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僕の頭上の2つの選択肢  作者: 高岳 大雅
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1話 僕は勇者だ

 僕はケイト。誰だクソブス、と言わずに聞いてほしいことがある。

 僕は勇者だ──



 「おはよう、ケイちゃん」リビングへ向かった僕にいつもの笑顔で母が朝の挨拶をする。


 『おはよう。 or うるせえ、ババア』


 出た。聞いてほしいこととはまさにコレである。コレがなんなのか説明するには1回では物足りないかもしれない。

 だが、分かっているのは後者を選んではダメということだ。

 僕は迷うことなく前者を選択した。


 「おう。今日は早いじゃないか」父が椅子に座り新聞に目を通しながら興味なさげに言った。


 『おはよう。 or 早く仕事行けジジイ』


 まぁ、勘のいい人ならばもう理解出来ただろう。言葉の選択だ。

 この場合は後者を選択しよう。

 僕のあらゆる言動はこのような二択によって決められる。それが地獄か天国かはこの後の展開によって左右される。今、後者を選択すれば父は泣きべそを掻きながら仕事のため家を飛び出す。目障りだからこれが正解である。


 「もう少しお父さんにも優しくしてあげなさい」母が困り顔で言った。


 『うん。 or うるせえ、ババア』


 もう一つ分かることがこれであるのがお分かり頂けるだろうか。前者が通常で後者が毒舌な答えである事だ。

 僕は迷うことなく前者を選んだ。

 朝食を摂る為に食卓へ着けば朝食が並ぶ。さあ、食べるとしよう。


 『食べる or 運動する』


 む、これは初めての質問だ。何故、食べるために席に座ったというのに運動などしなければならない。まったく。

 前者だ。


 「そう言えば、今日は村長さんの家に伺うのよね?」母は朝食の食べ終えた父の皿を片付けながら僕に言った。


 ああ、そんな面倒な予定があったか。何の用なのかは知らないがあまり良い予感はしない。

 村長がアレだからな·····


 僕は朝食を食べ終えると食器を流し台に置き、部屋へと戻った。

 僕は贅沢が苦手だ。だから勇者として魔王を倒してからも助けた姫を城へ送り届け、結ばれること無くこうして村へ戻ってきた。老朽化が進んだ家は2階に上がるのも少し危うい。


 『仕度をする or 籠る』


 籠るなんて事をしたら村長に悪いだろ。

 当然、前者だ。


 まったく。時たま来る訳の分からない愚問には呆れるが、これは生まれた時からの事であるため多少の受け入れはあるし、ああいう選択が後に大きな事態に発展したりする事もある。


 さて、仕度も整えいざ村長宅へ。


 「いってらっしゃい、ケイちゃん」玄関先で母は笑顔で僕を見送った。


 所謂、親バカというやつで、母に怒られた事は数える程しかない。父にはよく叱られたが、どちらかといえばだらしないのは父のため、自分の中で叱られた、という思いはあまりない。


 家を出れば左右に道が伸びる。道の道中に家があるというので大体、分かると思うが僕の家は普通の木造二階建て。何度も言うが世界の英雄だろうが何だろうが偉そうにするのはあまり好きではない。


 なに? 道中に家がある、というのでは普通の家かどうか分からない? 普通、門から続く村の大通りの直線上には偉い人の家があるのが常識だ。


 「あら、ケイトじゃない」左遠方の道からそう声が聞こえる。


 その聞き覚えのある声はあまり聞きたくなかったがそちらを振り向くと案の定、そこには予想していた一人の女性が立っていた。

 蒼いストレートヘアに何時間も掛かったような後ろ髪の結び。黒いハットと黒いローブを身に纏い、如何にも私偉い、を物語っている紫の犀利な眼をこちらへ向けていた。


 『やあ。 or 誰だ、お前』


 別に後者を選んでもいい。彼女に嫌われたくない理由など一つもないのだから。だが、泣きべそ掻いて騒がれるのも困る。

 僕が前者を選ぶと自分の手が勝手に上がる。言葉と共にエモーションも追加されるのだ。


 「貴方も村長様の元へ?」僕はその問いに頷く。


 「そう」と素っ気ない反応を見せると僕を追い越して道を真っ直ぐ右方向に進んで行ってしまった。

 ああ、紹介しよう。彼女はマナだ。僕と共に魔王を倒した魔法使いである。先に言っておくが僕は彼女が苦手だ。


 「行かないの」暫く歩き、僕が付いて来ていないのを不満に思うような目でこちらを振り向いた。


 彼女は基本、ツンである。顔は良いのだが妙なところで威張ったり偉そうな態度を取ったり、とあまり僕と合わない。

 僕は彼女の言葉に首を横に振ると急いでいるのを装うように駆け足で彼女の側まで駆け寄った。


 「朝から冴えない顔ね」


 手入れに何時間もかけるマナとは違うのだ。僕は一々、顔や髪を整える程、自分の顔に自信はない。


 僕は決して反論はしないが心の中で小言を呟きながらマナの後ろを村長宅に向かって歩き続けた。


 「今日は良い天気ね」


 昨日も晴天だ。何故、会話がないと人は無理矢理にでも話そうとするのか·····話題がないなら黙っていてほしいものだ。


 僕の心とは裏腹に首は縦に振られる。あまりグチグチ言うのも面倒なので心に留めているのだ。だから彼女から見た僕は好印象なのだろう。

 他愛もない会話を無理にでも続ける彼女の無駄話を聞きながらも村長宅前へ。ここは小さな村なので警備兵も何も居らず、マナが村長宅の扉をノックした。


 ダダダダダダッ!


 まるで子供が走り回るような足音が村長宅から聞こえたかと思うと扉の正面に立っていたマナを吹き飛ばしながら勢いよく扉が開く。因みに、僕はこうなることが分かっていたため、事前に扉の右側に立っていた。


 「けいとぉおおぉおおお!!」


 お前、セクハラだぞ。


 僕はマナの谷間に顔を埋める白髪のテッペン禿げに心でツッコミを入れる。マナは扉に打ち付けられた衝撃で鼻血を出しながら自分の胸に顔を埋める老人を見て顔を真っ赤にしている。


 「このっ──」そこまで言うと片手を勢い良く振り上げる。その声で顔を上げた老人の頬にけたたましい音を立てながら強烈なビンタが飛んだ。


 「変態ジジイ!」


 尤もだ。そして何時間も掛かったであろう髪が乱れたな。ご愁傷さま。


 ざまあない。そうは思いながらも僕は決して笑う事なく無表情で他人事のように眺めていた。

 ああ、そうだ、紹介しよう。この村の村長だ。アホでバカで変態だ。なに? アホとバカの違いが分からない? そんなの僕だって知るもんか。


 「アンタも見てないでこのジジイ、どうにかしなさいよ!」


 どうして僕が、困り顔をする僕にマナは言った。


 「アンタ、孫でしょうが!」


 聞きたくない現実を言うんじゃない。こんなエロジジイが自分の祖父など·····鳥肌モノだ。


 僕がマナの言葉で嫌悪の表情を浮かべていると右頬に紅い紅葉が刻まれたエロジジイがケダモノのように涎を垂らしながら僕に抱きつこうと駆けてくる。だが、残念ながらそれは僕の身躱しスキルで難なく避け、サイのようにそのまま壁へ突進して仰向けに倒れた。


 やれやれ。孫に会うだけのことが何故そこまで嬉しいのやら。


 「ケイト! よく来てくれたの!」溌剌とした声で鼻血を流しながらエロジジイは言った。


 僕は人の心が読める訳では無いが露骨にここまで押し出されれば分かるだろう。祖父は僕の事が狂う程に好きだ。だから会いたくはなかったのだが·····


 「まあ、疲れたろ」


 ここに来るまで二十分と掛かってない。


 「家で寛いでいくか」


 ここで要件を話せ。ストーカーの家に態々、入る馬鹿がどこにいる。


 僕が絶対の拒否をするも少し残念がる程で引き下がった。祖父のハートは鋼より硬いようだ。


 「話したいのは山々なのじゃが──」祖父は困り顔を浮かべた。

 「まだ一人、来てないのね」察したマナが祖父より先に口走る。


 成程。アイツが来てないのか·····やれやれ。面倒なのがまた一人来るのか。


 僕はすぐに察した。というよりは僕とマナが呼び出された時点で来るのは薄々、分かっていた。それが明確になったというだけの話。驚くことは何も無い。それに僕はアイツはマナ程に嫌いじゃない。それもアイツが来れば分かる事だろう。


 「やっぱ俺の事、待ってたんですね」後方から嬉しそうにも悪戯っぽくも聞こえる声が聞こえる。


 勘違いをするな。お前はマナよりマシなだけだ変態野郎。


 「酷い言いようですねぇ」つまらなそうにその人物は後頭部に手を置いた。


 ああ、紹介しよう。緑色の半袖半ズボンに緑のバンダナを頭に巻いたコイツはクズで変態のマコトだ。一応、シーフで旧勇者パーティーに入ってた。


 「現在もですよ! 何、勝手にパーティーから俺を抜いてるんですか!」


 煩い。さて、不思議に思う事があるのならば恐らく君は賢い。彼──マコトは厄介な事に人の心が読める。厄介な事に。


 「なんで厄介を強調したんですか!」


 こんな具合に勝手に心を読んでくる。まったく、目障りな事この上ないな。


 「俺のナンパを何度も阻止しておいて何が目障り、ですか!」マコトは腰に手を置き前傾姿勢で不満そうに言った。


 誤解を招かないように言っておこう。僕はコイツのナンパ事情など知った事じゃない。阻止したつもりも無いし、そう思うのだとすればマコトの被害妄想である。


 「勝手な事を·····ナンパ中に木箱落としてきたり!」


 それは自然に落ちたんだ。


 「俺の顔、汚したり!」


 お前が勝手に転んだだけだ。


 「ナンパ中の女に変な事、吹き込んで俺をふらせたり!」


 それは単にお前が失敗したんだ。


 彼は人の心が読めるのに、何故かその事を断固として信じようとしない。心の声なんて言わば本音であるというのに。


 「心なんて幾らでも偽れるんですよ」


 マコトは何かを悟ったように目を細めて遠方を見つめながらそう言った。


 するとナイスなタイミングでマナがマコトの足の爪先に杖を力強くぶつける。


 「いでえ!!」


 「アンタは来てすぐに仲間を虐めてんじゃないわよ!」


 そうだ。


 「ケイトも嫌がってるじゃない!」


 その通り。


 「ぐっ·····ホント、弱者のフリが上手いんだから」


 そう。僕はか弱き勇者でマコトはそれを脅かすシーフ──というのがマナの印象だ。


 彼女に僕達の会話は聞こえていない。何故なら僕もマコトも心の中で会話をしているからだ。

 彼は直接、心に話しかけることも可能なのだ。


 なに? 表記が分かりずらい?

 なら今度からは《》こうしよう。


 「·····そろそろええかの?」鼻血も吹き終えた村長がおずおずと話しかけてくる。


 ああ、まだ居たのか。てっきり、出血死したかと。


 《やめたげません?! 心の中でそういう事言うの!》


 煩い。表に出さないだけマシだ。


 マコトはあんなチャラチャラしてて、性根は優しい。恐らく俺なんかより余程、他人に優しい。


 《き、急に褒めないでくださいよ·····》


 は? 貶してるんだ。足元掬われて死ぬタイプだ。


 俺は知っている。どれだけ優しくても人は死ぬ。誰かに慈悲を与えた分、生きれるわけでも得がある訳でもない。

 ああいうのは見返りのない、言わばボランティアだ。やるだけ時間と体力の無駄だ。


 すっかり忘れていたが、俺は村長を見て聞く準備が出来ている、とばかりに首を縦に振った。


 「それでじゃな·····お主らを呼び出した訳は──」


 おっと。ここからは次回だ。

 ありがとうございました。


 先ずは1話目! 途中からかなり日が経って書いたこともあり、書き方の変化があるかも知れませんが温かく見守っていただければ幸甚に存じます。

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