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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
98/206

闇夜に揺れる柳

「なっ…!?」

「これはっ……」


 禍々しい色の雲が渦を巻くダークネスの空の下に、レオ達4人は立っていた。そんな4人が目にしたのは、柳林に囲まれた道とそれに沿って並ぶ屋台。遠くの上を見ると、立派な和風の城が紫の霧からこちらを覗くように不気味に建っている。


「おいおい……本当に別世界だな……」

「レオさんっ、アランさんっ、シルバさんっ!あれ!」


 ネネカが並ぶ屋台に指をさした。見ると、青い火を纏った小さい鬼や女装をした狐、1つの目の子供などが賑やかに会話をしている。シルバは眉間にしわを寄せて口を開いた。


「妖怪か……見つかったら面倒なことになりそうだ。」

「でもこの数の中をどう進むんです?」


 レオは背の高いシルバを下から覗くようにして言った。周辺の妖怪達の声や和楽器の音は止むことなく耳に騒がしく当たってくる。シルバは口を開いた。


「方法はある。実は妖怪ってのは呼吸をしなければ気付かれねぇんだ。息を止めてこの屋台のエリアを進むのが1番安全だ。」

「………走るのはダメか?」


 アランは試しに息を止めてみて、そう質問した。


「もしぶつかったら余計気付かれる。いい考えだがそれは無しだ。」

「それで、どこへ向かうんです?」


 ネネカの声でシルバの目はより鋭くなり、遠くの城を指さした。


「あそこだ。」





『おいお嬢ちゃん、寄ってけよ?』


『値下げしとくから買ってきなぁ!』


 屋台に吊るされた赤く光る提灯。その前を通り過ぎる妖怪に手招きをする妖怪。息を止めたレオ達は、その中に溶け込むようにして歩き始めた。


「………」

「………」


『おっ、旅のモンかぇ?どうや?デビルピッグの丸焼き買っていかねぇか?』


 1体の妖怪が、屋台から身を乗り出して声をかけてきた。レオとネネカとアランは冷や汗を出して黙っていた。


「……」


 シルバは3人の前に立ち、その妖怪を見て首を横に振った。妖怪は不自然に思うことなく、屋台に体を潜めた。


『おらおら寄ってけぇ!ここの薬はどんな病も一瞬にして治っちまう優れモンだぞぉ!』


(……サルモライムと亡者手茸の調合品か……薬屋が下手な商売しやがって……毒薬ばっかだ……)


 ついにシルバは屋台を楽しむように見て歩き始めた。彼の口角は上を向いている。


(…ジャンクパーツねぇ……マリスに持って帰ったら喜ぶだろうなぁ〜……)

「……っ…プハッ!」


 その時、後ろから乱れた大きな呼吸が聞こえた。ネネカが耐えきれなかったのだ。


「っ!!まずいっ!!」

『あ?』

『なんだ?』

『おい!!侵入者だぁっ!!』


 周辺の妖怪達は一斉に4人に振り返った。ネネカ以外の3人も呼吸を始め、苦い表情を見せた。


「ごっ、ごめんなさいっ!」

「シルバさん!どうします!?」

「仕方ねぇ……」


 シルバは静かに2本の刀を抜き、構えた。


「ここを一掃するぞ!!」

「えぇっ!?」

『殺せぇぇぇっ!!』


 妖怪達が4人に飛び掛かると、シルバは緑の炎の面を被った。


「“狐火”!!」


 その瞬間、飛び掛かった妖怪達は次々と首を斬られ、魂となって消えた。


『なっ…なんなんだアイツはっ!!バケモノか!?』


 シルバは大勢の妖怪の前に着地し、ニヤけた。


「ふっ、鏡見てこいよ。お前らの方がよっぽどバケモノだぜ?“炎獅子乱舞”!!」


 シルバは大勢の妖怪の中に飛び込み、2本の刀に炎を纏った獅子を宿らせ、舞い踊るように斬り刻んだ。


『のわぁぁっ!!』

『がはぁぁぁぁっ!!』


 周辺の妖怪達の数は一気に減り、ついにはシルバの圧倒的な強さに怯える妖怪も現れてきた。しかし、柳林の中から次々と妖怪が出てくる。


「シルバさんっ、この数はキリが無いですよ!!」

「だな、レオ。よぉし、城へ走れ!!」

「もうメチャクチャしやがるっ!!」


 4人は柳林に囲まれた坂道を、上の城に向かって走り始めた。妖怪達も4人を追うように走る。


『待ちやがれぇっ!!』


「っ!“ソードテンペスト”!!」


 レオは後ろに剣を振って軌跡を放った。すると狐のような妖怪が、小さな無数の火の玉を4人に放った。


「“華火”!!」

「“ガードファントム”っ!」


 ネネカは4人の背後に透明な壁をつくり、火の玉を防いだ。


「やるねぇ。んじゃ、これ使おっかな。」


 シルバは袋を取り出し、背後の道に中身をばら撒いた。撒菱(まきびし)だ。しかも、それが地面に触れた途端、次々と倍の数に分裂し、妖怪達の足を止めた。


「あばよぉ〜っ!!」


『くっそっ!突破されたっ!!』

『いや、気にすることはない。だって城には……フッフッ……』




 4人は暗い坂道を走り抜け、城の門の近くで柳の影に隠れた。門の前には、大きな2体の鬼が黒い金棒を持って仁王立ちをしている。


「うっわぁ〜……すっげぇムキムキ……怖ぇ怖ぇ」


 シルバは笑いながら鬼を覗いた。するとネネカが小さい声で3人に言った。


「ごめんなさい……私がもっと長く我慢していれば………」

「ネネカ…大丈夫だよ。」


 レオが優しく言うと、シルバは今にも涙が出そうなネネカの目を見て、口を開いた。


「なぁ〜に小さい事気にしてんだ。心配すんな。誰もあんな事で怒ったりしねぇよ。頑張ってる奴のミスを全力でカバーすんのが仲間の仕事だ。ま、今回は俺の作戦が無茶すぎたかな?」

「は…はい。ありがとう…ございますっ。」


 ネネカはシルバに深く頭を下げた。そんな中でアランは、2体の鬼を鋭い視線で見つめていた。


「んで、どうすんだ?結構頑丈そうだぞ?あの2体。」

「そうだなぁ……よし、俺は右をやる。お前らは左だ。出遅れんなよ!!」

「ちょっ!!」


 シルバは2本の刀を握って、一瞬で右側の鬼と距離を詰め、飛び掛かった。3人も後に続き、左側の鬼を目掛けて走り出した。


『グオオオオッ!!』

「“龍火”っ!“乱れ桜花”!!」


 シルバは紫色の炎の面を被り、鬼の振る金棒を華麗避け、桜吹雪とともに足首の裏と手首と首に、刃を通した。太い動脈を斬り裂かれた鬼は大量の血を噴き出しながら雄叫びをあげた。


『グオオオオオオオオッ!!!』


「“ファルコンスラスト”!!」

「“スクリュー・ストレート”!!」


 レオは剣の先を鬼に向けて素早く突進し、アランは右腕に竜巻を纏わせて拳を放った。レオの剣は鬼の横腹に刺さったが、アランの放った竜巻は金棒に弾かれ、その金棒がアランに振り掛かった。


『グオオッ、グオオオオッ!!』

「っ、しまっ…!!ぐはぁっ!!」


 アランは咄嗟に両腕を交差して受け止めたが、物凄い威力に耐えきれず、飛ばされた。そしてネネカの前の地面で体を打ち付け、痛みに歯を食いしばった。


「アランさんっ!“フレッシュ”っ。」


 ネネカは膝をつき、緑色の優しい光を纏った両手をアランに向け、傷口を塞いだ。


「大丈夫ですか…?」

「あぁ、すまねぇな。」


 アランは再び鬼の方へ走っていった。


『グオオオオッ!!』

「タフだねぇ。でも、これで終わりっ!!“雲龍風虎”!!」


 シルバの刀に龍と虎の凶暴な力が宿り、鬼の手足や首を斬り裂き、地面を真っ赤に染めて倒した。レオとアランも大きな金棒を避けながら弱点を狙い、少しずつ動脈の辺りを削り、多くの血を抉り出して倒した。


「ふぅ……これでなんとか…」

「疲れたぁ〜っ……」


 レオとアランは横たわる鬼を前に、一息ついて汗と返り血を拭いた。


「さぁて、ここからが本番だ。お前ら、行くぞ。」

「はいっ。」


 4人は大きな門を開き、石畳を踏みしめた。

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