人造兵器ゴーレム
少し短めです。
足が地面についた感触で、自分がまた違う場所へ転移させられたことを認識する。
風が頬に当たるのを感じて目を開けると広いフィールドの真ん中に立っていた。
コロシアム、闘技場といえば想像がつくだろうか。古代ローマで競技や戦士の闘いに使われたような、かなり広い円形の闘技場の中心にいる。見回すと、漆黒のローブを着た男が立っているのが見えた。ネスラさんだ。
ネスラさんが立っているすぐそばの壁の部分には、鉄格子の巨大な入場門があり、その横にあるレバーにネスラさんが手をかけている。
嫌な予感しかしない…。
「これより最後の課題を始める。まぁ、お前なら大丈夫だろう。」
落ち着いた声が遠くからでもしっかりと耳に届く。そして、ネスラさんがレバーを引いた。
“ギギィ…”とゆっくりと鉄格子が上がっていく。しかしまだ何も気配はしない。
鉄格子が上がりきった。静寂の中、風の音だけが聞こえる。
少しの静寂の後、暗闇の中で赤い光が点った。そして、なにやら金属が擦れるような音が聞こえる。ズシンズシンと地面を揺らしながら何かがゆっくりと近づいてきている。
遂に暗闇から“そいつ”が姿を現した。
こいつは…
「ゴーレム…」
入場門から出てきたのは、3メートルはあるだろう大きなゴーレムだった。紺色の金属のような材質のその巨体のところどころに青く光るラインや幾何学模様が描かれてあり、高性能感がある。巨体の頂点には顔のようなパーツがあり、赤く光るレンズがひとつ付いており、そのレンズが十字の溝を縦横に移動して眼の役割を果たしているように見える。そして、その赤く光るレンズが俺を見つけたのが分かった。
「よく知っているな…そう、これはウィズダムの英知とアースタシアの技術が生んだ人造兵器“ゴーレム”。最後の課題は、このゴーレムに対処することだ。」
最後の課題が始まったようだ。
同じフィールド内にいるネスラさんには目もくれず、俺のほうへ向かってゆっくりと近づいてくるゴーレムに視線を向ける。
「The ボス」って感じなんですけど、これ今の俺のレベルで倒せるのかな…。適正レベルなんて親切に表示されるわけでもないが、このゴーレムがそう簡単に倒せる相手ではないのは見ただけでわかる。
俺は右手をゴーレムに向けて突き出した。
《ファイアボール》
“ボウン”とファイアボールが直撃した大きな音が聞こえる。しかし、煙が晴れて直撃した部分が見えるが傷跡ひとつ付いていない。
《サンレーザー》
右手から高温のレーザーを発射する。
…くそ、まったくダメージが通らない。
先ほどと同じく、攻撃が直撃した部分には傷ひとつ付いていない。
【火属性】よりも適正魔力属性である【光属性】の方が攻撃の威力は上がる。《サンレーザー》は俺が使える魔術の中でもおそらく瞬間的な攻撃力はトップの魔術だ。これが効かないとなると打つ手がないぞ…
焦燥感が漂う中、気づけばゴーレムがすぐ近くに迫っていた。ゴーレムは大きく腕を上げてこちらに向けて振り下ろす。
“ズシィィン”
寸前のところで横に跳んで回避した。攻撃スピードはそこまで速くない。だが、威力がすごい。
俺がさっきまで立っていた地面は地割れを起こして凹んでいる。
全体重をかけてパンチを繰り出しているようで、身体を起こすのにも時間がかかっている。動きは鈍いようだな。そう思えたことで少し思考の余裕ができる。ゴーレムの背後に回り込み再度を撃ちこむ。
やはり効かないと…そうなると弱点を探すしかないかなぁ。攻撃が通らないとすると、何かギミックがあって倒せるタイプかもしれない。
こちらに向き直ったゴーレムの“眼”に向かって《サンレーザー》を放つ。
眼にレーザーが命中した手ごたえがあり、ゴーレムは先ほどまでと違い少しのけ反った。
「まだ壊れてはいないが、あそこがおそらく弱点だな…」
ほかの場所よりも眼にダメージが入ることが分かったので、くるくるとゴーレムの周りをまわって翻弄しながら《サンレーザー》を眼に撃ち込んでいく。ちょこまかと動かれてイライラするのか、ゴーレムは時々両手で地面を何度もたたきつけて怒りを爆発させているような行動をとっている。
よし、パターンができたらこっちのもんだな。
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・
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そして何発も《サンレーザー》を撃ちこんでいるある瞬間…
“パリン”と大きな音が鳴り、見るとゴーレムの眼が潰れて光を失っていた。ゴーレムは大きくのけ反った後、正座するように座り込んで両手を地面につけ、動かなくなった。
「よっしゃ!!」
思ったより簡単だったな、と思いながらゴーレムから視線を外し、ネスラさんの方を見る。早く課題終了のコールか何かを挙げてくれないかな?
しかし、ネスラさんは闘技場の壁に背中を預けながら腕を組み、その状態でじっとこっちを見ている。
あれ、なんで何も言ってくれないんだろう…。
そう思っていた時だった。
“ウィーン”と何か電子機器を起動したときのモーター音のような音が後ろから聞こえてきた。
…ん?
振り返るとその音は動かなくなったゴーレムから聞こえる。…これって
その時、ゴーレムの全身に描かれていた青色の光が赤色に変わり、ゴーレムが立ち上がった。
ゆっくりとゴーレムが身体を向ける。
「これは、ちょっとやばいかも…」
ゴーレムとの第2ラウンドが始まった。
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