クラリネ
間違いのご指摘などありがとうございます!
「スキエンティア魔術大学 新入生の君たちにひとつ頼みたいことがある。」
場所はスキエンティア魔術大学の大聖堂。祭壇の前に立つ紅の女性“エイドスさん”が俺に……いや、俺たちに話しかける。俺を含め、プレイヤーらしき人達が数名この祭壇に集められている。俺を含めて5人かな……その中には見知った顔“アクア”の姿もある。それぞれのプレイヤーの傍にはネスラさんのようにローブを着込んだ人が付き添っている。みんな、俺のように連れてこられたのだろうか。
先程、裏山道フィールドで新しい魔術を習得したのとほぼ同時にネスラさんが現れて俺をここへ連れてきた。あまりにもタイミングが良すぎたから、おそらく何かしらのトリガーを引いたのだろう。俺の場合は【新魔発掘】が解放されたことだろうか。
[博識の魔術師]職業スキル【新魔発掘】は、両目から《レイ》を放つ実用性のない魔術を取得したことによって解放された。CWOのゲーム設定の中に存在していない魔術を開発したらしく、その魔術には自分で名前を付けることができるようだ。……あの魔術の名前?《目からビーム》に決まってるだろ。
別に博識の魔術師でなくとも、このゲームではもちろん自分の好きなように魔術を創ることができる。ただ、「新魔」として登録されるわけではなく、既存の魔術スキルの中で一番近い魔術スキルの名前で習得するため、どうしても既存の魔術スキルの形に引っ張られてしまうらしい。博識の魔術師の場合は「新魔」として登録され、名称を自分でつけることができる……本当に自分の思い通りの魔術ができるという意味では、【新魔発掘】はかゆいところに手が届くようなスキルだろうか。今後有用になってくるのかな……。
《目からビーム》はおそらく実戦で使うことは無いがな!! あぁ、悲しい。
話が少し逸れてしまったが、そんなこんなでネスラさんに連れられてこの大聖堂にやってきたわけだ。
「頼みたいことってなんだい?」
プレイヤーのひとりだろうか、灰色のローブを手に持ったまま片方の肩にかけたサラサラ金髪の青年が声を発する。
「今から説明しよう。この国のシンボルでもある【英知の樹】、今我らがいるこの場所のことはもちろん君たちも知っているだろう。そこには魔術の全てが収められていると云われている。実は、先日【英知の樹】の魔術書が何者かによって盗まれた。」
「そ、それって大問題じゃ……!?」
青色の髪を振り乱しながらアクアが慌てて問う。
「慌てるな。恥ずかしながら魔術書が盗まれるのはそこまで珍しい事ではないのだ。なにせ、世界中の魔術師たちがこの樹の知識を狙っているといっても過言ではないからな。対応策として盗まれた本にはマーキングがされているから、だいたいの場所は分かっている。皆には、そこへ行って魔術書を取り返してきてもらいたい。君たち5人と……あとひとり、クラリネでてこい。」
「……はい。」
ひと言、少し幼い声色の返事が聞こえた後、大聖堂の脇からひとりの少女が登場した。銀色のまっすぐな長髪で、濃紺のローブを身に纏っている。小学生くらいの歳だろうか。ローブの大きさは背丈に合わせてあるが、どこか着られている感がある。そして、分厚い魔術書のようなものを大事にお腹のあたりで抱えている。
「はじめまして、クラリネです。……よろしくお願いします。」
「クラリネはまだ8歳で幼いが、訳があってこの大学で預かっている。足手まといにはならないだろうから連れて行ってくれ。……では、頼んだぞ。」
そう言い切った後、エイドスさんの姿は消えた。それに合わせてプレイヤーに付き添っていたローブの人たちも消えていった。
—————
現在、特殊クエスト【魔術師への道】が[博識の魔術師]専用のクエストへと派生しています。
特殊クエスト【魔術師への道~その知識 誰が為に振るう~】
が開始されました。
ストーリークエスト【魔術の深淵を覗く時】
が開始されました。
※クエスト進行中、クラリネが仲間に加わります。
—————
それぞれのプレイヤーのもとにメッセージが届いたのだろう。きょろきょろと宙を見て、反応している。かく言う俺も脳内のアナウンスに驚く。【魔術師への道】という特殊クエストが職業の選択によって分岐したようだ。そして、ストーリークエストの発生……。
「あの……」
皆が無言で考え事をしていたようで、ひとりの少女の声で意識が引き戻され、一斉に声の方向を見た。
「みなさん、突然すみません。ご一緒してもよろしいですか?」
「あぁ、ごめんごめん。少し考え事をしていた……。ダニエルと言います。よろしくね!」
少女が少し不安そうにしていたので、いつもよりテンションを上げて笑顔で自己紹介をした。それに続いて、他のみんなも自己紹介をしていく。確かにオンラインゲームだけど、こんな風にいきなり知らない人が集められるのも珍しいな……そう考えながら他のみんなの自己紹介を聞いていった。
ここに集まったのはクラリネを入れて6人
“クラリネ”
“ダニエル”
青い服装で青い髪と瞳をしている“アクア”
アクアとは対照的で赤い服で身を包んだ“フィフィ”
サラサラの金髪をなびかせながら挨拶をする“勇者エクス”
そして……
「俺はアシタカだ。……すまないが馴れ合うつもりはないんで個別で進めさせてもらうよ。」
最後に自己紹介したプレイヤー“アシタカ”
「おい、さすがに勝手じゃないかい? 全員で進めないと。」
「クエストの情報をちゃんと見たか? “複数人でのプレイ推奨 ただし単独でも進めることも可能”と書いてあるだろ。」
突然の単独宣言に勇者エクスが噛みついたが、興味なさそうな声でアシタカが返す。クエスト情報を見返すと確かにそのような記述があった。
「だからって、あまりにも……!」
「まぁまぁ勇者エクスさん、あくまでゲームだし全員のプレイ時間帯が一緒ってわけでもないから強制することはできないかもね。アシタカさんも現実世界でこの後用事があるのかもしれないし……。」
このままでは喧嘩になってしまいそうだったから勇者エクスの言葉を途中で遮った。あくまでも他人。他人を強制させることはできないし、無理やり一緒に行動してパーティ全体の雰囲気が悪くなる方が個人的には嫌だ。
「そういうことだから、じゃ。」
それだけ言い残すとアシタカはそそくさと去っていった。
「あらためまして、みんなよろしく。さっき言ったように、リアルでの事情もあるだろうから無理して一緒に行動することは無いから遠慮せずに言ってね。」
「ダニエルよ、先ほどはありがとう。みんな険悪なムードにしてしまってすまなかった。だが安心してくれ、この俺“勇者エクス”がいればクエストも楽勝だ。魔術書すべてを取り返してみせよう!!」(勇者エクス)
「ぷふふ……面白いねキミ!! 私も勇者名乗ろっかなぁ~。まぁ気楽にいこうよ~。」(フィフィ)
「クラリネちゃん、まだ子どもなのに大変だね……(号泣)。お姉ちゃんが守ってあげるから大丈夫だよ!……そういえばどこ行くんでしたっけ?」(アクア)
「あ……はい。ありがとうございます。」(クラリネ)
……うん、なんかキャラが濃い人たちだ。




