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品子の青春36

お話の続きです。

どうぞよろしくお願いします。

「ただいまぁ~!」

数ヶ月ぶりの実家に戻って来た美晴は、嬉しさのあまり玄関で大きな声を出した。

「は~い!おかえりぃ~!みは…」

母、真紀子は美晴を見て一瞬声を失ったかと思った途端、いきなり大きな声で笑い出した。

「あはははははははは、あはははははは…やだっ!みはっ…ぶ~っ!ぶはっ!あははははははは~…ひぃ~!ひゃひゃひゃひゃひゃ…」

「えっ?ちょっ?えっ?何っ?ママっ?えっ?」

目を見開き、笑うことで息が苦しそうな母を見て戸惑った美晴は、どうしたらいいのかわからず途方に暮れたのだった。

「何?ママ…あ~!兄ちゃん!おかえりぃ~!って、どしたの?その頭…ぶっ…」

下から聞えた母の尋常じゃない笑い声で、2階の自室から降りてきた柚鶴ゆづるは、玄関で立ち尽くしている兄、美晴の姿を見た素直な感想を述べた。

腹を抱えて苦しそうにしながらも笑い続ける母と、少し吹き出しながらもまだ話が出来る状態の弟、柚鶴。

二人を交互に見ながら「あ…あのさ…もう、入ってもいいかなぁ?」と尋ねた。

笑い涙の母も、吹き出してプッと鼻水が出ちゃった弟も「どうぞ!どうぞ!」と手招きをしつつ、部屋の中に入って行った。

「ちょっ…ちょっと二人ともさぁ…何っ?失礼だよねぇ…」

少しご立腹の美晴は、懐かしいソファーにどっかりと腰を下ろすと、カバンの中をがさごそやり始めた。

「あ~…苦しかったぁ…あ~、ごめん、ごめん…だって、あんたわかめ星人になってんだもの…ねぇ…そりゃ笑うわよ!ねぇ!」

まだ笑い過ぎの名残の涙が残る母は、冷蔵庫から冷えたペットボトルのジュースを持って来ると美晴に手渡した。

「あはは、ごめん、兄ちゃん…僕もその髪見て…レゲエの人、もしくは木みたいって…木って、ほら…庭に植えてある木とかの木さ…ああ、樹木、樹木…そうそう、樹木っぽいなぁって思ったんだよね…だってさ、そんなに日に焼けてるし、兄ちゃん、そんなに筋肉あったっけ?ってぐらい細マッチョじゃん…それでそのもじゃもじゃの髪だもん…兄ちゃんのイメージじゃなかったから、ちょっとびっくりしちゃったんだもの…」

柚鶴も母も同じジュースを飲み始めた。

「え~…そんなに…もじゃついてる?」

二人は同時にこっくんと頷いた。

「あんた、あっちに行ってから、髪切ってないでしょ?」

母に言われて、「あ、うん。」と改めて自覚した。

「まぁ、よくそんなもじゃもじゃで彼女できたり、就職できたのか不思議だわよ…嫌がられない?特に今、夏なんだし…」

「あ、うん…そう…だよねぇ…うん…そっかぁ…そうだねぇ…」

美晴は母の言葉に合点がいった。

「兄ちゃんさ、それ結ぶかしないと…邪魔じゃない?」

「あ~…そうだねぇ…うん…そうかも…」

「ほれ!家にいる間はこれで結んどきなさい!」

母から手渡されたのは、可愛い小鳥のモチーフがついた髪ゴムだった。

美晴は心の中で「え~!これで結べってかぁ…せめて何もついてないゴムがよかったよ…こんな可愛い小鳥さんなんかついたので結んでたら…乙女じゃん!ってか、俺、乙女じゃねぇし…あっ!俺乙女ってなんか語呂がいいなぁ…あれっ?そんな名前のイチゴなかったっけ?俺乙女…ないか?…あれっ?何だっけ?そう言う、似た名前のイチゴ…ほら、ブランドイチゴでさぁ…ほらほら…なんだっけ?…あっ…それはそうと、ママ、わかめ星人って…え~!わかめ星人って何だよ!…どっから出て来たんだよ!それは!…わかめ星人って、わかめの星に住んでるのかよ!そんでもって、わかめばっかり食ってて、わかめの家に住んでるってか?わかめの服着て、わかめの布団で寝て、風呂でわかめの出汁出んのかな?あ、やだな、そんな星…ぜってぇ、住みたくないよ…そんなとこ…磯くせぇんだろうなぁ…わかめゆえに…全部わかめでできてるなんてさ…そもそも、そういう一種類の物だけで出来てる星ってやだよなぁ…わかめに限らずさぁ…それこそ、俺乙女みたいなイチゴだけの星もやだよなぁ…あ、そんなことより、土産、土産…折角買って来たんだもんなぁ…」と長々呟いた後、ゆっくりとテーブルの上に持って来たお土産を並べていった。

「あのさぁ…大したもんじゃないんだけど…これ…はみんなで…で、こっちのは柚鶴に…」

並べたのは、道の駅「ロードウェイストリート」で購入した「へそ出し地蔵」がらみの品ばかりだった。

美晴は母が「へそ出し地蔵サブレ」の箱を手にとった瞬間、「あちゃ~!」と気づいた。

「家、洋菓子屋じゃんよ!サブレなんて、パパと職人さんが毎日いいだけ、それこそ売るほど作ってんのに…あ~、何買ってんだろ…俺…馬鹿じゃねぇの?俺…」

美晴は昭三や品子達の前では自分を「僕」と言うけれど、仲間内や彼女の前では自分を「俺」と言う方がしっくりくるのだった。

実家が洋菓子屋、しかも東京では少し名のある有名どこだというのをすっかり忘れて、サブレとクリーム饅頭を購入してしまった自分の失態に愕然となった。

美晴がそれについて何か言おうとすると、被せてくる形で母と柚鶴が話し始めた。

「わぁ~…へそ出しサブレとへそ出しクリーム饅頭…懐かし~!美味しいよねぇ…これ!」と母。

「あはは、この絵、なんか可愛い…訳でもないけど…なんか味があっていい感じぃ…あっ、ママ、どっちか1個食べていい?」と柚鶴。

楽しそうにお菓子を開けて食べ始めた二人の様子を見て、美晴は「あっ!何か喜んでる!良かった!俺も食べようっと!」などと心で呟いたのだった。

「そだ、これ…柚鶴に…ゆづは受験生だから、文房具とか減るの早いと思ってさ…」

クリーム饅頭をもぐもぐさせている柚鶴の前に、「へそ出し地蔵」のキャラクターの絵がついたクリアファイルや消しゴム、シャープの芯などを並べていった。

「あ、ありがとう…そだ、兄ちゃん、お守り…ほら、天狗の…」

美晴の脳内にすぐさま「負け天狗」の絵が浮かんだ。

「ああ、負け天狗!」

「そうそう、合格祈願のやつもらったでしょ?」

「あ、うん。」

「あれさ、クラスの女子に見つけられちゃってさぁ…そしたら、可愛い!って…んで、これどこで売ってるのって聞かれちゃったよ。」

「えっ!そうなの?あの、負け天狗…案外、人気あんだぁ…そっかぁ…」

「でさ…頼み…つうか…その…」

柚鶴は急にもじもじし始めた。

「僕のと同じやつ、悪いんだけど買って送ってもらえないかなぁって…難しい?」

美晴はすぐさまピンと来たようで、にやにや顔がいやらしさを増した。

「別にいいけどぉ…それって、女の子にあげるんだろ?何?彼女?お前、彼女できたの?何、何、詳しく教えろよぉ~!」

隣に腰掛けている柚鶴を肘で何度も小突く美晴は、芸能レポーター並みのくどさだった。

「やっ…」と言いかけた柚鶴は、美晴の後ろで同じいやらしい顔でにやにやしている母に気づくと、喋るのをやめた。

「えっ?何?何?言わないのぉ~?ゆづぅ~!ねぇ、ねぇ…」

「あ~、うるさいなぁ~!」

少しむくれた柚鶴は、へそ出し地蔵サブレの袋を乱暴に開けると、バリバリと音を立てて食べることでいやらしい二人の追撃を回避したのだった。

「な~んだ、つまんないのぉ~!」

母と美晴の熱が急に冷めると、二人もまたサブレをバリバリと口に入れた。

そんなタイミングだった。

「ただいまぁ~!美晴!帰ってきたかい?」

仕事をしているはずの父、ローリーの帰館だった。


「パパ!おかえりなさい!」

少し息を弾ませた笑顔のローリーは、美晴を見るなり一瞬固まってしまった。

「美晴…お前、なんだか…」

父以外の一同は、続きがどうしても気になった。

「なんだか…」と声を揃えた3人は、父の次の言葉を待った。

「…」

沈黙は予想以上に長く感じられた。

深く考え込んだ末、父はテーブルの上に広げられたクリーム饅頭を口に入れ、「あ~、美味し~!」とだけ言った。

母と美晴、そして柚鶴は芸人並みにちょっとだけずっこけると、声を合わせて「言わんのかい!」と父に総つっこみしたのだった。

にこにことクリーム饅頭を頬張る父ローリーは、自分の腕や胸にトンと乗せられた各自の手のひらにちょんちょんすると、喉を詰まらせ慌てて傍にあった美晴の飲みかけのジュースをごくごく飲んで流した。

「はぁ~…死ぬかと思っちゃった。てへ。」

父の「てへ。」に、3人は若干の苛立ちを覚えた。

悪びれた様子もない父は、ここにきていきなりさっきの「なんだか」の続きを言った。

「美晴、なんだかラーメンみたいだね!」

「なるほど!」

母と柚鶴は父の例えに、目から鱗が落ちるような感覚に陥った。

美晴は「どいつもこいつも…」と思った。

そうかと油断していたら、父がいきなり「美晴、就職おめでとう!」と言い出した。

母と柚鶴も肝心なことを言うのを忘れていたと言わんばかりに、父の言葉に続けたのだった。

「美晴、就職おめでとう!」

「兄ちゃん、就職おめでとう!」

父の音頭で拍手が始まると、その流れで三本締めとなった。

「いよ~っ!よよよい、よよよい、よよよいよい!はっ!よよよい、よよよい、よよよいよい!よ~おっ!よよよい、よよよい、よよよいよい!めでてぇなぁ!」

「へい!」

ローリー親分とその子分達は、その後しばらく笑いが収まらなかった。

最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました。

お話はまだ続きますので、どうぞよろしくお願い致します。

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