魔術変換
目の前には自分の背丈と同じくらいの大きさのロックタートルがいる。こちらを向き、いつ攻撃してくるかを警戒しているようだ。
俺はロックタートルと向かい合いながら下ろした右手に意識を集中させる。右の手のひらで無色のマナジーが渦巻く。そして渦巻いているマナジーの色が無色から金色へ、そして徐々に橙色に変わる。
《フレイム》
目の前の地面から炎が噴き出すと、連続的に炎が噴き出していき最終的にロックタートルの足元まで炎の道筋ができる。足元から噴き出した炎が直撃してロックタートルが大きく吠える。
大きなダメージを与えたようだが、それによってロックタートルが激怒してしまっている。こちらに向けて突進してきた。
よし、狙い通り。ロックタートルは一度突進を始めると、その巨体のせいで急に止まったり、方向を変えることができない。巨体のカメが突進してくるのはすごい迫力だが、その場に立ち止まったまま手のひらを巨体へ向ける。
《ファイアボール》《ファイアボール》《ファイアボール》…
手のひらに橙色の光が集約していき、火の玉が放たれる。
ロックタートルの顔面に連続で《ファイアボール》がヒットする…ちょっと可哀そう。迫ってくる顔面に向けてひたすら撃ちまくる、突進がもろに当たる目前でようやく光の泡となって消えた。
しかし、ここで気を抜くわけにはいかない。ロックタートルの鳴き声を聴いて集まってきたのか山狼が周囲を取り囲む。
《フラッシュ》
俺を中心にして眩い光が突如発生し、予想していなかった山狼たちが目をくらませる。その隙に山狼が作った輪から抜け出し、1匹の山狼に右手をかざす。
《ファイアレイ》
かざした手のひらに向けて、金と橙の二種類のマナジーが集まり、少し赤みを帯びた光線が山狼を貫く。その一撃で貫かれた山狼は息絶えたようだ。他の山狼にも《ファイアレイ》を放っていく。《ファイアレイ》が直撃した部分やレーザーで貫かれたように穴があき、傷口には焦げ跡ができている。
最後の一匹が《ファイアレイ》を避けた。よく見ると他の山狼よりも少し毛並みが黒く、この群れのリーダーなのかもしれない。他の山狼よりも素早いようで、こちらの攻撃が当たらないように左右に跳びながら近づいてくる。【地形戦術(山地)】のおかげでゴツゴツした山肌でもかなり動きやすいが、それでも山狼リーダーのほうが素早い。
何発か《ファイアレイ》を撃つが、躱される。こうなったら…
口を大きく開けて噛みつこうとこちらに跳んでくるのを横に跳び退きながらも視線は山狼リーダーのほうへ向ける。
《マナジーボール》
空中に今までとはまた違ったマナジーの光が集約する。透明だが、それでいて陽炎のように集約部分が揺らめき、形成された透明な球体がかなり速いスピードで発射され山狼リーダーの脇腹に命中した。
「よし!やっぱり発射速度はこっちの方が速い。」
突然の反撃と、横からの反動で山肌に転がった山狼リーダーに向けて、改めて《マナジーボール》を撃ち続ける…ちょっと可哀そう。
これでもかと撃ち続けた後に、光の泡となって消えた。
「ふぅ…」
そして周囲にいた山狼を全て倒し終えた。少し疲れたので岩に座り込む。
「よし!これで討伐クエストはクリアしたんじゃないか?」
ひたすらマナジーの操作を繰り返すうちにマナジーの属性を自在に変換させることができるようになった。ステータス上には【魔力変換】というスキルが表示されている。
【魔力変換】
変換可能属性【光(火)】【水】
【光】の共鳴魔力のひとつである【火属性】を扱えるようになり3つの属性にマナジーを変換させることができるようになった。もう一つの【雷属性】や、【水属性】の両隣の属性の変換も試みたが、【雷、草、闇】の属性には現時点で変換できていない。
自在に属性を変換できるようになったことで、【火属性】の魔法の《フレイム》や、【光】【火】の属性が混在した《ファイアレイ》という魔術も編み出すことができた。
《ファイアボール》
火の玉を放つ攻撃
【火属性】の初級魔術
《フレイム》
地面から炎を噴き出して攻撃する魔術。
足元からの攻撃のためクリティカルになりやすい。
《ファイアレイ》
火と光の混合魔術
熱を帯びた光線を放つ
【光】【火】の属性ダメージが付加される
《フラッシュ》
眩い光を発生させ視界を奪う
先程使用した属性魔術はこの4つだ。
クエスト条件にあった「魔術のみを使った討伐」はもともとクリアできる条件だったが、「適性魔術属性以外の魔術属性を使っての討伐」では【火】の魔術を使って達成した。「混合属性の魔術を使った討伐」では《ファイアレイ》など2つの属性を同時に扱う魔術を使用することで達成。
《マナジーボール》
魔力の塊を具現化し、放出して攻撃する魔術
「8属性魔術の使用禁止」という条件は、この《マナジーボール》を使用して達成することができた。
「8属性以外の魔術」を考えた時、ひとつ思い浮かんだのは“アクア”が使用できる【氷属性】という違う属性の存在だった。しかし、アクアの場合は偶然取得したレアケースで、初期で2つの属性を選択していた俺が簡単にそんなレアな属性を習得できるとは思えなかった。
そこで思いついたのが【無属性】の魔術だった。
魔術操作を思い通りにできるようになって気になったのはそれぞれの属性に変換する前の無色のマナジーを使用して攻撃できるのかということ。
初めは上手くいかなかった。マナジーは感じ取ることはできるが、マナジーの状態では他の事物に影響を与えることはできなかった。マナジーを透明のまま他の物に当たるようにと何度も試している内に、マナジーを具現化することに成功した。理屈はよく分からないが、イメージが形になったようだ。こうして《マナジーボール》という魔術を習得した。
《ファイアボール》や《レイ》などの属性魔術は無色のマナジーをそれぞれの属性へ変換するというプロセスを経ているため、念じてから発生するまでに少しの時差が生じる。ロックタートルなど遅めの敵と戦っている分にはそこまで気にならなかったが、先ほどの山狼リーダーや鳥タイプのハイランドイーグルなど、速い敵と戦うときには致命的だ。《マナジーボール》はまだそこまで威力が高くないが、発動速度が速く素早い敵に対処しやすいことが分かった。
「さて、討伐クエストもクリアしたし、いったん大学に戻るか。」
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「討伐を確認しました。」
魔術大学の転移装置がある部屋のすぐ近くに、クエストの管理をしている部屋がある。ゲームでよくあるギルドの受付エリアが、魔術大学の中に組み込まれているような形だ。受付スタッフは皆、灰色のローブを着ている。
「クエストの達成を確認いたしましたので報酬をお渡しします。」
[「クグツイワ(特殊ケース)」×10を入手しました]
[「ゴルビナエバ(鉢植え)」×10を入手しました]
[「ヒャッカソウ(鉢植え)」×10を入手しました]
[「実験室の鍵」を入手しました]
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特殊クエスト
【魔術師への道:その身に宿るものーその1―】
をクリアしました。
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おぉ、何やら報酬をたくさん手に入れたぞ。
しかもログが流れて【魔術師への道】が知らないうちに進行していたことを知った。受付での討伐クエストも含めて特殊クエストの一部ということなのか。
そしてなにやら「実験室の鍵」ってアイテムも…
“ピピピピ ピピピピ”
[身体に異常を感知しました。一度ログアウトしてください]
「え…」
たくさんのブックマーク、評価などありがとうございます!
感激です。
感想を書いてくださった方もいて、家で跳ね回って喜んでいます。