品子の青春49
お話の続きです。
どうぞよろしくお願い致します。
あれほど「気をつけて下さいねぇ~。」と口を酸っぱくしてマクロが注意したにも関わらず、ワープマシンのボタンを誤って押して戻ってきてしまう人が続出した。
その度に折角マッサージベッドで休んでいたマクロや、ユーン、ヨーンは、それぞれの小さい軽自動車ほどの大きさの宇宙船に戻って来ちゃった人達を乗せて、元いた場所まで送り届けた。
その際、ユーンは一度だけ周囲の景色と同化する装置のボタンを押し忘れてしまい、本来ならば他の客に気づかれずに「つれ」を戻すことができるところを、トロリーバスに乗っていた乗客達にばっちり見られて一瞬驚かせるハプニングがあったのだが、便利な記憶操作光線のおかげでおおごとにならずに済んだのだった。
遊びに出かけた面々が戻ってきたのは、現地時間の夜7時過ぎ。
皆、一様に大満足の表情で無事に楽しめたらしかった。
「やぁ~…まさがあっだらどこで港みちおば見るごとになるとはなぁ…」
「んだんだ…あれ、あれだべ?朝おばの公開生放送だんだべよ…11月ぐれぇがら言ってたべよ…なぁ…」
「あ~、んだんだぁ…」
年寄り連中が寄ったショッピングモールの特設会場で、平日の朝6時半から夕方の5時まで毎日放送しているラジオ番組「朝からおばんです。」の、放送25周年記念特別番組「年またぎ朝からおばんです!イン・ハワイ!」の公開生放送をやっていたそうだった。
長寿番組である「平日ワイド、朝からおばんです!」は王港の放送局から、今年で25周年の長きに渡り多くのリスナーから愛され続けているラジオ番組。
メーンパーソナリティは「おやまだまやお」、そして、長年アシスタントを務めているのは又村ミカ。
この二人が番組を盛り上げ、牽引してきた。
番組の途中途中の約5分ほどづつの中継コーナーは、「テルルン」の愛称で親しまれている3代目のレポーター池崎てる子が担当して今年で丸5年になる。
「やんや、やんや、どんも、どんも、朝からおばんです!私、パーソナリティを勤めさせていただいております、上から読んでもおやまだまやお、下から読んでもおやまだやまおでございましてぇ…」
毎日、決まった台詞で始まる番組は約30分おきにニュースと天気と道路情報が入り、その他、毎日番組の冒頭で発表されるその日のテーマにあわせて、リスナーからテーマにあわせたエピソードや曲のリクエスト、テーマに関係がないリスナーからの面白い話なんかも常時募集している。
途中、毎日の「午後から占い」や「人生相談」に加え、午後の1時45分から2時までの15分間は、毎日違うパーソナリティによるミニ番組なども挟み込んでおり、朝から半日ラジオをかけていても、まるで飽きることなどない十分な内容の番組なのだ。
その午後からのミニ番組の一つ、火曜日を担当しているのが「負け天狗音頭」で御馴染みの港みちお。
彼の担当している番組「歌謡バン!バン!バン!」は、懐かしの歌謡曲や演歌を中心に毎日2曲ほどかけて、後は港みちおがその日どうしても喋りたいことを自由に話したり、時折リスナーやファンからのお便りを紹介したりする内容で年配の方々からわりと人気のあるコーナー番組なのだった。
「やんやぁ、さっぎはホンドごめんねぇ…よがったらこれ…着てけさい。」
そう言って申し訳なさそうな表情のケサヨは、公開生放送でまた「負け天狗音頭」を歌っていた「港みちお」のサインが入った買ったばかりのTシャツをマクロにくれた。
「あ、あだしも…ごめんね、ユーンちゃん…」
品子もアロハシャツと短パンをお詫びに買って来たのだった。
「あだしも…」「おらも…」と、うっかりワープで戻って来た面々は、マクロ達にお詫びとして着るものや、ビーチサンダルやサングラスなど、身に着けるお土産をどっさり買って来ていた。
そして「あんた達、お留守番でお腹空いたでしょ?ごめんね、ありがどうねぇ…」と、みんな出先で購入してきたハワイの名物ロコモコやガーリックシュリンプ、スパムおにぎりにマラサダなど、食べ物もどっさり持って帰って来たのだった。
「皆さ~ん~、ありがと~、ございま~すぅ…かえってぇ気を遣わせてぇしまってぇ…申し訳ぇないですぅ~!」
マクロ達が丁寧に頭を下げると、迷惑をかけた面々も深々と頭を下げて詫びたのだった。
そうして、ハワイでの初日は無事に終わったのだった。
子供達や年寄り連中が寝静まった頃、日中の海水浴のテンションが残る品子と渡辺は宇宙船の屋上にそっと上り二人きりになった。
「はぁ~…楽しがったぁ…ねぇ…うふふふふ…」
「そんだねぇ…」
故郷の夕焼け村と変わらない数え切れない星空を見上げて、渡辺は今がチャンスとばかり、品子にどうやってプロポーズしようかとどぎまぎしていた。
「あっ…あのさ…品子ちゃん!」
「はい?あ、ひろみさん…」
「えっ?あっ、何っ?」
渡辺は、頭の中で一生懸命考えた台詞を一旦引っ込めた。
「あのね…」
「うん…」
「換えのパンツ、買えて良かったね…って…やんだぁ…換えだけに、買えたって…駄洒落になっでまったよぉ~…あはははは…ごめんねぇ…あだし、ずっと心配しでたんだぁ…パンツの換え、忘れたって聞いてたがら…んだども、帰り美晴が父さんのパンツのこどさ思い出してけれだから…ひろみさんのも思い出せていがったなぁって…」
「あ、うん…そだ…ね…うん…」
「あ、でもね、しろちゃんがら聞いたんだども、部屋のお風呂の脱衣所にあった丸いしろいやつあったでしょ?」
「ん~…ああ、うん…あっだね…」
「あれね、風呂さ入っでるほんの3分ぐれぇですっかり綺麗に洗って乾かしでけれるんだって…知ってだ?」
渡辺はきょとんとしたまま首を左右に振った。
「でしょ?あだしもしろちゃんがら聞いて、や~、便利だなぁっで…だがらね…変な話、ひろみさんが万が一今日、パンツ買えなかったとしでもね、お風呂さ入っでる短い時間に綺麗にしてけれるがら、大丈夫だったんだねぇって…そう思っだだけなんだけんどね…なんがごめんね…パンツの話ばっかりしでまっで…えへへ…」
「んやぁ…俺もどうしようっで心配こいてだがらさぁ…ホンド、いがったなぁっで…しろちゃんだちって、ホンドにすごい技術ばっかで…今更こんなこど言うのもなんだども、友達さなっでホンドにいがったなぁっで思ってまっで…」
「あ~、あだしもそう思っだぁ…しろちゃん達、すんごく優しいし…あだし、大好きだんだぁ…しろちゃん達。」
渡辺は品子が放った「大好きだんだぁ」の一瞬どきっとすると、改めてプロポーズしようとかしこまった。
「品子ちゃん…あっ…あのさぁ…あの…おれと…」
「あっ!ひろみさん、今、見だ?流れ星!あっ!ほらっ!今も、見てみで…うわぁ…すごいいっぱい流れてるねぇ…今日はそういう…星が流れる日だんだねぇ…」
「えっ?あ、うん…そだねぇ…」
渡辺の中に小さな疑問が湧いた。
「星が流れる日って…なんだべ?どういう日?何?そっだら特別な日っであるのけ?それどもなんだべ?えっ?星が流れやすい日っであんだべか?あ~、わがんねぇ…今、すぐ調べてぇけんども…なぁ…品子ちゃん、こっだらに可愛く嬉しそうだがらなぁ…あ~、それにプロポーズぅ…これだらしにくいよなぁ…あ~…どうすんべぇ?俺、どうしだらいいんだべぇ?はぁ~…困っだぁ…困っだよぉ~…誰が助け舟さ出しでけんねぇべがなぁ…っで、今、品子ちゃんと俺以外だ~れもいねぇんだもん、助け舟なんて出ねぇよなぁ…あ~、出ねぇ出ねぇ…はぁ…どうすんべ…どうすんべがなぁ…」
困っている渡辺をよそに、品子は流星群に見とれていたのだった。
渡辺はとりあえず品子と一緒に空を眺めた。
すると、品子の方からそっと手を繋いできたので、渡辺は空を見上げたまま品子の手をぎゅっと握り返した。
手を繋ぐと渡辺の中に勇気がむくむくと湧いてきた。
「あっ!あのさぁ…品子ちゃん…あの…俺と…俺と嫁さんにならないが?」
ぎゅっと目を瞑ったままようやくプロポーズした渡辺は、品子が何も喋らないことが不安でそっと静かに目を開けてみた。
すると、そこにはしろ。
「えっ?」
驚いた渡辺が繋いでいる手を改めて見直すと、てっきり品子のだとばかり思っていたその手は、しろの手だった。
「あれっ?えっ?なして?」
「ヒロミ…シロモ…オヨメ…ナル…」
「えっ?あれっ?しろ…ちゃん…」
渡辺が戸惑い取り乱している様子を、しろと一緒に屋上に上がって来た美晴とまるみがくすくす笑って見ていた。
「お兄ちゃん…俺とお嫁さんにならないが?って…ぶっ!ふふふふふふ~っ!あはははははは~!」
「そうだよ、渡辺さん…渡辺さんもお嫁さんになるの?って…んふふふふ…ぶわっははははは~!」
「えっ?あれっ?なんで?あれっ?品子ちゃん?あれっ?」
月明かりの中、渡辺はいつの間にか自分の足元に蹲っている品子に気づくと、慌ててしゃがんで品子の顔を覗き込んだ。
「あ…品子ちゃん…あの…さ…あの…」
ようやく顔を上げた品子は手の甲で涙を拭いながら、「はい、よろしぐお願いします!」と答えた。
「はぁ~…いがったぁ…っで、違うっ!品子ちゃん!あの、違うがら!」
「えっ?違うっでどういうミーン?」
ハワイで英語が耳なじみになっていた品子は、つい英語を混ぜて答えてしまった。
「やっ、それはぁ…俺のお嫁さんにってこどだがらねっ!品子ちゃんと一緒に俺までお嫁さんになるっでこどでねぇがらねっ!わがるよねっ!ねっ!」
必死な渡辺に圧倒されつつ、品子は「うん、わがるよ…大丈夫よ。」と返した。
「あ~…いがったぁ…いがったども…あ~…失敗しでまったよぉ~…折角のプロポーズだのにぃ~…あ~…」
「…んふふ、大丈夫…大丈夫だがら…ひろみさん、結婚しよう!結婚しようね!」
自分よりもすんなりとプロポーズの台詞が出て来た品子に慰められ、渡辺はしろ達が持ってきてくれた割り箸に刺した冷たいパイナップルを口に入れた。
「あ~…しゃっけぇ…うめぇ…あははは…」
「んだねぇ…パイン、うまいねぇ…んふふふふふ…」
屋上の若者達は冷たく冷やしたパイナップルの甘酸っぱい美味しさで、ハワイ初日の疲れを癒したのだった。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
お話はまだ続きますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。




