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僕の頭上の2つの選択肢  作者: 高岳 大雅
2/2

2話 思っても口にするんじゃない

 さて、続きだ。


 だが、この村長が中々に口を開けたまま言葉を溜めている。焦らしているのが目に見えて分かるが、そういうの要らない。


 「──その訳は、じゃな·····」


 ん? 少し村長の顔色が悪くなったように思える。

 もしかすると本当に──


 「ワシからは以上じゃ! あとは国王にk──ぶぁはっ!!」


 村長の言葉は僕以外の怒りも買ったようでマナの鉄拳が村長の顔面に当たった。

 ざまあない。


 「焦らしてソレ?! 勢いで殴っちゃったわよ!」


 「どんな神経してんだ」


 今回はマコトの言葉に同意だ。


 流石の僕でも殴らない。もしかしたら剣の柄に手をかけるかもしれないが、殴りはしない。

 やはり、彼女はああ見えて単細胞である。


 町長は真っ赤になった顔面を手で押さえながら立ち上がると涙目で口を開く。


 「わ、ワシは3人の召集を促す書類を読んで、こうして集めただけじゃ! ほ、本当に詳細はなんも·····」


 「そんな事に怒ってんじゃないわよ! あそこまで焦らせといて飛びっきり、話が普通のことだった事に腹立ってんの!」


 そうだ。もっと殴れ。


 《さっきから酷いですよ?!》


 何がだ。孫にセクハラするジジイの方が酷いだろ。


 《そーでも?! そーでもないですよ?! まだ内心、暴言マンの方が酷いです!》


 次、それ言ったら魔王みたくぶっとば。


 《ウィッス》


 まったく。セクハラされる被害者の気持ちを知らない部外者はコレだから困る。


 さて、マナの村長への怒りも収まったようで、何時もの溌剌な調子で村長が村の出口を指差す。


 「さあ、征け! 我らが誇りし勇者達よ! あっ、ついでに牛異を数頭、倒してきてくれえ!」


 あ、大丈夫。村長は何時もこの調子なのだ。


 だから誰もその言葉に反応することはなく、それぞれの家へと戻った。


 「あら、ケイちゃん。お帰り」


 ただいま、で悪いが旅支度があるんでな。


 俺は帰ってすぐに2階へ向かい、部屋に入るとすぐに服やら何やらを準備して1階のリビングへ向かった。


 『ちょっと野暮用 or 詳細説明』


 珍しいな。

 こういう場合は後者だ。


 前者だと母は矢継ぎ早に質問するだろう。そういうのは互いに時間の無駄である。

 僕が説明し終えると母はニッコリと笑んだ。


 「そうなの? じゃあ、晩御飯までには帰っておいでね」


 いや、だから······


 『もっと詳しく説明 or 諦める』


 おっ。新たな事がコレで判明したんじゃないだろうか。

 そう。言葉までならず行動までもが選択される。だが、勿論、全て、という訳では無い。時たま、そういう質問が出てくる。選択出来るものなら殆ど、といっていいほど選択は僕の目の前に現れる。


 この場合は前者だ。


 母は天然? とでもいうのか·····少し説明するのが面倒であったが時間をかけ、丁寧に説明するとしっかり、理解してくれた。


 「国王様に迷惑かけないのよ?」


 どちらかというとあっちが、こっちに迷惑かけているのだが。


 『うん or うるせえ、ババア』


 前者。


 やれやれ。こういう選択ばかりで困る。


 僕は自分のこのデメリットでしかない生まれつきの〝呪い〟に溜息をこぼす。


 少し時間がかかり過ぎた。気付けば夕方である。

 僕が待ち合わせ場所である村の門には待ちくたびれたマコトとマナ姿があった。


 【遅い!!】2人は声を合わせて僕にそう言った。


 こちらも忙しかったんだ。文句があるならいきなり旅立つ原因となった国王に言ってくれ。


 『なんで声に出さないんすか』


 僕は無駄な争いはしない。


 そう。魔王だって倒しはしたが、残りの残党達を進んで傷つけたりはしなかった。


 ああ、勘違いしないでほしい。それは優しさとかじゃなくて〝時間の無駄〟だっただけだ。そうでなければとっくの昔に斬り捨ててる。


 だが、これでは表向きでは黙っているだけだ。


 『謝る or 言い訳』


 前者だ。言い訳する時間すら勿体ない。


 僕が選択した瞬間に上体は前へ倒され、謝罪の言葉が口に出た。

 まったく。悪いのは分かっているが自分の声が謝っていると·····なんかムカつく。


 「良いわ。行きましょ。こうしている時間が勿体ない」


 久々に気が合った気がする。


 『·····ホント、ケイトさんはおめでたいですね』


 ?何の事だ。


 僕が質問したにも関わらず、それに対しての返事は返ってこなかった。


 「馬車乗りますか?」


 マコトは門前で積荷を荷台に詰めている商人の馬を指差しながら言う。


 「必要ないでしょ。ね?」


 僕に同意を求めるな。


 『首縦振り or 首横振り』


 選択肢が雑だぞ。

 まあ、この場合は前者だ。まったく。扱き使わされる。


 僕はあまり馬車に乗らないのが乗り気ではない。その理由は門前の左に置かれている木製の椅子が2つ乗っけられた荷車で大体の者が気づくはず。


 何度も言うようだが僕は勇者。人並外れた身体能力を兼ね備えている、言わばスーパーマン。2人を乗せた荷車を馬以上のスピードで走るなんて一言発するくらい簡単なことだ。


 だが、僕とて人間だ。疲労はあるし、血だって涙だって出る。それを馬以上のスピードで走らせるこの2人の行為はまさに悪魔の所業。


 『だから俺は馬車に乗るかって聞いたのに······』


 言っておくが、〝表〟では僕はお前よりマナの言うことを聞く臆病な勇者だ。お前、1人の意見じゃ僕はそちらに賛成できない。


 僕はマコトと内心通話しながら荷車を押すところにスタンバイする。2人が後ろに乗ったのを確認すると取っ手の部分を掴み、前後に大きく足幅を広げる。そして──高速で走る!


 この時に注意点なのだが、スピードを緩めないこと。なんならどんどん加速すること。後ろに乗った奴らを後悔させる気で全力疾走することだ。

 すこしでも減速すると一気に重たさが増す。兎に角、止まらないことだ。


 「は、はやっ·····!」


 苦痛に満ちた声が背後から聞こえる。


 そうだ。もっと苦しむといい。僕の押す荷車に乗ったこと後悔させてやる。


 『ほ、ホント不味いです!風だけで·····しん、死んじゃう!』


 やれやれ。コレくらいのスピードに耐えられないなんて情けない男だ。


 『馬の上より風圧やばいんですよ?! 大地の魔術でもここまで飛ばせませんよ!』


 呆れる以外に言葉が出てこないな。だがまあ、止まってほしいのは分からんでもない。


 僕は勢いよく馬車を止めた。2人とも椅子に取り付けられた簡素なシートベルトを外して疲労困憊のご様子。

 それに構うことなく僕は馬車道を逸れ、長閑な草原を歩いた。


 目視できて2、3頭·····足りないって言われるだろうが人件費として何頭か減らしても大丈夫だろう。


 僕は丸々と肥って耳の上から横向きに2本生えている、牛異、という牛とは異なる獣を目視する。


 さあ、戦闘開始だ。


 『戦う or 逃げる』


 前者だ。


 この選択肢が出た時、僕の戦闘は始まる。勿論、逃げる、を選択すれば戦闘しなくていいのだが、それだとクエストを達成できない。僕はこの選択が無ければ戦うことすら出来ないのだ。


 『攻撃 or 技 or 魔法 or 防御』


 面倒だがこれらの質問には絶対に答えなければならない。

 技だ。


 『2回攻撃 or 範囲攻撃 or キャンセル』


 ここは一気に片付けてしまいたい。

 範囲攻撃だ。


 剣を構えた僕は無警戒に牛異に駆け出す。

 牛異は遅れて僕の存在に気づき、大きな鼻で息を吐いて威嚇するが、もう遅い。


 僕は牛異の丁度、中心点にテレポートすると身体を回転させる。

 選択していた技が繰り出され、斬撃が辺りの牛異を切り刻んだ。


 まあ、ざっとこんなもんだが敵が強くなればなるほど、僕は力を調整している。

 あんなのは1文字書くくらい簡単だ。


 「仕事が速すぎるんですよ」


 お前達が寝過ぎなだけだ。


 もう二人ともかなり疲労しているが宮殿へ行こうと思えばこの程度で疲れていては困る。


 「もっと簡単に行ける方法、ないんですか?」


 ある。


 『今すぐ教えてください!』


 やれやれ······僕は移動魔術もオールで使える。ここからお前達を宮殿へ運ぶなんて朝飯前だ。


 僕は自分の意思で言葉を発さない。だから心の声をマコトに通訳してもらってマナに伝えている。

 当然、マナは怒った。


 「それを先に言いなさいよ!」


 乗り気だったじゃないか。


 コレだからマナは苦手なのだ。自分が聞かなかったくせにそれを人のせいにするなんて責任転嫁のエキスパートか。


 第一、あんな低速で根を上げるほどの身体であるお前達が悪い。僕一人なら今頃、走りで宮殿前だ。


 「まあまあ、ケイトさんも反省しているんで」


 マコトのフォローもあり怒りの収まったマナとマコトに僕と手を繋いでもらう。


 『テレポート or キャンセル』


 テレポートだ。


 僕が選択するだけで目の前には立派な門とその遠方に王宮が広がっていた。


 「·····便利」


 思っても口にするんじゃない。


 こうして僕達は宮殿へ辿り着いた。

 なんのクエストなのかは知らないがさっさと終わらせたいものだ。

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