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品子の青春39

お話の続きです。

どうぞよろしくお願い致します。

夕暮れが随分早くなった。

それまで精一杯鳴いていた蝉の声もある程度収まり、今度はヒグラシが鳴くようになった。

辺りが真っ赤な夕焼け色に染まる頃、まだ真夏ほどの暑さだった日中より幾分涼しくなってきた。

縁側にかけてあるガラスのまあるい風鈴の音が、更に涼しさを助長させていた。

「やぁ~…ちょっど遅すぎでねぇべが?どうしたんだべ?」

縁側から夕焼け空を見ながら、家に続く道路を眺めながら昭三は呟いた。

「まぁ、まぁ、父さん、座んなっで…そっだらに見てだって疲れるだけだがら…あっ、まるみちゃん、ありがどう…ひろみさんもごめんねぇ、手伝ってもらっちゃっでぇ…」

庭の石釜に火を起こすと、品子は得意のピザを焼き始めた。

まるみは品子が上手に丸く広げたピザ生地の上に、ベーコンやトマトなど具材を満遍なく乗せていった。

待ちくたびれた一同の口数も、だんだん少なくなっていた。

坂の下から声が聞えてきた。

誰かと思ったら、春子としろ、それにもふもふとジェレミーだった。

「あんれぇ、お揃いで…どしだの?」

「わぁ、こっ…こんばんはぁ…あっ、あの…お兄ちゃんの妹のまるみです…あの、初めまして…あの、あのっ…もしかして、しろちゃん?それともふもふちゃんとジェレミーちゃん?」

まるみは初めて会う春子やしろ達を見ると、兄や美晴や品子から聞いていた通りだったので嬉しくなった。

「あん、そんだよぉ…あれぇ、まるみちゃんっでぇ、渡辺君の妹さんがい?そうがい、そうがい…めんこい娘だねぇ…あ、美晴君の彼女だんだっけねぇ…あはははは、しだら、そのうち品子ちゃんの妹にもなんのがい?」

春子の発言に渡辺と品子はドキリとして、顔を赤らめた。

「やんだぁ、おばちゃん…も~う!」

「いやいや…近いうちにそうなるんだべさ、ねぇ、昭三さんよ…」

「あ~、んだなぁ…」

急に話を振られた昭三は、話の中身をまるで聞いていなかったのだが、適当に返したのだった。

「あれっ?そういえば美晴君は?あの子明日がら轟ちゃんどこで働くんでしょ?しだからさ、おばちゃん、お弁当のおかずにどんだべと思って…これ、佃煮と煮豆だんだ…佃煮は父さんが王港で買って来てけれだんだども、煮豆はおばちゃんが炊いたんだわ、はい、これ。」

春子から手渡された2つのプラスチック容器にびっしりの佃煮と、煮豆が入っていた。

「やぁ、悪いねぇ、おばちゃん、いっづも、助かるわぁ…あ、そだ、しろちゃん…あのさ、あのね…しろちゃん、美晴が無事かどうかってわがる?あんにゃろ、こっぢがらなんぼメールだ電話だしでも、全然連絡ないんだわぁ…運転しでるがらなのがもしんねぇんだどもねぇ、休憩の時にちょっこし、ほんの数秒で返せるべさぁ、メールだら…んだども、それも全然なぐっでさぁ…みんなで心配しでんだわぁ…せめてまるみちゃんには連絡けれればいいのにさぁ…あ、んで、どんだべ?しろちゃん。」

品子に両肩をがっちり掴まれたしろは、そこにいる全員の真剣な眼差しに何かを感じ取ったらしかった。

こくん。

そして「@%#3&~¥!」と叫んだしろは抱いていたもふもふを両手のひらに乗せ、空に向かって差し出した。

すると、しろの手のひらから綺麗なエメラルド色の光が真っ直ぐ伸びると、その光の線の中に入ったもふもふがゆっくりと空高く上っていった。

そこにいる一同は全員もふもふを見つめた。

昭三と品子、そして渡辺兄妹は天高く上っていったもふもふに手を合わせた。

「どうか、美晴が無事に帰ってきますように…」

もふもふはもう品子達が見えないほど高い位置まで上ってしまっていた。

下からしろが何か喋った。

「<>=~#%¥;+~~~~~!」

それから少し経って、上がっていった速度を同じ速さでゆっくりと下に下りてきたもふもふは、しろの手の中でぴょんぴょん跳ねながら可愛らしい声で「プユ~!プユ~!プユ~!」と鳴いて見せた。

「えっ?何?何?しろちゃん、美晴は?無事?」

品子の問いかけにしろは、一度こくんと頷くと品子の頭の上にもふもふを静かに乗っけた。

「えっ?何?何?」

下りてきたばかりのもふもふから、品子の脳内にあるビジョンが送られた。

それは、どうやらたった今、もふもふが空の上から見た映像らしかった。

「あっ!美晴…だけど…えっ?あれっ?何で兄ちゃん運転してるんだろ?あれっ?真紀子さんと柚鶴も一緒だ…あはは…えっ!嘘でしょ?えっ?えっ?あはっ…ああ、今ねぇ…駅だわぁ…夕焼け駅辺りなんだけど…父さん、兄ちゃん達ってが、家族4人で来だみだいなんだども…」

「ええっ?」

「えっ?嘘っ?品子ちゃん、美晴君のパパさんとママさんと弟さんも一緒って…嘘でしょ?」

「あ、いや…今、見せてもらったのだらね、みんな乗ってた…それもなんかみんな笑っでだわぁ…」

品子の言葉に昭三はピンときた。

「あんにゃろらだら…おらだちを驚かせようとしで、連絡寄こさねがったんでねぇべが…そんだな、きっど…おれらば驚かせるのに、わざと連絡さ寄こさねがったんだわ…かぁ~!腹立つなぁ…こっぢはみんなで無事か、無事かっでいいだけ心配しでたってのによぉ…あ~、ちくしょ~!あいつら来だら、ぎゃふんと言わせでやりでぇなぁ…しかしよぉ…」

昭三の意見にみんな賛成だった。


「いやぁ、あんな場所でさぁ、まさか彩雲だっけ?あんなの見られるなんてねぇ…すごいわぁ…綺麗だったぁ…」

母は先ほど峠の下り坂の休憩所に車を停めて、みんなで見た彩雲の余韻に浸っていた。

「やぁ、ホントだねぇ…ママが教えてくれなかったら、みんな見られなかっただろうからさぁ…」

「あの曇ってね、調べたんだけど、見ると幸運なんだって…だから、これから良いこといっぱいあるんだろうねぇ…」と柚鶴。

「そっかぁ…あ~、なんか嬉しいなぁ…明日から仕事だけど、幸先いいって暗示なのかもなんでしょ?」

「良かった、良かった…あはははは…後はお父さんと品ちゃんを驚かせるだけね、うふふふふふふ。」

「驚くかなぁ?…その前に連絡寄こせって叱られそうだけど…」

「あ~、大丈夫、大丈夫、みんな無事だったんだし、久しぶりの再会なんだし…きっと大丈夫だって…」

美晴達家族は久しぶりに訪れた故郷の景色を見るだけで、嬉しくてしょうがなかった。


「やっ…車の音しでる…あいづら、来たんでねぇ…あっ!来た来た!はぁ~、心配かけやがって、こんにゃろこれらだら…」

昭三はぶつくさ呟きながらも、嬉しさを隠し切れなかった。

渡辺とまるみは少し緊張し始めていた。

「お兄ちゃん、どうしよ…美晴君の家族来るっでさ、何て挨拶しだらいいんだべ…」

「大丈夫、大丈夫だっでぇ…普段通りにきちんど礼儀正しく、後は笑顔で大きな声で挨拶させば大丈夫だがら…最初に挨拶…」

「お兄ちゃん…わがった、ありがどう…あ、しだけど…今っでこんにじはだの?それども、少し空が赤ぐなってるがらこんばんはだの?どっちがいいの?」

夕暮れ時は「こんにちは」なのか、「こんばんは」なのか、渡辺はどちらでもいいような、どちらを言ったところで正解の様な気がしたのだけれど、どちらか白黒はっきりつけたいまるみの心情を考えると「う~ん」と唸るしかなかった。

「そ…そうだなぁ…」

しかもまるみは彼氏である美晴の両親と弟という、将来もしかしたら家族になるかもしれない重要な人々と初対面なのだ。

ここで失敗する訳にはいかない。

そういう重たいオーラを放っているまるみに、うっかり適当な返事はできないのであった。

兄が苦悩の表情を浮かべていることに気づいたまるみは、こういう質問は人生の先輩である昭三、もしくは春子に尋ねるのが良いと判断すると、兄を放って昭三と春子の傍に行き同じことを聞いてみた。

「あ~…それはぁ…別にどっちゃでもいいんでねぇがなぁ…まるみちゃんの好きな方でいいんでねぇ…」と昭三はあっさりした答えだった。

「やんや、昭三さん、あんた、何もわがってねぇんだねぇ…まるみちゃんの立場になっでみだらさ、美晴君の家族に会うっでのは重大なこどなんだよぉ…ねぇ…」

「あ、は、はい…もう今からすんごぐ緊張しでまっで…」

「ほらぁ、ねぇ…これだば男の人はよぉ…」

「あ、じゃあ、春子さん、あだし、挨拶の第一声はどうしだら…」

「えっ…ああ、そんだねぇ…う~ん…こんにじはでもいいし、こんばんはでもいいんでねぇがなぁ…」

春子は悪びれることなく、さらっと答えた。

「え~っ!そんなぁ~!」

まるみは涙目になった。

そして、いくら年長者だからとて、この二人に相談したのが間違いだったと改めて知った。


家の下で車が停まると、旅の疲れでよれよれになった4人が力のない笑顔で降りてきた。

「やぁやぁ、皆さん、お揃いで…」

運転疲れのローリーが家族を代表して喋りだした。

「おめっ!ローリーっ!おめらだら、連絡もしねぇでぇ…おらなんで心配で心配で…」

昭三の言葉に一同はシーンと静まった。

ローリーの傍まで駆け寄った昭三は、ローリーの両腕をがっちりと掴むと、泣き出しそうな安心した様な複雑な表情を見せた。

「あっ…父さん…あのさ…」

父、昭三の顔を見るなり連絡しないで心配をかけた申し訳なさでいっぱいになったローリーの目には、薄っすらと涙が浮かんだ。

ぷぅ~。

裏山にこだまするほどの大きな音と共に、辺りに「屁の見本」の様な強烈な臭いが漂った。

「あ…わりぃ、わりぃ…屁ぇこいちまっだよ…」

「ちょっ…やんだぁ~!父さん!くっせぇ…ちょっどぉ…やだぁ…ごめんねぇ、ひろみさん、まるみちゃん…それに春子おばちゃん、しろちゃん達も…ホンドごめ~ん…ちょっどぉ~…父さん…ちょっ…やだぁ~…ちょっ…マジでやんだぁ~!も~う!なしでぇ?こっだらくせぇのさぁ…」

品子の素朴な質問に、昭三は悪びれもせず淡々と答えた。

「やぁ~…すまん、すまんなぁ…いやぁ…しっかし、何でだべなぁ?おら、おめらど同じもん食っでんだども…おらだけ、何でかいっづも屁が臭ぇんだよなぁ…なしでだべ?」

その答えは誰も知らなかった。

わずかな沈黙の後、そこにいる全員が大きな声で笑い出した。

一瞬走った緊張感が、こんな形で緩和されると、東京から来た美晴達は途中購入したお土産を庭の大きな丸テーブルの上に広げ始めた。

品子は渡辺に手伝ってもらい、物置から違うテーブルを出すと、その上には焼きあがったピザや作っておいたサラダやフライドチキンなどをずらずらっと並べた。

久しぶりに再会した喜びと、初めて会う嬉しさと。

そうして、旅の無事を祝うパーティーが始まったのだった。

遅れて来た忠助に言われるまで、昭三も品子も、そして渡辺兄妹や春子やしろまでも、美晴の坊主頭に全く気づかなかった。

それほど、美晴の坊主頭は妙に馴染んでいたのだった。

わいわいと賑やかなパーティーは、夜の9時頃まで行われた。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

お話はまだ続きますので、引き続きよろしくお願い致します。

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