鬼のように
本日2話投稿
「にしてもあなたは強いんですね、おっさんたちをあんなにバッタバッタと倒すなんて」
「いきなり敬語なんてどうしたのよ。あんた会ったばかりだけど口調がぶれ過ぎじゃない?」
だって怖えもん。
「そうでもないわよ。まあ、私だからこの人たちを倒しやすいというのもあるけど」
「それはどういうことです?」
倒しやすいとはおかしな表現だ。
相性というものでもあるのだろうか。
すると、倒れているおっさんの一人を連れてきた。
あの山の中では一番のイケメンだ。まあ、女装をしていなければだが。
「この人がどうかしましたか」
「えっとね、この人私のお父さん」
気まずそうに告白した。
うん、ちょっと僕も反応に困った。
「……よく似ていると思いますよ」
正直なんと返せばいいか分からなかった。
まあ、嘘は言っていないだろう。
ちょっと赤い髪の毛とか、黄色い目とか、薄い胸とか。
「ねえ、なんで私の胸を見ながらそれを言ったの?」
ああ、笑顔が怖い。
しょうがないじゃないかそう思っちゃったんだから。
いや、胸板の分だけおっさんの方が大きいか。
「まあ、いいわ。お父さんの娘だから一緒に暮らしていてこの人たちの行動が大体わかってくるの。訓練にも突き合せられたしね」
まあ、なんとなく倒しやすいと言った理由は分かった。
しかしもう一つ新しい疑問ができた。
「こいつら子供とか作れるんですか?」
まさか男を孕ませるとかそんなことができるんじゃないよな。だとしたらもう色々と怖い。
「まあ、私はちょっと特別というかなんというかお母さんがすごい人だったから」
あ、お母さんといった瞬間におっさんがビクッとしたぞ。
もしかして怖いのだろうか。
「もともとお父さんの一族は長命なんだけど、それでもいつか一族の血が無くなっちゃう時が来ていたかもしれない。そんな心配をお父さんがしていた時にお母さんがやって来た」
聞いてみるにまさに鬼のようだったらしい。
どうにも精力が有り余っているような人だったらしく子どもを作りまくっていったらしい。体が丈夫過ぎてもう何も言えない。
そして理由が「顔が好みだった」ということらしく、色々とやらかしていた。
もちろんこいつの父親は抵抗していたらしいが恐ろしく強くて無理やり行為に及ばされていたらしい。そのたびに不能になりかけていたら薬も使われてそれは大変だったらしい。
少しだけ同情してしまった。経験はないが。
「そして8番目の子供が私」
結局その人は15人も産んだらしい。
しかし、どうしてかこいつ以外に女の子はできなかったらしい。
「そして私はウルと名付けられた」
こいつの名前はウルというらしい。
にしてもよくもここまで話してくれるものだ。結構プライベートな話だろうに。
「君には迷惑をかけたからね。私のお父さんがごめんね」
「いえいえ、別に良いんですよ。あの人も悪いので」
おい、なんでお前が返事を返しているんだよ。
そこは僕が何か言うところだろ。
「あなたに何かを言わせると余計なことしか言わなくて面倒なんですよ。少し黙っていてください」
そこまで言わなくてもいいじゃないか。
確かに色々と面倒なこと起きているけど悪いのは僕じゃないはずだ。
何となく熱弁で返してみた。
「あなた以外に誰がいるというのですか。あなたの余計な発言が長ったらしい茶番を始めるんですよ」
「えっと、どうしたの?」
貧乳もといウルはおかしな人を見る目で金髪ボインを見た。
「ええ、これには事情があるんですよ」
慌てたように金髪ボインが言った。
そんな姿を初めて見た。まあ、一緒に行動して大して経っていないのだが。
そんなにおかしな女には見られたくないということか。
「あなたのせいで私がおかしな人だと思われるじゃないですか」
流石にそれは言いがかりが過ぎる。
勝手に僕の心の声に答えていたのだから自業自得だろう。
「まあ、変な奴には変な人が一番合うのかな」
そう、ウルが言ったときに金髪ボインが明らかにショックを受けていた。
というかちょっと涙目だ。
「……変じゃないのに。変じゃないのに」
しくしくと小声でそんなことを言っていた。
「な、なんかごめん。それにしてもあんたたち名前は?」
「ああ、僕は、えっとコウキ。それでこいつはう~ん」
そう言えばこいつの名前どうしよう。
金色の髪を見てとりあえず適当に名前を作ることにした。
だって本人がまだ立ち直っていない。
「アウルムだ」
確かラテン語で金色という意味だった気がする。
なぜラテン語にしたんだろう?
自分で自分に疑問に感じた。
「ふーん、それじゃあ私はお父さんたちと一緒に帰るよ。じゃあ、運がよかったらいつかまた」
「ん、ああ。それじゃあ運が良かったら」
いったいどうやってあの人数を運ぶんだろう。
そう思ったらぴゅーと指笛を吹いた。
するとかなり遠くの方から大きな鳥が飛んできた。
その姿は神々しかった。
その背中に無造作におっさんたちを乗せて行った。
「それじゃあね!」
ウルも背中に乗って飛んで行ってしまった。
大きな鳥が翼をはためかせた為周りの全て吹き飛んだ。もちろん僕もだ。
金髪ボインはしくしくとしているのに全く動かない。
「変じゃないのに、変じゃないのに」
まだそんなことを言っていた。
どれくらいショックだったんだよ、お前。
全く進んでなかったところからやっと動いてくれそうです。
勢いとか全くないな。