魔術師への道
話の区切りが難しかったので少し長めです。
[レベルが10に上がりました。]
頭の中でアナウンスが聞こえた。
ーステータスー
【ダニエル】LV.10 所持金 10000z
【適性魔術属性】[光][水]
【魔術スキル】属性表示 ON
[光]
《ライト》
発光体を出現させる
《レイ》
線状の光を放つ攻撃
消費MPに応じて威力が変化する
《クイックレイ》
鋭い速さで線状の光を放つ攻撃 貫通ダメージ(微)
消費 MP に応じて威力が変化する
《スロウレイ》
ゆっくりとした速さで線状の光を放つ攻撃
消費 MP に応じて威力が変化する。
《ライトウォール》
光の壁を出現させる。触れたものはダメージを受ける。
消費 MP に応じて壁の大きさ、厚さが変化する。
[水]
《ウォッシュ》
継続的に水を出す
《オーバーウォッシュ》
多量の水を放射する
消費 MP に応じて水量が変化する
《アクアボール》
水でできた球体を投げつける
《リキッドショット》
圧縮した水球を高速で放つ攻撃 貫通ダメージ(微)
消費 MP に応じて威力が変化する
[無]
《イベントリ》
アイテムボックス
容量…レベルに依存
【スキル】
【短剣術】LV.2
短剣を用いた攻撃に補正(微)
[アーツ]
《スピアショット》
短剣を使った刺突。クリティカルが出やすい。
【地形戦術(山地)】LV.7 パッシブスキル
山地での行動に補正(微)
【魔力操作】LV.5 パッシブスキル
魔力操作行動に補正(微)
【魔力感知】 パッシブスキル
魔力を感知することができる
タリィズと別れてからしばらくたった後、ついにレベル10まで上げることができた。魔術について検証する中で分かったこともあった。
光魔法と違い、水魔法は物理演算が働くらしい。そのため、《スロウレイ》のようにゆっくりとした攻撃を発動しようとしても、威力を弱めたホースのようにちょろちょろと水が出て失敗した。
その代わり、《オーバーウォッシュ》という《ウォッシュ》の増強版のような魔術ができあがった。初めは同じ種類の魔術だったが、それぞれの属性で特徴があるようだ。
そして、いつの間にか【魔力操作】【魔力感知】というスキルも習得していた。魔術をあれこれいじっていた時にできたのだろうか。
「よし、これでアノラックさんのところに行けばいいのか。…とその前に魔術教会に行った方がいいのかな?」
――――――――――
「よし!登録完了!」
街に戻ると早速魔術教会へ行き、ぱぱっと登録を終えた。
(魔術書出てこい!)
頭の中で念じると目の前に分厚魔術書が現れて空中に浮遊している。
真っ白だが、本全体を金色と青色の光が揺らめきながら包んでいる。先程魔術教会で初めて魔術書を手渡された時のことを思い浮かべる。初めはこのような光るエフェクトも無いただの白い事典のようなものだったが、表紙に手のひらを乗せると身体から力が吸い取られる感覚があり、本が今のように光りだしたのだ。
受付のひと曰く「所持者のマナジーが染み込んだ証」だそうだ。ちなみに“マナジー”というのはこの世界での魔力の呼び名だそうだ。スキルの「MP」はマナジーポイントと読むらしい。
金色と青色のエフェクトは「光属性」「水属性」のマナジーを所有しているからだろう。
この【白の魔術書】だが、自分が使用した魔術や創った魔術はすべてこの魔術書に蓄積され、その記録は魔術教会に送られるようだ。また、魔術書は所有者のマナジーを吸収すると、所有者しか見えないアイテムになる。
魔術書を開くと、中には自分が覚えている魔術の詳細が確かに記載されている。ただ、ステータスを見れば魔術の詳細は見れるのだが…この魔術書の意義はなんなのだろう。違いがあるとすれば、《レイ》から《クイックレイ》《スロウレイ》に光の道筋が記されている。例えるなら家系図のような感じだ。どのように魔術が変わっていったかが分かるようになっているのだろうか。
魔術教会はやはりギルドのようなもので、ウィザードランクなるものがある。ランクごとのクエストなどを受けられるようだ。また魔術教会に登録していることがこの世界の信頼に繋がるらしく、ウィザードランクによって入れる施設などがあるらしい。登録したての俺は E ランクだ。
寄り道をすることになったが(というか魔術教会は最初に行くはずの正規ルートだよな…)、アノラックさんの魔術書房に戻ってきた。
「どうやら少しは魔術が扱えるようになったようじゃな。」
店に入るなり奥からしわがれた声がはっきりと聞こえた。初めて来たときにいたような他のプレイヤ-はもうおらず、店の中は静まり返っている。そして奥からアノラックさんが姿を見せた。
「こっちへこい。」
しわがれた声に導かれ店の奥へ入る。奥に入ると、店頭よりもさらに多くの分厚い本が所せましと積みあがっており、狭い部屋の中央にフードを被ったアノラックさんが立っていた。
「これは…すべて魔術書ですか?」
「ん?…あぁこれか。左様、すべてわしが人生をかけて集めてきた魔術書達だ。これでもほんの一部だがな。」
この部屋だけで何千冊もありそうだが、これでもほんの一部なのか…この人はいったい…
「何者なんですか?」
思わず口をついて出てしまった。その呟きを聴いてアノラックさんの口角が上がった気がした。
「それを訊くのは野暮というものよ。そんなことより魔術が知りたいのじゃろ?さて、おぬしが今扱える魔術はどのようなものじゃ?」
「えーとっ…今は…」
確かめようと思って白の魔術書を出現させたその時…
「…!!今のマナジーの動き、おぬしのそれは【白の魔術書】か?」
「え?はい、そうですが…」
「そうか…いや、なんでもない。」
白の魔術書は所有者にしか見えないはずだが、この人はマナジーの動きで存在が分かったようだ。それにしても白の魔術書に気づいた際の先程の驚きは少し異常だったように感じた。だが、その後、何もなかったように話を進める様子に、その違和感を忘れてしまい今覚えている魔術をアノラックさんに伝えた。
「派生の魔術と…《レイ》などの初級魔術も少し型が変わっているようじゃな…。おぬし自身がアレンジしたのか?」
「はい、《レイ》が放出されるときのマナジーの流れに気づいて試してみたら変化しました。」
魔術の名前と効果を伝えるとアノラックは、魔術が派生したこと、《レイ》などの魔術が最初に比べて変化していることが分かったようだ。
「なるほど、マナジーの流れが感じられるようになったのならば、魔術の知識を蓄える準備ができたということだ。」
「…ということは、ついに魔術書を読んでもいいということですか?」
「早まるな。魔術の知識を蓄える準備ができたとは言ったが、それはスタートラインに立ったということだ。それと、初めに言ったかもしれないが、魔術書は未熟なものが手にするとその身を滅ぼしかねない。白の魔術書に触れたとき、マナジーが吸い取られる感覚があったじゃろ?」
先ほどよりも真剣な口調でアノラックさんが語っていく。確かに白の魔術書に触れたときに力が吸い取られる感覚があった。強力な魔術書はそれだけの恐ろしさがあるのだろう。
「では、知識を蓄える準備ができたとして、これからどうすれば…?」
「おぬしはせっかちな男だな。これからどうするか、それはおぬしが決めていくことだが…そうじゃな、ここに戻ってくるように言ったのはその質問のひとつの答えかもしれぬ。ほれ。」
そう言うと、アノラックは何か紙切れを差し出してきた。なんだこれと疑問に思いながらもその紙きれを受け取る。
[特殊クエスト【魔術師への道】が開始されました。]
[【白の魔術書】の使用が制限されました。]
「うぉっ」
紙を受け取ると同時に脳内にアナウンスが鳴った。
初クエスト来た!
…って、え?白の魔術書の使用制限?
脳内アナウンスで特殊クエストのアナウンスと白の魔術書の使用制限が表示された。そして、その様子を眺めながら目の前の老人が口を開く。
「まだまだひよっこの魔術師だが、わしの目に留まったからにはその成長を見届けたいものよ。さて、おぬしの望み通り、これから魔術師としての知識、そして力をつけてやろう。その紙きれは【推薦状】だ。この街には【英知の樹】がそびえ立っているのはおぬしも知っているだろう。あそこはこの世界の魔術の知識すべてが詰まっているといっても過言ではない。だが、街で聞く噂のような巨大な図書館があるというのは英知の樹のひとつの役割でしかない。あそこには【スキエンティア魔術大学】がある。」
「スキエンティア魔術大学?」
「そうじゃ。魔術を研究し、その理を解き明かすための場所。これはそこへ入学するための推薦状だ。いまからそこへ行ってもらう。なお、訳あっておぬしの魔術書は使えないようにさせてもらった。心配するな、何も問題ない。では…」
え?今からって展開早すぎるんですが…。
そんな疑問も意に反さぬようで、アノラックさんが右手を広げてこちらに向けてきた。手のひらには真っ黒で、それでいてキラキラと光が瞬いている銀河のようなゆらぎが見え、
…次の瞬間、視界が暗転した。
ステータスの魔術スキルでは消費MPの数値を省略しています。今回の魔術検証で、どの魔術スキルも込めたMPによって規模や威力が変わるので表記する必要がなくなりました。
誤字報告ありがとうございます!