品子の青春12
前回の続きです。
どうぞよろしくお願いします。
どれぐらいの時間だったのだろう。
ほんの数十秒だったようにも思えるし、ほんの数分だったようにも思える。
そんな沈黙を破ったのは、昭三だった。
「ん~…やっぱりそうだがぁ…あ~、なるほどなぁ…そんだったがぁ…うんうん。」
腕組みをして眉間に皺を寄せた神妙な顔つきの昭三は、目を閉じて更に頷き続けた。
「あ~…ほんどだねぇ…いんやぁ…わだしもねぇ…こん間テレビでやってたっけさぁ…ほれ…何だっけ?ほれ。」
春子は美晴に促した。
「ああ、やってましたねぇ…え~と確か…超常現象いらっしゃ~い!でしたっけ?確かそんなタイトルの…3時間のスペシャルでしたよねぇ…」
「そんだ、そんだ…わだしもねぇ、父さんとしろちゃんとジェレミーと途中まで観てだんだども、途中で眠ぐなっちまっでなぁ…飽きちまっで…しでよぉ、あれだらなかなか見せねぇんだよねぇ…引っ張って引っ張って長い宣伝入ってなぁ…ああいうテレビ多いなぁ…なんだべなぁ…腹立つじゃあ。」
春子はしろと手を繋いだまま、顔を歪めた。
「ああ、そんだなぁ…なんだべなぁ…いづからだんだがなぁ…おらだらなぁ、それも腹立つだどもなぁ、字幕…この後何秒後に流れますだのよぉ…後、はてなで隠してあっだりしてなかなか見せねぇのも…いらいらしちまっでなぁ…」
昭三も続けた。
「あ~…そうですよねぇ…僕もあの字幕とか、何秒後とかのカウントダウンとか、隠してあったりするのすんごくムカつきます…ホント、いつからあんな風になったんですかねぇ?どこの局も同じ感じですよねぇ…家でも家族みんなで文句ぶーぶーですよ…この間も、2年ぐらい前に大ヒットしたアニメの映画、地上波初とかって言うからわくわくしてたんですけど…映画が始まる前になんか変な番組やってて、それでいざ始まったら最後のエンドロールのところで、著名人とかがその主題歌を歌って繋げてって…そんなの別に見たくないっつうのに…ホントムカつきましたよぉ…。」
「んだよなぁ…あれはテレビ局のやつらがおらだち視聴者のことどが、全然考えてねぇがらなんだべなぁ…なんが親切の押し売りって感じでなぁ…なんだべなぁ…」
「ああ…それはそうど、こん子美晴君がい?」
「はい。」
「あんれぇ、でっけぐなっだねぇ…こったらちんちゃい頃、ここで暮らしでだの、覚えでる?」
春子の問いに美晴は少し首を傾げた。
「なんかぁ、父達からはぁ、そう聞いてるんですけど…僕は正直覚えてない…ってのか。」
「あん?美晴、そんだがぁ?あえぇ~…おめが生まれだ時からしばらく…そんだ、品子が学校さ上がる前までいたんだどぉ~…なぁ、品子。」
父、昭三が話を振るまで、品子は驚きすぎて一切声を発していなかった。
「どしたの?品子ちゃん…具合でもわりぃの?」
春子が心配そうに声をかけると、全身を小刻みに震わせている品子がようやく喋った。
「あ…あのさ…なして?…なして?みんな、そっだら普通だの?」
品子の言葉の意味が他のみんなにはイマイチ理解できなかった。
「なんが?普通って…いっづもこうだべなぁ…まぁ、美晴は今日来たばっがだども、春子さんもしろちゃんもジェレミーもいっづもこうだべよ…それがなんした?」
「だ…だって…だって…しろちゃん…宇宙人って…」
一同は一斉にしろを見た。
「ん?品子…だがら、どんだってよ…そんでよぉ~…ま~だ品子もちゃんこかったがら、真紀子さんごとばママぁってなぁ…美晴がママって呼んでたがらぁ…品子もつい、そう言ってしまっでたみてぇでなぁ…」
昭三はあのころを思い出し、しんみりと遠くを見つめた。
「あんれぇ…そうだったっけがぁ…そっがぁ…品子ちゃんはジョリーンさんのこど、わがんねがったんだもんなぁ…切ねがったねぇ、昭三さんも…」
春子は昭三の気持ちを思うと、自分まで切なくなった。
「やっ!あのさぁ…あのさぁ…しろちゃんのこど…」
品子は自分の中いっぱいに広がっている戸惑いを、そこにいる一同にぶつけてみた。
「あ~?何?なんだべ?」
昭三は折角の話を遮られ少し機嫌が悪くなった。
「何よ?なんだってんだよ?品子…しろちゃんが宇宙人だがらって、だがらどんだって話よ…そっだらこど、おら達はもうどんでもいいの…はっきりわがったがら、それですっきりしだの…それでいいべやぁ…なぁ、春子さん、美晴…なぁ、しろちゃん!」
「だっ…だけども…しろちゃん…宇宙人だら…」
「じゃあな、じゃあ、聞ぐけんど、品子、おめぇはしろちゃんが宇宙人だら、なん?急に仲良くすんのやめんのが?しろちゃん、宇宙人だがらっておめぇさなんが悪ささしだが?」
品子は目をぎゅっとつぶると、首を激しく左右に振った。
「んだべ?しろちゃんは、誰にも何にも悪さなんがしでねぇんだど…むしろ、春子さん達のとこで、一生懸命手伝いしだりしてるべや、なっ!しだがら、しろちゃんが宇宙人だろうが、しろちゃんはしろちゃんだべや…急につぎあうのやめるなんておがしな話だべ?」
今度はこくんと頷いた。
「だがら、なんがうまぐは言えねぇども…しろちゃんのこど、おめぇ、急に嫌いになった訳ではねぇべ?」
品子は再びこくんと頷いた。
「しだら、別にいいべやぁ…ただ、確認っでのが…ああ、やっぱりしろちゃんは宇宙人だったがぁ…そうがぁ…それでいんだぁ…しだら、そろそろ火の塩梅もいいがら、バーベキューさ始めるべやぁ…そんだ、春子さんもしろちゃんもジェレミーも一緒に食ってけれ!おら、腹減っちまっでなぁ…」
「ああ、そんだ、そんだ…昭三さん、これ…これさ持って来たんだわぁ。バーベキューにちょんどいんでねぇ?」
春子が持っていたかごを品子に手渡すと、中には立派なアスパラと新玉ねぎと新じゃがが入っていた。
「あんれぇ…わりぃねぇ…いづも…それはそうと…忠助は?」
昭三に聞かれて、春子はハッとなった。
「あっ!そんだった、そんだった…家の父さん、忘れてきてまったわぁ…ちょっこし待ってでもらえるがい?わだし、一回家さ戻って父さん呼んで…」
「ああ、春子さん、いい、いい…今、連絡すっがら…」
「そうがい…わりぃねぇ…しだら、昭三さん頼むわ…品子ちゃん、美晴君…わだしら、何か手伝うわ…ねぇ、しろちゃん!」
しろと春子は顔を見合わせると、早速バーベキューの支度の手伝いに加わった。
昭三はその間、携帯電話で忠助に電話をかけた。
品子はせっせと支度にせいを出すことで、しろが宇宙人だと判明したショックを緩和しようと努めた。
ぎこちなくしろと接していた品子だったが、だんだんそういうのがめんどくさいと感じ、結局は普段となんら変わらない態度に戻っていったのだった。
春子達が持ってきてくれた野菜のおかげで、バーベキューは少し豪華になった。
後から駆けつけた忠助は、自分のところから焼肉用の大きな肉のパックとラップで包んだ申し訳程度のごま塩のおにぎりを持ってきてくれた。
昭三は冷蔵庫から冷えていたワインを、普段よりも多めに出してきた。
品子もイタリアからのウインナーやハムなどの加工品と共に、以前作って冷凍して置いていたピザも出して、バーベキューの網の端でチーズを足して温めた。
「しろちゃんは…ワインは…駄目?だよねぇ…」
品子は春子と忠助の顔色を伺いながら尋ねた。
「そんだねぇ…しろちゃん…大人がもしんねぇだどもねぇ…やっぱり、お茶かジュースかなんかの方が…」
「わがったぁ…しろちゃん!ちょっと待ってでぇ…い~ま、ちょっこし葡萄のジュースさ持ってくっがらぁ…」
各自にグラスが渡ると、昭三が音頭をとった。
「じゃあ…そんだなぁ…美晴の歓迎会どぉ、しろちゃんが宇宙人だってはっきりしだ祝いで…かんぱ~い!」
「かんぱ~い!」
辺りに美味しそうな匂いが広がっていくと、空の色も水色から黄色、そしてオレンジがかったピンクに紫、そして漆黒へと変わっていった。
「ああ~…うんめぇ~!」
腹がいいだけ膨れた美晴は、ワインの酔いも回って縁側で仰向けになった。
品子は縁側の端にしろと並んで腰掛けた。
「…しろちゃん…あのね…あのさ…さっきはなんがごめんなさい…あだし、しろちゃんに酷い態度だった…本当にごめんなさい。」
涙を含んだ品子はしろの膝におでこがつきそうなほど、頭を下げた。
「@&%#>=!」
そう言うとしろはその細い手で品子の髪を優しく撫でた。
「しろちゃん…ごめんね…ごめんね。」
ゆっくりと顔を上げた品子の背中を、今度はゆっくりと静かに摩ってくれた。
「…しろちゃん…優しいねぇ…」
品子がそう呟くと、仰向けの美晴はガバッと起き上がり、やっぱり同じようにしろに丁寧に頭を下げた。
「そだ!しろちゃん、僕もごめんなさい。」
「$&#‘{@*<…」
「どしだの?美晴まで…」
「…さっきさ、僕、じいちゃんの話聞く前まで、しろちゃんのことSNSとかで広めちゃおうかなぁって考えちゃってた…」
「えっ?」
「ホント、ごめんね…そんで、テレビとかネットで話題になれば…とか、色々悪いこと考えてた…しろちゃんのことなんか全然お構いなしに…でも…でもさ…それってきっとしろちゃんを傷つけるでしょ?僕はしろちゃんに会ったばっかりだからあんまよくわかんないけど…でも、こうして一緒に美味しくバーベキューしてさ、美味しいワイン飲んで乾杯してたらさぁ…春子おばさんと忠助おじさん夫婦とかじいちゃんとか、品子ちゃんとか、みんな、みんなしろちゃんのこと大好きだってわかってさぁ…そんで、僕もしろちゃんのこと好きだなぁって思い始めてさ…ああ、勿論友達としてだけど…上手く言えないけど…でも…ホント、ごめんなさい…もう絶対そういう悪いこと考えたりしませんから…だから、しろちゃん…許して下さい。お願いします…ホントにごめんなさい。」
しろの膝におでこを乗せて美晴がきちんと謝ると、しろは美晴のふわふわの髪をぽんぽんと軽く叩いた。
そして、しろは品子と美晴二人をちょんちょんと軽くつついて、空を見るよう指差した。
「@;+<&4¥…」
「うわぁ…綺麗だなぁ…星がさぁ…すごいねぇ!二人はこんなすごい星空、天気のいい時だったら、いっつも見てるんでしょ?」
美晴に聞かれて、品子はドキッとした。
「ううん…あだし…夜空なんて、ほとんど見てねぇわぁ…しろちゃんは?見でる?」
しろはこくんと頷いた。
「そっがぁ…そうだんだねぇ。」
「ねぇ、品子ちゃん、しろちゃん…この数え切れないくらいいっぱいの星の中にさぁ、しろちゃんの故郷の星があるんだよねぇ…」
「あ~…そんだねぇ…しろちゃん…ずんぶ遠いとっがら来たんだねぇ…」
品子は改めてしろのことを考えると、自分のことが恥ずかしいと思った。
美晴も改めて自分がしようとしたことを考えると、しろに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
それを察したのか、しろは夜空を見上げたまま、そっと品子の膝と自分を挟んだ反対側に腰掛けている美晴の膝に手を置いてくれた。
品子も美晴も自分達の上に置かれたしろの手のひらから、じんわりと説明できない温かいものを感じたのだった。
3人はそのまま静かに星空を見つめていた。
そんな3人をよそに、こちらのバーベキューコンロの傍では昭三と忠助がうるさいほど大声の上機嫌で歌を歌っていた。
春子はやれやれといった様子で、ジェレミーと残ったお肉をほお張った。
山間の夜はなかなかのうるささだった。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
お話はまだまだ続きますが、どうぞ宜しくお願い致します。




