その身に宿る魔力
魔術大学から抜け出して、やってきたのは裏山道フィールド。
アクアが【氷属性】を持っているということを知って8種類以外にも属性があることを確信した。今回受けている討伐クエストの条件「適性魔術属性以外の属性」や「混合属性」、「8属性魔術の使用禁止」という条件とも何かしら関係してきそうだ。
ひとまず、モンスターを討伐する前に魔術の検証をしよう。
「適性魔術属性以外の属性」…これは俺の場合【光】【水】以外の属性のことを指す。その中でも隣り合った属性は【共鳴魔力】という関係性で親和性が高いらしいから【火、雷、闇、草】の属性の魔術を考えることから始めるのがいいかな。
「自分の想像力次第でどんな魔術も創れる…って謳ってるが、逆に言えばそれは想像力がなければ魔術を全然創れないってことだろ…。」
ぐちぐち独り言をつぶやきながら思考を巡らせる。今まで覚えた【光、水】の魔術スキルを使ったり、発動時の身体の魔力を感じ取ったりしながら想像力を膨らませる。
【光】と近いのは【火】と【雷】。「親和性が高い」のは何故か。それはおそらく近似性がある…似ているからだろう。よし、連想ゲームでもやってみるか。
いっせーのーで…
「光」といったら「明るい」
「明るい」といったら「太陽」
「太陽」といったら「熱い」
「熱い」と言ったら「炎」
「炎」といったら「火」…みたいなことか?
そう言えば小学校のころの実験で虫眼鏡の実験をしていたことを思い出す。太陽の光を一点に集めることで、黒い画用紙から煙が出て、最後には火がついたのを覚えている。やってみる価値はあるか…!!
行き当たりばったりで行った連想ゲームによってひらめいてしまった。
右手の手のひらから《レイ》を放つイメージをして、発射される射線上に左手をかざしてみる。
“ヴン”
「うーん、熱くない…。」
CWOは味方の攻撃は適応されるが、自分の攻撃でダメージを負うことはない。ただ、自分の攻撃で起きる衝撃などの影響は受けることになっている。つまり、爆発するような魔術を使うと、ダメージは無いが、吹っ飛ばされる可能性はあるということだ。
自分の《レイ》が当たった左手は何も感じなかったので、おそらく《レイ》自体に熱はない。
「でもこれって、基礎の魔術の《レイ》に熱いという概念が無いだけで、熱量がある《レイ》を想像して放ったら…いけるんじゃないか?」
次は灼熱の太陽のような熱い光をイメージする。そして、もう一度左手に向けて撃ってみた。
“ヴン”
「…あったかい。」
きた!灼熱とまではいかなかったが、予想通り熱量のある《レイ》を放つことができた。
まだ、お風呂くらいの温かさなので、何度か繰り返して撃つことにする。そして今度からはフィールドに生えている枯れ木に向かって放つことにした。もし枯れ木が燃えたらそれだけの熱量を含んでいるということだ。
目の前の枯れ木から煙が上がり、火の手が上がった。
「きた!ついに燃えたぞ!!」
試行回数は20回を超えている。初めの方は当たった枯れ木に特に変化が無かったが(魔術が当たって折れるなどはあったが、燃えることはなかった)、20回以上撃ち続けたところで、ついに枯れ木に火をつけることが成功した。
《サンレーザー》
“燃焼効果付与”
線状の光を放つ魔術
その光には熱エネルギーが込められている
ステータスを確認すると新たな魔術が追加されていた。「燃焼効果付与」となっているため、イメージ通り熱量がある魔術になったようだ。
ただ、《サンレーザー》はカテゴリーでは【光属性】に含まれるようだ。正解に近いところまでいっている気はするが、実は根本的に方向性が違うのか…。
《レイ》の検証を行っていた時と同じように《サンレーザー》が放たれるときの様子を観察する。やはり、発動する際に腕に向けて金色の光が流れていき、手のひらの辺りに収束してから光線が放たれている。
そもそも、金色のマナジーが流れていく時点で【光属性】ってことなんじゃないのだろうか?【白の魔術書】を手にした時のことを思い出してみる。あの時は、【光】のマナジーが金色、【水】のマナジーが青色と、それぞれ色が違うマナジーが魔術書に流れ込んでいたように思う。属性によってマナジーの色が違うのだ。つまり、【火属性】の魔術が使いたいならば【火属性】のマナジーを使わないといけないということじゃないのか?
【光、水】とどちらも無意識に攻撃を放っていたので魔術属性ごとにマナジーを使い分けているつもりはなかった。両手で水をすくうような手の形にして前に突き出し、《ライト》の魔術を使うイメージをする。両手のひらの上に明るい光体が現れ辺りを照らし出す。《ライト》の魔術を継続させながら、身体を通っていくマナジーの流れを注意深く観測してみる。手のひらに向かって集まっていく金色のマナジーの流れを逆向きにたどってみる。手のひら、腕、肩の付け根、そこから心臓にマナジーの流れが繋がっているのを感じる。
マナジーの色はどうだろう…。もう一度手のひらからたどる。手のひら、腕、までは濃い金色のようなマナジーだが、肩の付け根あたりから色が淡くなってきて、心臓付近では色が無く、マナジーの流れだけが感じられる。
やっぱり…もともと身体に宿っているマナジーに属性は無いんだ。人間の身体にはもともと何も属性が無いマナジーが宿っていて、魔術を使う際にそれぞれの属性に変換しているということか。
そう考えると視界が開けてきた気がする。
今まで《レイ》や《ライト》など魔術を使用する時にしかマナジーを使っていなかったが、魔術を使わずにマナジーだけをただ操作することはできるのだろうか。【魔力操作】というスキルがあるのだからできるはず…。
手のひらの上で発光する《ライト》の発動を解除し、心臓付近のマナジーそのものに集中して意識を向ける。心臓付近から身体全体へまるで血液のように絶え間なく巡るマナジーを感じる。
先程と同じように両の手のひらを前へ突出し、水をすくうような形にする。ただ、先程とは少し違って《ライト》を発動するのではなく、マナジーをそのまま手のひらへ集めるイメージをする。
初めは何も反応が無かったが、少しずつマナジーの動きがイメージに引っ張られるように動くのを感じた。何度か試していくうちに身体全体のマナジーの流れが手に向かっていく感覚が伝わってきた。
(きたぞ!!)
そしてついに、両手で作った器の上にマナジーの塊が渦巻いて集まるのを感じた。
「よっしゃ!!」
しかし、思わず声を出した拍子に集中が切れて手のひらに集まっていたマナジーが霧散した。
「あぁ!せっかくできたのに!!」
どっと疲れた気がする。でも、マナジーを思い通りに扱う確かな手ごたえを感じた。
同じ要領でもう一度マナジーを手のひらに集める。けっこうスムーズにできるようになってきた。手のひらの上にマナジーが渦巻いているのを感じる。手のひらの上に渦巻く無色のマナジー。
よし、次はその渦巻くマナジーを他の属性に変換するぞ。
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