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狼の傷跡  作者: 堅田 修平
1/3

1話 始まりの事件

キャラクター紹介

ハクレ・・・アクラスの親友。体に古傷がある。おとなしい性格。仲間想い。

アクラス・・・ハクレの親友。好奇心旺盛な性格。仲間想い。

野犬・・・人間が残していった動物。悪い奴。

青い青い空の下、碧い碧い草原の中。二匹の子狼が小高い丘の上にある、樫の木の下で寝ていた。白い狼と茶色い狼。二匹は、産まれて月の満ち欠けが8周したぐらいの子だ。人間にして齢5歳。

ぐっすり眠る二匹。それを見て風がふっと微笑む。まぁ、何てかわいいの―――と、でも言うように。

そしてそれに樫の木の葉が応える。こちらは小躍りしている。

太陽は見えなくても、暖かく二匹を見下ろしている。

「・・・んっ・・・・・・。」

風が白い狼の鼻を撫でた。それに気付いたかのように、白い狼が起きる。

ゆっくりと蒼い宝石が露わになる。それは、吸い込まれるような「蒼」だった。

白い狼は、さっき枕にしていた茶色い狼の背中を見た。その時は、ボーッとしていたため何か解らなかった。

そして、白い狼が動いたから起きたのか、茶色い狼が目を開いた。

「・・・あっ、『アクラス』おはよう」

白い狼が、茶色い狼に言う。それに応えるように

「おはよう・・・『ハクレ』と言った。」

アクラスは腹を見せ、座っているハクレと向かい合った。

「・・・。」

「・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

しばしの沈黙が流れる。

ふとハクレが耳を、ピクピクさせた。

「どうしたの?」

アクラスが起き上がり、うつ伏せで聞く。

「いや、何か音が聞こえたから。」

「どんな音?」

「何か・・・低い音。」

ハクレが耳を前に出して言った。

「うーん・・・僕には聞こえないなぁ。」

「・・・気のせいか。」

このときハクレは、心騒ぎを覚えた。

何故か。

ハクレは、両親からとあることを聞いたからである。

それは、『野犬』である。

そいつらは、残虐で、冷酷で、非道徳的なやつらだ。

目印は、だいぶ前に絶滅した人間の頭蓋骨の上に、十字架の刺青だ。

それは、大きな機械・・・と言うものに火を入れ、少し出ている棒に体を押しつけてつけるらしい。

「ハクレ?大丈夫?」

アクラスがいつの間にか、ハクレの目の前にいた。しかも鼻面がぶつかる程。

ハクレは、びっくりして後ろに飛び退いた。背中に樫の木がぶつかる。

「いててて・・・。」

「もぉ、ほんとにどうしたのさぁ。」

アクラスはため息交じりで言い、ハクレに近づいた。

「大丈夫だよ・・・。」

そこでハクレは気づく。

アクラスの顔の横―――丘の下の森から何者かが、ものすごい速度でこちらに向かってきていることに。

「アクラス!危ない!!」

「えっ!?」

反射的だった。

ハクレは起き上がり、アクラスを横に突き飛ばした。

「うえ・・・。」

アクラスは、そんなことを言いハクレと一緒に地面に落ちた。

そいつは『樫の木』に、牙痕を残した。

ハクレは足で滑り、攻撃態勢をとった。そしてキッと土埃の中のそいつを見た。

そこからそいつの肩が見えた。

筋肉で覆われた強そうな肩を。

そしてその上にある刺青を。

十字架に人間の頭蓋骨・・・

間違いない。そいつは野犬だった。

ハクレは畏怖を感じた。手足がブルブル震える。

それに気づいたうつ伏せのアクラスは言った。

「ハクレ!大丈夫か?」

ハクレは返事をしなかった。する余裕が無かった。

(野犬・・・野犬・・・どうしたら・・・・・・。)

「ハクレ!危ない!!」

その言葉でハクレは我に返った。

「あっ・・・。」

爪が目の前にきていた。

だが、咄嗟にしゃがんだ為、目には当たらなかった。

その代わり、右の横腹に激痛が走った。

「ハクレ!!」

アクラスが叫ぶ。しかしそれは、無意味の叫びだと野犬は思った。

野犬は、一返翻し、アクラスに襲いかかった。

アクラスは自分の死を悟った。ギュッと目をつぶった。

「そこまでだ。」

ふいに横から声がした。そして野犬の横腹に何かがあたった。

野犬は横に吹っ飛び、そのまま岩に激突。背骨を折って死亡した。

そして野犬にぶつかったのは、こちらも犬だった。

アクラスは、血を出して倒れているハクレに近寄った。

ハクレは鼻で息をするほどの余裕が無かった。

「大丈夫か?」

さっきハクレ達を助けた犬が来る。

アクラスは、さっき自分を襲った野犬の仲間だと思って警戒した。

犬は、ハクレの傷を見た。

「ふむ。さほど深く入ってないな。しかし、右肩から腹の半分まで傷が来ているな。」

アクラスはおどおどしながらそれを見ていた。

ハクレ、食べられるのじゃないか・・・

気が気で無かった。

「よし。じゃあ行くか。」

犬はそう言い立ち上がった。

「そこの坊。お前もついてこい。」

犬はハクレを背中に乗せ、アクラスに言った。

しかし、アクラスは応えなかった。

だから無言で頷いた。


★ ★ ★


「さぁもうすぐだ。」

あれから一時間後。アクラス達は森の中を進んでいた。

鬱蒼とした森の中。アクラスはビクビクしていた。

そして、あれから一言もしゃべっていない。怖いからだ。

アクラスは解っていた。この犬は助けてくれたことに。

しかし、喋らない。向こうから喋ってくるが、会話には程遠かった。

「ね・・・ねぇ。」

やっとの事で、アクラスはしゃべりかけた。

「ん?」

横に並んで歩いている犬が、アクラスを少し見る。

「僕たちは、ど・・・何処に向かっているの・・・ですか?」

「俺たちは今、俺らのアジトに向かっている。」

「アジト?」

アクラスは、隣の犬を見た。

(大きい・・・。)

そう思い、またあることに気づく。

(この犬の体・・・傷だらけだ。)

「・・・・・・。」

「ん?どうした?」

犬は、アクラスが体を見ていることに気づく。

そしてビクッとしてしまうアクラス。

「うぇあ・・・そ・・・その傷はどうして・・・出来たのですか?」

「この傷か?」

犬は彼の体の一番大きな傷を指した。

体を横断する傷。生々しいピンク色がそこにあった。

「・・・これは、俺の子供を守るときに付いた傷だ。」

「・・・・・・。」

「ふたりっ子でな、女二匹だ。仲が良かって元気いっぱいだったよ。」

アクラスはそれ以上聞かなかった。聞かなくても解っていた。

そしてまた、しばしの沈黙。

「そういや、名前を聞いていなかったな。何て言うんだ?」

犬はそう言った。

「・・・僕はアクラス。その子はハクレ・・・。」

アクラスはうわごとのように言った。

「そうか・・・。」

犬は自分の名前を言わなかった。アクラスはそれを気にもとめなかった。

「さぁ、着いたぞ。」

アクラスは前を見た。いつの間にか崖の手前にいた。

ズアァァァァ

景色が目の前に一気に広がる。風が森を吹き抜けるように。

そこにあったのは―――人間で言う『町』だった。

アクラスは、美しくもこんな大きな『町』を見たことがなかった。だから、口を開けたままだった。

「すごいだろ。」

犬はそう言った。

そして、下に降りるために迂回をした。

降りてみると上で見たのとまた違う美しさがあった。

「こっちだ。」

犬はアクラスに言って、どんどん奥に進んでいく。

「あっ・・・待って・・・ください・・・・・・。」

アクラスは追いかけながら、『町』を見渡した。

いろんな犬がいた。種類は解らないが、皆良さそうに視えた。

「おう。バトエール。帰ってきたんだな。」

「ああ、メイハル。今帰ったところだ。」

茶色い耳がピンとしていて、しっぽがくるっとしている犬が、バトエールに話しかけた。

そして、バトエールの背中で寝ているハクレと、アクラスを見て言う。

「ん?その子達は?」

「この子達は野犬に襲われていたんだ。」

バトエールは、歩きながら言った。

「野犬・・・こんな所まで来てたのかよ。」

「ああ。」

「やばいな。こっちは全然進んでないのに・・・。」

アクラスは、二匹の顔を見た。何の話をしているのか、解らない。そう言うように見た。

「さすがに遅すぎないか。発表されてからもう月が8周したぞ。」

バトエールは咎めるように言った。

「それがなぁ、素材を運送中の奴らが野犬に襲われて、3周ぐらい遅れたんだ。」

「それにしても遅すぎだろう。」

「まぁ、俺はそっち担当では無いから解らないけど。」

メイハルは、そう言いやれやれと息を吐いた。

「おい、お前。」

バトエールは、アクラスに話しかける。違うことを考えていたアクラスは、ビクッとした。

「あっ、いや、すまん。おどかすつもりはなかったんだ。」

「・・・いえ・・・。」

アクラスは心配そうに言った。

「それで・・・何ですか・・・。」

「ああ。前を見てみろ。」

アクラスは前を見た。そこには、大きな骨塚が門としてたっていた。

そして、その奥に狼のような雌犬が毛皮の上に座っていた。

背中は紅く、腹は白。首には骨の首飾りが掛かっていた。

「エフォート。こいつらを連れてきた。」

「お帰り、バトエール。その子達は?」

エフォートは、アクラスとハクレを見た。アクラスは怯えてバルエールの後ろに隠れ、ハクレは寝ていた。

「野犬に襲われていた所に出くわして・・・。」

「ほう。」

エフォートは、目を細めた。

「助けたんだ。」

「なるほど。けがは・・・、そいつを私に貸してみろ。」

バトエールは、ハクレをエフォートの前に置いた。

「なるほど・・・深くは無いが危なそうだな。」

エフォートはハクレを診ながら呟く。そしてバトエールを見る。

「止血はしたのか?」

「はい。一応は。しかし止血をしただけなので、傷は癒えていません。」

バトエールはそう言いつつ、座る。

「そうだろうな。でも止血が速かったからか、思ってた以上に悪くはないようだ。」

その言葉にバトエールとアクラスは、顔を輝かせた。

「だが、この傷は一生残りそうだ。」

エフォートは、悲しそうに声を下げていった。

「えっ。」

アクラスは、可哀想だと思った。そして自分を呪った。

ああ、あの時もっとはやく声をかけていれば・・・。

野犬が来たときに、もっとはやく動いていたら・・・。

「お前。」

エフォートは、アクラスを呼んだ。

「今、何を考えている?」

低い声でアクラスの骨髄を揺する。

アクラスはぞくっとした。

「もう一度言う。何を考えておる!」

「じ・・・自分が悪いと考えていましたぁ!!」

アクラスは慌てて言った。

周りに沈黙が流れる。

エフォートは目を瞑り、耳をピンッとしている。

バトエールは、隣に座るアクラスを驚いたような、悲しいような目で見ていた。

アクラスは、やっぱり自分のせいだ、と思っていた。うつむいて耳は、顔に折り畳まれていた。

「アクラス。」

エフォートはそう言った。

アクラスは顔をあげた。いつの間にかエフォートが前に来ていた。

アクラスは、怒られる。殴られるんだ。と思っていた。

しかし。アクラスの頭にきたのは、怒声でも無く、げんこつでも無かった。

エフォートの舌だった。

「アクラス。お前は小さいのにいい子だねぇ。自分が悪いと思うことはいいことだ。況してやそれは、自分の正義の為では無い。仲間の愛情の為のもの。それはそれは、いいことだよ。

しかしねっ、アクラス。思いすぎは良くないんだよ。思いすぎるとまた違う小さなことでも、後に引きずってしまう。それは怨念のように。」

アクラスは、黙って聞いていた。

「野犬を見たでしょう。あの子達のようになりたい?・・・なりたく無いでしょう。思いすぎると野犬のようになってしまう。まぁ全部が全部なるわけでは無いけどね。」

エフォートは、アクラスと向かい合った。

「強く生きなさいアクラス。例えどんなに辛い選択があろうとも。仲間と共に乗り切りなさい。あなたは一匹では無いんだよ。」

その言葉はアクラスの骨髄を震えさせた。

「解ったら返事は?」

「・・・はい・・・。」

アクラスは泣いていた。皆はちっぽけに思うかも知れないけど、アクラスにとって今回のことは、一生の宝物のように思えた。

ちなみにこの時、ハクレはと言うと・・・

「あ・・・あの・・・僕を忘れないで・・・。」

地面に放置されていた。


★ ★ ★


「いやぁ良かったじゃねえかアクラス。」

バトエールとアクラスは、バトエールの洞に向かっていた。

「エフォートからあんなこと言ってもらえるの、滅多に無いぞ。」

バトエールは陽気にそう言い、暗い声で呟いた。

「しかしあいつ、性格変わりすぎだろ。いつもは男くさいのに、急に女になったり、じじいになったり・・・。」

アクラスは黙ってそれを聞いていたが、ふと気にかかったから聞いた。

「そういえば・・・エフォート・・・さん?どうして僕とハクレの名前が分かったの?」

その言葉に、バトエールは固まった。

「えっ、それ冗談で言っている?」

「えっ・・・いえ・・・・・・。」

アクラスは一瞬その言葉が分からなかった。

「いやだってよ。ハクレを診ているとき、言ってたじゃねぇか。」

「そうでしたっけ・・・。」

「ああ。エフォートに聞かれて小さい声で言ってたじゃん。」

アクラスは思い出せなかった。

「まぁ、気にすんな。寝てりゃぁなんとかなるさ。」

しばらくして、二匹はバトエールの洞に着いた。

坂を下って少し進むと空間がある。そこに毛皮が置いてある。

「アクラス。今日はここで寝ろ。この毛皮は春の時のヘラジカの毛皮だ。暖かいぞ。」

そう言ってバトエールは、毛皮の横に寝そべった。

外から夜風が入ってくる。ひんやりとした、春の風が。

「ねえ。」

アクラスはバトエールに言った。

「ハクレは今、何処にいるの?」

「今頃かよ・・・。」

バトエールはアクラスの方を振り返り、言った。

「今、エフォートの洞にいるさ。あいつは俺らの長でありながら、医術もばっちりだしな。」

「ふーん。」

「聞いといてその反応かよ。」

バトエールは苦笑した。

「それじゃあ寝るか。」

「・・・おやすみ。」

「ああ。おやすみ。」


その頃のハクレ・・・


「大丈夫よ。少しちくっとするだけだから。」

エフォートは、ハクレに薬を塗っていた。

シラカバの葉っぱをすりつぶしたそれは、ハクレにとってただの爪のように感じた。

「ほーら。大丈夫よ。男の子だから我慢しなさい。」

「うう・・・。」

ハクレは痛さにうめいたが、決して暴れなかった。

「はーい。いい子。よく我慢出来たね。」

エフォートは余った薬を、石の台の上に置いた。

ハクレは傷口を上に見せながら、それを見ていた。

「ねえ。お姉さん。」

ハクレはおもむろに口を開いた。

「お姉さんは、どうしてここまでしてくれるの?」

その声にエフォートは動きを止めた。

「・・・・・・・。」

「見ず知らずの僕に・・・お姉さんにとってまったくのあかの他人に・・・。」

エフォートは何も言わずにハクレに近づいた。

「・・・・・・。」

エフォートはハクレの蒼い目を見据えた。

「ハクレ。それはね・・・。」

エフォートは優しく微笑んだ。

「私が・・・そうしたいだけさ。」


★ ★ ★


アクラスの夢の中―――


周りはどこも真っ白。

そう白。

白以外にどう表していいのか解らないくらいの白。

そんな空間に茶色い子狼が居た。

アクラスだ。

(ここは何処だろう・・・なんで僕はここに居るのだろうか・・・。)

アクラスは考えていた。

最初はそんな考えだったが、考えて行くにつれて自分を呪っていった。

(僕のせいでハクレは傷ついた。僕のせいでハクレに嫌な傷をに残してしまった!)

アクラスはうつむいた。

白い空間に雫が落ちる。・・・アクラスの涙が。

(僕のせいで!僕のせいで!僕のせいで!!)

アクラスは嗚咽混じりで言った。言いまくった。

・・・・・・・・・・・・・。

どれくらいけなしたか。もう解らなくなっていた。

ボーと座るアクラスは、涙と鼻水とよだれでぐしゃぐしゃだった。それをアクラスはぬぐわなかった。

いつの間にかそこは、白くなかった。黒い雲のようなもやが充満していた。

そこからは、アクラスへのけなしの声が出ている。

アクラスは思う。

僕は卑怯者だ。

誰も助けられない。

バトエールは、気にするなと言った。

エフォートは、僕を慰めてくれた。

でも、ハクレに傷を負わせたのは間違いない。

卑怯者の自分は無傷なのに、善行者のハクレは傷ついた。

それも一生。

一年や一週間できえるようなものでは無い。

一生だ。

一生・・・一生・・・。

アクラスはまた、泣き出した。

座ったままの、ぐしゃぐしゃの顔で。

声をあげて泣いた。嗚咽を漏らして泣いた。

「・・・アクラス。」

ふいにハクレの声が聞こえた。

しかしそれは、アクラスには聞こえなかった。

「アクラス。」

優しげな呼びかけに、アクラスは泣くのを止め、顔を上げた。

そこには、ハクレが居た。

黒いもやを払いのけ、アクラスの近くに来た。

「ハクレ・・・。」

アクラスは声にならない声で言った。

「・・・ごめんよ・・・。」

そして、また泣き出した。

ハクレは、《早足》でアクラスの元へ向かった。

「ごめんよ!ごめんよハクレ!!僕が・・・僕がもっと早くに気づいていたら・・・こんな・・・こんなことには・・・・・・。」

ハクレは、アクラスの真正面で止まった。

そして、鼻先につたった涙をなめてやった。

「いいんだよ、アクラス。全然気にしなくてもいいんだよ。」

「でも・・・。」

アクラスは、ハクレの横腹を見た。その傷跡はピンク色になっていた。

「君があの時声をかけてくれなかったら、僕片眼を失っていたよ。それにね、バトエールさんが運んでくれたおかげや、エフォートさんの薬のおかげで、こんだけで済んだんだ。」

アクラスはハクレの蒼い目を見た。

ハクレもアクラスの蒼い目を見た。

「もしあの時、誰も来なかったら・・・あるいはアクラスが声をかけてくれなかったら、僕は今頃死んでいたね。それでも今こうして生きているんだ。こんなに喜ばしいことはないよ。」

黒いもやは、ズズズッとさらにのしかかる。

アクラスはつぶれそうになった。

「自分勝手かもしれないけれど、アクラスが悲しい思いをすると僕も悲しくなるんだ。アクラスが嬉かったら僕も嬉しい。苦しかったら苦しいで、僕はいっつもそう感じる。」

その言葉で黒いもやは、薄れていく。

そして、ハクレは精一杯笑った。笑って言った。

「だから・・・僕はアクラスのことが大好きさ。」

パアン・・・

黒いもやは消えた。

光の粒が空から降ってくる。

アクラスはまた涙を流した。これまでに流してきた涙とは違う、これからもいっぱい流すであろう涙が流れた。

「・・・僕も・・・僕も大好きだよ・・・・・・。」

アクラスは涙を流したまま笑った。

「ハクレ―――。」


お読みくださって、ありがとうございます。

ぜひ、次話も読んでいただけるとありがたいです。

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