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燕雀鴻鵠  作者: 見城R
5/22

2−2

同じ日に張累が発ち、墨寧が到着するのであるから、

引継がされてもよさそうなものであるが、

張累はもっと遅くに墨寧がやってくると思っていた。

お上の都合で、早々にやってくることになるとはまるで知らなかった。

彼のことだから、知っていればそれなりの歓迎をしたことだろう。

今思えば、これは僥倖であったと思われる。

墨寧が、そのようなことをされて喜ぶとはとうてい思えぬからだ。


さらに言えば、というよりも、

張累が、墨寧によってこのような道程を歩まされていると、

まるで気付いていないということが、

悪い冗談としか思えなくなる、影翁が笑いをこらえられなくなるかもしれぬ、

様々なよくないことが起きるところだったろう。


ともかく、この両者は出会うことなくすれ違った。

行く道と来る道も異なったせいで、まるで顔をあわせることがなく済んだのだ。


「新しい県令様がこられるまで、私も補佐としてやれることをしておくべきか…」


何も知らない周雲は、とりあえず先日こしらえた帳簿を揃え、

そして、現状の説明を、分かり易く図解や文書とすることにした。

丁寧な字で、業務日誌から重要事項だけを抜粋していくような作業だ。


「何よりも、あの湖の水をここまで引いてこなくてはならないな」


周雲が考えている大きな事業。

着眼点は面白いと張累からお墨付きを貰った。

どうやって運営するかが今度はキモになるのだろう。


「いや、それよりも具体的にできるか否かを、次の県令様に認めて貰わなくてはならないのか」


提案材料として、優れているかどうかもっと錬磨しておいた方がよいかもしれない。

地図を睨んで少しだけ留まったが、やがて、思い切った調子でその上に、

様々、墨を落として詳細を書き加えていく。

するすると、戸数が現れ、やすやすと、住民が現れ、

さらさらと、紙の上に国が現れた。

現時点での岩倉県がここに集約している。


「前回の治水工事で、北の湖の水を供給できる手はずだけはできている」


前回の工事、初めての公共事業、にて周雲らは、

荒廃しきった、また、高台にあるため決して水が寄りつかないこの土地に、

なんとか水場を作ろうと地下水を掘り当てた。

いや、北の湖の水が地下を通り、この近くまできているとの調査が、

古い資料から発見されたのでその実地調査をかねていた。

ところが、それが大当たりし、今ではふもとの部分に小さいながら水場を設けることができた。

この成果は大きい、一つに水場という便利な文明を潤すそれができたこと、

だが、あくまでそれは些細なこと、所詮ちょろちょろと湧く程度で大したものではない。

しかし、こういった事業をすることで暮らしが楽になるかもしれない。

そういう期待感を住民に植え付けることができた、これがもう一つの、そして主目的だった。

現在、住民の志気が上がっている。

今なら、もっとよい工事ができるはずだ。


「この水場をさらに改良して、農地が作れるほどまでの大きな農業用水池を作らないといけないか」


周雲は一番の目標をそれと決めた。

岩倉県10年の計と称してもよかろう。

そんな尊大なことを考えている、しかし、確かにこれによって、

この土地は大きく立ち替わるだろう。

かつてないほど、ようやく人の暮らしが許される素晴らしい県へと発展するだろう。


「これならばきっと…」


呟いた周雲、そのすぐ後に背後の気配に気付いた。

はた、そういう具合で振り返る、そこに二人の男が居る、

新しい県令様だ。

装束ですぐにわかった、没頭しすぎていたんだろう、

全く気づけなかった、慌てた様子で、すぐに歓迎の式をとろうと立ち上がる。


「申し訳ございません、県令様」


「……あなたは?」


「はい、前任の張累様とともに、岩倉県で役人をしておりました、周雲と申します」


「……」


「今後は、新たな県令様のもとで、また、一から勉強をさせて戴きたく思います」


「なるほど、申し遅れました、森近県より新たに赴任して参りました、墨寧と申します」


歓迎に対して、感謝の式をとった県令、

周雲は少し美化して墨寧のことを見ている。

張累より前の県令がどれもクズ揃いだったことをふまえて、

決して油断はできない、そう思ってはいるが、前回があまりよければ期待してしまうもの。

見極めるというよりも、期待する、そういう視線を零している。

墨寧はそれを満身で受け止めて、素晴らしい笑顔で切り出した。


「なるほど、こちらには随分と解らないことがあります、是非ともご助力いただけましたら」


柔らかい物腰、周雲は嬉しそうな顔でその申し出を、

当然のように、真摯に受け止める。


「勿体ないお言葉、周雲、男の命を賭けまして、ご尽力申し上げます」


「では早速、到着早々ではありますが、岩倉県のことについてお教えください」


墨寧は、勝手に奥へと入って、今拡げられている地図が、

一番よく見える位置に座った。

その後ろに、まるで貴族や中央役人が召し抱える側仕えのような男が控える。

周雲が一瞬それを見て、目を険しくした。


「ああ、申し訳ない、こちらは私が古くから雇っております側仕えです」


「そうでしたか、あの、お名前は」


にこり、


「ございませぬ、なので、爺とでも読んでいただけましたら」


「これは…」


周雲は面食らった風で憐れみの表情を瞳に宿した。

名前が無い人間は、地方にたくさんいるものだが、

公人の側仕えになるものにも含まれるとは、軒並みならぬ苦労を読み取った。

それ以上は深く追求するまでもなく、早速目の前の地図にて説明をする。


「何からお話したらよいでしょうか?」


「先ほどから、お考えのそれについてお伺いしたく思います」


ぎょ、狼狽えた。

いったい何時から背中で見ていたのだろうか、

独り言にどれを用いたか、自分でもあやふやとなっているから少し怖い。

おっかなびっくり、そんな具合ではあるが、おずおずと、

周雲は言われるままに、先ほど考えたことを論ずることにする。


「はい、公共事業についてであります」


「内容は、治水ですか?」


「はい、前任の張累様がここに地下水を掘り当てました、これをさらに大きくしたく思います」


「それは、どうして、今までなぜ掘り当てられなかったのでしょう」


「かなり以前に調査はされていた様子ですが、どうもそれを行う資金が無かったのが要因ではないかと」


「ほう…」


墨寧は、一つ頷いて黙った。

何を考えているんだろう、いたって真面目な表情に、

周雲はその中身をはかれないまま、論はさらに続く。


「ともかく、これをかわぎりにこの地になんとか農業を根付かせようと思います」


「農業を、それは国の大事です、大切なことですね」


「いえ…その、見ていただいておわかりかと存じますが、この土地は、

あまりに不毛で低草が季節によって生える程度で基本的に砂礫地であります」


「はい、それは見ました、随分な山肌のような所ばかりでしたね」


「そうです、ですが、この県庁の周りには大きく木が生えております、これは、

この地が塩などによって草木生えぬのではなく、水がなく生えないのだと思われます。

うまく灌漑かんがいの施設さえできてしまえば、土地の改良もでき、農業が根付きます」


生き生きとした調子でそれを語る。

この論については、自信がある、はたして県令はどのような顔をするだろう、

そう思ってちらりと墨寧の表情を伺った。

しかし、期待とは違う、そのままの表情で、先からじっと考えてばかりいる。


「墨寧様?」


「ふむ、しかして、その予算は、また人員があるのでしょうか」


まるで違うところをついてきた。

慌てるでもないが、それについてはすぐに返事ができる、

周雲は抜かりのない言葉でそれに答える。


「それにつきましては、その調査結果が古くから捨てておかれたのと一緒で、

人員の整理についてもできておりませんでした」


「??」


「いえ、改めて先日戸籍調査をしましたら、住人が100ではなく200とわかりました」


「ほ、う」


「また納税につきましては、人員からしてほぼ免除となっておりましたというか、

ほとんど納められた試しがなかったのですが、先回、初めての納税が達成されました」


「それはまた、どうして」


「よく説いて、その必要性を訴えました、理解もされたのでまた次回も必ず集まります、

それに先の公共事業によって、納税が自分たちのためになると今は意気も上がっているのです」


やや、誇らしげになりすぎた。

少々の反省をしてしまうが、ともかく考えていたことの説明はできたはずだ、

周雲は、もう一度墨寧の顔を見た、相変わらず何かを考えている。


「そうですか、その戸籍については」


「はい、次回の省令報告の際にでもと思っております」


「ということは、まだ報告はしていないということですね」


「はい…?」


「では、一度だけ現物支給の形で納税をし、その見返りで工事資材を受け取ったと」


「は、はい」


説明していないのにどうして?

周雲は思ったが、それを察するように先に彼が描いた地図の一点を、

墨寧がとんとんとつついている。

そこには、そう書いてある、なるほど先ほどからそれを読んでおられたのか。


「あい、わかりました、今日はこれくらいにしておきましょう」


「はい、あ、喋りづくめで申し訳ございませんでした」


「いえ、またお願いすることもあるかと思います、よろしく」


言うと一つ仕事が終わったかのような雰囲気になった。

まだ、昼前のことなので周雲は戸惑ったが、

到着早々、その片づけもある様子だったので辞去することにした。

手伝うという選択肢もあったが、それは不必要といった空気を感じ取り、

そこは引き下がる。


ぱたり。


かくして、二人の初見はまずまずの調子であった。



「しかし、よくよくやられましたな」


「成長したのさね」


墨寧はぶつぶつと、影翁の言葉に答えている。

そして、手元の調書を凄まじい速度で読み解いていく。


「あの青臭さ、よくまぁ、いつ嗤ってしまうかと…」


「俺は、ああいう異人を見ると思考が止まるというか、特に波風を立てないようにする智恵を得たのだよ」


わざとらしい偉そうな物言いに、

くっくっくといつもの含み笑いが漏れる。


「しかし、随分助かった、前任がどうだったかは知らんが、これは風向きがいいぞ」


「そのようで」


「納税について、今まで無視していても問題なかったというところはひっかかるが、

100人分を200人から集められるのは大きいな」


「しかも、民草が皆、公をあがめているとのこともなかなかでしたな」


「他人などあてにしないよ」


「おや、勉強されたのではなかったのですか?」


「期待をするのと利用するのは違うさ、さて、それよりもだ、翁」


「はい」


言うと翁は足音を立てぬまま、扉の前へと走り寄った。

そして、ぱんっ、音をたててその扉を開いた、

驚いた様子で、そこに一人の男が立っている。

翁は壁づたいに立っているが、片手に刃物を携えている。


「お待ちしておりましたよ、どうぞ、お入りください」


「………」


言われるままに、妖しげな男はゆっくりと県庁に入ってきた。

ぱたり、影翁が扉を閉じた、そして男の背中にじくりとした視線を浴びせる、

生きた心地がしないのだろうか、男は黙ったまま、やや立ちつくした感が漂う。


「何時から気付いておられた?」


「いや、今さっきですが」


「いけしゃぁしゃぁと…」


「それよりも、用向きはなんでしょうか?」


墨寧は完全に上位をとったと自負している。

予想通りだったとでも言うべきだろうか、

男の顔をよく見る、間違いなく地方出の面構えじゃない。

これは中央にごく何かの線がある何者かだろう。

問題は、どちら派かだ、天帝か、宰相か。


「……」


黙っている、墨寧も当然黙る。

ここは、どちら派ですかなどと聞けるわけがない、

それを見透かしているという様子でいないといけない。

じっと睨み付けておくが、らちがあかない、翁が察したのか、

刃をそっと背中に当ててみた。

それに釣られる、いや、強制されてようやく男は口を開いた。


「………天帝様よりの使いである」


「証拠は?」


「貴様、中央よりの使者に対してこの扱い……」


「不逞の輩とも限らぬお人に、お茶を出すようなマネできませんよ」


下役任如きを怒らすのはどうということもなかろう、

ちょっと前ならば考えたものだったが今は違う。

自分が、非常にいかがわしい位置にいると、誰よりも理解しているからだ。

少々どころか、相当不遜な態度をとっているほうが、どちらも優しくしてくれるだろう、

比例するように、危険も増すがそれくらいどうということはない。


「ここに、印がある」


「翁」


「ただいま」


すぐにかすめ取るようにして、翁がそれを墨寧の所へと差し出した。

じっと見る、見てわかるわけがない、見たことないんだから、

それでも、じっと眺めて、その作りを観察した。

嘘ではなさそうな、名品の匂いが漂う、おそらくホンモノだろう。

こいつが野党で、本来の使者を殺していなかったらだ。


「翁、腰の物を確認しろ」


「貴様、無礼にも」


「こちらも怖いのですよ、森近県では随分な目にあいましたから、火付け、闇討ち、などなどね」


ため息混じりに言うと、なにか、仕方なくしている。

そういった空気がちょっとだけできる、

墨寧は、悲壮みたいなものをそこに上乗せしようと表情を作っている。

翁の確かめが終わる、血糊などはない。

野党の線はなかろう、まぁ、もともとあるなどとは思わなかったが、

そして、それを確認すると、一代の芸に出る。


すくり、立ち上がる墨寧、素早く、そして正しい姿勢にて、

すぐ下座へと移動した、そしてその地べたに膝をついて、

謝罪の式をとった、使者は面食らった顔をしている。

そこに畳みかける。


「まことに失礼いたしました、なにとぞ平にご容赦くださいますよう、お願い申しあげます」


「墨寧どの…」


「先にももうしました通り、先だってより命を狙われることがしばしば、

虚勢をはることでしか、この小さき器は守れぬとの思い、なにとぞ、なにとぞお許しください」


「よい、わかった、いや、こちらこそ盗み聞きするように扉に立ったのは申し訳なかった」


使者も折れるようにして、墨寧に手をかけてその身体を起こした。

そして、改めて名乗る。


「私は西州のさるお方の使いできている」


「さるお方」


「そうだ、それ以上は申せぬが、今回の一件について思うところがあり私を遣わされたのだ」


「は、して、私はどうすれば?」


にやり、ここで使者が笑った。

しまった、何か間違えたか、

墨寧が少しだけ焦った、そしてそれが表情に出た。

舌打ちしたくなるがこれは仕方ないだろう、翁は黙って平服したままだ。

事を焦りすぎた、それを悟られた節がある、まずいな、墨寧は機転をきかせようと捻る。


「何もせずとも、ただ、どのようなものかを見極めて参れとのことだったのだ、墨寧殿」


「このようなものでございましたが、いかがでしょうか」


方針を速攻で変えた。

いきなりおもねる型に変更した、例の嘘臭く人なつっこい笑顔でにへらっと笑った。

使者は辟易という具合であるが、その変わり身の速さと胡散臭さは、

しかと記憶に留めることだろう、とりあえずくせ者という印象でも残しておけば、

今回はよかろうか、墨寧はそう考えた。


「噂通りでございますな、県令殿」


「噂とは、また、市井の話など…」


「野望に燃えて、出世のために全てを粉にすることができる悪党だとな」


「これはこれは、お墨付きを頂けますかな?」


大したタマだな、使者はにやりと笑った。

今は使者のペースとまでは言わないが、立場が逆転した。

位置だけの問題ではない、どこかで墨寧は踏み外したのだ、今は使者が優勢、

しかし、踏み外した後の処置はなかなか面白い。

使者はそう思った。


「言葉遊びはよかろう、それよりも聞かせておきたいことがある」


「……」


「この土地についてだが、土地を肥やすなどの発展はさせるな」


「……」


「人間らしい暮らしなど、そういったものは与える必要はない、この土地の人間にはな」


「それが、中央のお言葉でありますか」


「色々とあるのだ」


「そうやって、以前にも芽生えかけたものを摘んでおられるのですか」


「……」


「以前にも調査がされていたとのこと、しかも不自然なくらい文明から遠いこの暮らし、

そりゃ、誰かがそうし向けたと考えないわけにはいかんでしょう」


墨寧は、したり顔でそこまでタネを明かした。

先の周雲が作った地図について聞いた時の疑問の答えだ。

もっとも、もう少し不自然な点を覚えているが、

そこはまだ言わないでおいた。


「それ以上は私からは言えぬが、なんとでも考えるがよい、そして先の言葉忘れるな」


「無論、土地の人間を肥やすマネはしません、その代わり約束をして戴きたい」


「?」


「今の言いつけを守り、かつ、納税を確実に行いましょう、半年それが続けば私を別へと異動ください」


「ふん、それは早い話だな、貴様がそのような提案をできるような立場だと」


「なに、使者殿に覚えておいて頂ければ結構、でないと、張り合いがないのですよ」


からりと笑った。

どこまでが本心で、どこから嘘なのか、

それだけは計りかねる、使者は嫌な男だと強く認識して、

あいわかった、そうだけ告げてその部屋を出ていった。

翌日、もう一度、正式な使者のなりでやってくるらしい。


「墨寧様」


「楽しくなってきただろう、翁」


くっくっく、含み笑いが漏れる。



「これはこれは、わざわざのご訪問ありがとうございます」


「よきにはからえ、そしてこれからも勤勉につとめよ」


「もちろんでございます」


墨寧と州からの使者が恭しい挨拶をかわしている。

遠目ではないが、すぐ側で周雲はそれを見ている。

こんなことはかつて無かった、それに驚き、期待を帯びた目を持つ、

もしかしたら、中央に大きな繋がりのある立派な人ではないかと。


その考えは、あながち間違ってはいないが、

もっと不純なそれではある。

二人の男が、そういった談笑をこなしている。


「ところで、このように小さな県で、役人が3人もいるというのはよろしいでしょうか?」


突然、墨寧がそのようなことを切り出した。

どういうことだ、いや、確かにその通りだが…。

周雲が焦る、もしかすると自分は異動となるのではないか、

不安が顔に出た。

使者はじっとそれを見て、また、影翁、墨寧と順に見てしかと判断した。


「無論だ、これから頑張って貰うために役人は三名、なにせ広いのだそれでも手が足るまい」


心裏の声では、

この男が側にいると、墨寧にとって煙たいらしいな。

そんなところだ、この遣いにとっては、この県の役人が2人だろうが3人だろうが大差はない。

嫌がらせのために、彼をここに留めたといって差し支えがない。

小さく影翁が舌打ちをしたが、誰にも聞こえてはいないだろう。


「では、達者でな」


「は」


頭を垂れてから、使者をわざわざ出口まで案内すると、

墨寧はひょいひょいとついていった、翁もともにいく。

周雲も続くかと思ったが、役所を留守にはできないと中に入った。

仕事の用意をしようと考えたらしい、

帰り道のすがら、使者、墨寧、影翁の三人に会話はなかった。

別れ際、昨夜のことをもう一度念押ししただけだ。

ただ、県庁の中では、少々事件があった。


「??…これは」


昨夜のまま、地図が拡げられている。

あちこちの調書や書類は随分と読み返されていた後があるが、

おそらく片づける暇がなかったのだろう、乱雑なそこだが、

昨日、墨寧が指さししていた、覚え書きの所に目が止まった。


「…これは、私の筆跡ではない…?」


どういうことだ。

周雲は考える、そして、考えて一つ仮説を立てた、

私が考え事をしている間、ずっと背中でそれを聞いてまた眺めていた上で墨寧はとぼけている。

それは何のために。

そこまではわからない、わからないが、芽は見つけた、

静かに周雲はトドメ置くことにする。


あの男は、信用にたるか、妖しいものだと。

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