煮込み出すといい匂いが充満する。


「うお! くいもん!!!」


 突然、女の子がはね起きる。


「「「うわっっ」」」


 近くにいたアデリナ、リタとリディアが驚いて振り向く。瞬間移動でもしたかのようにリディアの真後ろにいたため、リディアは尚更、ビックリしたようだ。


「ひぇっ」


「食いもん! は、腹減ったぁぁぁぁ……」


 ぐぅぎゅるるるるる……


 女の子のお腹から凄い音が聞こえる。しかし、不意に自分のポケットや小さなポシェットを探り出す。


「あれ!? マメ! マメは!?」


「豆? ……いや、豆なんぞ煮込んでないが……」


 ヘンリックが真面目に返答するが、何故かそのヘンリックに向かって怒鳴り返す女の子。


「当たり前じゃ! 煮込まれてたまるものか! マメ! マァメェ〜〜〜!!」


 ……チリリン……


「ん? 鈴の音が聞こえるな……」


「え! どこ!?」


 チリリリリンッッ!!!


 赤い小動物が木の上から鈴を鳴らしながら木の幹を駆け下りてくる。

 赤ネズミ? ……いや、羽があるぞ? 羽トカゲか? 今作った新種だが。体長20センチ位の小さな、例えるなら竜のミニスケール版の生き物だ。こんなのは今まで見た事がない。


「うわっっぷ! ……マメェ〜〜〜! よかった! 迷子になったかと思ったぞ〜〜〜!!」


 途中でジャンプ! 女の子に飛びつき、ミャーと猫のように鳴く。両手で受け止めた少女がうしゃしゃしゃしゃ! と揉みくちゃにしている。


 どうやら、ペットらしい。


「マメ……っていうのか。可愛いな」


 名前が……と思いつつ、それは言わなかった。


「お! 青年、見る目あるじゃないか」


 どうやら俺達を怖がっている感じは無い。

 つまり、事件って訳でもないようだ。


「まあ、ちょっと落ち着いたら、話そう」


「あ、もう大丈夫だ。……でも先にご飯、めぐんでくれんかのう……」


 ぐるるるるるる……


 またもやタイミングよく、少女の腹が鳴る。

 お腹を抑えながらも小首を傾けて、ウフッと笑顔で頼み込んでくる。


 何やら、厄介者の匂いが……



「できたぞ」


 ヘンリックが無愛想にそう言うと目を輝かせる少女。

 リディアが器に盛って渡すと、物凄い勢いでガツガツとかっこっんでいく。


「飢えてるな……」


「ムシャムシャ……朝から……モグ……何も食べてなくてね……ムシャムシャ……んマイッッ!!」


「わかったわかった。取り敢えず、落ち着いて食え」


 どうやらあまり心配しなくても取り急ぎは大丈夫そうだ、と判断し、他愛もない雑談をしながら食事にする。



 ―


「食った〜〜〜」


 少女が満足げにバタンッと後ろに倒れる。

 すぐにマメと呼ばれる生物が彼女の胸の上に乗り、チリンと音をたてる。


「マメにはやらなくていいのか?」


 一応、聞いておく。


「どこかで食べてきたのであろう。腹は減っておらんようだ」


 そう言いながら目でマメを追っている。俺達の名前を教え、まずは彼女の名前を聞くことにする。何かと不便だからな。


「……で、お嬢ちゃん、名前は?」


「リンリンだ。よろしくな」


 仰向けに寝転びながら、そう言うとスッ……と目を閉じる。


 いや、食ってすぐ寝るんかい!


「もうちょい話さないか? リンリン」


「……ん。まあ、よかろう」


 よかろうって……

 何故、上から!


 上半身だけムクッと起き上がるリンリン。

 マメと呼ばれる『それ』が、器用に肩の上に移動する。


「どうしてあんなとこで寝てたんだ?」


「うむ。実はな……普段この森に入らないから、迷子になってしまったのだ! 彷徨っている内に腹が減ってきて、あの木の上で力尽きたのだ」


「ふーん。何故、この森に?」


 口の周りをペロリと舐め回し、ニコッと笑う。

 とても愛らしい笑顔だ。


「ミラー大陸の方までマメと旅行中でな。たまには船でなく歩こう、と決めたのはいいが……てへへ」


「旅行って……お父さんやお母さんは?」


 アデリナが皆思っていた事を聞いてくれる。


「おらん。リンは天涯孤独なのだ……だが、マメがいるから寂しくはないぞ?」


「ありゃ、そうなんだ……ごめんね」


 申し訳なさげに首をすくめるアデリナに、しかし、快活に笑うリンリン。


「ハッハッハ! 気にする事はない、アデリナ。なかなかこれで、人生、充実しとるしのう」


 人生……


 なんか調子狂うな……。

 この旅に出て、初めてのタイプだ。


「天涯孤独なら俺と同じだな……そのペット? は何なの?」


「マメはペットではない。リンの親友、いや家族なのだ。竜族だが、これ以上でかくならん。成竜じゃ。喋れもせん」


 なんと、竜なのか!

 そんな気はしていたが。


 成竜と言うんだから、このサイズで大人ってことか。


 そう言われてふと気付くとマメと言われる小竜と目が合っている。

 そして、首を傾げたかと思うと……突然ジャンプして俺の懐に収まった!


「うわっとと……」


「ミャー!」


 これにリンリンが目を丸くして驚いている。


「おおう!? これは……初めて見たぞ? マメがリン以外に懐く所なんぞ……しかも男に!」


「は……は……不思議と(ドラゴン)に好かれるんだ……俺……」


 そう言って、恐々、マメの後頭部から背中にかけて撫でてみる。

 ミャーと鳴きながら気持ち良さげだ。


「リンリン。ミラー大陸なら俺達と同じ方向だ。途中まで一緒に行くか?」


「……ま、旅は道連れというしな。マメもお主を気に入ったようだし、それもよかろう」


 さっきまで餓死寸前だった奴が何言ってんだ? とも思うものの、この歳で親御さんもいないんだから、それなりに苦労してきたんだろう。

 少なくとも、人の居る場所までは連れて行ってやらないとな。大人として。


 そんな訳で、護衛がてら、『放浪少女リンリン』と共に旅をする事になった。



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