岩核の飛竜
遅くなりました。
この世界の鉱物にはマナジーが浸透しているものがいくつもある。その鉱物を食べ、体内でマナジーを吸収することで【岩核の飛竜】は生きている。食事する時には頑丈な顎を使って岩壁を砕き、飲み込み、マナジーを吸収しつくした後の残りカスの岩を再度口から吐き出すそうだ。
敵と対峙した際には、その岩を散弾銃のように吐きだし相手を攻撃する。岩に貫かれたプレイヤーは一瞬で光の泡となったことから、その威力が窺い知れる。
「どうやら食事中のようね。」
軽々とプレイヤーを倒したローカ・ルグラは、巣である洞穴の入り口付近の岩壁をゴリゴリとかみ砕いている。まずは不意打ちで魔術を当てる。俺とディオネはローカ・ルグラ目掛けて同時に魔法を発動した。
《ボルカニックシャークバイト》!!
先ほどまで晴れ渡っていた空がどんよりと曇りだした。ちょうど山を中心にするようにどす黒い雲が不気味に渦巻く。なにか異変を感じたローカ・ルグラが食事を中断して空を見上げるがもう遅い……。黒い雲の渦の中に沸々と赤く光る何かが見え、“それ”が地面に降ってきた。
人間よりも遥かに大きなローカ・ルグラ、その飛竜の身体を包み込むほどの大きさの溶岩が、空から垂直に落ちてくる。攻撃対象を噛み潰さんと、ローカ・ルグラの堅い身体をサメの顎が捉えた。
――——瞬間、地面が爆発し、少し遅れて衝撃波が周辺の全てを吹き飛ばす。
「伏せろ!」
かなり離れた、尚且つ森の木の陰に隠れていたにも関わらず、衝撃波が届き、木々や岩も吹き飛ばされてすぐ横を過ぎていく。
「もう……大丈夫か?」
強風が収まったのを確認して先ほど飛竜がいた場所を確認して絶句する……。
先ほどまで野草が茂っていた麓の姿は跡形もなく、山肌すらも削り取って大きなクレータが出来上がっていた。
そして、さらに驚いたのは……。
「うそだろ、まだ死んでねぇぞ?」
レジェンドディスクの魔法が直撃したにも関わらず、クレーターの中心で丸くなった竜はいまだに生きていた。岩石のように固いはずの表皮は焼けただれ、赤く溶けているが、瞳にはまだ光が宿っている。
少し苦しそうな低いうなり声を出しながら、ゆっくりと顔をこちらに向けた。周りの木々も飛ばされたため、俺たちの姿を隠すものがなくなっている。俺たちの姿を捉えたローカ・ルグラが咆哮を上げた。
「完全にロックオンされたぞ、どうする?」
「とどめを刺すしかないでしょ。走って!!」
ディオネの掛け声を合図に二手に分かれて走り出した。幸いクレーターとなった地面の表面は高熱に晒されたことで堅い足場になっている。ローカ・ルグラを中心にしながら左右に分かれて弧を描くように走る。
まだどちらに攻撃しようか判断途中のローカ・ルグラの頭上で《ブラッドレイン》を発動する。高圧縮した水弾がローカ・ルグラの背中に連続ヒットする。ダメージを与えたのか大きくのけ反ったが、すぐにこちらに顔を向けると口を大きく開けて岩を放ってきた。
《シェルシールド》
俺の身体を包むように球体の透明なシールドが展開する。岩弾がシールドに着弾すると激しい音を立てて何とか防いでくれた。ディオネからもらった防御魔法のディスクが役に立った。といっても、着弾部分には大きなヒビが入っており、次の攻撃までは防いでくれなさそうだ。シルバーディスク防御魔法の限界なのだろうか。発動したシールドはその場に留まるため、防御行動中には移動できないのも難点だ。
次の攻撃を受ける前にその場を移動する。ローカ・ルグラに目を向けると、どうやらターゲットがディオネに移ったようで、ディオネに対しても同様に岩の弾丸を放っている。
後ろを向いている間に距離を詰め、もう一度 《ブラッドレイン》でダメージを与える。連続でディオネに攻撃を放っていたが、ダメージを受けてモーションが中断される。
「助かった!ダニエル!」
「そりゃよかったが、ターゲットがまたこっちに移ったぞ!」
ダメージを食らっているようだが、まだまだHPを削り切れていない様子だ。ローカ・ルグラの攻撃は「岩弾」「突進」「尻尾払い」の3種類しかなく、モーションが分かってきたので攻撃もなんとか対処している。最初の隕石のような攻撃がローカ・ルグラの翼膜を焼き尽くしていることが功を成しているようだ。本当だったら、飛んでいる状態からの攻撃にも対処しなければならなかっただろう。
「とは言っても、気は抜けないんだけどな……!」
尻尾払いや突進は比較的避けやすいが、高速で飛んでくる岩の弾丸がかなりきつい。シェルシールドも少しずつ使っていくのでこのままではジリ貧だ。
「このままじゃいずれ負けるわよ? もう一度レジェンド魔法ぶつけられないかな?」
攻撃を避けては魔法をぶつけながらディオネが提案する。
「無茶言うな、パーティー組んでるわけじゃないし、片方が確実に死ぬぞ!!」
確かに《ボルカニックシャークバイト》をもう一度食らわせることができるならばローカ・ルグラのHPを削り切れるかもしれない。しかし、あの魔法は規模も威力も規格外だ。自分自身の魔法のダメージ自体は受けないだろうが、足止めをするもうひとり確実に死ぬだろう。
……いや、もしかしたらできるか?
「ディオネ! シェルシールドはあと何回残ってる?」
「あと6回! なんか思いついた?」
「あぁ……だが、俺を信じられるか?」
「このままジリ貧になって死ぬよりマシよ。」
「おっけー、手短に伝えるぞ。」
・
・
・
このゲームで「創った魔術」と「MMディスクに記録されている魔法」の違いと言えば、自分のマナジーを消費するか否かという点が一番分かりやすい部分かもしれない。MMディスクは記録された魔法を再現するだけなので、MPは消費しない。そして、いつも使っている魔術のように、マナジーを属性変換して発動して……という厄介な工程を挟んでいない。それはつまり何を意味するか……。
ローカ・ルグラがディオネに狙いを定め、突進を仕掛ける。ディオネは両手に持った曲剣を目の前で構え、防御の態勢をとる。ディオネは前衛向けの装備を揃えていることもあり、俺よりも遥かに防御力は高い。巨大なローカ・ルグラの突進であっても一度くらいならHP全損はしないことは、先ほどからの攻撃の応酬で分かっている。
ブロンズディスク《ストーンスピア》をディオネの足元で多重発動する。地面から岩の槍を突き出して攻撃する魔法であるため、本来なら槍に貫かれてダメージを食らうが、ディオネは貫かれることなく身体が槍によって前に押し出されてローカ・ルグラに正面から激突する。
何かのテレビで、針が敷き詰められた上に水風船を落としても割れないという実験を見たことがある。複数の岩の槍がディオネの体重を分散させるため、貫かれることなく身体を押し出したのだ。
このCWOでは物理演算なども緻密に再現されているようで、《ストーンスピア》によって加速されたディオネの運動エネルギーがローカ・ルグラの突進の力と釣り合う。……動きが止まった。
「今だ!!」
俺はローカ・ルグラ目掛けてレジェンド魔法 《ボルカニックシャークバイト》を発動した。再び空が黒く渦巻き、溶岩の鮫がローカ・ルグラへ向けて落ちていく。
「ディオネ! 発動だ!」
俺の声を合図にディオネが自身に《シェルシールド》を発動する。その上から更に俺が《シェルシールド》を重ね掛けていく。ディオネの6枚と俺の5枚を合わせた11枚もの球状のシールドがディオネの身体を包む。
そして、それを待っていたように溶岩の鮫が地面に衝突した。
あたりは再びすさまじい衝撃音に包まれ、爆風で何も見えない。
しばらくして土埃やら水蒸気が落ち着いて視界が晴れていく。クレーターの中心には首だけを残して焼き溶かされたローカ・ルグラと残りわずか1枚のシェルシールドに包まれたままのディオネの姿があった。
—————
【岩核の飛竜ローカ・ルグラ】を討伐しました。
トレジャーメダル5,000枚を獲得しました。
—————
「「倒した!」」
とてつもない達成感に包まれる。ディオネはシールドの中で大の字になって寝転んで勝利の余韻に浸っている。
俺は漁夫の利を狙うプレイヤーがいないことを確かめながらディオネの元に向かう。
「まじで死んだと思ったわ。頭上に隕石が降ってくるなんて経験なんてそうそう無いでしょ。」
「信じてくれてありがとな。作戦成功だ。」
自分のマナジーを消費しないMMディスク魔法の最大の特徴であり利点は、可能であれば同時にいくらでも魔法を発動できることだ。ディオネを押し上げて発射した《ストーンスピア》も、ディオネを溶岩の鮫から守った《シェルシールド》も同時に多重発動できたからこそ成功した作戦だった。
「なんか、どっと疲れた……」
「何言ってんの? 楽しいのはここからよ?」
ディオネは既に立ち上がっており、ニヤニヤとしながら剣を握りなおした。
ここで起こった大規模な闘いに気づいているプレイヤーも多いだろう。ローカ・ルグラを倒したと分かれば、俺たちをキルしに来る奴らも出てきそうだ。
そして、そのプレイヤーたちをバッサバッサと返り討ちにしていく狂気じみた彼女の姿をこの後見ることになる。




